この記事でわかること
- 料理で熱はどう伝わる?
- 伝導・対流・輻射の3つで表面に届き、中心へは伝導だけで進む
- 焼く・茹でる・揚げる・蒸すの違いは
- 焼くは伝導、茹でる・揚げる・蒸すは対流、炭火やグリルは輻射が主
- 同じ100℃でも火の通りが違うのは
- 熱を渡す速さが空気・湯・油・蒸気で10倍以上違う
- 厚い肉はどれだけ時間がかかる
- 湯煎の肉で、厚さが倍なら中心まで2.5〜4倍
- 遠赤外線や電子レンジは芯から温まる?
- 強く温めるのは表面から数mm〜約1cmまで。その先は主に伝導
100℃に温めたオーブンに手を入れても、すぐには火傷しません。100℃の湯に手を入れたら、一瞬で火傷します。温度は同じなのに、熱が手に移る速さがまるで違うからです。
フライパンで焼くと表面は焦げるのに中は生のまま。厚い肉だけいつまでも火が通らない。電子レンジで温めたグラタンの真ん中が冷たい。どれも、熱がどの道を通って、食材のどこまで届くかで説明できます。
この記事では、熱が食材の表面に届き、中心へ進むまでの伝わり方を扱います。
強火・中火・弱火で鍋が何度になるかはフライパンと食材の温度の関係、鍋の素材ごとの違いは鍋の素材で変わる火加減にあります。届いた熱で食材に何が起きるかは調理温度の早見表です。
熱が食材に届く道は、伝導・対流・輻射の3つ
熱はいつも熱いほうから冷たいほうへ移ります。移り方は3つしかありません。触れているものから移る伝導、温まった湯・油・空気・蒸気が動いて運ぶ対流、熱源の赤外線がまっすぐ届く輻射(ふくしゃ)です。
どの料理も、この3つのどれか、または組み合わせで食材に熱を入れています。どの道が主かがわかると、レシピの「動かさない」「詰め込まない」「遠火で」が何のためかがわかります。
伝導は、触れている面からしか入らない
伝導は、熱い鍋や鉄板に触れている面から、熱が食材へ直接移る道です。フライパンで焼く、鉄板で焼く、炒めるがこれにあたります。
伝導で入る熱は、触れている面積に比例し、鍋と食材の温度差にも左右されます。肉を平らに置く、焼き始めに動かさない、のは鍋と触れている面を広く、長く保つためです。
食材を入れると鍋の温度は下がるので、鍋を先に温めておき、一度に入れる量を鍋が温度を保てる分にとどめます。どの鍋が温度を保ちやすいかは鍋の素材で変わる火加減にあります。
対流は、湯や油や空気が動くことで熱を運ぶ
対流は、温まった湯・油・空気・蒸気が食材のまわりを動き、熱を運んでくる道です。茹でる・煮る・揚げる・蒸す、オーブンで焼くがこれにあたります。
対流は食材のどの面にも届くので、触れている面だけが焼ける伝導より、全体に熱が回ります。
そのかわり、冷たい食材を一度にたくさん入れると、食材が熱を奪って湯や油の温度が下がります。食材との温度差が小さくなるので、表面に入る熱も減ります。湯の沸騰や油の温度がしばらく戻らないあいだは、火の通りも遅れます。
少しずつ入れる、ときどき混ぜる、ファンで空気を回すオーブン(コンベクション)を使う、はどれも食材のまわりに熱い湯や空気を送り続けるためです。
輻射は、熱源から見えている面に届く
輻射は、赤く熱した炭やグリルの電熱線が出す赤外線が、空気を温めずにまっすぐ食材に届く道です。炭火焼き、魚焼きグリル、トースター、バーナーで炙るがこれにあたります。
輻射は熱源から見えている面にしか当たらず、熱源から離すほど弱くなります。炭火で焼き魚を返すのは、当たっていない面に熱を入れるためです。「遠火の強火」は、炭を強く熾したまま食材を離し、表面に当たる熱を中へ進む速さに合わせる焼き方です。
実際の料理では、3つが重なって働く
| 料理 | 主な道 | 一緒に働く道 |
|---|---|---|
| フライパンで焼く・炒める | 伝導(鍋底から) | 上の面に、鍋の側面からの輻射と立ちのぼる湯気がわずかに |
| 茹でる・煮る | 対流(湯) | 伝導(鍋底に触れている面) |
| 揚げる | 対流(油) | 伝導(鍋底に触れている面) |
| 蒸す | 対流(蒸気が表面で水に戻る) | 伝導(器や皿に触れている面) |
| オーブンで焼く | 輻射(壁と電熱線から) | 対流(庫内の空気)。どちらも大きく効く |
| 炭火・グリルで焼く | 輻射(炭・電熱線から) | 対流(炭の上にのぼる熱い空気) |
表面から中心へは、伝導だけで少しずつ進む
3つの道が届けるのは、食材の表面までです(例外は電子レンジで、後で確かめます)。
食材の中には湯も空気も流れ込めないので、表面に入った熱は、隣の部分へ順に渡る伝導だけで中心へ進みます。肉や野菜はほとんどが水で、熱の進み方は鍋の金属よりはるかに遅くなります。
