この記事でわかること
- ラムチョップの中心温度
- ミディアムレア54〜58℃。脂身を先に焼き出す
- ラムをかたまりでピンクに仕上げたい
- 低温調理55〜58℃。55℃で厚さ25mmなら2¾時間
- すね・肩をほろほろにしたい
- 80〜95℃で2〜4時間、または55〜58℃で24〜48時間
- 残るリスクの減らし方
- かたまりのまま使い、表面を焼く。挽肉は中心75℃1分
- 安全を優先するなら
- 中心63℃30分、または75℃1分
羊肉は、焼きすぎると臭みが立ってパサつき、冷めると脂が口に残ります。牛と同じ温度で扱えるのに、脂の融点が高いぶん、止めどきと出し方で差が出る肉です。
先に答えを書きます。ラムチョップ・ラックはミディアムレア54〜58℃、かたまりの低温調理は55〜58℃、すね・肩は80〜95℃で2〜4時間です。熱いうちに食べます。
この記事が扱うのは食材別の火入れのうち羊肉です。ラムとマトンの違い、部位ごとのおいしい温度、残るものと減らし方、安全を優先する人の公表値、ラムチョップ・ジンギスカン・煮込みの火入れを1本にまとめます。
羊肉はミディアムレア54〜58℃、低温調理は55〜58℃
加熱法ごとのおいしい中心温度と時間
| 加熱法 | おいしい中心温度と時間 | 止めどきの目安 |
|---|---|---|
| フライパン・グリル(チョップ・ラック) | 54〜58℃。2〜3℃手前で火を止め、3〜10分休ませる | 中心がピンク、指で押すと弾力が戻る |
| 低温調理(ロース・もも) | 55〜58℃。55℃で厚さ25mmなら2¾時間、57℃なら2時間 | 湯温がそのまま中心温度になる |
| 薄切りの強火(ジンギスカン) | 200℃以上の鉄板で片面30秒〜1分 | 色が変わったらすぐ返す |
| 煮込む(すね・肩・バラ) | 80〜95℃で2〜4時間 | フォークでほぐれる |
| 低温調理(すね) | 55〜58℃で24〜48時間 | 赤みを残したままほどける |
出典:低温調理の時間は Douglas Baldwin「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」Table 5.1(牛・豚・羊で同じ表)。冷蔵庫から出した5℃の肉を湯に入れてからの総時間です。
焼き加減ごとの中心温度
| 焼き加減 | 休ませたあとの中心温度(℃) | 断面 |
|---|---|---|
| レア | 50〜54 | 中心が赤く、肉汁が多い |
| ミディアムレア | 54〜58 | 中心がピンク。脂が溶けて肉汁が出る |
| ミディアム | 58〜62 | わずかにピンク。適度な弾力 |
| ミディアムウェル | 62〜65 | ほぼ火が通る |
| ウェルダン | 68以上 | 全体に火が通り、脂の匂いが立つ |
出典:牛の焼き加減(牛肉の火入れ)と同じ区分で、羊脂の融点に合わせて下限を2℃上げています。
羊脂は44〜55℃で溶けます。牛脂(40〜50℃)より高いので、レアの50℃では脂が溶けきらず、脂っぽいだけで旨味が出ません。ミディアムレアの54〜58℃で脂が溶け、66℃からアクチンが縮んで水を押し出します(タンパク質の変性)。
部位ごとに向く料理と温度
| 部位 | 脂とコラーゲン | おいしい中心温度 | 向く料理 |
|---|---|---|---|
| ロース・ラック | 背脂あり、コラーゲン少ない | 54〜58℃ | ラムチョップ、ラムラック、ロースト |
| もも | 脂少〜中、コラーゲン少ない | 54〜60℃、低温調理55〜58℃ | ロースト、ステーキ |
| 肩 | 脂中程度、コラーゲンやや多い | 60℃で止めるか、80〜90℃で煮込む | ロースト、煮込み、ジンギスカン |
| バラ | 脂非常に多い、コラーゲン多い | 80〜95℃で2〜3時間 | 煮込み、スペアリブ |
| すね(シャンク) | コラーゲン非常に多い | 80〜95℃で2〜4時間 | 煮込み、オッソブーコ風 |
出典:温度は「加熱法ごとのおいしい中心温度と時間」の表と同じ値です。
コラーゲンは65℃付近で縮んで肉を硬くし、80℃以上を2時間保つとゼラチンに変わります(コラーゲンのゼラチン化)。すね・バラは66℃を超えてからが本番で、ロース・ももは66℃を超えると終わりです。
残るのは表面の菌、減らすのはかたまりのまま焼くこと
何が残りうるか
| 相手 | どこにいるか | 減る条件 |
|---|---|---|
| 大腸菌・サルモネラ・リステリア | 表面。かたまりの中は無菌に近い | 表面に焼き色が付く温度で死ぬ |
