この記事でわかること
- 食材ごとに何度か
- 牛55〜57℃、豚58〜61℃、鶏むね58〜60℃、卵65℃
- 時間はどう読むか
- 厚さ別の総時間。25mmで1½〜2¾時間
- その温度で残るものは
- 買い方と下処理で減らす。表面を焼く・新鮮な肉
- 安全を優先するなら
- 公表値(中心63℃30分・75℃1分など)
低温調理は、食材の狙う温度と同じ温度の湯で加熱する技術です。フライパンやオーブンは狙いよりはるかに熱く、止める時刻を外すと行きすぎますが、湯温が狙いと同じなら行きすぎは起こりません。
この記事は設定値の早見表です。食材ごとのおいしい温度と厚さ別の時間、その温度で残るものの減らし方、安全を優先するときの公表値、ブライン液、器具、手順、失敗と対策を1本にまとめます。
なぜその設定なのかから辿りたい場合は、原理・安全・食材別・仕上げの4つに切り分けた低温調理とはを先に読んでください。
低温調理は4つの手順でできている
| 手順 | すること |
|---|---|
| 袋詰め | 食材を調味料と一緒に袋に入れ、空気を抜く |
| 湯に沈める | 温度を一定に保った湯に浸ける |
| 置く | 狙いの温度で数十分〜数十時間 |
| 仕上げ | 表面を焼いて香ばしさを足す |
Sous Vide はフランス語で「真空の下で」。1970年代にフランスで業務用として始まり、いまは家庭用の機器が普及しています。
| 比べるもの | フライパン・オーブン | 低温調理 |
|---|---|---|
| 熱源の温度 | 150〜250℃ | 50〜85℃(狙いと同じ) |
| 温度の精度 | ±20℃以上 | ±0.5℃ |
| 加熱ムラ | 外側と中心で大きな差 | 全体が均一 |
| 失敗の向き | 止め遅れると加熱しすぎ | 長く置いても加熱しすぎにならない |
| 再現性 | 経験と勘が要る | 温度と時間で再現できる |
温度で食感が変わるのはタンパク質が2段で固まるから
ミオシンだけを固めてアクチンを残す
| 中心温度 | 肉の中で起きること | 食感 |
|---|---|---|
| 50℃ | ミオシンが固まり始める | 白っぽくなり始める |
| 55〜60℃ | ミオシンの大半が固まり、60℃で固まりきる | レア〜ミディアムレア |
| 65℃付近 | コラーゲンが縮む(元の1/3〜1/4) | 硬くなる |
| 66〜70℃ | アクチンが固まり始める | 肉汁が出始める |
| 70℃以上 | アクチンが固まり終わる | ウェルダン、パサつく |
| 70〜80℃(数時間) | コラーゲンがゼラチンに変わる(55℃以上なら、時間をかければ進む) | 硬い部位が柔らかくなる |
出典:当サイトのタンパク質の変性とコラーゲンのゼラチン化にまとめた値(McGee ほか)。いずれも肉の中心温度です。
55〜60℃では、ミオシンは固まって火が通り、アクチンは固まらず肉汁を抱えたままです。70℃以上ではどちらも固まって肉汁が出ます。低温調理がジューシーなのは、この窓で止まるからです(低温調理で肉がしっとりする原理)。
硬い部位は温度ではなく時間で柔らかくする
すね肉やバラ肉のコラーゲンは、65℃付近から縮んで肉を硬くし、長時間かけて初めてゼラチンに変わります。55〜65℃で24〜72時間置くと、アクチンを固めずにコラーゲンだけがほどけ、柔らかくてジューシーな仕上がりになります。
値の出どころは温度で変わる食材の科学と肉の火入れの基本にあります。
食材別のおいしい温度と時間
時間は、冷蔵庫から出した5℃の食材を湯に入れてからの総時間で、厚さで変わります。表に無い厚さと温度は、長い側の値を使います。なぜ食材ごとに数字が違うかは低温調理の食材別の温度と時間にあります。
牛肉は55〜57℃
| 部位 | 湯温(=中心温度) | 総時間 | ポイント |
|---|---|---|---|
| ステーキ・ローストビーフ | 55℃(赤み強め) | 55℃・厚さ25mmで2¾時間、55℃・30mmで3時間 | 仕上げに高温で焼く |
| ステーキ・ローストビーフ | 57℃(ピンク) | 57℃・厚さ25mmで2時間 | もっともジューシー |
| すね・肩・ブリスケット | 55〜57℃ | 24〜48時間 | コラーゲンをゼラチンに |
