この記事でわかること
- 医食同源とは
- 毎日の食事で体を養う考え方。穀物を土台に、季節で食材と火を替える
- 穀物はどれくらい食べるか
- 中国の食事指針は1日200〜300g。1食なら炊く前の米で70〜100g
- 季節で何を替えるか
- 夏はきゅうり・冬瓜を生か短い加熱で、冬は羊肉を生姜と80〜95℃で2〜4時間
- クコの実やなつめはどれだけ入れるか
- 鶏のスープ4人分(水1.5L)に乾燥クコ10g・なつめ20g。クコは最後の10分
- 薬と何が違うか
- 『素問』は病を攻めるのは薬、食は養うものと分けている。この記事も効能は扱わない
中華のスープのレシピには、鶏や豚の骨と並んで「クコの実」「なつめ」と書かれていることがあります。冬の羊肉の煮込みには生姜が多く入り、夏にはきゅうりや冬瓜(とうがん)の料理が並びます。どれも味だけでは説明しにくい選び方です。
医食同源(いしょくどうげん)は、毎日の食事で体を養うという中国料理の考え方です。薬膳(やくぜん)は、その考え方で生薬にもなる素材を料理に入れたものを指します。
この記事では、医食同源を食べる人の体の側から見て、献立と鍋の組み方のどこが変わるかを扱います。食材の効能や病気の治療は扱いません。古典自身が、病を攻めるのは薬、食は体を養うもの、と分けているからです。
3つの考え方(五味調和・色香味形・医食同源)が台所のどの場面に効くかの一覧は中国料理の考え方にあります。
医食同源は、穀物・季節・薬膳の素材の量で献立を組むこと
台所で変わるところは3つです。
| 台所ですること | 目安 | 拠り所 |
|---|---|---|
| 穀物を土台にして、ほかの量を割り振る | 穀物は1日200〜300g(炊く前の重さ) | 『素問』の五穀為養、中国の食事指針 |
| 季節で食材と火の入れ方を替える | 夏は涼(冷やすとされる)の食材を生で、冬は温(温めるとされる)を煮る | 食材の寒・涼・平・温・熱の伝統の分類 |
| 薬膳の素材は、味の素材として少なく入れる | 鶏のスープ4人分にクコの実10g・なつめ20g | 食品と薬の両方に使える素材の目録、薬典の1日量 |
出典: 『黄帝内経素問』蔵気法時論、《中国居民膳食指南(2022)》、中国薬典2020年版(記事末尾の参考文献)。
3つとも、何を作るか選ぶ前に、食べる人と季節を見て材料をそろえる段で行います。
『素問』は、穀物で養い、果物・肉・野菜で補うと書いた
中国医学の古典『黄帝内経素問』(こうていだいけいそもん)の蔵気法時論(ぞうきほうじろん)に、食事の組み方を述べた一節があります。
| 句 | 意味 | 台所でいうと |
|---|---|---|
| 毒薬攻邪 | 薬は病を攻める | 病気を治すのは薬の役目 |
| 五穀為養 | 穀物が体を養う | 米・麦・雑穀を食事の土台にする |
| 五果為助 | 果物が助ける | 果物を添える |
| 五畜為益 | 肉が補う | 肉・魚・卵は穀物を補う量にする |
| 五菜為充 | 野菜が満たす | 野菜で皿数とかさを満たす |
出典: 『黄帝内経素問』蔵気法時論篇(記事末尾の参考文献)。句の続きは「気味合而服之(性質と味を合わせて食べる)」です。
一節は薬の句から始まり、穀物・果物・肉・野菜の役目を順に分けています。食べ物は病を攻める側ではなく、穀物を中心に毎日養う側に置かれています。
1日の量は、穀物から割り振る
中国の食事指針《中国居民膳食指南(ちゅうごくきょみんぜんしょくしなん)》2022年版も、穀物を主にした献立を土台にしています。
2016年版の見出しにあった「穀類為主(穀物を主に)」は「食物多様、合理搭配(多くの種類を、組み合わせて)」に改められましたが、穀物を主にする方針は変えていません。
穀物は1日200〜300g、うち全粒穀物と豆を50〜150g
指針の量は、炊く前・調理前の重さです。
| 食品 | 1日の量(g) | 1食あたり(g。1日の量を3で割る) |
|---|---|---|
| 穀物 | 200〜300 | 70〜100 |
