料理の科学まとめ|何が変わるかで整理する調理現象と、動かせる5つのレバー

料理の科学まとめ|何が変わるかで整理する調理現象と、動かせる5つのレバー

この記事でわかること

どんなときに読むか
失敗の原因が手順ではなく現象にあるとき
料理の科学をどう整理するか
「何が変わるか」の6分類
記事の引き方
現象側からと、動かせるレバー側からの2通り

料理の科学は、単発の豆知識としてなら山ほど転がっています。「肉は強火で焼くと肉汁が閉じ込められる(実は違う)」「パスタの湯に塩を入れると沸点が上がる(ほとんど上がらない)」といった話です。

ただ、そういう断片をいくら集めても料理は上手くなりません。必要なのは目の前で何が起きているかを言い当てられること、そしてどこをいじれば結果が変わるかが分かることの2つです。

このページは、当サイトの調理科学の記事を1枚の地図にしたものです。地図の描き方は2通り用意しました。

  1. 何が変わるかで整理する(下の①〜⑥)——現象の側から入る
  2. 動かせるレバーから逆引きする(後述)——手の側から入る

料理で起きていることは「何が変わるか」で整理できる

加熱しても調味しても、変化が起きているのは食材の中の特定の成分か、あるいはそれを受け取る人間の感覚のどちらかです。まずこの6つに分けます。

#何が変わるか料理でいうと当サイトの記事数
①タンパク質固まる・縮む・つながる8
②デンプンと糖とろむ・サクつく・結晶になる2
③脂質溶ける・混ざる・劣化する3
④水出る・入る・飛ぶ・凍る4
⑤色と香り焼き色・変色・香気5
⑥人がどう感じるか味覚の側の科学13

これに、①〜⑥のどれにも効く横断する条件が3つ(熱の伝わり方・酸とアルカリ・微生物)加わります。

① タンパク質が変わる——固まる・縮む・つながる

火入れの中核です。肉も魚も卵も、加熱で起きているのは基本的にタンパク質の変性——ほどけて絡み合い、固まって縮む——という1つの現象です。

② デンプンと糖が変わる——とろむ・サクつく・結晶になる

食感設計の本体です。同じデンプンでも、糊化させたあとどう扱うかで結果が分岐します。

③ 脂質が変わる——溶ける・混ざる・劣化する

口どけと、風味がどれだけ持つかを決めます。

④ 水が動く——出る・入る・飛ぶ・凍る

下味・濃縮・保存を貫く軸です。成分そのものは変わらず、居場所だけが変わるのがこの群の特徴で、だからこそ①〜③と違ってやり直しが効くものが多くあります。

⑤ 色と香りが生まれる

加熱に対する見返りの部分です。色の記事は、「色をつけたい」のか「色を守りたい」のかで2つに分かれます。同じ『褐色になる』でも、片方は成功、もう片方は失敗——打ち手が正反対になるので、まずどちら側の問題かを見分けてください。

色をつける(褐変を起こす)

狙って茶色くし、香ばしさを得る側です。熱と時間が味方になります。

色を守る(変色を防ぐ)

素材の色を保つ側です。色素ごとに何が色を壊すかが違うので、打ち手も違います。 植物色素の3つは色止めの科学にまとめてあります。

守りたい色色素何が色を壊すか打ち手記事
緑(青菜・ブロッコリー)クロロフィル加熱で出た酸+長時間の加熱酸を逃がし、短時間で止める緑野菜の色止めの科学
赤紫・青(なす・紫キャベツ)アントシアニンpHの変化+水への流出pHを3以下に振る、水から離すアントシアニンの色止め
黄・橙・赤(にんじん・パプリカ)カロテノイド油への移行+光と酸素油を設計し、遮光して保存するカロテノイドの色止め
白(りんご・じゃがいも・ごぼう)(色素ではない)酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)+酸素酵素を止める(水・酸・加熱)酵素的褐変の科学
赤〜ピンク(肉)ミオグロビン加熱による変性中心温度で管理する肉の色とミオグロビン

上の3つは植物色素を守る話で、色止めの科学が入口になります。下の2つはそこに入りません。酵素的褐変はもともと無かった色がつく現象で、しかも「防ぐ」と「起こす」の両方に足がかかります(紅茶の発酵色や干し柿の色は、同じ反応をあえて進ませたものです)。肉の色は植物色素ではなく、安全の判断とセットで扱います。

香り

⑥ 人がどう感じるか——味覚の側

①〜⑤は食材側で起きることでした。この群だけは受け手側の話です。同じ料理でも温度が違えば味は変わるし、隣に置く味によっても変わります。味付けがまとまらない原因の多くは、食材ではなくこちら側にあります。

5つの基本味

舌に専用の受容体があるものです。

  • 甘味の科学 — なぜ甘いと感じ、なぜ人は甘味を強く好むのか
  • 塩味の科学 — 薄いと美味しく濃いと不快なのはなぜか
  • 酸味の科学 — 酸っぱさの正体と受容体 OTOP1
  • 苦味の科学 — 毒の警告センサーがなぜ嗜好品の主役になるのか
  • うま味の科学 — 第5の基本味と4つのうま味成分(子記事2本)

基本味ではないもの

受容体が別系統か、そもそも受容体を介さないか、固有の味質を持たないか。どれも「味」として語られますが、抑え方も足し方も基本味とは違います。

味どうし・温度・順番

横断する条件——熱の伝わり方、酸とアルカリ、微生物

この3つは①〜⑥のどれに対しても効きます。単独の現象というより条件として働くので、別枠にしています。

動かせる5つのレバーから逆引きする

ここまでは現象の側から整理しました。実際の調理では逆に、手元で動かせるものは限られています。その5つから引ける表です。

レバー上げる/足すと起きること関係する現象
温度タンパク質が変性し、デンプンが糊化し、褐変が始まり、脂が溶け、香りが飛ぶ変性・糊化・褐変・融点・香気・味覚
水分糊化に必要、蒸発で濃縮、凍結で結晶、乾けばサクつく蒸発・凍結・糊化・保水
塩水を引き出し、タンパク質を溶かし、甘味を持ち上げる浸透圧・かまぼこの足・塩味・対比効果
酸・アルカリ色が変わり、タンパク質が固まり、褐変の速度が変わる酸とアルカリ・色止め・酵素的褐変・酸味・渋味
時間・力撹拌で乳化と起泡、練りで網目、放置で老化・酸化・発酵乳化・起泡・グルテン・酸化・発酵

どこから読むか

上の6分類に並べた記事が37本、その下の子記事(起泡・糊化・褐変・うま味・色止め)を含めると52本あります。状況から選んでください。

困っていること入口
火入れを外したくないタンパク質変性 → 温度と食材の変化
食感を作り分けたいデンプン糊化 → 結晶化
味がまとまらない味の相互作用 → 温度で変わる味覚
コクが足りないコクの科学 → うま味の相乗効果
見た目をよくしたい焼き色と香ばしさ → 野菜の色止め
作り置きの質を保ちたい凍結と解凍 → 脂質酸化

まとめ

  • 料理で起きていることは、何が変わるかで6つに整理できます。タンパク質・デンプンと糖・脂質・水・色と香り・そして人がどう感じるか
  • やり直しが効くかどうかが群ごとに違います。タンパク質の変性は不可逆、水の移動はおおむね可逆。不可逆なものほど先に理解しておく価値があります
  • 調理中に使うなら、5つのレバー(温度・水分・塩・酸/アルカリ・時間と力)から逆引きするほうが早いです
  • 個々の数値や条件は、このページの6分類からたどる記事にあります。ここはどこに何があるかの地図です