出典:Douglas Baldwin「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」Table 5.1。2本の条件(中心と表面)の読み方は牛のかたまりにあります。
豚肉は58〜61℃
| 部位 | 湯温(=中心温度) | 総時間 | ポイント |
|---|---|---|---|
| ロース・ヒレ | 58℃ | 58℃・厚さ25mmで1¾時間、58℃・30mmで2時間 | ピンクが残りしっとり |
| ロース・ヒレ | 60℃ | 60℃・厚さ25mmで1½時間 | 少し締まる |
| 肩ロース | 60〜65℃ | 8〜12時間 | 脂の旨味を活かす |
| バラ肉 | 65〜70℃ | 12〜24時間 | 角煮風に |
| スペアリブ | 65〜70℃ | 24〜36時間 | 骨から外れる柔らかさ |
出典:ロース・ヒレは Baldwin Table 5.1。残るE型肝炎ウイルスの扱いは豚肉にあります。
鶏肉はむね58〜60℃、もも63〜65℃
| 部位 | 湯温(=中心温度) | 総時間 | ポイント |
|---|---|---|---|
| むね | 58℃ | 58℃・厚さ25mmで2¼時間、58℃・30mmで2¾時間 | いちばんしっとり |
| むね | 60℃ | 60℃・厚さ25mmで1½時間、60℃・30mmで2時間 | ほぐれるしっとり感 |
| ささみ | 58〜60℃ | 厚さ25mmの値を当てる | 薄いので中心は早く届く |
| もも | 63℃ | 63℃・厚さ25mmで1¼時間 | すじがほどける |
| もも | 65℃ | 65℃・厚さ25mmで55分、65℃・30mmで1¼時間 | 脂を活かす |
| 手羽先・手羽元 | 68〜75℃ | 2〜4時間 | コラーゲンを活かす |
出典:むね・ももは Baldwin Table 4.1。到達時間の読み方は鶏むね肉にあります。
魚介は中心が届いたら出す
| 食材 | 湯温(=中心温度) | 総時間 | ポイント |
|---|---|---|---|
| サーモン | 43〜49℃ | 届いたら出す(30〜45分が目安) | とろける半生 |
| マグロ | 38〜43.5℃ | 届いたら出す | 赤身の色と香り |
| 白身魚(鯛・ヒラメ) | 49〜60℃ | 届いたら出す(20〜30分が目安) | 崩れやすい |
| エビ・貝柱 | 49〜60℃ | 届いたら出す | プリプリ |
| タコ | 77℃ | 4〜5時間 | 長時間で柔らかく |
出典:Douglas Baldwin。魚には細菌を減らす時間の表が無いので、中心が届いたら出します。寄生虫(アニサキス)は低温では減らないので、刺身用か冷凍処理したものを使います(魚)。
牡蠣など二枚貝は低温で減らせません(エビ・貝)。
卵は65℃
| 仕上がり | 湯温(=中心温度) | 総時間 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 温泉卵 | 65℃ | 30〜40分 | 白身はゆるく、黄身はねっとり |
| 黄身を固めに | 68℃ | 30〜50分 | 白身は80分を超えると固まり始める |
| 固ゆで | 75℃ | 45分〜 | 白身のオボアルブミンまで固まる |
出典:Baldwin は64.5℃で45〜60分を「完璧な卵」としています。M玉で中心が湯温に届くまで27〜30分かかるので、表の時間はその到達を含みます。白身は成分ごとに固まる温度が違います(卵)。
残るものは買い方と下処理で減らす
残るものの居場所は食材で違う
おいしい温度で残りうるものは、食材ごとに居場所が違います。減らし方もそこで分かれます。
| 食材 | 残るもの | 減らし方 |
|---|---|---|
| 牛のかたまり | 表面の菌 | かたまりのまま使い、表面を焼く・湯通しする |
| 豚 | E型肝炎ウイルス | 新鮮な国産を選び、レバーと分けて扱う |
| 鶏 | 筋肉の中のカンピロバクター | 新鮮なものを買ってすぐ冷蔵、ドリップを拭く |
| 挽き肉 | 全体に散った菌 | 挽きたてを当日中に使う |
| 魚 | 寄生虫 | 刺身用か、−20℃で24時間以上冷凍したもの |
| 卵 | 殻と中身のサルモネラ | 新鮮なものを冷蔵で |
どの食材でも効くのは、中心温度計で届いたのを確かめること、湯温を一定に保てる機器を使うこと、作ったら食べ切ることの3つです。