| うち全粒穀物と雑豆(ざっとう。小豆・緑豆(りょくとう)など) | 50〜150 | 20〜50 |
| いも類 | 50〜100 | 20〜30 |
出典: 《中国居民膳食指南(2022)》准則一(記事末尾の参考文献)。量は炊く前・調理前の重さです。
米なら1食約70〜100gで、1合(約150g)の半分から3分の2です。米の一部を玄米・雑穀・小豆に置き換えると、表の全粒穀物と雑豆の量になります。
野菜・肉・果物は、穀物のあとに量を割り振る
| 食品 | 1日の量(g) | 1食あたり(g。1日の量を3で割る) |
|---|---|---|
| 野菜(半分は色の濃い野菜) | 300以上 | 100以上 |
| 魚・鶏肉・卵・赤身肉の合計 | 120〜200 | 40〜70 |
| 果物 | 200〜350 | 70〜120 |
出典: 《中国居民膳食指南(2022)》准則三・四(記事末尾の参考文献)。量は調理前の重さです。
魚・肉・卵は合わせて1食40〜70gで、野菜の半分ほどです。肉だけで1皿を作ると、1人分はこの量を超えやすくなります。肉は野菜の炒め物に混ぜ、穀物を食べるための味として使います。
季節で食材を替える。伝統の分類は寒・涼・平・温・熱
中国の伝統では、食材を食べたあとの体の感じ方で、寒(かん)・涼(りょう)・平(へい)・温(おん)・熱(ねつ)の5つに分けます。これは伝統の分類で、栄養学の効能を示すものではありません。
| 分類 | 食材の例 | 台所でよく使う季節 |
|---|---|---|
| 寒・涼 | 蟹・緑豆・苦瓜(にがうり)・豆腐・きゅうり・冬瓜 | 夏 |
| 平 | 米・豚肉・卵・大豆 | 通年の土台 |
| 温・熱 | 鶏肉・なつめ・羊肉・生姜・唐辛子 | 秋・冬 |
出典: 鹿児島大学の薬膳の資料、中国薬典2020年版(記事末尾の参考文献)。
暑い季節は寒・涼の食材を、寒い季節は温・熱の食材を多めにし、平の米・豚肉・卵を一年の土台にします。
寒と涼、温と熱の境目は資料によって割れます。羊肉と生姜は熱とする資料と温とする資料があり、鶏肉は温とも平ともされます。分類を細かく覚えるより、夏は水気の多い野菜を、冬は羊肉と香りの強い薬味を多めにします。
季節で火の入れ方を替え、料理ごとに出す温度を分ける
季節で替えるのは食材だけではありません。出す温度も料理ごとに分けます。古典『周礼(しゅらい)』は、王の食事を管理する医師「食医(しょくい)」の役目として、料理ごとに出す温度を季節にたとえています。
| 料理 | たとえる季節 | 出す温度 |
|---|---|---|
| 飯 | 春 | 温かく |
| 羹(あつもの。汁物) | 夏 | 熱く |
| 醤(ひしお。味噌やたれ) | 秋 | 涼しく |
| 飲み物 | 冬 | 冷たく |
出典: 『周礼』天官・食医(真柳誠 2016 の訓読。記事末尾の参考文献)。
冬は羊肉や生姜を、80〜95℃で2〜4時間煮る
冬は、温・熱の食材の羊肉を、生姜や葱(ねぎ)と一緒に長く煮ます。すねや肩の羊肉は、80〜95℃で2〜4時間煮るとコラーゲンがゼラチンに変わってやわらかくなります(羊肉の火入れ)。肉が骨から離れ、箸で押すと繊維がほぐれたら火を止めます。
煮る前に、沸いた湯に生姜と葱を入れて羊肉を2〜3分ゆで、湯を捨てます(焯水(チャオシュイ))。羊肉の匂いのもとになる脂とアクが、ゆで湯と一緒に出ていきます。
夏はきゅうりや冬瓜を、生か短い加熱で
夏は、涼の食材を生のまま和えるか、短い加熱で仕上げます。きゅうりは叩いて割り、塩で水を出してから酢と和えます。冬瓜は鶏や豚の湯(タン。スープ)で煮て、透き通ったところで火を止めます。
伝統の説明では、火を通すと食材の性質は平の側に寄るとされます。大根は生なら寒、煮ると平に近づき、生姜と煮れば温の料理になるとされます。夏に生で食べる野菜を、冬は煮て食べるのはこの考え方に沿っています。
寒の食材には、温の香味を添える
寒の食材を使うときは、温の生姜や葱を添えます。蒸した蟹を生姜と酢で食べるのがこの組み合わせです。
