甘味の科学|なぜ甘いと感じ、なぜ人は甘味を強く好むのか

よく冷えたスイカや梨は、なぜあんなに甘いのでしょうか。砂糖も、人工甘味料も、貝の身も、まったく違う物質なのに、どれも「甘い」と感じるのはなぜでしょうか。

甘味は、体にとって「エネルギーがある」という良い知らせ。だから人は本能的に甘味を求めます。そして面白いことに、構造のまったく違う多様な物質が、たった1つの受容体を通じてすべて「甘い」と感じられます。この記事では、甘味を受容体・相対甘味度・温度の3方向から、味覚クラスタの一員として解いていきます。

甘味は「エネルギーがある」という良い知らせ

甘味は、糖などのエネルギー源があることを知らせる味覚です。糖は体がすぐに使える速効エネルギーなので、甘味は生存に有利な「良い知らせ」として、本能的に強く好まれるよう進化したと考えられています。生まれたばかりの赤ちゃんも、甘い液体を好むとされます。

苦味が毒を避ける「警告」だとすれば、甘味はその正反対で「近づけ」のサイン。だから人は甘味に対して警戒がなく、むしろ積極的に求めます。子どもが甘いものを好み、疲れたときに甘いものが欲しくなるのは、この本能の表れです。

この記事は、甘味を「何を感じているか(受容体)」「糖ごとにどれだけ違うか(相対甘味度)」「なぜ冷やすと甘いのか」「他の味とどう関わるか」の順に、味覚クラスタ(うま味酸味苦味)の一員として解いていきます。

たった1つの受容体が、あらゆる甘味を受け取る

甘味の受容体は、T1R2T1R3という2つのタンパク質が組んだ1種類(ヘテロ二量体)だけです。ところがこの1つの受容体が、砂糖などの糖・一部のアミノ酸・人工甘味料・甘味タンパク質という、構造のまったく違う物質を全部「甘い」と受け取ります。

その秘密は、結合部位が複数あることです。ハエトラップのような形をした受容体の、異なる場所に、異なる甘味物質が嵌まります。だから化学的に似ていない物質でも、同じ受容体を働かせれば甘く感じる。人工甘味料が砂糖とまったく別物なのに甘いのは、この受容体の別の場所に嵌まるからです。

甘さはどれだけ違うか——相対甘味度マップ

「甘さの強さ」は、物質によってまるで違います。砂糖(ショ糖)を1(基準)としたときの、代表的な甘味物質の相対甘味度を一枚にまとめます。数値は測定条件で幅があるため、レンジで示します。

分類甘味物質相対甘味度(ショ糖=1)
果糖(フルクトース)約1.1〜1.7(温度で変動)
ショ糖(砂糖)1
ブドウ糖(グルコース)約0.6〜0.75
麦芽糖(マルトース)約0.3〜0.5
乳糖(ラクトース)約0.15〜0.40
糖アルコールキシリトールほぼ1
糖アルコールエリスリトール約0.7〜0.8
人工甘味料アスパルテーム約100〜200倍
人工甘味料アセスルファムK約200倍
人工甘味料スクラロース約600倍
甘味タンパク質ソーマチン・モネリン重量あたり数百〜数千倍

だから「少量で甘くしたい」なら高倍率の甘味料、「量でコクやとろみも出したい」なら糖、と使い分けの土台になります。ただし甘さの(キレ・後引き・冷涼感)は倍率とは別です。糖アルコールのキシリトールやエリスリトールは、溶けるときに周りの熱を奪うため、口の中でひんやりする特徴があります(ミント菓子のスースー感の一因)。

相対甘味度(ショ糖=1、対数スケール) 1 10 100 1000 10000 乳糖0.15 ブドウ糖 ショ糖 果糖 アスパルテーム約200 スクラロース 約600 甘味タンパク質数千倍
同じ「甘い」でも、糖類から人工甘味料・甘味タンパク質まで甘さは桁で変わる

糖以外にも甘い——アミノ酸と甘味タンパク質

甘いのは糖だけではありません。アミノ酸の一部(グリシン、アラニンなど)はさわやかな甘味を持ち、貝類やうに、だしの甘みの一部を担います。エビやカニの甘さにも、こうしたアミノ酸が関わっています。