安全を優先するなら公表値を使う
子どもや高齢者、妊娠中の人に出すとき、温度計や機器が無いときは、日本の公表値を使います。
| 中心温度 | 届いてからの維持時間 | 出どころ |
|---|---|---|
| 63℃ | 30分 | 食品安全委員会(鶏・牛)・豚の食肉の基準 |
| 65℃ | 15分 | 厚生労働省「食肉の加熱条件に関するQ&A」 |
| 66℃ | 11分 | 同上 |
| 70℃ | 3分 | 同上 |
| 75℃ | 1分 | 大量調理施設衛生管理マニュアル |
5行とも中心温度に達してからの維持時間で、湯の温度ではありません。牛のかたまりも、ローストビーフを含めてこの表を使います。
店のローストビーフの製造基準にある中心55℃97分〜63℃瞬時の9段階は、管理された原料肉に限った営業者向けの条件です。食品安全委員会は令和6年3月5日の更新で、すべての牛肉には当てはまらないとしています(牛のかたまり)。
湯から出したら食べるか冷やすか
菌が増える温度は菌ごとに違うので、「危険温度帯」に単一の定義はありません。調理後すぐ提供しない食品は10℃以下または65℃以上で管理します(危険温度帯は何℃か)。
| 場面 | やること |
|---|---|
| 調理前 | 食材を常温に長く置かない |
| 調理後 | すぐ食べるか、袋のまま氷水で急冷して冷蔵 |
| 温め直し | 一次加熱と同じ湯温で、同じ総時間 |
急冷と保存は低温調理の急冷と保存、温め直しは低温調理の温め直しにあります。
袋の空気は熱のために抜く

空気は水より熱を伝えにくく、空気が残った袋は浮きます。袋の空気を抜くのは、湯の熱を食材に届けるためです。
| 方法 | やり方 |
|---|---|
| 真空パック機 | いちばん確実 |
| 水圧法 | 袋を水に沈め、水圧で空気を押し出して口を閉じる |
| ストロー法 | 袋の口からストローで空気を吸い出す |
酸素を抜いたことは安全の根拠になりません。酸素を嫌うボツリヌス菌にはむしろ有利に働きます(真空パックはなぜ危険か)。
ブライン液に浸けるとさらにしっとりする
塩水がミオシンを溶かして水を抱える網を作る
ブライン液(塩水)に浸けると、塩が肉の中に行き渡り、ミオシンを溶かして網目を作ります。この網が水分を抱えるので、低温調理の後もジューシーさが残ります。鶏むね肉や豚ロースのように、パサつきやすい部位に効きます。
| 材料 | 水1Lに対する量 | 役割 |
|---|---|---|
| 塩 | 30〜50g(3〜5%) | 保水と味付け |
| 砂糖(任意) | 20〜30g | まろやかさと焼き色 |
3%は長時間浸けるとき、5%は短時間で効かせるときの濃度です。10%以上は短時間で強く効きますが、塩辛くなりやすいです。
食材ごとの浸ける時間
| 食材 | 塩の濃度 | 浸ける時間 |
|---|---|---|
| 鶏むね肉 | 3〜5% | 1〜4時間 |
| 鶏もも肉 | 3〜5% | 1〜2時間 |
| 豚ロース | 3〜5% | 2〜4時間 |
| 豚ヒレ | 3% | 1〜2時間 |
| ターキー | 3〜5% | 12〜24時間 |
| 白身魚 | 3% | 15〜30分 |
出典:濃度と時間はブライン液(塩水)への浸漬にまとめた値。食材の厚みで前後します。
| 風味 | 足すもの | 向く食材 |
|---|---|---|
| 和風 | 昆布・酒 | 鶏・豚 |
| 洋風 | 砂糖・ローズマリー・タイム・にんにく | 鶏・豚・ターキー |
| アジア風 | 砂糖・生姜・五香粉 | 豚・鶏 |
浸けたあとは表面の水気を拭き、追加の塩は控えめにします。すぐ調理しないなら冷蔵庫に入れます。
低温調理の手順
準備から仕上げまで
| 段階 | やること | 外すとどうなるか |
|---|---|---|
| 下処理 | パサつく部位はブライン液に浸け、塩・ハーブ・油で下味 | 袋の中では風味が立たない |
| 袋詰め | 袋に入れて空気を抜く。バターを入れてもよい | 袋が浮いて湯に触れない面ができる |
| 予熱 | 容器に水を入れ、機器を狙いの温度に | 湯温が低いうちに入れると到達が遅れる |
| 加熱 | 厚さに合わせた時間を置く。浮くなら皿で押さえる | 厚いほど時間が要る |
| 取り出し | 袋から出して表面の水分を拭く | 濡れたままでは焼き色が付かない |
