日本料理の旬|かつおの脂は春0.5g・秋6.2g。走りと名残で料理を替える

日本料理の旬|かつおの脂は春0.5g・秋6.2g。走りと名残で料理を替える

この記事でわかること

走り・旬・名残とは
同じ食材の出始め・盛り・終わりの呼び分け
初鰹と戻り鰹の脂の差
100g当たり春獲り0.5g、秋獲り6.2g
名残の魚は脂がのるのか
魚ごとに違う。サンマは走りの8月が最も多い
時期で料理をどう替えるか
脂が多ければ塩焼き、少なければたたきと薬味
フランス・中国との違い
仏は走りだけに名前、中国は体に合わせて選ぶ

春に買ったかつおを、秋に覚えたやり方で焼きます。秋は脂がにじんでしっとり焼けたのに、春のかつおは同じ時間でパサつきます。焼き方を変えていないのに、仕上がりが違います。

和食の献立や魚屋の札には、「初鰹(はつがつお)」「戻り鰹(もどりがつお)」「名残の鱧(はも)」のように、同じ食材に時期の名前が付いています。

季節の情緒を表す言葉に見えますが、実際には、同じ食材の味が時期でどれだけ違うかを示す名前でもあります。

走りは出始め、旬は盛り、名残は終わりの時期の呼び名です。この記事では、日本料理が同じ食材を時期で呼び分ける理由と、時期で何が変わり、料理と器をどう替えるか、フランス・中国料理との違いを扱います。

選んだ素材から臭みやアクを除く下ごしらえは日本料理の引き算で、器の何割に盛るかは日本料理の余白で扱っています。旬・引き算・余白の3つが台所のどの場面に効くかは、日本料理の考え方にまとめています。

走り・旬・名残は、同じ食材の出始め・盛り・終わり

旬は、魚介や野菜が最もおいしく、栄養価が高くなる最盛期です。その前の出始めを走り(はしり)、盛りを過ぎた終わりを名残(なごり)と呼びます。

時期いつ野菜魚
走り出始め。季節を先取りするやわらかく、生でもおいしい脂の量は魚で違う。春のかつおは少ない
旬(盛り)最もおいしい最盛期どの調理法も合う脂の量は魚で違う
名残盛りを過ぎた終わり味や甘みが濃くなる脂の量は魚で違う。サンマは減る

出典: 定義は農林水産省、数値は日本食品標準成分表(八訂)と水産海洋研究の論文(参考文献)。

野菜は時期で料理を替えられます。魚は時期の名前ではなく、その時期の脂の量で料理を替えます。

時期で変わるのは、魚の脂と、野菜の水・ビタミンC・えぐみ

同じ食材で時期によって数値が大きく動くのは、魚では脂、野菜では水分とビタミンC、そして掘ってからの時間で増えるえぐみです。

かつおの脂は、春獲り0.5g・秋獲り6.2g

日本食品標準成分表は、かつおを春獲りと秋獲りに分けて載せています。

かつお(生、100g当たり)脂質(g)エネルギー(kcal)
春獲り(初鰹)0.5108
秋獲り(戻り鰹)6.2150

出典: 文部科学省 食品成分データベース。

脂の量は約12倍違います。同じ名前の魚でも、春と秋では別の素材として扱います。

脂がいちばん多い時期は魚ごとに違う。サンマは走りの8月

「名残の魚は脂がのる」とは限りません。脂がいちばん多い時期は、魚ごとに違います。

出典: かつおは成分表、サンマとマサバは谷津ほか(水産海洋研究 2019)。

脂が多い時期(濃い帯)と少ない時期(薄い帯)123456789101112月かつお春 0.5g秋 6.2gサンマ8月が最多冬へ減るマサバ3〜8月 少ない9〜1月 多い
濃い帯ほど脂が多い。かつおの春と秋は成分表の値。かつおの数字は脂質(生100g当たり、成分表)。サンマとマサバは論文が示す傾向で、帯の濃さは量の目安。かつおの帯の月は春獲り・秋獲りの目安。

サンマは、春から夏に北の海で餌を食べて脂を蓄え、秋に南へ下りながらその脂を使います。そのため、出始めの8月がいちばん脂が多く、名残の時期には脂が落ちています。マサバは秋から冬に脂が多く、産卵の時期を過ぎた春から夏は少なくなります。