火加減や、熱を渡すものを変えて速くできるのは1段目だけです。2段目は食材の中の伝導の速さのままで、どの調理法でも変わりません。
同じ温度でも火の通りが違うのは、熱を渡すものと厚さによる
熱を渡す速さは、空気・湯・油・蒸気で10倍以上違う
熱を渡す速さは、食材の表面と周りの温度差が1℃のとき、表面1㎡に1秒あたり何J(ジュール)の熱を渡せるかで比べます。この値を熱伝達率といいます。数字が大きいほど、同じ温度差でも速く熱が入ります。
| 熱を渡すもの | 熱を渡す速さ(熱伝達率、W/m²K) | 測った条件 |
|---|---|---|
| 家庭のオーブン | 14〜30 | 庫内の空気の対流と、壁からの輻射の合計 |
| 低温調理の湯 | 95〜155 | 低温調理の湯煎の多く |
| 揚げ油 | 300〜480 | じゃがいもの薄切りを150〜190℃で揚げ、表面が固まる前 |
| 食材の表面で水に戻る蒸気 | 5,000〜100,000 | 工業の熱交換器の一般値で、調理で測った値ではない |
出典: オーブンと湯は Baldwin「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」、揚げ油は Sahin ほか(1999)、蒸気は Engineering ToolBox。
湯はオーブンの3〜11倍、揚げ油は10倍以上の速さ
湯は、家庭のオーブンの3〜11倍の速さで熱を渡します。オーブンの熱の多くを運ぶ空気は軽く、同じ体積で抱えられる熱が少ないうえ、熱の伝わりやすさ(熱伝導率)も水の23分の1しかありません。
同じ温度に設定しても、オーブンで温める肉は、湯に沈めた肉より中まで温まるのにずっと時間がかかります。
揚げ油はオーブンの10倍以上の速さで熱を渡すうえに温度も高いので、揚げ物は短い時間で表面が固まります。
出典: 水と空気の熱伝導率の比は Baldwin「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」。
揚げ油は、表面が固まると熱の入りが落ちる
揚げ油の300〜480は、表面が固まる前の値です。同じ実験で、底の面が固い殻になったあとは70〜150まで下がりました。
厚いものを、一度目を150〜160℃で中まで通し、二度目を180〜190℃で表面を固める二度揚げにするのはこのためです(揚げの技術)。
出典: Sahin ほか(1999)。
蒸気は、水に戻るときに大量の熱を渡す
蒸気は、食材の表面に触れて水に戻るとき、1gあたり約2,260Jの熱を出し、それが表面に入ります。
| 1gが表面に渡す熱 | 熱の量(J) |
|---|---|
| 100℃の蒸気が水に戻るとき | 約2,260 |
| 100℃の湯が、60℃の食材の表面に触れて60℃まで冷めるとき | 約170 |
出典: 水の蒸発熱(100℃で2,257J/g)と比熱(4.18J/g℃)からの計算。60℃は火が通り始めた肉の表面の温度の例。
食材の表面が100℃より低いあいだは、蒸気が次々に水に戻り続けます。だから蒸し器の中の食材は、同じ100℃の空気の中に置くよりはるかに速く温まります。
厚さが倍になると、中心まで2.5〜4倍かかる
伝導で熱が進むのにかかる時間は、進む距離のほぼ2乗で延びます。厚さが倍なら約4倍、3倍なら約9倍です。
実測の表では、10mmから20mmで19分から50分と2.6倍で、4倍より小さく出ます。表面に熱を渡す時間も含まれているからです。それでも、厚さが増えるほど時間は厚さの伸びよりずっと大きく延びます。
厚い肉を早く通したいなら、火を強めるより、開いたり切ったりして薄くするほうが早く中まで届きます。
「遠赤外線は芯まで届く」は本当か
熱の伝わり方には、よく言われるのに実測と合わない話がいくつかあります。
遠赤外線が入るのは、表面から数mmまで
炭火は遠赤外線で中まで火が通る、とよく言われます。けれども赤外線のほとんどは、食材の表面の水と有機物の薄い層で吸収され、加熱は表面にとどまります。赤外線が入りやすいとされるパンでも、届くのは2〜3mmです。
炭火で焼くと、赤外線が表面に強く当たるので、表面が速く乾いて焼き色が付きます。中心へは、焼けた表面から伝導で進みます。
炭火の焼き魚でも、赤外線が直接温めているのは表面です。表面が速く乾いて焼け、中は焼けた表面から伝導でゆっくり通ります。
出典: Aboud ほか(2019)Molecules 24(22):4125。
電子レンジが直接温めるのは、表面から約1cmまで
電子レンジは内側から温める、と言われます。家庭の電子レンジのマイクロ波は、肉や生のじゃがいもに入ると、表面から0.9〜1.2cmで強さが約3分の1に落ちます。
