本醸造醤油|製法の違い・混合醸造との比較・天然醸造との関係

日本料理

醤油のラベルに書かれている「本醸造」は、JAS規格で定められた3つの製法分類のひとつです。国内生産の約80%が本醸造方式で、麹菌・乳酸菌・酵母による発酵で旨味と香りを引き出します。この記事では、3つの製法の違い、天然醸造との関係、そして本醸造の中での品質差を解説します。

目次

3つの製法の違い

醤油の製法は、JAS規格(日本農林規格)によって本醸造混合醸造混合の3つに分類されています。

項目本醸造混合醸造混合
基本原理微生物の発酵のみ発酵+アミノ酸液添加生揚醤油+アミノ酸液ブレンド
アミノ酸液不使用諸味に添加生揚醤油に添加
国内生産比率約80%約0.6%約14%
主な産地全国-九州・日本海側
特級表示可能原則不可原則不可
香りの複雑さ高い(300種以上)中程度低い

ポイント:スーパーで手に取る醤油の大半は本醸造です。「本醸造」の表示がない場合は混合方式の可能性があるため、ラベルの製法欄を確認する習慣をつけると品質を見分けやすくなります。

本醸造の製造工程

工程の流れ

本醸造方式の醤油は、以下の7つの工程を経て完成します。

工程作業内容条件
1. 原料処理大豆を蒸煮、小麦を焙煎・割砕大豆は高温蒸煮、小麦は180-200°Cで焙煎
2. 製麹蒸煮大豆と焙煎小麦をほぼ等量混合し、種麹を接種30-40°C、約42-45時間(約3日間)
3. 仕込み麹に食塩水を加えて「諸味(もろみ)」とする食塩水濃度 約22-23%
4. 発酵・熟成微生物によるリレー発酵(後述)6-8ヶ月(天然醸造は1-3年)
5. 圧搾諸味を布で包み、圧力をかけて搾る搾った液体を「生揚醤油」と呼ぶ
6. 火入れ加熱して殺菌し、香りを引き出す80-85°C、10-30分
7. 濾過・充填澱(おり)を除去して製品化-

業界には**「一麹、二櫂、三火入れ」**という格言があります。良い麹を造ること(製麹)、諸味をかき混ぜること(櫂入れ)、適切な火入れ――この3つが品質を決定づけるという意味です。

発酵・熟成の段階

本醸造の最大の特徴は、複数の微生物が順番に働くリレー発酵です。

段階主役の微生物働き生成物
第1走者麹菌(A. oryzae / A. sojaeプロテアーゼ、アミラーゼを産生アミノ酸、糖類
第2走者耐塩性乳酸菌(T. halophilus有機酸を産生、環境を酸性に乳酸(pH 4.7-5.0に調整)
第3走者主発酵酵母(Z. rouxiiアルコール発酵アルコール、HEMF
第4走者後熟酵母(Candida属等)味の深化、熟成香の生成複雑な香気成分

第1走者の麹菌がタンパク質をアミノ酸に分解し、デンプンを糖に変えることで、後続の微生物が活動する「舞台」を整えます。乳酸菌がpHを下げて雑菌の繁殖を防ぎ、酵母が安定した環境でアルコール発酵を行うことで、本醸造ならではの複雑な香りが生まれます。

混合醸造・混合とは

混合醸造

混合醸造方式は、本醸造で造った諸味にアミノ酸液を加え、1ヶ月以上熟成させる方法です。

項目詳細
工程本醸造の諸味 + アミノ酸液 → 1ヶ月以上熟成
国内生産比率約0.6%
特徴旨味は強まるが、発酵由来の香りはやや薄まる

混合醸造は諸味の段階でアミノ酸液を加えるため、ある程度の発酵・熟成が続きます。そのため、次に述べる混合方式よりは風味に奥行きがあります。

混合

混合方式は、搾った生揚醤油にアミノ酸液をブレンドし、火入れして製品化する方法です。

項目詳細
工程生揚醤油 + アミノ酸液 → 火入れ → 製品化
国内生産比率約14%
主な産地九州地方、日本海側
特徴旨味が強く甘口。コストが低い

九州の甘口醤油には、この混合方式で造られるものがあります。甘味料やアミノ酸液を加えることで、九州地方で好まれる甘口の味に仕上げています。

アミノ酸液とは

アミノ酸液は、大豆等のタンパク質を塩酸で化学的に分解し、炭酸ナトリウムで中和して造る液体調味料です。

項目アミノ酸液本醸造の諸味
分解方法塩酸(化学分解)麹菌の酵素(生物分解)
製造期間数日〜数週間6ヶ月〜数年
旨味強い(アミノ酸を効率的に生成)強い
香り乏しい(発酵工程がない)非常に豊か(300種以上)
コスト低い高い

