醤油、塩、砂糖。買ってきたまま使うものだと思われがちですが、手を加えると別の調味料になります。
煮切り醤油、焼き塩、かえし、カラメル。どれも「調味料そのものを作り変える」技法です。
調味料に手を入れる理由は3つ
やりたいことで分けると、技法は3つに整理できます。
| やりたいこと | 何をするか | 技法 |
|---|---|---|
| 角を取る | 刺激の強い成分を飛ばす/寝かせて馴染ませる | 煮切り醤油・かえし |
| 香りを変える | 加熱で香気成分を生む/別の香りを混ぜる | 焦がし醤油・焼き塩と炒り塩・フレーバーソルト |
| 物性を変える | 加熱や酸で構造そのものを変える | シュガーステージ・転化糖 |
素材別に見たい場合は各ディレクトリから入れます——醤油の下処理、塩の下処理、砂糖の下処理。
角を取る——引き算の技法
強すぎる成分を減らす方向の操作です。
煮切り醤油は醤油を 80〜85℃ で加熱し、エタノールと揮発性の酸を飛ばします。刺激が抜けてまろやかになります。足すのではなく引く技法です。
かえしは醤油・みりん・砂糖を合わせて寝かせます。加熱せずに時間で角を取ります。名前の由来も「尖った味を丸く返す」ことにあります。
つまり角を取る手段は2つ。熱で飛ばすか、時間で馴染ませるかです。
香りを変える——足し算の技法
同じ加熱でも、温度を上げると方向が逆になります。
焦がし醤油は 150〜170℃ でメイラード反応を急速に進め、香ばしい香気を生み出します。煮切りが引き算なら、焦がしは足し算です。
同じ醤油を加熱するのに、温度帯で目的が正反対になります。
焼き塩と炒り塩も加熱ですが、狙いが違います。塩は焦げないので、温度で変わるのは結晶の状態です。
フレーバーソルトは加熱ではなく混合です。抹茶、山椒、花椒、ハーブ、燻煙。塩を運び手にして別の香りを乗せます。
物性を変える——構造そのものを変える技法
砂糖だけは、加熱すると物性が段階的に変わります。
シュガーステージは糖液の温度で仕上がりが決まる技法です。糸引き(106〜110℃)、ソフトボール(112〜116℃)、ハードクラック(146〜155℃)、カラメル(160〜180℃)。温度が用途を決めます。
転化糖は酸でショ糖を分解し、結晶化しにくくします。ジャムにレモンを入れるのはこのためです。加熱ではなく化学変化で構造を変えます。
加熱の温度で並べると全体が見える
調味料の加工には加熱を使うものが多いので、温度を1本の軸に並べると位置関係が分かります。
| 温度 | 調味料 | 技法 | 何が起きるか |
|---|---|---|---|
| 80〜85℃ | 醤油 | 煮切り | エタノール・揮発酸が飛ぶ(引き算) |
| 106〜110℃ | 砂糖 | 糸引き | シロップの粘度が上がる |
| 112〜130℃ | 砂糖 | ソフトボール〜ハードボール | 冷やすと固まる段階に入る |
| 132〜155℃ | 砂糖 | ソフトクラック〜ハードクラック | 割れる硬さになる |
| 150℃ | 塩 | 炒り塩 | 水分が抜ける |
| 150〜170℃ | 醤油 | 焦がし | メイラード反応で香気が生まれる(足し算) |
| 160〜180℃ | 砂糖 | カラメル | 褐色と苦味が出る |
| 180℃以上 | 醤油 | 焦げ(失敗) | 炭化して苦味が支配する |
| 480℃ | 塩 | 焼き塩 | 結晶構造が変わる |
塩だけが 480℃ という別次元にいます。塩は有機物ではないので焦げず、**メイラード反応もカラメル化も起きません。**だから他の調味料が炭化する温度をはるかに超えて加熱できます。