| 挽肉・角切りを刺した串の中の菌 | 加工で表面の菌が中に入っている | 中心75℃で1分、または低温調理で表の時間 |
| トキソプラズマ | 羊の筋肉の中にいることがある | 中心が61℃で瞬時、55℃なら5分 |
出典:厚生労働省「食肉の加熱条件に関するQ&A」、内閣府 食品安全委員会の評価書(トキソプラズマの死滅条件)。
羊は牛と同じで、健康な個体の筋肉の中は無菌に近く、菌は解体のときに表面に付きます。だから、かたまりのまま表面を焼けば中心はピンクでよい肉です。
トキソプラズマは羊に多い寄生虫で、妊娠中の人がはじめて感染すると胎児に影響します。ミディアムレアの54〜58℃でも中心が61℃に届いていないので、妊娠中の人に出す羊は公表値の側で作ります。
減らす手は買い方と扱い方にある
| やること | なぜ効くか |
|---|---|
| かたまりのまま使い、脂身と表面全体を焼く | 菌は表面。焼き色が付く温度で死ぬ |
| 挽肉(キーマ・ケバブ)は中心75℃で1分 | 表面の菌が全体に混ざっている |
| 冷凍の輸入ラムは冷蔵庫で解凍し、ドリップを拭く | 室温解凍は表面で菌が増える |
| 買ってすぐ冷蔵(10℃以下)し、2〜3日で使う | 菌は10℃以上で増える |
| 中心温度計でいちばん厚いところを測る | ラックは骨のきわが遅れる |
羊脂に臭みが集まるので、脂身を落とす人がいます。表面を焼く目的なら、脂身は落とさず先に焼き出すほうが、臭みが香ばしさに変わり、菌も減ります。
安全を優先するなら中心63℃で30分
公表値は中心63℃30分と同等の5組
子どもや高齢者、妊娠中の人に出すとき、温度計が無いときは、公表値を使います。厚生労働省の同等条件は中心温度に達してからの維持時間です。
| 中心温度(℃) | 中心温度に達してからの維持時間 | 仕上がり |
|---|---|---|
| 63 | 30分 | ピンクが残ることがある。繊維の束が太い |
| 65 | 15分 | 繊維の存在感が出る |
| 66 | 11分 | ここから水分が抜ける側に入る |
| 70 | 3分 | しっかり火が通った食感 |
| 75 | 1分 | 中心が白く変わる |
出典:厚生労働省「食肉の加熱条件に関するQ&A」。すべて中心温度に達してからの維持時間で、湯温でも総時間でもありません。
公表値で作るなら、煮込み(80〜95℃で2〜4時間)がいちばん自然です。羊のコラーゲンの多い部位は、公表値を満たす温度でこそおいしくなります。
色では63℃30分を確かめられない
羊肉はミオグロビンが多く、63℃で30分保ってもピンクが残ります。逆に、強火で表面だけ焼いた薄切りは、色が変わっても中心が届いていないことがあります。
色を作るミオグロビンと、菌を減らす温度と時間は別に動きます(肉の色と安全)。
牛・豚・鶏との違いは脂の融点と臭み
ラムとマトンの違い
| 種類 | 月齢 | 風味 | 肉質 | 向く料理 |
|---|---|---|---|---|
| ラム | 12か月未満 | 穏やか。臭みが少ない | 柔らかい | チョップ、ラック、ロースト |
| ホゲット | 12〜24か月 | 中間 | やや締まる | 煮込み、ロースト |
| マトン | 24か月以上 | 強い。羊らしい香り | 締まって硬い | カレー、ケバブ、煮込み |
臭みの正体は脂に含まれる分岐鎖脂肪酸(4-メチルオクタン酸など)で、月齢とともに増えます。脂に集まるので、脂身を落とすか、先に焼き出すかで強さが変わります。
残る相手と脂の融点の比較
| 食材 | おいしい中心温度 | 残るものと減らし方 | 脂の融点 |
|---|---|---|---|
| 羊肉(この記事) | 54〜58℃。低温調理55〜58℃ | 菌は表面。かたまりのまま表面を焼く | 44〜55℃ |
| 牛肉 | 48〜60℃(レア〜ミディアム) | 同上 | 40〜50℃ |
| 豚肉 | 63℃で止める。低温調理58〜61℃ | E型肝炎ウイルスが中に。新鮮な国産を選ぶ | 30〜48℃(部位差大) |
| 鶏肉 | もも70〜75℃。むねの低温調理58〜60℃ | カンピロバクターが筋肉に。新鮮なものを冷蔵で | 30〜32℃ |
出典:脂の融点は脂肪の融点と口どけ。おいしい温度は各食材の記事の値です。
羊脂は体温(36℃前後)では溶けず、冷めると口の中で固まります。ジンギスカンを焼きたてで食べ、ラムチョップを温めた皿で出すのは、この融点のためです。
作りたい料理から選ぶ
