この記事でわかること
- 冷麺の麺はどう作る?
- 熱湯でこねて穴から押し出し、茹でたら氷水で締める
- 冷麺の麺は何でできている?
- 平壌式はそば粉70〜80%、咸興式は芋のデンプンが主体
- なぜハサミが要るほど噛み切れない?
- 冷えたデンプンが網目を作るから。小麦のグルテンではない
- 茹でたあと氷水に入れるのはなぜ?
- 0〜5℃でデンプンの老化が最も進み、コシが立つ
焼肉店で冷麺を頼むと、店員がハサミを入れてくれます。小麦の麺なら歯で切れるのに、冷麺は噛んでも伸びて切れません。
この弾力を作っているのは、小麦のグルテンではありません。冷やされたデンプンが網目を組み直す「老化」 です。
この記事では、麺生地の分類のうち韓国冷麺の麺を扱い、何でできているか、なぜ噛み切れないのか、熱湯でこねて押し出し、氷水で締める理由を順に説明します。
冷麺の麺は、そば粉とデンプンの比率でできている
冷麺の麺は、そば粉と芋のデンプンを混ぜて作ります。どちらをどれだけ使うかで、ぷつっと切れる麺にも、ハサミが要る麺にもなります。その両端にあるのが、平壌(ピョンヤン)式と咸興(ハムン)式です。
平壌式と咸興式の違い
| 様式 | 主な粉 | 比率の目安 | 太さ・色 | 食感 | 主な食べ方 |
|---|---|---|---|---|---|
| 平壌式 | そば粉+デンプン | そば粉70〜80% | 太め・黒っぽい | ぷつっと切れる | 冷たいスープ(水冷麺) |
| 咸興式 | じゃがいも・さつまいものデンプン | デンプンが主体 | 細い | 噛み切れない | 辛いタレで和える(ビビン冷麺) |
平壌式でもデンプンを混ぜるのは、そば粉だけでは粘りが足りず麺がつながらないからです。
ソウルの平壌式の老舗も、粘りを保つためにデンプンを混ぜています。それでも、そば粉が70〜80%を占めるので、香りがあり歯で切れます。
咸興式はその逆で、デンプンが主役です。もとは咸興地方の「農馬(ノンマ)麺」で、高原でとれたじゃがいものデンプンだけで作っていました。いまの韓国(南)ではさつまいものデンプンが中心で、さつまいもデンプン100%の麺を出す店もあります。
盛岡冷麺や市販の冷麺はどこに入るか
岩手の盛岡冷麺は、小麦粉にデンプンを混ぜて作ります。日本で売られている韓国冷麺も、原材料に「小麦粉・でん粉・そば粉」と並ぶものが多くあります。
小麦粉が入る麺では、デンプンの網目に小麦のグルテンが加わります。デンプンだけの麺とは、コシの作り方が一部違います。
米麺・そばとの違いは、コシができる場所
グルテンに頼らない麺は、冷麺のほかにそばと米麺があります。ほかの麺と並べたときの違いは、コシがいつ、どこでできるかです。
| 麺 | コシ・つながりの源 | コシができるところ |
|---|---|---|
| うどん | 塩で締めたグルテン | こねと足踏み |
| パスタ | タンパク質の多い粉のグルテン | こね |
| 中華麺 | かんすいで締めたグルテン | こね |
| そば | 小麦粉のつなぎ・湯ごねの糊 | こね |
| 米麺 | 米デンプンの老化 | 工場での乾燥・冷却 |
| 冷麺 | 芋デンプン(+そば粉)の老化 | 茹でた直後の冷水・氷水 |
そばの問いは「グルテンなしでどうつなぐか」で、答えはつなぎの小麦粉か湯ごねでした。米麺は、工場で乾燥・冷却して老化させた骨格を、家庭では壊さないように戻します。
冷麺はコシを食べる直前に作ります。押し出した麺を茹で、すぐに氷水で冷やして老化を起こし、その場でコシを立てます。だから冷麺は冷たいまま食べます。
温かいスープに入れると、コシが抜けます。老化で固まったデンプンは、60℃以上に温めると一部が糊化した柔らかい状態に戻るからです。
ハサミが要るほどの弾力はどこから来るか
冷えたアミロースが網目を作る
デンプンの分子のうち、枝の無い一本の鎖をアミロースと呼びます。茹でるとデンプンは水を吸ってふくらみ、鎖がほどけて柔らかくなります。これが糊化です。
これを冷やすと、ほどけたアミロースの鎖どうしが寄り集まり、2本がより合わさった形(二重らせん)を作ります。より合わさったところが、鎖と鎖をつなぐ結び目になります。
結び目が多いほど、デンプンのかたまりは硬く、弾力を持ちます。これがデンプンの老化です。
網目そのものがデンプンでできている
小麦の麺では、網目の主役はグルテンで、デンプンはその隙間を埋めています。咸興式の冷麺は、網目そのものがデンプンです。
麺全体が1つのデンプンの網になっているので、引っぱると伸びて戻り、歯で押しても切れにくくなります。ハサミが要る弾力は、ここから来ています。
そば粉が多いと切れやすく、デンプンが多いと切れない
そば粉はデンプンだけでできているわけではありません。タンパク質や、殻に近い部分の繊維も含みます。
これらはデンプンどうしの結び目には加わらないので、そば粉が多い麺ほど網目が途切れやすくなります。平壌式が歯でぷつっと切れるのはこのためと考えられます(そば粉の組成からの推測で、麺で直接確かめた資料は見つかっていません)。
デンプンの比率を上げるほど網目は途切れなくなり、咸興式のような噛み切れない麺になります。食感はそば粉とデンプンの比率で連続的に動くので、「平壌式か咸興式か」の二択ではなく、店ごとにその間のどこかを選んでいます。
