ハーブが余ったとき、酢に漬けておくと香りが移ってハーブビネガーになります。
作り方は2つあり、かかる時間が7倍違います。
酢で漬ける2つの中での立ち位置:唯一「加熱で時間を縮められる」
酢で取る漬け込みは2つに分かれます。
| 果実酢 | ハーブビネガー | |
|---|---|---|
| 取れるもの | 果実の酸味・糖・色 | ハーブの香り |
| 飲み頃 | 1〜2日 | 常温1週間/温めて24時間 |
| 引き上げ | 1週間(梅は3週間) | 1〜2週間 |
| 使い方 | 割って飲む・和え物の酸味 | 少量で香りを添える |
ハーブビネガーが果実酢と決定的に違うのは、加熱という近道が使えることです。果実酢を温めれば糖が煮え、色も味も変わってしまいます。ハーブから取りたいのは香気成分だけなので、温めて分子の動きを速めれば、1週間が24時間に縮みます(本記事の主題)。
そしてそれが成立するのは、溶媒が酢だからです。同じ香りの抽出でも、油で取る場合は加熱すると油が酸化し、水で取る場合は腐敗を招きます。酢は酸性で微生物が繁殖しにくく、加熱しても劣化しにくい——だから加熱という手が使えます。
味の設計でいえば、ハーブビネガーは酢の量も味もほとんど変わりません。香りだけが乗った酢です。だから仕上げに少量たらして香りを立てる使い方になります。ドレッシングやマリネの酢をこれに差し替えるだけで、料理の輪郭が変わります。逆に、飲み物にしたい・酸味そのものを足したいなら果実酢の領分です。
作り方は2つある——常温で1週間か、温めて24時間か
| 手順 | 期間 | |
|---|---|---|
| 常温法 | ハーブを瓶に入れ、完全に浸るまで酢を注ぐ。直射日光を避け、時々ゆする | 1週間で香りが立つ/2週間で酢になじんで落ち着く |
| 加熱法 | 鍋に酢を入れて火にかけ、沸騰する直前に火からおろす。ハーブを入れた容器に温めた酢を注ぐ。室温まで冷めたら蓋を閉める | 24時間 |
1週間が24時間になります。
選び方は1点で決まります。すぐ使いたいなら加熱、香りを丁寧に出したいなら常温。
加熱できるのは酢だからできる
同じことを酒ではできません。ハーブ酒は常温で3日〜1か月待つしかありません。
理由は沸点です。エタノールは78.4℃で水より低いので、温めると溶媒そのものが先に飛びます。酢酸は118℃で水より高いので飛びません(沸点の比較は果実酢の記事に整理しました)。
手法として見ると、これは油に香りを移すときの高温注油法とまったく同じです。温めた溶媒を素材にかけて一気に香りを引き出します。
| 溶媒 | 温めてかける手法 | 例 |
|---|---|---|
| 水 | 使える | 湯を注ぐ(茶・だし) |
| 油 | 使える | 高温注油法 |
| 酢 | 使える | 温めた酢を注ぐ |
| 酒 | 使えない | 溶媒が先に飛ぶ |
酒だけが仲間外れです。抽出でどんな手法が使えるかは、溶媒の沸点で決まります。
沸騰させない理由
加熱法の指示は必ず「沸騰する直前に火からおろす」です。沸騰させてはいけません。
香気成分が飛ぶからです。ハーブの香りは揮発性なので、温度が上がるほど失われます。
ここは一見矛盾しています。温めるのは抽出を速めるためなのに、温めすぎると取りたいものが飛びます。
だから「沸騰直前」という上限があります。抽出の速度と香りの保持のつり合いを取る温度帯です。
なお酸そのものは残ります。酢酸の沸点は水より高いので、加熱で失われるのは香りだけです。
1〜2週間でハーブを取り出す——理由は見た目
1〜2週間でハーブを取り出し、酢はこします。
理由は、ハーブを入れたままにすると色が汚くなり、酢が濁るからです。
ここが他の漬け込みと違います。
| 引き上げる理由 | 放置するとどうなるか | |
|---|---|---|
