この記事でわかること
- 自分の食材がどの色素の問題かを見分ける手順
- 3つの色素で守り方が逆を向く理由
- 色が変わる現象のうち、この分類が扱わないもの
「野菜の色止め」で調べると、酢を入れろ・塩を入れろ・ミョウバンを入れろ・油で覆え・すぐ冷やせ、と正反対の指示が並びます。どれも間違っていません。相手にしている色素が違うだけです。
ここは料理の科学の⑤「色を守る」側の入口です。守りたい色を3つの色素に分け、それぞれの記事へ渡します。
まずどの色素の問題かを見分ける
守りたい色で決まります。
| 守りたい色 | 色素 | 代表的な食材 | 記事 |
|---|---|---|---|
| 緑 | クロロフィル | ほうれん草、ブロッコリー、枝豆、さやいんげん、バジル | 緑野菜の色止めの科学 |
| 赤紫・青 | アントシアニン | なす、紫キャベツ、赤しそ、黒豆、ブルーベリー、いちご | アントシアニンの色止め |
| 黄・橙・赤(にんじん系) | カロテノイド | にんじん、かぼちゃ、トマト、パプリカ、とうもろこし、柚子皮 | カロテノイドの色止め |
見分けがつかないときは、水に色が出るかどうかが早いです。ゆで汁が染まるならアントシアニン、染まらないのに炒め油が染まるならカロテノイド、どちらでもなく食材自体がくすむならクロロフィルです。
3つで守り方が逆を向く
同じ「色を守る」でも、台所で見るべき条件が色素ごとに違います。ここを取り違えると、正しい手順を正しくない相手に使うことになります。
| 色素 | 何で色が失われるか | 一番効く操作 | 見る条件 | 元に戻せるか |
|---|---|---|---|---|
| クロロフィル | 熱と酸で分子の中心のマグネシウムが抜ける | たっぷりの湯で短時間、蓋を開ける、すぐ冷やす | 時間 | 戻せない |
| アントシアニン | pHで分子の形が変わる。水にも流れ出す | pHを3以下に振る、茹でずに油で覆う | pHと水 | pHを戻せば戻る |
| カロテノイド | 油へ移る。光と酸素で分子が切れる | 油の量と温度を決める、遮光して保存する | 油と光 | 戻せない |
酸は、相手によって味方にも敵にもなる
一番ひっくり返るのが酸です。
- 青菜に酢——退色が速まります。クロロフィルは酸で壊れるので、ドレッシングをかけた青菜は時間とともに黄土色に寄ります
- なすに酢——色が濃くなります。アントシアニンは酸性で赤側に固定されます
- にんじんに酢——何も起きません。カロテノイドはpHで動きません
「酢は色止めになる」も「酢は色を悪くする」も、どちらも半分しか正しくありません。
加熱時間も、効く相手と効かない相手がいる
- 青菜——加熱が長いほど確実に退色します。短時間が唯一の正解です
- なす——加熱そのものより、水に触れているかどうかが効きます。素揚げしてから煮れば長く煮ても色が残ります
- にんじん——煮ても焼いても色は動きません。かわりに、作り置きを窓際に置いた2日のほうが効きます
この分類が扱わないもの
「色が変わった」のすべてがここに入るわけではありません。次の3つは別の仕組みなので、別の記事にあります。
| 現象 | 何が起きているか | どこが違うか | 記事 |
|---|---|---|---|
| 酵素的褐変 | りんごやじゃがいもの中の無色の成分が、酵素と酸素で茶色い色素に変わる | もともと色が無かったところに色がつく。守るべき色素がない | 酵素的褐変の科学 |
| 焼き色(メイラード反応・カラメル化) | 糖とアミノ酸、または糖だけが熱で反応して褐色の物質ができる | 色をつけるのが目的。熱と時間が味方になる | 焼き色と香ばしさの科学 |
| 肉の色 | ミオグロビンという色素タンパク質が加熱で変性する | 植物色素ではなく、安全の判断とセットで扱う | 肉の色とミオグロビン |
このうち酵素的褐変だけは、防ぐ側にも起こす側にも足がかかります。紅茶の色や干し柿の色は、同じ酵素的褐変をあえて進ませたものです。
pHそのものが食材の色・食感・反応をどう変えるかは、酸とアルカリの科学が横断してまとめています。
まとめ
- 色止めの手順が記事ごとに食い違って見えるのは、相手にしている色素が違うからです
- 見分けは色で決まります。緑ならクロロフィル、赤紫青ならアントシアニン、黄橙赤ならカロテノイド
- 見る条件が3つとも違います。クロロフィルは時間、アントシアニンはpHと水、カロテノイドは油と光
- 酸は相手によって味方にも敵にもなります。青菜には敵、なすには味方、にんじんには無関係です
- もともと色が無かったところに色がつく現象(酵素的褐変・焼き色)は、この分類の外にあります