デンプンの老化を遅らせる3つの道|水を奪う・割り込む・切る

デンプンの老化を遅らせる3つの道|水を奪う・割り込む・切る

この記事でわかること

  • デンプンの老化を遅らせる手が3系統(水を奪う・割り込む・切る)あること
  • 乳化剤や水飴が老化を遅らせる仕組み
  • 油脂の「老化防止」には機序と希釈の2通りがあり、片方は効いていないこと
  • ご飯・パン・もちで使える手がそれぞれ違う理由

炊いたご飯も、焼いたパンも、時間が経つと硬くなります。デンプンの老化です。

遅らせる方法として知られているのは「砂糖を入れる」「冷凍する」あたりですが、実際にはもっと種類があります。

老化を遅らせる手は3系統ある

老化は糊化でバラバラになった長い分子が、時間をかけて再び規則正しく並び直す現象です。並ぶときに水が押し出されるので、硬くパサつきます。

つまり防ぐには並べなくするしかありません。手は3つに分かれます。

系統やること手段
① 水を奪う水を動けなくして、並ぶための移動を止める糖/ハイドロコロイド/冷凍
② 割り込む分子の間に別の物を置いて、並べなくする乳化剤/水飴のデキストリン
③ 切る分子を短くして、並びようがなくするα-アミラーゼ
老化:並び直す 分子がそろって並び、 水を押し出す(硬くなる) ① 水を奪う 糖などが水を抱え、 並ぶための移動を止める ② 割り込む 乳化剤が分子に結びつき、 隣と並べなくする ③ 切る 酵素が分子を短く切り、 並びようがなくする 水 デンプンの長い分子(アミロース) 糖などに抱えられた水 乳化剤(モノグリセリド)
老化は「並び直し」。だから手は、並ぶための水を止める・間に割り込む・短く切る、の3つに分かれる

よく知られているのは①だけです。条件の表に載っているのも温度・水分・砂糖で、②と③は入っていません。

②③を知ると打ち手が増えます。水を足せない料理でも遅らせられるからです。

系統①:水を奪う

老化は水が抜けることから始まります。だから自由に動ける水を減らせば進みにくくなります。

手段どう効くか
糖水を抱え込んで、デンプン同士の結合を邪魔する
ハイドロコロイド分子の網が水を抱える。網そのものは老化しない
冷凍(−18℃以下)水が凍って動けないので、再結合できない

冷蔵(0〜5℃)が最悪なのは、この裏返しです。水は凍らず、しかも老化が最も進む温度帯にあたります。ご飯とパンを冷蔵してはいけないのはこのためです。

手段は違っても、狙いはすべて水を動けなくすることに揃っています。

系統②:割り込む

水を抱えなくても老化は遅らせられます。デンプン分子の間に別の分子が入り込めばいいからです。

代表的なのが乳化剤です。乳化剤の一種であるモノグリセリドは、糊化してほどけたアミロースと結びついて複合体を作ります。こうなるとアミロース同士が再び規則正しく並び直せなくなるので、老化が遅れます。

蒸留モノグリセリド(DMG)がクラムの柔らかさを改善し、包装したパンの日持ちを延ばすのはこの働きです。

水飴も同じ系統です。水飴の記事にあるとおり、マルトースやデキストリンがでんぷん分子の間に入り込んで再結晶化を遅らせます。

この系統の強みは、水を足せない料理でも使えることです。生地の水分量を変えないまま、老化だけを遅らせられます。

系統③:切る

長い分子だから並び直せます。短く切ってしまえば並べません。

これをやるのがα-アミラーゼです。デンプン分子を切断することで老化を抑制し、やわらかさを保ちます。

酵素特徴
マルトジェニックα-アミラーゼ他のアミラーゼより耐熱性がある。焼成中も働いて老化を防ぎ、生地の物性を改良する
マルトース生成α-アミラーゼマルトース類を中心としたオリゴ糖を生成し、やわらかさの維持に効く

欧米ではパンの廃棄量の減少・歩留まり向上につながるとして広く普及しています。

家庭で酵素製剤を使うことは稀ですが、小麦粉自体がアミラーゼを持っています。長時間発酵で風味が複雑になるのは酵素がデンプンを切って糖を作るためで、その過程で分子が短くなること自体は起きています。

油脂はどう関係するか

パンの材料の役割では「油脂=柔らかさ、風味、老化防止」とされています。ただしなぜ効くかは2通りあります。

何が起きるか老化そのものは
① 複合体を作る油脂に含まれる乳化性の成分がアミロースに割り込む(系統②)遅くなる
② デンプンの割合が減る配合量が増えると、生地に占めるデンプンの比率が相対的に下がる変わらない(感じにくくなるだけ)

②は機序ではありません。老化そのものは同じように進んでいて、量が減るぶん目立たなくなっているだけです。

バターを増やせば柔らかくなりますが、それは老化を止めたわけではありません。日持ちを本気で狙うなら、割り込む側(乳化剤)か切る側(酵素)を使います。

素材別の使い分け

素材効く手段実際に使われているもの
パン②+③(+油脂)乳化剤、α-アミラーゼ、バター
もち・求肥②+①水飴(割り込みと保水の両方)
ご飯①のみ冷凍一択。糖も油脂も足せない
ソース・あん①ハイドロコロイド。片栗粉のとろみは冷めると弱るが、キサンタンは保つ

判断の軸は1つです。配合をいじれるかどうか。

いじれるなら②③が使えます。いじれない料理——炊いたご飯がまさにそれ——では、水を動けなくする①しか残りません。だから冷凍が唯一の答えになります。

まとめ:並べなくする3つの道

  • 老化は長い分子が並び直す現象。だから防ぐ手は並べなくする方向にしかなく、3系統に分かれる
  • ① 水を奪う——糖・ハイドロコロイド・冷凍。自由に動ける水を減らす。冷蔵の0〜5℃が最悪
  • ② 割り込む——乳化剤がアミロースと複合体を作る。水飴のデキストリンも同じ。水を足せない料理でも使える
  • ③ 切る——α-アミラーゼが分解する。短い分子は並べない。ただし不可逆で食感も変わる
  • よく知られているのは①だけ。条件表に載っているのは温度・水分・砂糖で、②③は入っていない
  • 油脂の効き方は2つ。複合体(機序)と希釈(配合量)。希釈は老化を止めていない
  • ご飯は冷凍一択。配合をいじれないので①しか残らない

老化は水が抜けた跡地で起きることの代表例です。冷凍・離水と並べた全体像は水分の制御に。