生姜は伝統の分類で寒を和らげる側に置かれ、台所では蟹や魚の臭みを覆う香りとして入ります。体の側と味の側の両方から、同じ組み合わせが選ばれています。
薬膳の素材は、味で量を見て、薬典の1日量より少なく入れる
中国には、伝統的に食品としても漢方の生薬としても使われてきた素材の目録があります。
2002年の目録は87種で、2025年の時点で106種です。クコの実・なつめ・山芋・生姜も入っています。生薬の名前では枸杞子(くこし)・大棗(たいそう)・山薬(さんやく)です。
クコの実となつめは、4人分の鍋に10〜20g
鶏のスープに入れるときの量です。鶏ガラや骨付きの鶏を煮て、クコの実となつめを加えます。
| 素材 | 味と伝統の分類 | 薬典の1日量 | 4人分のスープ(水1.5L)に | 入れる時 |
|---|---|---|---|---|
| クコの実 | 甘・平 | 6〜12g | 10g(1人2.5g) | 火を止める約10分前 |
| なつめ(乾燥) | 甘・温 | 6〜15g | 20g(1人5g) | 煮始めから |
出典: 中国薬典2020年版一部(記事末尾の参考文献)。入れる時は、中国の家庭のスープのレシピに多い入れ方です。
薬典の1日量は、薬として煎じて飲むときの量で、料理に入れてよい上限を定めたものではありません。料理では甘みと色の素材として使い、1人分がこの下限(クコの実もなつめも6g)を超えない量に収めます。
クコの実は長く煮ると皮が破れて崩れ、汁が濁ります。なつめは果肉の甘みを汁に移すので、煮始めから入れます。
目録に新しく加わった素材は、出す相手を選ぶ
2023年に目録に加わった党参(とうじん)・黄芪(おうぎ)などの9種は、乳児・妊娠中・授乳中の人には勧めないとされています。家族の鍋に入れるときは、食べる人にこの人たちがいるかを先に確かめます。
体調の悪い人や持病のある人に食事で何かを補おうとするときは、素材を足す前に医師に相談します。
五味調和・色香味形は皿の側、食養は食べる人の側
中国料理の考え方のうち、味の合わせ方と一皿の見方は皿の側を見ます。食養は、食べる人の体と季節の側を見ます。
| 考え方 | 見るところ | 台所でやること |
|---|---|---|
| 五味調和 | 口の中の味 | 臭みを除き、塩を土台に、主になる味を1つ選んで重ねる |
| 色香味形 | 一皿全体(目・鼻・口・形) | 配料の色、香りを入れる時点、切る形をそろえる |
| 食養(この記事) | 食べる人の体と季節 | 穀物を土台に、季節で食材と火の入れ方を替える |
同じ蟹に生姜を添える組み合わせも、五味調和では臭みを除く手順になり、食養では寒の食材に温を添える組み方になります。
日本の旬は味で、中国の食養は体で季節の食材を選ぶ
季節の食材を使うのは、どの料理体系も同じです。違うのは、何を基準に選ぶかです。
| 料理体系 | 季節の食材を選ぶ基準 | 台所の形 |
|---|---|---|
| 日本料理 | 同じ食材の味が時期でどう変わるか(旬) | 走り・旬・名残で料理を替える |
| 中国料理 | 食べる人の体と季節(寒・涼・温・熱) | 夏は涼の食材を生か短い加熱で、冬は温の食材を長く煮る |
| 韓国料理 | 体を補う一皿(補身料理) | 夏に鶏となつめのサムゲタンを熱いまま食べる |
日本料理は、かつおの脂やほうれんそうの味の変化を追って季節の食材を選びます。中国料理は、伝統の分類で食材を選び、夏は涼の食材を、冬は温の食材を多めにします。
うまくいかせる条件
| こんなとき | どうする | 理由 |
|---|---|---|
| 肉の皿が主になって、穀物が少ない | 1食の米を炊く前で70〜100gにし、肉を40〜70gに減らして野菜と炒める | 穀物を土台にすると、肉は穀物を食べるための味になる |
| 夏の食卓が冷たい料理だけになる | 飯は温かく、スープは熱く出し、和え物だけを冷やす | 『周礼』は料理ごとに出す温度を分けている |