熱湯でこねて、押し出して作る理由
冷麺の生地づくりには、小麦の麺には無い手が2つあります。こね水に熱湯を使うことと、延ばして切るのではなく穴から押し出すことです。どちらも、グルテンが無い生地をつなぐための手です。
熱湯でこねる
生のデンプンは、水を加えても溶けず、粘りも出ません。片栗粉を水で溶くと、混ぜた直後はさらさらで、置いておくと底に沈むのと同じです。これでは粉どうしがつながりません。
そこで、沸騰した湯でこねます。韓国では「익반죽(イクパンジュク)」と呼ぶこね方で、咸興の農馬麺も、じゃがいものデンプンを篩い(ふるい)、熱湯で練って作ります。
熱湯が触れたところのデンプンだけが糊化して糊になり、残りの生の粉をつなぎます。そばの湯ごねと同じ原理です。
| デンプン | 糊化が始まる温度(℃) |
|---|---|
| じゃがいも | 56〜69 |
| さつまいも | 65〜80 |
出典: デンプンの糊化の表(McGee 2004・川端 2015)の値。
ぬるま湯ではこの温度に届かず、糊が足りません。生地はまとまらず、押し出すとぼろぼろ崩れます。こね水は沸騰したてを使います。
生地がひとまとまりになり、指で押しても割れずにへこむようになれば、糊が足りています。
延ばさずに穴から押し出す
グルテンの網目がない生地は、引っぱると伸びずに切れます(米麺も同じ。米麺の記事の図を参照)。うどんやパスタのように薄く延ばして包丁で切る方法は使えません。
そこで、生地を押し出し器に詰め、底の小さな穴から押し出して麺にします。押し出した麺は、そのまま下に構えた沸騰湯に落として茹でます。韓国発の冷麺店には、注文を受けてから押し出し式の製麺機で麺を落とし、茹でて締める店もあります。
押し出すと、生地は圧をかけられて隙間なく詰まった、断面の丸い麺になります。延ばして切った麺のような角も、薄く延ばしたときにできる層もありません。
茹でたら冷水で締める理由
家庭で冷麺の麺を扱うとき、コシにいちばん差が出るのは茹でたあとの冷やし方です。茹でる、洗う、締める、の3つに分けて見ます。
たっぷりの沸騰湯で短く茹でる
押し出した生麺は細く、茹で時間はごく短くなります。市販の乾麺は製品によって差が大きく、40秒ほどの半生タイプから3〜4分のものまであるので、袋の表示を基準にします。
湯は多めに、強火で沸かしておきます。湯が少ないと、麺を入れた瞬間に温度が落ち、中心のデンプンが糊化しきらずに芯が残ります。
流水で表面の糊を洗う
茹で上がった麺の表面には、茹で汁に溶け出したデンプンの糊がついています。ザルにあげたらすぐ流水の中でほぐし、ぬめりが取れるまでもみ洗いします。
糊を残すと、冷えたときに麺どうしが貼りつき、スープも濁ります。すぐに洗うのは、余熱で糊化がさらに進んで麺がゆるむのを止めるためでもあります。
氷水で0〜5℃まで冷やす
洗った麺は氷水に浸けて、芯まで冷やします。老化がいちばん進むのは0〜5℃です。氷水ならこの温度帯にそのまま入り、アミロースの鎖がより合わさってコシが立ちます。水道水だけでは0〜5℃まで下がらず、締まりきりません。
麺を1本つまんで、中まで氷水と同じ冷たさになっていれば締まっています。
締めたら水気をよく切ります。水が残るとスープが薄まります。スープも冷やしておきます(温かいとコシが抜ける理由は前の節のとおり)。
よくある失敗と対策
麺にコシがない回復できる
- なぜ
- 冷やす温度が足りず、糊化したデンプンのアミロースが並び直して網目を作る老化が進みませんでした
- どうする
- 氷水に移し、麺が芯まで冷たくなるまで浸けて締め直します
- 次から
- 流水で洗ったあと、0〜5℃の氷水で締め、スープも冷やしておきます
麺どうしがくっついた回復できる
- なぜ
- 茹で汁に溶け出したデンプンの糊が表面に残り、冷えて麺どうしを貼りつけました
- どうする
- 流水の中でほぐしながらもみ洗いし、表面のぬめりを落とします
- 次から
- 茹で上がったらすぐ流水でぬめりが取れるまで洗います
生地がボロボロ割れる回復できる
- なぜ
- 湯の温度が低く、生地の中でデンプンが糊化せず、粉どうしをつなぐ糊ができていません
- どうする
- 沸騰した湯を少しずつ足してこね直し、糊を増やします
- 次から
- こね水は沸騰したてを使い、ぬるま湯で代えません
中が生だった回復できる
- なぜ
- 湯の量が少なく、麺を入れた瞬間に湯温が落ちて中心のデンプンが糊化しきっていません
- どうする
- 沸騰湯に戻して数十秒追加で茹で、改めて冷水で締めます
- 次から
- たっぷりの湯を強火で沸かし、少量ずつ茹でます
まとめ:冷麺のコシを出すために外さないこと
- コシの正体はデンプンの老化。冷えたアミロースがより合わさって結び目を作る
- 平壌式はそば粉70〜80%で歯で切れ、咸興式は芋のデンプン主体で噛み切れない
- 生のデンプンには粘りがないので、熱湯でこねて一部を糊にする
- 延ばせない生地なので、穴から押し出して沸騰湯に落とす
- 茹でたら流水で糊を洗い、0〜5℃の氷水で締める。温めるとゆるむ
デンプンだけの麺のもう1つの例は米麺です。冷麺が韓国の麺の中でどんな料理かは韓国料理の特徴、麺全体の見取り図は麺生地の分類で確認してください。