調理温度の早見表|60・80・100・160℃で食材に何が同時に起きているか

温度計が62℃を示しているとき、食材の中では複数のことが同時に起きています。タンパク質は固まりはじめ、デンプンは糊化しはじめ、野菜のペクチンはむしろ硬くなる方向に働き、糖はまだ何も変化していません。

この記事は、そうやって1つの温度を縦に切って、複数の変化を横に並べて見るための早見表です。それぞれの機序を深く知りたい場合は、下記の入口から専用記事へ進んでください。

機序別の入口

各変化の詳しい仕組みは、機序ごとの記事で扱っています。

変化詳しい記事
タンパク質の変性・凝固タンパク質の変性
デンプンの糊化糊化(α化)
コラーゲンのゼラチン化コラーゲンのゼラチン化
糖のカラメル化カラメル化
メイラード反応メイラード反応
脂質の融解・酸化脂の融点脂質の酸化

温度帯別 早見表

横に読むと「その温度で何が同時に起きているか」、縦に読むと「その変化がどの温度で動くか」が分かります。「起きていない」という情報も判断材料になります

温度帯タンパク質デンプン糊化コラーゲンペクチン(野菜)糖・メイラード脂質
〜40℃変化なし起きない変化なし変化なし起きない鶏脂(30〜32℃)が溶けはじめる
40〜50℃魚のミオシンが44〜45℃で変性開始起きない変化なし変化なし起きない豚の背脂(30〜40℃)が溶けきる/牛脂(40〜50℃)とリーフラード(43〜48℃)が溶けはじめる
50〜60℃畜肉のミオシンが50℃で変性開始、55〜60℃で凝固タピオカ52〜64℃、ジャガイモ56〜69℃、小麦58〜64℃が開始55℃以上で収縮しはじめる硬くなる(PMEが活性化)起きない液体
60〜70℃アクチンが66℃前後から変性開始(肉汁が絞り出される)/卵白60〜65℃・卵黄65℃で凝固開始米58〜78℃、トウモロコシ62〜80℃が進行60〜70℃で縮んで硬くなる硬くなる(70℃まで)起きない液体
70〜80℃アクチンが70〜73℃で強く収縮/卵白オボアルブミン75〜84℃サツマイモ65〜80℃が完了域70℃以上でゼラチン化に転じる(収縮から溶解へ)軟化に転じる(PMEが失活)起きない液体
80〜100℃卵白が80℃で完全凝固/大豆グリシニン85〜95℃完了80〜95℃で効率的にゼラチン化(長時間必要)軟化が進む100℃以下では非常に遅い液体
100〜140℃水分がある限り100℃で止まる完了。表面は脱水へ圧力鍋(100〜121℃)で加速崩れるメイラードが110〜140℃で緩やかに進行
140〜180℃表面のみ脱水・硬化表面が脱水して軽くなるメイラードが140℃以上で本格化/ショ糖のカラメル化は160〜170℃から揚げ油の常用域
180℃〜170〜190℃で急速に進み、180〜190℃で苦味側に振れる酸化が加速

同じ温度で変化が競合するとき、どちらを取るか

早見表を横に読むと、1つの温度で望ましい変化と望ましくない変化が同時に起きていることがあります。ここが火入れの判断そのものです。

肉:主役のタンパク質が部位で違う

狙い温度帯何を取り、何を捨てているか
赤身をロゼに55〜60℃ミオシンの凝固だけを取る。アクチン(66℃前後)を動かさないので肉汁が残る。コラーゲンは溶けない
すね肉をほろほろに85〜95℃で数時間コラーゲンのゼラチン化を取る。アクチンの収縮による肉汁の損失は捨てる

同じ牛肉でも赤身とすね肉で狙う温度帯が正反対になるのは、部位によって主役のタンパク質が違うからです。詳しくは肉の加熱温度を参照してください。

低温調理の温度帯は食品安全の下限に近いので、温度だけでなく保持時間とセットで判断してください。「60℃に達した」だけでは不十分で、その温度を何分保ったかが安全性を決めます。具体的な温度と保持時間の対応は上記の記事にまとめています。

玉ねぎ:メイラードとペクチン分解の速度差

飴色玉ねぎに時間がかかるのは、メイラード反応とペクチン分解の速度が釣り合わないからです。強火なら表面のメイラードは速く進みますが、内部のペクチン分解が追いつかず芯が残ります。弱火ならとろけますが、140℃に届かないので色がつきません。詳しくは飴色玉ねぎで扱っています。

揚げ物:4つの変化が同じ油温で同時に進む

170℃の油の中では、衣のデンプンが糊化して脱水し、表面でメイラード反応が進み、食材内部の温度が100℃に向かって上がり、同時に油自体の酸化も進んでいます。揚げの技術で扱う油温の使い分けは、この4つのどれを優先するかの調整です。衣の食感そのものは揚げ衣の科学で扱っています。

料理文化ごとに主戦場の温度帯が違う

同じ食材でも、文化によって狙う温度帯が異なります。

料理文化主戦場取っている変化
中華の炒め物180℃以上の短時間メイラードと香り。ペクチンをあえて分解させず歯ごたえを残す
フランスの低温調理・ブレゼ60〜95℃の長時間タンパク質の穏やかな凝固とコラーゲンのゼラチン化
日本の煮物80〜95℃を保つ煮崩れを避けつつ味を入れる。沸騰させないのが要点

中華の火力フランス料理の火入れを並べると、この温度帯の違いがそのまま調理哲学の違いになっていることが分かります。

温度を測る・当てる

早見表を実際に使うには、「どこの温度か」を意識する必要があります。

見るべき温度早見表のどこを見るか
中心温度タンパク質・デンプン・コラーゲンの列(内部で起きる変化)
表面温度メイラード・カラメル化の列(140℃以上は表面でしか起きない)

同じ肉でも表面は180℃、中心は58℃ということが普通に起こります。1つの食材の中に複数の温度帯が同時に存在していると考えると、早見表の使い方が分かりやすくなります。

加熱をやめた後も中心温度は上がり続けるので、狙いの温度より手前で火から外す必要があります。この見込みは余熱調理で扱っています。温度計がない場合の判断は感覚による温度判断を、熱がどう伝わるかの原理は熱伝達の科学を参照してください。

まとめ

  • 温度は「1つの変化」ではなく、複数の変化の同時進行として読みます
  • 「起きていない」ことも情報です。60℃で色も粘りも出ないのは正常で、メイラードもカラメル化も起きていないからです
  • 50〜70℃で野菜が硬くなるのは酵素(PME)の働きで、煮崩れの制御に使えます
  • 同じ食材でも狙う変化が違えば温度帯は正反対になります。部位と目的から逆算して温度を決めてください
  • 各機序を深く知りたい場合は、冒頭の機序別の入口から専用記事へ進んでください