| 子ども・妊娠中の人と同じ鍋を囲む | クコの実・なつめ・生姜にとどめ、2023年に加わった素材は入れない | 新しく加わった9種は、乳児・妊婦・授乳中の人に勧めないとされる |
よくある失敗と対策
臭みが残った部分的
- なぜ
- 羊肉を下ゆでせずに煮始め、羊脂(ようし。羊の脂)に含まれる分岐脂肪酸が加熱で揮発して、汁に独特の匂いが残りました
- どうする
- 浮いた脂とアクを取り、生姜の薄切りを3〜4枚足して10分煮ます
- 次から
- 沸いた湯に生姜と葱を入れて羊肉を2〜3分ゆで、湯を捨ててから煮始めます
油っぽい・重い回復できる
- なぜ
- 羊肉の脂が汁に溶け出して表面に浮き、口の中で重く残りました
- どうする
- 汁を冷まし、44℃より下で白く固まった脂をすくって除いてから温め直します
- 次から
- 脂身の厚い部分は先に切り取り、煮る前の下ゆでで余分な脂も湯ごと捨てます
煮崩れた部分的
- なぜ
- 乾燥で縮んだクコの実が長く煮るうちに水を吸って膨らみ、熱でやわらかくなった果皮が裂けて、果肉と種が汁に散って濁りました
- どうする
- 崩れた実は汁ごと残し、新しいクコの実を盛る前の数分だけ煮て上にのせます
- 次から
- クコの実は火を止める約10分前に入れます
水っぽい・ゆるい回復できる
- なぜ
- きゅうりを切ってすぐ調味料と和え、塩の浸透圧で細胞の水が引き出されて皿にたまりました
- どうする
- 皿の水を捨て、調味料を半量足して和え直します
- 次から
- きゅうりに重さの2%の塩をまぶして10分置き、出た水を絞ってから、塩を足さずにたれと和えます
医食同源で押さえる4つ
医食同源は、効能を足す料理ではなく、毎日の食事を穀物から組み、季節で食材と火を替える考え方です。
- 穀物を1日200〜300g(炊く前)の土台にし、魚・肉・卵は合わせて1食40〜70gで野菜と組みます
- 夏は涼の食材を生か短い加熱で、冬は羊肉や生姜を80〜95℃で2〜4時間煮ます
- 寒の食材には生姜や葱を添えます
- 鶏のスープ4人分(水1.5L)に、乾燥のクコの実は10g、なつめは20gまでにし、クコは火を止める約10分前に入れます
参考文献
- 『黄帝内経素問』蔵気法時論篇第二十二(「毒藥攻邪,五穀為養,五果為助,五畜為益,五菜為充,氣味合而服之,以補精益氣」)Wikisource 黃帝內經/素問第七卷
- 真柳誠「医食同源の由来:古典籍にみる論理と歴史」漢方と最新治療 25(3), 2016(1972年の造語の経緯、『周礼』食医の飯・羹・醤・飲と季節の対応)
- 上海交通大学公共衛生学院「2022版《中国居民膳食指南》権威科普解読」2022年5月(准則一〜八の推奨量。穀類200〜300g・全穀物と雑豆50〜150g・薯類50〜100g、野菜300g以上、果物200〜350g、魚禽卵赤身肉120〜200g)
ほか6件を見る
- 中国疾病預防控制中心の科普(寧国市衛健委転載、2025年3月)(《中国居民膳食指南(2022)》穀類200〜300g、うち全穀物と雑豆50〜150g)
- 国家衛生健康委員会・国家市場監督管理総局 2024年第4号公告の解読(地黄など4種を食薬物質目録に追加。2002年の87種から、2025年時点で106種)
- ChemLinked「China Updates the Catalogue of Substances Traditionally Considered as Both Food and Chinese Medicine」2023年11月(党参・黄芪など9種の追加。乳児・妊婦・授乳中の人には勧めない)
- 中国薬典2020年版一部「枸杞子」(性: 平、味: 甘、用量6〜12g)西湖大学 ShennongAlpha の転載
- 中国薬典2020年版一部「大棗」(性: 温、味: 甘、用量6〜15g)西湖大学 ShennongAlpha の転載
- 網谷真理恵(鹿児島大学)「鹿児島の食材を使った薬膳料理」(冷える季節は温める食材、熱がこもる季節は冷ます食材。夏: きゅうり・冬瓜・豆腐・白菜、冬: 羊肉・えび・山芋・しょうが・ねぎ)