ソースの味は、必ずどこかから持ってきています。素材から出たものか、別に仕込んだものか、その場で混ぜたものか。
そして出所によって、できるまでの時間がまったく違います。
味の出所は3つしかない
| 出所 | 何を使うか | できるまで | 作り置き | 代表例 |
|---|---|---|---|---|
| A 素材の副産物 | 焼いた鍋底の焦げ・煮汁 | 4〜5分 | ✕ その一皿限り | デグラッセ、パンソース |
| B 仕込んだベース | フォン・出汁・母ソース | 前日から | ○ | フランスの母ソース、和のかえし |
| C その場で組む | 調味料・薬味・おろし | 数十秒 | ✕ 酵素が生きている | ポン酢、ドレッシング、薬味 |
時間軸が3つとも違うのが決定的です。A は仕込みゼロで4〜5分。B は前日からの仕込みが要る代わりに営業中は速い。C は数十秒でできるが作り置きできない。
主素材の調理法が、使える手を決めてしまう
どれを選ぶかは好みではありません。主素材をどう加熱したかで決まります。
| 調理法 | 鍋に何が残るか | 使える手 |
|---|---|---|
| 焼く・炒める | 鍋底に焦げ | A が最も濃い。使わないのは損 |
| 煮る | 煮汁そのもの | A と料理が一体。別に用意しなくていい |
| 蒸す・茹でる | 薄い汁だけ | B か C を持ってくる |
| 生 | 何もない | C のみ |
「なぜ蒸し魚には別にソースを用意するのか」「なぜステーキは鍋に残った汁で足りるのか」——これで一本の理屈になります。
つまり献立を決めた時点で、使えるソースの系統は絞られています。
fond は「鍋底の焦げ」と「出汁」の両方を指す
A と B は別系統に見えますが、フランス語では同じ語で呼ばれます。
fond は「鍋底に残った焦げ」でもあり、「仕込んだ出汁(fond de veau)」でもあります。もとの意味は「土台」です。
つまりその場で回収する土台と、仕込んでおく土台の違いにすぎません。どちらも料理の味の土台だから、同じ語になった。
実際、フランスの母ソースのうち複数は fond とデグラッセを土台に組み立てられています。A と B は連続しています。
文化によって「記憶するもの」が違う
同じ B(仕込んだベース)でも、フランスと和食では記憶の形が違います。
| 記憶するもの | 名前が指すもの | |
|---|---|---|
| フランス | 母ソースという実体 | ベシャメル・ヴルーテ=実体 |
| 和食 | 割合という数字 | 二杯酢・三杯酢=構成の数 |
違いは仕込みの重さから来ています。母ソースはフォンがなければ始まりませんが、合わせ酢は調味料さえあればその場で作れる。だから記憶するものが実体ではなく数字になったと読めます。
そして和食には B と C が併存しています。かえしや煮切り醤油は仕込む系、合わせ酢はその場で組む系。同じ料理文化の中に両方あります。
選ぶ順番
- 主素材をどう加熱するか — 焼くなら A が使える。蒸す・生なら B か C
- 時間があるか — 仕込みができるなら B。今すぐなら A か C
- 作り置きするか — B だけが作り置ける。A と C は提供直前に作る
この3つで系統が決まります。あとは濃度をどうつけるかを選べば、ソースの設計は終わりです。