保存の劣化は水の引っ越しで説明できる|動かさないか、動いた後に困らないか

保存の劣化は水の引っ越しで説明できる|動かさないか、動いた後に困らないか

この記事でわかること

  • 冷凍・老化・離水・冷凍焼けを「水の引っ越し」として1つに整理する見方
  • 水が動いた跡地で起きること(戻るもの・戻らないもの)
  • 打ち手が2種類しかないことと、配合をいじれるかどうかでどちらを使うかが決まること

冷凍したらスカスカになった。あんが水っぽくなった。パンが硬くなった。ゼリーから水が出た。

別々の現象に見えますが、起きていることは1つです。水が元ある場所から、別の場所へ移っています。

保存の劣化は「水の引っ越し」で説明できる

何が起きるか水はどこへ行くか詳しくは
冷凍でスカスカ・分離・水っぽい氷になって場所を取る冷凍で壊れる4機序
パンやご飯が硬くなるデンプンから押し出される老化を遅らせる3系統
ゼリーやソースから水が出るゲルの網目から抜けるハイドロコロイド
冷凍焼けで表面が乾く庫内へ飛ぶ冷凍で壊れる4機序

水を止めれば全部止まる——と言いたいところですが、そう単純ではありません。

厄介なのは、水が動いた「跡地」で起きることのほうだからです。

水はどこへ引っ越すのか

行き先は3つしかありません。

行き先何が起きるか代表例
① 氷になる(その場に留まる)体積が増えて場所を取る。細胞を破り、油を押しのける冷凍でスカスカ、ソースの分離
② 食材の外へ出る抱えていた水が出て、食感が変わるドリップ、離水、あんが水っぽい
③ 空気中へ飛ぶ表面が乾き、風味も抜ける冷凍焼け、乾燥

①だけは「出ていかない」のが特徴です。その場に留まったまま姿を変え、場所を取ります。だから対処も違ってきます。

共通するのは、自由に動ける水が多いほど起きやすいことです。だから打ち手は「自由に動ける水を減らす」方向に向かいます。

何を加えるか何に効くかどう効くか
糖・塩食材の中の自由な水水分子と結びついて抱え込み、動けなくする
ハイドロコロイド液体の中の自由な水分子の網の中に水を閉じ込め、動けなくする

どちらも水の量を減らしているのではなく、同じ量の水を動けなくしている点が共通します。

引っ越した跡地で何が起きるか

ここが本題です。水が動くこと自体より、動いた後に起きることのほうが厄介な場合があります。

跡地で起きること何が壊れるか元に戻るか
分子が並び直すデンプンの老化。水が抜けた隙間でアミロースが再結合する戻る(再加熱で回復)
油が合一する乳化の破壊。氷に押しのけられた油の粒がくっつくほぼ戻らない
組織が潰れる氷結晶が細胞を物理的に破る戻らない

打ち手は2つしかない

整理すると、できることは2種類です。

やること手段
① 引っ越させない水を動けなくする糖・塩/ハイドロコロイドで抱える/急速冷凍で一気に凍らせる/密閉して出口をなくす
② 引っ越した後に困らないようにする動いても壊れない状態にしておく分子に割り込む・切る/安定剤で乳化を支える/組織をあらかじめ壊しておく

②の最後がわかりやすい例です。じゃがいもの煮物は冷凍するとスカスカになりますが、マッシュにしておけば冷凍できます。壊れる構造が最初からなければ、氷結晶に破られようがありません。

どちらを使えるかは、その料理の配合をいじれるかどうかで決まります。

②はいずれも材料を足す手なので、配合をいじれない料理では最初から選べません。炊き上がったご飯に乳化剤やハイドロコロイドを混ぜ込むことはできません。このとき残るのは、①のうち材料を足さずにできる手——急速冷凍と密閉だけです。ご飯が冷凍一択になるのはこのためです。

逆に、配合をこれから決められる料理——パン生地、あん、ソース——なら①と②を両方使えます。②の強みは、水分量を変えないまま劣化だけを遅らせられることです。

まとめ:動かさないか、動いた後に困らないか

  • 保存の劣化は水が元ある場所から別の場所へ移ることで起きる。行き先は3つ——氷になる/外へ出る/空気中へ飛ぶ
  • 厄介なのは跡地で起きること。分子が並び直す(戻る)/油が合一する(ほぼ戻らない)/組織が潰れる(戻らない)
  • ★★打ち手は2つ。引っ越させない(抱える・凍らせる・密閉する)か、引っ越した後に困らないようにする(割り込む・切る・支える)
  • 戻らないものから先に手を打つ。乳化と組織は取り返しがつかない
  • 配合をいじれるなら①②の両方、いじれないなら①の中の「材料を足さない手」だけ。ご飯に冷凍しか効かないのはこのため
  • なお、脂の酸化だけは水の話ではない。同じ「空気を抜く」で対処するが理由が違う