さらに極端なのが甘味タンパク質です。ソーマチン(アフリカの植物由来)やモネリンは、タンパク質なのに砂糖の重量あたり数百〜数千倍も甘い。糖の分子ではないのに、受容体の甘味スイッチを強く押すために、ここまで甘くなります。

こうした多様な甘味物質がすべて同じT1R2+T1R3で受容されるのが、甘味の面白さです。なお、加熱で新しく生まれる甘みもあります。さつまいもを焼くと甘くなるのはでんぷんの糖化、砂糖を焦がした甘香ばしさはカラメル化で、それぞれ扱っています。

なぜ果物は冷やすと甘いのか

よく冷えたスイカや梨が甘いのは、気のせいではありません。果物に多い果糖(フルクトース)は、温度によって分子の形が変わり、甘さそのものが変わる糖だからです。

果糖は、水の中で「六員環の形」と「五員環の形」の間を行き来しています。このうち六員環の形のほうが強く甘く、低温ではその割合が増えます。だから冷やすと果糖は甘くなり、温めると甘さが弱まります。冷たいデザートや飲料で果糖が効くのは、このためです。

一方、ブドウ糖やショ糖(砂糖)は、この温度による甘さの変化がほとんどありません。だから「冷やすと甘くなる」のは、果糖が多い食材(りんご・梨・ぶどう・スイカなど)で特にはっきり効きます。砂糖そのものの性質は砂糖を構成する糖類でも扱っています。

「冷やすと甘い」と「体温で甘い」は別の話

ここでややこしいのが、甘味には温度が関わる話が2つあり、逆を向いていることです。混同すると訳が分からなくなるので、分けて整理します。

何の話か向き
果糖は冷やすと甘い果糖の分子の形が変わる(化学の話)冷やすほど甘い
甘味は体温付近で最も強い受容体・神経の感度(知覚の話)体温付近が最大

甘味を受け取る仕組みは、体温に近い温度でよく働き、熱すぎても冷たすぎても感度が鈍る傾向があります。だから同じ砂糖でも、熱々やキンキンより、少し冷めたくらいのほうが甘く感じられることがあります。

この2つは別の軸です。果物を冷やすと甘いのは、「果糖の分子の変化」が「受容体の感度低下」を上回るから。砂糖水を冷やしても果物ほど甘くならないのは、砂糖に分子の変化がなく、受容体の感度低下だけが効くからです。分けて考えると、冷たいデザートの甘さの設計がしやすくなります。

甘味と他の味——塩で引き立ち、酸で締まる

甘味は、他の味と組むと働きが変わります。少量の塩を加えると、甘味が強く感じられます(スイカに塩、あんこにひとつまみの塩)。これは味の相互作用でいう対比効果で、スイカに塩で詳しく扱っています。

酸味と組むと「甘酸っぱさ」になり、甘さに輪郭とキレが出ます(レモンを効かせたジャムやスイーツ)。また甘味には、苦味や塩味の角を和らげる働きもあります(コーヒーの砂糖、塩気の強い料理に少しの甘み)。

だから甘味は「甘くする」だけの味ではなく、塩・酸・苦味と組み合わせて味全体を設計する道具です。甘味を足すか、塩で引き立てるか、酸で締めるかで、同じ甘さでも印象が大きく変わります。

まとめ:1つの受容体が受ける、エネルギーの良い知らせ

  • 甘味はエネルギー源(糖)の良い知らせで、本能的に好まれます。糖・アミノ酸・人工甘味料・甘味タンパク質という別物が全部甘いのは、たった1つの受容体(T1R2+T1R3)の異なる場所に嵌まるからです
  • 甘さの強さは物質でまるで違い(ブドウ糖 約0.6〜0.75 からスクラロース 約600倍、甘味タンパク質は数千倍)、相対甘味度で使い分けられます
  • 「果物を冷やすと甘い」は果糖の分子の形が変わる化学の話、「甘味は体温付近で最強」は受容体の感度の話で、別の軸です
  • 甘味は塩で引き立ち、酸で締まる。味全体を設計する道具でもあります

甘味を「受容体という1つのスイッチが押されている」と捉え直すと、なぜ人工甘味料が甘いのか、なぜ果物は冷やすと甘いのか、なぜスイカに塩が効くのかが、一本の理屈でつながります。