| 焼き目 | 高温のフライパンかバーナーで1面30秒〜1分 | 長く焼くと中まで火が入る |
| 休ませる | 1〜2分 | 中はすでに均一なので長くは要らない |
焼き目の付け方は焼き目の科学、休ませる理由は余熱調理にあります。
従来の料理を低温調理に置き換える
| 料理 | 従来の方法 | 低温調理での置き換え |
|---|---|---|
| ローストビーフ | オーブンで焼く | 55〜57℃で2〜3時間 → 高温で焼き目 |
| チャーシュー | 煮込む | 65℃で8時間 → 炙る |
| サラダチキン | 茹でる | 58〜60℃で1½〜2¼時間 |
| 煮豚 | 長時間煮る | 65℃で24時間 |
| コンフィ | 油で煮る | 65℃で12時間(油は少量でよい) |
低温調理ならではの料理もあります。65℃の温泉卵、48℃のサーモンミキュイ、58℃の鶏ハムです。
器具は中心温度計が先
必要な機器
| 機器 | 価格帯 | 役割 |
|---|---|---|
| 中心温度計 | 千〜数千円 | 中心が届いたのを確かめる |
| 低温調理器(サーキュレーター) | 1〜3万円 | 水を循環させて湯温を一定に保つ |
| 真空パック機 | 5千〜2万円 | 空気を抜いて密封する |
| 耐熱容器 | ― | 深めの鍋やコンテナ |
買う順番は中心温度計が先です。湯温が完璧でも、中心が届いた時点が分からなければ時間を数え始められません(低温調理は温度計なしで成り立たない)。
| 低温調理器を選ぶ目 | 目安 |
|---|---|
| 温度精度 | ±0.5℃以下 |
| 水流 | 大きな容器でも湯温が揃う |
| 操作性 | Wi-Fi・アプリ連携 |
| 静音性 | 長時間回すので |
代わりになる道具と、ならない道具
| 道具 | 湯温を保てるか | 使えるか |
|---|---|---|
| 鍋+中心温度計 | 手動で調整(難しい) | そばで見ていられるなら |
| クーラーボックスに湯 | 下がっていく | 短時間なら |
| 炊飯器の保温 | 約60〜75℃で上下する | 温度を指定できず、中心も測れない |
炊飯器の保温は各社が「一定の温度ではない」と公表しています。中心温度が届いたかを確かめられないので、低温調理の代わりにはなりません。
よくある失敗と対策
肉が固くなった諦める
- なぜ
- 設定温度が高くアクチンまで変性し、筋繊維が締まって弾力が出ました
- どうする
- 低温では戻りません。煮込みに転用してゼラチン化を狙います
- 次から
- 55〜60℃に設定し、アクチンが変性する温度帯を避けます
焼き色がつかない回復できる
- なぜ
- 袋から出した表面に水分が残り、蒸発に熱が奪われて140℃に届きませんでした
- どうする
- しっかり拭き取り、高温で短時間焼き付けます
- 次から
- 袋から出したら水分を拭き、高温のフライパンで焼きます
袋が浮く回復できる
- なぜ
- 袋の中に空気が残り、浮力で食材が湯面から出て加熱ムラになります
- どうする
- 袋の空気を抜き直すか、重しをのせて沈めます
- 次から
- 水圧法で空気を抜き、必要なら重しを使います
パサついた部分的
- なぜ
- 仕上げの焼き時間が長く、低温で保っていた水分を表面から失いました
- どうする
- ソースを絡めて水分を補います
- 次から
- 仕上げの焼きは表面を色づける最小限の時間に留めます
香りが弱い・飛んだ回復できる
- なぜ
- 袋の中では対流も蒸発も起きないため、下味が足りないと風味が立ちません
- どうする
- 仕上げにソースやハーブオイルを合わせて補います
- 次から
- 袋詰めの時点で塩・ハーブ・オイルを加えておきます
手元の食材でやることは4つ
- 表からおいしい温度を選びます。牛55〜57℃、豚58〜61℃、鶏むね58〜60℃、サーモン43〜49℃、卵65℃です
- 厚さを測り、厚さ別の総時間で湯に入れます。表に無い厚さは中心温度計で届いたのを確かめるか、切り分けます
- 残るものを買い方で減らします。牛はかたまりのまま表面を焼き、豚は新鮮な国産、鶏は買ってすぐ冷蔵、魚は冷凍処理した刺身用です
- 安全を優先するなら公表値を使います。子どもや高齢者に出すとき、温度計や機器が無いときは中心63℃30分・75℃1分です
まずはシンプルな鶏むね肉や卵から試してください。温度と時間で再現できる感覚は、一度作れば身につきます。