この深さまでは伝導を待たずに中が直接温まります。その先へも弱まりながら入りますが、芯を温める力は小さくなります。
厚い肉の塊やグラタンの真ん中は、外側から伝導で熱が届くのを待つことになります。途中で止めて混ぜる、温めたあと1〜2分置く、のはこの伝導の時間を取るためです。
出典: 深さは Püschner「Penetration depths」(2,450MHz・25℃、強さが約3分の1になる深さ)、芯に届く前に吸収されることは Laguerre ほか(2019)。
強火にしても、中心は速く温まらない
火を強めると、表面に入る熱は増えます。けれども中心へ進む速さは食材の中の伝導の速さのままで、火では変えられません。表面だけが先に高い温度になり、中が追いつく前に外が焦げます。
厚いものを焼くとき、表面に焼き色が付いたら火を弱めるのはこのためです。火を止めたあとも、表面にたまった熱は中へ進み続けます。これが余熱です。
蒸すのは、温度はやさしいが熱の入りは速い
蒸すのはやさしい加熱だ、と言われます。やさしいのは温度のほうで、表面は100℃より上がりません。熱を渡す速さは、上の表のとおり湯よりも速い側です。
表面が100℃に届くと蒸気は水に戻らなくなり、そこから先、中心は伝導の速さでしか温まりません。表面が100℃で止まるので焦げず、焼き色も付きません。焼き色は表面の水が飛んで140℃を超えてから付きます(メイラード反応)。
中まで速く通すか、外と中の差を小さくするか
熱の伝わり方から料理の手を選ぶと、次のようになります。
| やりたいこと | 熱を渡すもの | 食材の厚さ | 火の通りを見る手がかり |
|---|---|---|---|
| 中まで早く火を通す | 沸いた湯か蒸気 | 薄く切るか開く | 竹串がすっと通る |
| 外と中の火の通りの差を小さくする | 低い温度の湯 | 厚いままでよい | 中心温度計の数字 |
| 表面だけを強く焼く | 熱い鉄板か炭火 | 薄いもの | 焼き色 |
外と中の差を小さくしたいときに低い温度の湯を使うのは、表面が仕上げたい温度より上がらないからです。中心がいくら遅れても、表面だけが先に熱くなりすぎることがありません。
低温調理で厚い肉が端から中心まで同じ火の通りになるのはこのためで、かかる時間は厚さで変わります。
蒸す方法ごとの温度と時間は蒸しの技術、直火・オーブン・フライパンで焼く方法どうしの違いは焼きの技術にあります。
表面にしっかり焼き色を付けたまま厚い肉の中まで通したいなら、2つを順に使います。湯か低い温度で中まで通してから、熱い鉄板で表面だけを焼きます。
よくある失敗と対策
中が生だった回復できる
- なぜ
- 厚い食材を強火のまま焼き、表面に入る熱に、中心へ伝導で進む熱が追いつきませんでした
- どうする
- 火を止めて蓋をし、余熱で中へ進めます。足りなければ弱火で続けます
- 次から
- 表面に焼き色が付いたら火を弱めるか、厚い食材は開いて薄くしてから焼きます
火の通りにムラが出た回復できる
- なぜ
- 電子レンジのマイクロ波が強く温めるのは表面から約1cmまでで、厚い部分の中心は伝導で温まるのを待つため冷たく残りました
- どうする
- 一度止めて混ぜるか上下を返し、1〜2分置いてから追加で温めます
- 次から
- 厚さをそろえて平たく広げ、途中で一度止めて混ぜます
焼き色がつかない回復できる
- なぜ
- 茹でる・蒸すでは食材の表面が100℃より上がらず、メイラード反応で焼き色が付く140℃前後に届きません
- どうする
- 水気を拭き、熱したフライパンか高温のオーブンで表面だけ焼きます
- 次から
- 焼き色が欲しい料理は、湯か蒸気で中まで通したあと、仕上げに高温で表面を焼きます
参考文献
- Baldwin, D.E.「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」——湯煎とオーブンの表面熱伝達率、水と空気の熱伝導率の比、肉の厚さと加熱時間の表(Table 2.2)
- Sahin, S., Sastry, S.K., Bayindirli, L. (1999) Heat transfer during frying of potato slices. LWT - Food Science and Technology 32(1):19-24——揚げ油の熱伝達率
- Aboud, S.A. ほか (2019) A Comprehensive Review on Infrared Heating Applications in Food Processing. Molecules 24(22):4125——赤外線の加熱は表面にとどまる