中国料理の五味調和|五つの味を重ねて一つにする順と止めどころ

中国料理の五味調和|五つの味を重ねて一つにする順と止めどころ

この記事でわかること

五味調和とは
臭みを除き、塩を土台に五つの味を重ねて一つにすること
塩はどれくらい入れるか
料理全体の1%前後、汁物は0.6〜0.8%。ほかの味は塩の上に乗る
どの味を重ねるか
主になる味を1皿に1つ。ほかは角を丸める脇に回す
どこで止めるか
脇の味が「甘い」「酸っぱい」と名指しできたら入れすぎ
和食との違い
和食は除いたあと重ねない。中国料理は重ねて一つにする

麻婆豆腐のレシピには、豆板醤(トウバンジャン)、甜麺醤(テンメンジャン)、醤油、酒、砂糖と、味の違う調味料が5つも6つも並びます。和食の煮物なら、だし・醤油・みりんの3つで済みます。

五味調和(ごみちょうわ)は、甘・酸・苦・辛・鹹(かん。塩辛さ)の5つの味を、どれか1つが飛び出さないように合わせて一つの味にすることです。

台所でやることは、重ねる前に臭みを除き、塩で土台を作り、主になる味を選んで、ほかの味を脇に回すことです。

この記事では、中国料理の五味調和のうち、どの味をどの順で重ね、どこで止めるかを扱います。同じ五味の語は薬膳でも使われ、体調と季節に合わせて食材を選ぶ話になります。そちらは中国料理の医食同源にあります。

色・香り・形まで含めた一皿の見方は中国料理の色香味形にあります。味型ごとの調味料の比率と、碗で先に合わせて最後に入れるやり方は中華の合わせ調味料にあります。

3つの考え方(五味調和・色香味形・医食同源)が台所のどの場面に効くかの一覧は中国料理の考え方にあります。

五味調和は、塩を土台に五つの味を重ねて一つにすること

台所でやることは3つの段に分かれます。

段台所ですること目安の量止めるところ
臭みを除く料酒・生姜・葱をまぶす/沸いた湯にくぐらせる料酒は肉200gに大さじ1〜2臭みが抜けたら先へ。香りは残さなくてよい
塩で素材の味を出す塩を含む調味料を合わせ、足りない分を塩で足す料理全体の1%前後、汁物は0.6〜0.8%出す温度で味見して、素材の味がはっきりしたところ
甘・酸・苦・辛を重ねる主になる味を1つ選び、ほかの味で角を丸める主の味は1皿に1つ脇の味を「甘い」「酸っぱい」と名指しできる手前

出典: 料酒処理、塩味の科学。

3つの段は、2,000年以上前の書物が書いた順と同じです。

『呂氏春秋』は、調和を入れる順と量の話として書いた

『呂氏春秋』(りょししゅんじゅう)は、紀元前3世紀に秦の呂不韋(りょふい)がまとめた書物です。その中の「本味(ほんみ)」の篇が、料理の味を論じています。

本味篇の句意味台所でいうと
滅腥去臊除羶魚の生臭さ、獣の臭み、羊の臭みを消す味を付ける前に臭みを除く
調和之事、必以甘酸苦辛鹹、先後多少調和は甘酸苦辛鹹で行い、入れる順と量で変わる何を入れるかより、いつ・どれだけ入れるか
其斉甚微配合の差はごくわずか順と量が少し違えば別の味になる
鼎中之変、精妙微繊、口弗能言鍋の中の変化は細かく、言葉では言い尽くせない比率で作り、最後は味見で合わせる

出典: 『呂氏春秋』孝行覧・本味(references)。

本味篇は、臭みを消すのは火の強弱だとも書いています。強火で酒を飛ばす、沸いた湯にくぐらせるといった、今の中国料理の下ごしらえと同じ向きです。

先に臭みを除き、塩で素材の味を出す

本味篇の順に従うと、甘や酸を考える前に2つの土台を作ります。

臭みは料酒・生姜・葱と、湯通しで先に除く

肉や魚は、料酒(リャオジウ。紹興酒など料理用の醸造酒)を200gに大さじ1〜2まぶし、生姜と葱をのせて置きます。酒が蒸発するときに臭みの成分を連れて飛び、生姜と葱の香りが残りを覆います(料酒処理)。