天然醸造との関係

「天然醸造」は本醸造の上位概念ではなく、本醸造の中の特別な条件を満たすものに使える表示です。

天然醸造 ⊂ 本醸造 ⊂ 醤油の製法全体

つまり、すべての天然醸造は本醸造ですが、すべての本醸造が天然醸造とは限りません。

天然醸造の条件(JAS表示基準)

天然醸造と表示するには、以下の3つの条件すべてを満たす必要があります。

条件内容具体例
1. 本醸造方式であることアミノ酸液を使用していない大豆・小麦・塩のみで発酵
2. 醸造促進を行っていないこと酵素剤などで発酵を人工的に速めていないセルラーゼ等の酵素を添加しない
3. 食品添加物を使用していないことアルコール、ビタミンB1等を添加していない原材料は大豆・小麦・食塩のみ

天然醸造では、四季の温度変化に任せてゆっくり発酵させるため、熟成に1年以上かかるのが一般的です。木桶仕込み醤油の多くは天然醸造にあたりますが、木桶であっても酵素剤を使えば天然醸造とは名乗れません。

味と風味の違い

基本味の比較

3つの製法で造られた醤油は、それぞれ味のバランスが異なります。

基本味本醸造混合醸造混合
旨味発酵由来の深い旨味旨味強め(アミノ酸液で補強)アミノ酸液由来の直接的な旨味
塩味バランスの取れた塩味やや塩味が立つ製品による
甘味発酵由来の自然な甘み中程度甘味料添加のものも
酸味乳酸菌由来の穏やかな酸味やや弱い弱い
コク・奥行き深い(多段階発酵の成果)中程度浅い

香りの違い

製法ごとの香りの違いは、酵母発酵の有無と程度で決まります。

香り本醸造混合醸造混合
HEMF(甘い香り)豊富(酵母発酵で生成)含むがやや少ないほぼ含まない
エステル類(果実香)豊富中程度少ない
香りの複雑さ300種以上の香気成分やや単調単調
加熱時の香ばしさメイラード反応で豊かに変化中程度やや弱い

料理に使う上で重要なのは、生使用と加熱調理で差が出やすいかどうかです。刺身や冷奴など醤油を生で味わう場合は、本醸造の豊かな香りが際立ちます。一方、煮込み料理や炒め物では加熱によって香りが変化するため、製法による差は小さくなります。

本醸造の中での品質差

「本醸造」であれば均一の品質というわけではありません。同じ本醸造でも、原材料や製造条件によって大きな品質差があります。

要素高品質寄り標準的
大豆丸大豆(油分由来のコク)脱脂加工大豆(すっきりした味)
熟成期間1年以上(熟成醤油6-8ヶ月
仕込み容器木桶(蔵付き微生物の個性)ステンレスタンク(均質な発酵)
温度管理天然醸造(四季の温度変化)温醸(人工的に温度調整)
添加物なし(有機醤油等)アルコール添加(保存性向上)
JAS等級特級・超特選(窒素分1.50以上)標準(窒素分1.20以上)

使い分けの目安

  • 卓上用(刺身、冷奴) → 丸大豆・特級以上の本醸造。香りとコクを生で味わう
  • 煮物・炒め物 → 標準的な本醸造で十分。加熱で香りが変化するため、高級品の優位性は小さい
  • 大量に使う(漬け込み等) → コスパの良い本醸造。品質は「本醸造」であることを確認

まとめ

醤油の製法は、JAS規格で本醸造混合醸造混合の3つに分類されます。

製法特徴国内比率
本醸造微生物の発酵のみ。香り豊かで深い味わい約80%
混合醸造諸味にアミノ酸液を添加約0.6%
混合生揚醤油にアミノ酸液をブレンド約14%

覚えておきたいポイント

  • 本醸造は、麹菌・乳酸菌・酵母のリレー発酵で300種以上の香気成分を生む
  • 天然醸造は本醸造の中でも「醸造促進なし・添加物なし」の条件を満たすもの
  • 混合・混合醸造はアミノ酸液で旨味を補うが、発酵由来の香りは少ない
  • 本醸造の中にも品質差がある。原材料・等級・熟成期間をラベルで確認する
  • 生で味わう料理(刺身・冷奴)には高品質な本醸造を、加熱料理にはコスパの良い本醸造を

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