日本で「ヤンニョム」と聞くと、多くの人がヤンニョムチキンの甘辛いタレを思い浮かべます。これが最初のつまずきです。
ヤンニョム(양념)は特定のソースの名前ではありません。合わせ調味料そのものを指す総称です。日本語でいえば「合わせ調味料」という言葉に近く、ヤンニョムチキンは「合わせ調味料で味付けしたチキン」という意味になります。
ヤンニョムは特定のソースではなく、合わせ調味料の総称
構成する要素はおおむね決まっています。
| 要素 | 代表的なもの | 何を担うか |
|---|---|---|
| 辛味 | 唐辛子粉(コチュカル)、コチュジャン | 辛さと色 |
| 塩味 | カンジャン(韓国醤油)、テンジャン | 味の芯 |
| 甘味 | 砂糖、水飴 | 辛味を丸める |
| 香り | にんにく、しょうが、ねぎ | 香味の骨格。にんにくとしょうがは必須 |
| コク | ごま油、すりごま | 仕上げの厚み |
★韓国の台所には「ベースヤンニョム」と呼ばれる基本の合わせが常備されており、そこから料理ごとに振っていく運用が一般的です。作り置きして展開する、という点が重要です。
合わせ調味の中でのヤンニョムの立ち位置:常備して展開する
「調味料を先に合わせておく」技法は各国にありますが、何を固定して何を動かすかが違います。
| 料理 | 名前 | 固定されているもの | 動かすもの |
|---|---|---|---|
| 韓国 | ヤンニョム | 要素の役割(辛・塩・甘・香・コク) | 比率(家ごとに違う) |
| 日本 | 地 | 比率(八方だし 8:1:1) | 用途に応じた振り方 |
| イタリア | ソッフリット | 材料と比率(2:1:1) | 炒め加減 |
| 中国 | 葱姜水 | 材料 | 濃度 |
★日本とちょうど裏返しになっています。
和食の「地」は比率が名前になっています——八方だしは「8:1:1」という設計そのものが名前です。三杯酢も「3つ」を名乗る。数字で技術を伝える文化です。
ヤンニョムは逆で、比率は家ごとに違うのが前提。出典も「家庭ごとに材料の比率が異なる」と明言しています。代わりに固定されているのは要素の役割のほうです。
用途で振る
同じベースから、操作に応じて振ります。既存の分類でいえば次の3つが代表です。
| 操作 | 韓国語 | ヤンニョムをどう振るか |
|---|---|---|
| 和える | ムチム(무침) | 水分を減らす。ごま油と塩味を効かせ、素材の水で薄まる前提にしない |
| 煮る | チョリム(조림) | 甘味と塩味を増やす。煮詰めて照りを出すので、最初から濃くしない |
| 炒める | ポックム(볶음) | 糖分に注意。強火で焦げやすいので、砂糖を入れるタイミングを遅らせる |
★煮る場合と和える場合で方向が逆なのは、和食の地と同じ理屈です。煮れば水分が飛んで濃くなり、和えれば素材から水が出て薄まる。水がどちらへ動くかで、最初の濃さを決めます。
炒め物での焦げは、砂糖や水飴がカラメル化して起きます。香ばしさとして使うか避けるかは狙い次第ですが、意図せず焦げるのは糖を入れる順番の問題です。
各国の合わせ調味を2軸で並べた比較は調味の設計まとめにあります。
まとめ
- ヤンニョムは特定のソースではなく合わせ調味料の総称です。ヤンニョムチキンは「合わせ調味料で味付けしたチキン」の意
- 構成は辛味・塩味・甘味・香り・コクの5つの席。にんにくとしょうがは必須
- 家ごとに比率が違っても崩れないのは、比率ではなく役割が固定されているからです。席が埋まっていれば濃淡の差にしかなりません
- 和食の地とはちょうど裏返しです。和食は比率を固定して名前にし、韓国は役割を固定して比率を開放している
- 用途で振る方向は煮るなら控えめに、和えるなら濃いめに。水がどちらへ動くかで決まります