骨付き肉や内臓は、生姜・葱・料酒を入れた沸いた湯で2〜3分茹で、浮いたアクと脂を捨てます。この湯通しを焯水(チャオシュイ)と呼びます(焯水)。

甘さや酸味を重ねても、臭みの成分は鍋から出ていきません。料酒が飛ぶときに連れ出すか、湯ごと捨てるかで、味を付ける前に外へ出します。

塩は料理全体の1%前後。ほかの味は塩の上に乗る

中国料理では、塩を「百味の主」と呼びます。甘・酸・辛は、塩で素材の味がはっきりしたところに乗せて初めて一つにまとまります。

人がおいしいと感じやすい塩分は、料理全体で1%前後、汁物で0.6〜0.8%です(塩味の科学)。

中国料理は醤油、豆板醤、オイスターソースと塩を含む調味料を重ねるので、先にこれらを合わせ、足りない分だけを塩で足します。

味見は出す温度で行います。塩味は温かいほど弱く感じるので、熱いうちにちょうどよい味は、冷めると塩辛くなります(温度と味)。

主になる味を1つ選び、ほかの味は脇に回す

塩の土台ができたら、甘・酸・苦・辛を重ねます。全部を同じ強さで入れると、どの味もぼやけます。

一皿に主になる味は1つ(一菜一格、百菜百味)

四川料理には「一菜一格、百菜百味」(一皿に一つの性格、百皿に百の味)という言い回しがあります。四川では、合わせ調味の型を「味型(あじがた)」と呼び、2025年には24の味型が業界団体の標準にまとめられました。

味型の説明は、どの味が主でどの味が脇かで書かれます。

料理の例主になる味脇に回す味
酸辣湯(スワンラータン)酸(土台は塩)辛
宮保鶏丁(ゴンバオジーディン)辛と、塩とうま味甘(後味に残る程度)
麻婆豆腐痺れと辛、塩とうま味甘・酸は目立たせない

出典: 四川料理の味型の解説(references)。酸辣は塩が土台で酸が主・辛が脇、宮保は香ばしい辛さと塩・うま味で後味がわずかに甘い、麻辣は痺れと辛さが厚く塩・うま味と香りがある、と説明されます。

主を1つに絞るのは、脇の味が主の味を引き立てる役に回れるからです。皿ごとに別の味型を並べて献立を組む方法は中華の献立にあります。

甘は酸と辛の角を丸め、塩は甘を引き立てる

味は、隣に置かれた味で強くも弱くもなります(味の相互作用)。

  • 酸や苦に少量の甘を足すと、酸や苦の角がやわらぎます
  • 甘に少量の塩を足すと、甘さがはっきりします
  • 辛に甘と酸を足すと、辛さの刺さる感じが丸くなります

脇の甘や酸は、主の味の角を丸めるために入れるので、それ自体が甘い・酸っぱいと分かる量まで入れません。

味の濃い素材には、さらに重ねない

清代の料理書『随園食単』(ずいえんしょくたん。袁枚、1792年)は、味の濃すぎる素材は単独で使い、ほかと組み合わせないと書いています。挙げているのは鰻・すっぽん・蟹・牛・羊などです。

同じ書は、あっさりしたものはあっさりしたものと、濃いものは濃いものと合わせるとも書いています。蟹を生姜と酢だけで食べるように、素材の味が強いものは、甘・酸・辛を重ねません。重ねるのは、豆腐や鶏むね肉のように素材の味が穏やかなものです。

同じ量でも、入れる時で味の角が変わる

本味篇の「先後」は、入れる順です。同じ量を入れても、いつ入れるかで仕上がりの味が変わります。

何をいつ入れる仕上がりの味
料酒炒め始めに鍋肌から強火でアルコールと臭みが飛び、香りだけが残る
酢(酸を丸くしたい)早めに入れて煮立てる酢酸が飛んで角が取れる
酢(酸を立てたい)火を止める直前酸と香りがそのまま残る
砂糖いつでもよい飛ばないので、早く入れても甘さは残る。煮詰めると焦げやすい
香りの油(ごま油・ねぎ油)盛る直前に小さじ1/2〜1加熱で飛ぶ香りを、表面にのせる

出典: 味の設計、明油。

酸辣湯は、酸を主にする料理なので、酢を火を止める直前に入れます。酢豚のように甘と酸を一緒に煮からめる料理は、酢を早めに入れて煮立て、角を取ってから甘さと合わせます。

止めるのは、その味が前に出すぎる手前

本味篇は、よい味を「〜だが〜ではない」の形で並べています。どの味も、行き過ぎる手前で止まっていることがよいとされます。

本味篇の句意味台所の合図
甘而不噥甘いがくどくない甘さが口に残って次の一口が欲しくなくなる前
酸而不酷酸っぱいが刺さない鼻につんと来る前
辛而不烈辛いが激しすぎない辛さでほかの味が分からなくなる前
澹而不薄あっさりしているが薄くない塩を足すと素材の味がはっきりするなら、まだ薄い
肥而不𦢈脂がのっているが脂っこくない皿に油が溜まらない量