脂が多い時期は、走り・旬・名残のどこに当たるかではなく、その魚が餌を食べて蓄えたあとか、産卵や長い移動で使ったあとかで決まります。

ほうれんそうのビタミンCは、冬採りが夏採りの3倍

野菜で成分表が季節ごとに値を分けているのは、ほうれんそうです。通年で分析したところ、ビタミンCが冬に高く、夏に低い傾向がはっきり出たためです。

ほうれんそう(葉、生、100g当たり)ビタミンC(mg)
夏採り20
冬採り60
通年平均35

出典: 日本食品標準成分表2020年版(八訂)、農畜産業振興機構「野菜情報」。

寒さに強い野菜は、低温にあたると糖やビタミン類を増やします。ほうれんそうは、前5日間の地温が8℃以下になると根が水を吸わなくなり、糖度が上がり始めます。

冬のほうれんそうが甘いのはこのためで、寒い畑にしばらく置いてから収穫する寒締め(かんじめ)は、この性質を使った作り方です。

キャベツ・たまねぎ・トマトなどは、季節で一定の傾向が無く、成分表は1つの値で載せています。多くの野菜の旬は、成分の数値より、やわらかさとえぐみで見ます。

筍(たけのこ)は、掘ってから時間がたつほどえぐみが強くなる

筍のえぐみのもとは、掘ったあと筍の中で酸化して増えます。掘ってから時間がたつほど、えぐみが強くなります。

掘りたての走りの筍なら、えぐみが少ないうちに食べられます。手に入れたら、その日のうちに皮付きのまま米ぬかを入れた湯でゆでます。

米ぬかはアクを吸わせて取り、酸化を抑えて白くゆで上げます。

えぐみを湯に出して捨てる考え方は、青菜の下ゆでと同じです(日本料理の引き算)。

時期に合わせて料理を替える。脂が多ければ焼き、少なければ生で

時期で脂と水分が変わるなら、料理も替えます。日本料理が同じ食材を時期で呼び分けるのは、時期ごとに合う料理が違うからです。

脂の多い魚は、塩をして焼き、脂を落とす

秋の戻り鰹、8〜9月のサンマ、秋から冬のサバのように脂の多い魚は、塩焼きが合います。重さの1〜2%の塩をして10〜20分おき、表面に出た水を拭いてから焼きます(浸透圧の科学)。旬の魚を主菜にした日の副菜の組み方は日本料理の献立にあります。

網か魚焼きグリルで焼くと、溶けた脂が下に落ち、皮が香ばしく焼けます。脂の多い魚は、中心55〜65℃で身がしっとり残ります。安全を優先するなら、中心60℃で1分か70℃以上です(魚の火入れ)。

脂の少ない初鰹は、表面だけ焼いて薬味で食べる

春のかつおは脂が100g当たり0.5gしかありません。秋のかつおと同じように中まで焼くと、身の水分が抜けてパサつきます。かつおのような赤身は、焼くなら中心50〜60℃で、中はレアでよい魚です。

中を生で残すので、寄生虫への備えとして刺身用として売られているものを選びます。安全を優先して中まで火を通すなら、中心60℃で1分か70℃以上です。

初鰹は、表面だけを強い火で焼いて中を生で残す、たたきにします(炙りの技術)。皮目に焼き色が付き、切ったときに外周の数mmだけ色が変わって中が赤いままなら、焼きすぎていません。脂の少ない身に、焼き目の香ばしさを足します。