| 作りたいもの | 選ぶ肉 | 理由 |
|---|---|---|
| 臭みの少ないピンクのロースト | ラムのラック・ロース | 分岐鎖脂肪酸が少なく、54〜58℃で脂が溶ける |
| 羊らしい香りのカレー・煮込み | マトンの肩・すね | 香りが強く、80℃以上で2時間保つとほどける |
| 短時間で焼く薄切り | ラムの肩・もも | 強火で30秒〜1分、脂を野菜に吸わせる |
| スパイスを効かせた串焼き | 角切りの肩、脂身を混ぜる | クミンが香りを覆い、脂がジューシーさを保つ |
臭みを活かすならマトンに塩とクミン、抑えるならラムをヨーグルトか柑橘で2時間以上マリネして、脂身を先に焼き出します。
ラムチョップ・ジンギスカン・煮込みの火入れ
ラムチョップは脂身を先に焼き出す
| 手順 | やること | 外すとどうなるか |
|---|---|---|
| 1 | 30分室温に戻し、塩・胡椒、ローズマリーを添える | 中心が冷たく焼きムラになる |
| 2 | 強火のフライパンに脂身を下にして立て、2分 | 脂が残り、臭みが立つ |
| 3 | 倒して片面2分、裏返して2分 | 動かすと焼き色が付かない |
| 4 | 火を止めて3分休ませ、中心54〜58℃ | 切ると肉汁が流れる |
ラムラック(骨付きの塊)は全面を焼いてから200℃のオーブンで15〜20分、中心54〜56℃で出して10分休ませます。骨のきわがいちばん遅れるので、そこに温度計を刺します。
ジンギスカンは強火で片面30秒〜1分
| 手順 | やること | 外すとどうなるか |
|---|---|---|
| 1 | 鍋を熱し、中央の山に脂を塗る | 肉が貼り付く |
| 2 | 野菜を周囲に置き、肉を中央に | 野菜に脂が落ちない |
| 3 | 片面30秒〜1分、色が変わったら返す | 焼きすぎて硬くなる |
| 4 | 返してすぐタレに付け、熱いうちに食べる | 冷めると脂が固まる |
薄切りは数十秒で火が通ります。焼いてからタレに付けるのは、タレが先だと焦げて苦くなるからです。
煮込みは85〜90℃で2〜3時間
| 手順 | やること | 外すとどうなるか |
|---|---|---|
| 1 | すねに塩をして30分置き、全面に焼き色を付ける | 香ばしさが出ず、臭みが残る |
| 2 | 野菜・トマト・赤ワイン・水を加える | 酸が無いと臭みが立つ |
| 3 | 85〜90℃を保ち、弱火で2〜3時間 | 沸騰させると繊維が縮んで硬くなる |
| 4 | フォークでほぐれたら止める | 早いとすじが残る |
ローズマリーとタイムを加えると臭みが和らぎます。インドのローガンジョシュはヨーグルトで一晩マリネしてから2〜3時間煮込む、同じ原理の料理です。
よくある失敗と対策
臭みが残った部分的
- なぜ
- 羊脂に含まれる分岐脂肪酸が加熱で揮発し、独特の匂いとして立ちました
- どうする
- 脂を取り除き、クミンやローズマリーで香りを覆い直します
- 次から
- 脂身をトリミングし、ヨーグルトで2時間以上マリネします
脂が口の中で固まる回復できる
- なぜ
- 羊脂の融点は体温より高く、料理が冷めると口の中で再び固まります
- どうする
- 温め直し、温めた皿に盛って提供します
- 次から
- 皿を温めておき、50℃以上を保って提供します
パサついた部分的
- なぜ
- 中心が66℃を超えてアクチンが変性し、縮んだ筋繊維が抱えていた水分を押し出しました
- どうする
- ソースを絡めて水分を補い、薄く切り分けます
- 次から
- 中心58℃までで火を止め、薄切りは数十秒で引き上げます
肉が固くなった回復できる
- なぜ
- コラーゲンの多い部位を短時間で加熱し、ゼラチン化まで進みませんでした
- どうする
- 煮込みに切り替え、2時間以上かけてゼラチン化させます
- 次から
- すね・肩は80〜95℃で2時間以上煮込むか、55〜58℃で24〜48時間の低温調理にします
手元の羊肉でやることは4つ
- ラムチョップ・ラックはミディアムレア54〜58℃です。脂身を先に焼き出し、2〜3℃手前で火を止めて休ませます
- かたまりの低温調理は55〜58℃、すね・肩は80〜95℃で2〜4時間です。55℃で厚さ25mmなら2¾時間です
- かたまりのまま使い、表面全体を焼きます。菌は表面にいて、挽肉と串は中心75℃で1分です
- 安全を優先するなら中心63℃で30分、または75℃で1分です。妊娠中の人に出すときはこちらを使います
羊は、牛と同じ温度で扱える肉です。違うのは脂の融点だけで、熱いうちに食べれば、臭みは香りになります。