| ハーブ酒 | 味が落ちる | 苦味が出る |
| 果実酢 | 傷む | カビが生える・腐る |
| ハーブビネガー | 見た目が悪くなる | 濁る・色が汚くなる |
同じ「引き上げる」でも、止める理由が味/保存/見た目の3つに分かれます。
見た目が理由なので、判断は他の2つより緩いです。味が落ちるわけでも傷むわけでもないので、すぐ使い切る前提なら多少長くても構いません。ただしこしておくと扱いやすくなります。
保存は冷暗所で1〜2か月です。夏場は劣化が早いので早めに使い切ります。
金属を避ける——酢だけの制約
ふたは金属以外を選びます。酸が金属を腐食させるためです。
これは酢だけの制約で、水・油・酒では起きません。
同じ性質の裏返しでもあります。果実酢の記事で書いたように、酢は酸で溶けるものに届きます。骨のカルシウムが溶けるのもこれです。その力が容器にも働きます。
酢を使う仕込みでは、金属のふた・金属の容器・金属のこし器を避けます。ガラス、樹脂、ホウロウを選びます。
生ハーブと乾燥ハーブ
乾燥ハーブを使った場合は、保存期間がもう少し長くなります。
理由はハーブ酒と同じです。生は水分を持ち込むので、酢の濃度が薄まって守りが弱くなります。
生を使うなら水気を完全に拭きます。ハーブは軽くて浮きやすいので、たっぷり注いで空気に触れさせないようにします。
うまくいかせる条件
常温法と加熱法のどちらを選んでも、次の3つは共通の条件です。外すと、変わるのは日数ではなく仕上がりそのものです。
| 条件 | 内容 | 外すとどうなるか |
|---|---|---|
| 煮沸消毒して乾かした瓶 | 水滴が残っていないこと | 水分と雑菌が入り、濁りと傷みの起点になる |
| ハーブが完全に浸る量の酢 | 空気に触れる部分を作らない | 浮いた部分から色が変わり、傷む |
| 金属以外のふた | ガラス・樹脂・ホウロウ | 酢酸が金属を腐食する |
酢は醸造酢(米酢・穀物酢・ワインビネガーなど)を使います。すし酢のように糖や塩が加えてあるものは、香りを移す土台には向きません。
まとめ:急ぐなら温める、丁寧に出すなら常温
- 常温なら1週間、温めれば24時間。7分の1に縮む
- 加熱できるのは酢だから。酢酸118℃は水より高いので飛ばない。酒(エタノール78.4℃)ではできない
- 手法として油の高温注油法と同じ。温めた溶媒をかける手法は水・油・酢にあり、酒にだけない
- 沸騰させない。温めるのは速めるためだが、上げすぎると香りが飛ぶ。酸は残るが香りは失われる
- 1〜2週間で取り出す。理由は見た目(濁り・色)。ハーブ酒は味、果実酢は保存——引き上げる理由は3種類ある
- ふたは金属以外。酸が金属を腐食する。酢だけの制約
- 乾燥ハーブのほうが長く保つ。生は水分を持ち込んで薄める
酢という溶媒の性格(酸は諸刃・取れたものは効かせる少量になる)は酢で取る抽出の仕組みにまとめてあります。
よくある失敗と対策
変色した・色が悪い部分的
- なぜ
- クロロフィルが酢酸でフェオフィチンに変わり、溶け出して酢を濁らせています
- どうする
- こして葉を除けば濁りは止まります。色は戻りません
- 次から
- 1〜2週間でハーブを引き上げてこし、冷暗所に置きます
香りが弱い・飛んだ部分的
- なぜ
- 酢を沸騰させて、揮発性のテルペン類が蒸気とともに抜けています
- どうする
- 香りは戻りません。ハーブを足して常温で1週間置き直します
- 次から
- 沸騰する直前で火を止め、温めた酢を注いでから室温まで冷まします
錆びた諦める
- なぜ
- 酢酸が金属と反応し、ふたやこし器の表面が溶けて酢に移っています
- どうする
- 金属が溶けた酢は使えません。ガラスか樹脂の容器で仕込み直します
- 次から
- ふた・容器・こし器をガラス・樹脂・ホウロウでそろえます