藁焼きにした鰹のたたきを厚めに切って並べた皿。皮目は黒く焦げた焼き目で、切り口の外周だけが灰色に火が通り、その内側は深い赤の生の身のまま

生姜・にんにく・ねぎ・大葉を、食べる直前にのせます(薬味)。

走りの野菜は生かさっと、名残の野菜は焼く・煮る

走りの野菜は、やわらかく、生でもおいしく食べられます。春キャベツや新玉ねぎを生のまま和え物やサラダにするのは、このやわらかさを使う食べ方です。

名残の野菜は、味や甘みが濃くなります。秋茄子は焼き茄子や揚げびたしにして、濃くなった味を油や焼き目と合わせます。

走りと名残を、ひと皿で合わせる

時期の重なりを料理にすることもあります。晩夏から初秋にかけて、名残の鱧と走りの松茸を同じ椀に入れる料理は、その代表です。

鱧の脂と松茸の香りが、だしの中で合わさります。過ぎていく季節と来る季節の食材を、1つの椀で一緒に出します。

器とあしらいは、素材と葉の色で季節を替える

日本料理は、季節を食材だけでなく、器とあしらい(料理に添える葉や花)でも見せます。替えるのは、器の素材と色、それに添える葉の色です。

器は、夏はガラスと青磁(せいじ)、冬は厚手の陶器と木

季節器
春華やかな色や形のもの
夏ガラスや青磁などの涼しげな素材
秋実りを思わせる彩りのもの
冬厚手の陶器や木製の、温もりのあるもの

出典: 広島市「和食を支える器」。

器を全部そろえ直す必要はありません。色・素材・形のどれか1つを替えれば、同じ料理でも季節が変わって見えます。

夏の冷たい料理は、ガラスの器を冷蔵庫で冷やしてから盛ります。冬の温かい料理は、厚手の陶器を湯で温めてから盛ると、料理が冷めにくくなります(器を温める理由は日本料理の余白)。ガラスの器に熱い料理を盛るときは、耐熱の表示を確かめます。

あしらいは、青もみじから紅葉へ葉の色で替える

同じ刺身でも、器とあしらいの葉を替えるだけで、皿から伝わる季節が変わります。

同じ鯛の刺身を同じ角度から撮った2コマ。左の夏は透明なガラスの器に盛り、緑の青もみじの葉を添えている。右の秋は黒っぽい厚手の陶器の平皿に盛り、赤い紅葉の葉を添えている。刺身・大根のけん・わさびは同じで、器とあしらいの葉だけが違う

季節器あしらいの葉
春色のある器桜の葉や花
夏ガラス・青磁青もみじ(まだ緑のもみじ)
秋厚手の陶器色づいた紅葉

同じもみじでも、緑の葉なら夏、赤い葉なら秋を指します。走りの食材を出す時期に、器とあしらいも次の季節のものに替えると、料理と器の季節がそろいます。

あしらいの葉は食べるためのものではありません。添える前に水で洗い、水気を拭いてから料理の脇に置きます。

フランスは走りだけを呼び、中国は体に合わせて選ぶ

季節の食材を使うのは、フランス料理も中国料理も同じです。違いは、時期のどこに名前を付けるかと、何を基準に季節の食材を選ぶかです。

料理体系時期の呼び分け季節の食材を選ぶ基準
フランス料理出始めの野菜を primeurs(プリムール)と呼ぶ出始めのやわらかさと新しさ
中国料理(薬膳)食材の性質(体を冷やす・温める)で分ける食べる人の体。暑い季節は熱を冷ます食材、寒い季節は温める食材
日本料理1つの食材の出始め・盛り・終わりを、走り・旬・名残と呼び分けるその時期の食材の味。脂や水分の違いで料理を替える

出典: Réussir、鹿児島大学・JA鹿児島。

フランスの primeurs は、通常の季節より前に売り出される野菜で、にんじんやポロねぎが年の最初に出ます。出始めに名前を付けて売り出す点は、日本の走りと同じです。

終わりの時期を名残のように呼び分ける語は、調べた範囲では見つかりませんでした。

中国の薬膳は、夏はきゅうりや冬瓜(とうがん)のように熱を冷ます食材、冬は体を温める食材を選びます(中華料理の特徴)。基準は食べる人の体の状態です。

日本料理は、同じ食材の終わりの時期にまで名前を付けて、その時期の味に合う料理を出します。季節の食材を選ぶ基準が、食べる人の体ではなく、食材の味の変化にあります。

うまくいかせる条件

時期に合わない食材を使うとき、時期がはっきりしない食材を使うときの扱い方です。

こんなときどうするか理由
脂の落ちた冬前のサンマを焼く塩焼きでよいが、大根おろしとすだちを多めに添える脂の甘さが少ない分、香りと酸味で補う
夏のほうれんそうを使うおひたしより、ごまや油と合わせる料理にする冬採りより甘みとビタミンCが少ない
筍を翌日まで置いてしまった米ぬかでゆでる時間を長めにとり、濃いめに煮る時間とともにえぐみが増えている
冷凍や養殖の魚を使う時期の名前より、切り身の脂の入り方を見て焼くか生かを選ぶ獲れた時期と売られる時期がずれ、脂の量も時期で決まらない
かつおやサバを刺身やたたきにする刺身用として売られているものを選ぶ生の魚の寄生虫への備え(魚の火入れ)