出典: 『呂氏春秋』孝行覧・本味(references)。

脇の味は、名前を言えたら入れすぎです。宮保鶏丁を味見して最初に甘さが来たら、甘が主の味を追い越しています。

味見で迷ったら、一度に1つの味だけを動かします。2つ同時に足すと、味がどちらの調味料で変わったのか分からなくなります。

和食は除いたあと重ねない。中国料理は重ねて一つにする

素材から臭みや余分なものを除く下ごしらえは、日本料理にもあります。違うのは、除いたあとです。

料理体系下ごしらえで除くもの除いたあと
日本料理アク・臭み・余分な脂と水(霜降り・下茹で)比率の決まった地で一度に味を入れ、薬味は食べる直前に添える
中国料理臭み・血・脂(料酒・生姜・葱、焯水)塩の土台に甘・酸・苦・辛を重ね、一つの味にまとめる

出典: 日本料理の引き算、焯水。

和食は素材の味を主役にし、調味を重ねすぎないことで味を作ります。中国料理は、素材の味を塩で出したうえで、ほかの味を重ねて一つの味に作り直します。同じ「除く」から始まり、向かう先が逆です。

うまくいかせる条件

重ねる量は、素材の味の強さと、どの味を主にするかで変わります。

こんなときどうする理由
豆腐・鶏むね肉など素材の味が穏やか甘・酸・辛を重ねてよい重ねた味が素材の味を消さない
蟹・羊・鰻など素材の味が強い生姜と酢くらいで止める重ねると素材の味とぶつかる
醤油・豆板醤・オイスターソースを使う先にそれらを合わせ、足りない分だけ塩を足すどれも塩を含むので、塩を先に入れると塩辛くなる

よくある失敗と対策

味が濃い・塩辛い回復できる
なぜ
醤油・豆板醤・オイスターソースと塩を含む調味料を重ね、それぞれの塩分が足し算になりました
どうする
具か湯を足して全体を薄め、塩を含まない酢か砂糖で角を丸めます
次から
塩を含む調味料を先に合わせ、全体で1%前後になるよう足りない分だけ塩を足します
酸味が強すぎる回復できる
なぜ
酸を主にした料理で、酢を火を止める直前に入れ、酢酸の角が飛ばないまま残りました
どうする
砂糖を小さじ1/2ずつ足して酸の角を丸めるか、もう一度煮立てて酢酸を飛ばします
次から
酸を丸くしたいときは酢を早めに入れて煮立て、立てたいときだけ最後に入れます
辛味が強すぎる部分的
なぜ
辛さを脇に回す料理で豆板醤や唐辛子を主役の量まで入れ、辛さの刺激が舌に残って塩・甘・酸を感じにくくしました
どうする
具を足して薄め、砂糖と酢を少しずつ足して辛さの角を丸めます
次から
どの味を主にするかを先に1つ選び、脇の辛さは後味で分かる量に留めます
味が薄い・ぼやけた回復できる
なぜ
塩が料理全体の1%に届かず、素材の味が立たないまま、足した甘・酸・辛だけがばらばらに出ました
どうする
砂糖や酢を足す前に、塩をひとつまみずつ足して出す温度で味見します
次から
塩を含む調味料と塩で料理全体1%前後の土台を作ってから、甘・酸・辛を重ねます
生臭い部分的
なぜ
臭みを除かないまま味を重ね、生臭さが甘さや酸味と混ざって残りました
どうする
鍋肌から料酒を回し入れて強火で飛ばし、生姜と葱を足します
次から
味を重ねる前に、料酒・生姜・葱か湯通しで臭みを先に除きます

五味調和で押さえる4つ

五味調和は、味を5つ全部入れることではありません。臭みを除いた素材に、塩で土台を作り、主になる味を1つ立てて、ほかの味で角を丸めることです。

  • 臭みは、味を付ける前に料酒・生姜・葱か湯通しで除きます
  • 塩は料理全体の1%前後。塩を含む調味料を先に合わせ、足りない分だけ塩で足します
  • 主になる味は1皿に1つ。脇の味は、名前を言える手前で止めます
  • 味見では、一度に1つの味だけを動かします

素材の味が強いものは、重ねずに止めることも、五味調和のうちです。