よくある失敗と対策

パサついた諦める
なぜ
脂が100g当たり0.5gしかない春のかつおを中まで焼き、熱で縮んだ身から水分が押し出されました
どうする
薄く切り、薬味とポン酢を多めにかけて食べます
次から
春のかつおは表面だけ焼いて中を生で残すたたきにします
生臭い部分的
なぜ
脂ののった秋冬のサバに塩をせずに焼き、脂に溶けた臭みが身に残りました
どうする
大根おろしとすだちを添え、生姜醤油で食べます
次から
重さの1〜2%の塩をして10〜20分おき、出た水を拭いてから焼きます
油っぽい・重い部分的
なぜ
脂の多い8〜9月のサンマを網にのせずフライパンで焼き、落ちた脂の中で身が揚がりました
どうする
キッチンペーパーで脂を吸わせ、大根おろしを多めに添えます
次から
網か魚焼きグリルで焼き、脂を下へ落とします
苦い・えぐい部分的
なぜ
掘った筍を翌日まで置き、そのあいだに筍の中でえぐみのもとが酸化して増えました
どうする
薄く切り直して米ぬかでゆで直すか、濃いめの煮物にします
次から
手に入れた日のうちに、皮付きのまま米ぬかを入れた湯でゆでます

旬で押さえる4つ

日本料理の走り・旬・名残は、同じ食材の味が時期で変わることを、料理の替え方まで含めて呼び分ける名前です。

  • 時期で大きく動くのは、魚の脂と、野菜の水分・ビタミンC・えぐみです。かつおの脂は春0.5g・秋6.2g、ほうれんそうのビタミンCは夏20mg・冬60mgです
  • 脂がいちばん多い時期は魚ごとに違います。サンマは走りの8月、マサバは9〜1月、かつおは秋です
  • 脂が多ければ塩をして焼いて落とし、少なければたたきや刺身にして香りと薬味で食べます
  • 器は素材と色、あしらいは葉の色で替えます。夏はガラスと青もみじ、秋は厚手の陶器と紅葉です

時期の名前は、その食材をどう料理するかを先に教えてくれます。

参考文献

  1. 農林水産省「四季を感じる料理、旬に対する考え方」(旬・走り・名残の定義。名残の秋茄子は味や甘みが濃くなる)
  2. 農林水産省「『和食』がユネスコ無形文化遺産に登録されています」(和食の4つの特徴: 自然の美しさや季節の移ろいの表現)
  3. 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」食品成分データベース かつお 春獲り 生(脂質0.5g・108kcal)
ほか11件を見る
  1. 同 かつお 秋獲り 生(脂質6.2g・150kcal)
  2. 農畜産業振興機構「野菜情報」2021年8月号(日本食品標準成分表2020年版〔八訂〕ほうれんそう 葉 夏採り・冬採り 生のビタミンC 20mg・60mg)
  3. 文部科学省 日本食品標準成分表 野菜類の説明(ほうれんそうはビタミンCが冬季に高く夏季に低いので夏採り・冬採りを示す。キャベツ・たまねぎ・トマトなどは季節で一定の傾向なし)
  4. 岩手県 平成17年度試験研究成果書「寒締めほうれんそうの作期判定と生育調節技術」(前5日間の地温が8℃以下で糖度が上がり始める)
  5. 谷津明彦ほか「2012–2017年秋季の北日本近海におけるサンマ大型魚の可食部の粗脂肪含量と来遊量の経年変動」水産海洋研究 83(2), 75-86, 2019(脂は初漁期の8月に最も多く、冬に向けて下がる)
  6. 谷津明彦ほか「2012–2017年の道東から鹿島灘にかけての海域で漁獲されたマサバの粗脂肪含量と肥満度の季節変化と経年変動」水産海洋研究 83(1), 19-27, 2019(脂は9〜1月に高く、3〜8月は低い)
  7. 宝酒造 調味料の知識「たけのこのアク抜き」(えぐみはホモゲンチジン酸とシュウ酸塩。収穫から時間が経つほど強くなる)
  8. 広島市 食育資料「和食を支える器」(春は華やかな色や形、夏はガラスや青磁、秋は実りの彩り、冬は厚手の陶器や木製)
  9. サライ「ひと皿の歳時記 元麻布『かんだ』の鱧と松茸」2015(名残の鱧と走りの松茸)
  10. Réussir Fruits & Légumes「Utiliser l'atout fraîcheur pour proposer les légumes primeurs」(primeurs は通常の季節より前に売る野菜。法的な定義はじゃがいもだけ)
  11. 鹿児島大学・JA鹿児島「季節に合わせた薬膳」(冷える季節は温める食材、熱がこもる季節は冷ます食材)