ハーブ酒は3日で取れる|果実酒と漬け込み期間が桁違いな理由

ハーブ酒は3日で取れる|果実酒と漬け込み期間が桁違いな理由

ハーブを酒に漬けるとリキュールができます。梅酒と同じ「漬けて待つ」作業です。

ところが待つ時間が桁違いに違います。

ハーブ酒と果実酒は漬け込み期間が桁違い

漬け込み期間
ミント系のハーブ3日程度でも十分に味と香りが出る
花とハーブ1か月で完成
梅(果実酒)3か月で飲めて、6か月〜1年の熟成でまろやかになる

同じ「酒に漬けて待つ」なのに桁が2つ違います。しかも上位の解説はどちらも期間を書くだけで、なぜ違うのかを説明していません。

理由は1つです。取りたいものが違います。

なお酒税法の条件(20度以上・混和してはいけない物品・販売禁止)は果実酒の記事にまとめてあります。ハーブ酒にも同じ条件が適用されます。

なぜハーブは速いのか——成分のある場所が違う

取りたいものどこにあるか溶ける性質必要な時間
ハーブ香気成分葉の表面近く脂溶性短い
果実酸味・糖・色素果肉の内部水溶性長い

ハーブの香気成分(テルペン類・アルデヒド類・フェノール類など)は脂溶性で、しかも葉の表面近くに蓄えられています。酒に触れた時点から溶け出すので、内部から引き出す工程が要りません。

果実は違います。酸味や糖は果肉の内部にあり、浸透圧で水分ごと引き出す必要があります。だから氷砂糖をゆっくり溶かして浸透圧を穏やかに上げるという工夫が生まれました。時間がかかるのは工程が1つ多いからです。

度数が高いほど脂溶性側に寄るので、ハーブ酒は度数の高い酒のほうが香りが早く強く出ます。

漬けすぎると落ちる——ハーブは引き上げる技術

ここが果実酒との決定的な違いです。ハーブには山があります。

良い 3日 2〜3週 1か月 3か月 1年 ハーブ 早く立ち上がって山を越える 果実 熟成で上がり続ける 引き上げる ← 苦味が出てくる ハーブは止める判断が要る。果実は置くほど良くなる方向に進む。
ハーブは早く立ち上がって山を越えると落ちる。果実は熟成でゆっくり上がり続ける。

香りが出きったあとも漬け続けると、苦味が出ます。これはハーブだけの話ではなく、レモンなどの柑橘を漬けるときも同じです。

つまり正確な軸は「ハーブか果実か」ではありません。表面に苦味源があるかどうかです。

表面の成分山があるか
ハーブ香気成分を出しきると、そのあとは苦味側に回るある
柑橘の皮同じ(皮に苦味成分がある)ある
梅などの果肉果肉から時間をかけて出るない

だから期間が過ぎたら材料を取り出して別の瓶に移します。漬け始めた日付を貼っておくと管理できます。

濃くしたいならハーブを替える

ここが直感と逆になります。もっと濃くしたいときに、長く漬けてはいけません。

2〜3週間で古いハーブを取り出し、新しいハーブを入れて漬け直します。これで苦味を出さずに香りだけを重ねられます。

日数はあくまで目安です。最後は味見で決めます。その理由が次です。

気温で速度が変わる

気温が高い時期は香りや味の出方が早く、寒い時期は遅くなります。

つまり「3日」は室温が前提の目安です。夏と冬で同じ日数を当てにできません。

これは領域に共通する原理と同じです。温度が「何が出るか」を決め、時間が「どれだけ出るか」を決めます。ただしハーブ酒では温度を操作できないので、室温という与えられた条件のもとで時間を調整します。

加熱すれば速いのに、しない理由

アルコールは加熱すると揮発します。沸点は78.4℃で水より低いので、温めると先に抜けていきます。

酒で臭みを飛ばす技法は、まさにそれを利用しています。揮発するときに臭み成分を巻き込んで一緒に飛ばします。

抽出では逆に困ります。溶媒そのものが失われるので加熱できません。

だから油に香りを移すのとは温度の使い方が正反対になります。

温度時間何が抽出を駆動するか
油加熱する短い温度
酒常温のまま長い時間

同じ脂溶性の香気成分を狙うのに、溶媒によって設計が逆になります。油は加熱して短時間で香りを移せますが、酒は加熱できないので、常温のまま時間をかけて移します。

漬け込み中は1日1〜2回瓶をゆすります。濃度の偏りをなくして均一に抽出させるためです。

生ハーブと乾燥ハーブ

水分度数への影響香りの傾向
生ハーブ多い下がる青さを含んだ香り
乾燥ハーブほぼない下がらない落ち着いた香り

生ハーブは水分を持ち込みます。果実と同じで度数が下がります。

だから生を使うなら水気を完全に拭きます。持ち込む水分を減らすのが要点で、果実酒とまったく同じです。

液面下に保つのも同じです。浮いて空気に触れた部分から傷みます。ハーブは軽くて浮きやすいので、果実よりも注意が要ります。落し蓋のように何かで押さえるか、瓶のサイズを液量に合わせます。

アルコール抽出の中でのハーブ酒の立ち位置:数日で終わる抽出

同じ酒に漬ける技法でも、果実酒とは必要な時間が一桁違います。ハーブは葉や種の表面近くにある精油を溶かすので3日〜1か月で足りますが、果実酒は果肉組織の奥から成分が出るのを待つため3か月〜1年かかります。しかもアルコール抽出は加熱で時間を縮められません。「早く出るものを短く漬ける」のがハーブ酒、「出るのを待つ」のが果実酒という住み分けです。

うまくいかせる条件

ここまでの日数は、次の条件で漬けた場合の値です。条件が外れれば日数も変わります。

条件内容
酒アルコール度数20度以上。酒税法の条件であり、度数が高いほど香りが早く強く出る
ハーブ生は水気を完全に拭いてから入れる。乾燥はそのまま
容器煮沸消毒して乾かした瓶。ハーブが液面下に収まる大きさを選ぶ
置き場所直射日光を避けた室温。加熱も冷却もしない

この4つが揃っていれば、あとは引き上げどきを味見で決めるだけです。

まとめ:止める時期を決めてから漬ける

  • ハーブ酒は3日〜1か月、果実酒は3か月〜1年。桁が違うのは取りたいものが違うから
  • ハーブの香気成分は脂溶性で葉の表面近くにあるので早く出る。果実の酸味と糖は水溶性で果肉の内部にあり、浸透圧で引き出す工程が要る
  • ハーブには山がある。漬けすぎると苦味が出る。柑橘の皮も同じで、軸は「表面に苦味源があるか」
  • 濃くしたいなら長く漬けず、ハーブを替える。溶媒が失われないので素材だけ交換できる。濃度は時間ではなく素材の回数で作る
  • 日数は室温が前提の目安。気温で速度が変わるので最後は味見で決める
  • 加熱できない(アルコールが飛ぶ)ので、常温のまま時間をかけて抽出する。油に香りを移すのとは温度の使い方が正反対
  • 生は水分を持ち込むので度数が下がる。水気を拭き、浮きやすいハーブを液面下に保つ
  • 酒税法の条件は果実酒の記事に。ハーブ酒にも同じ条件が適用されます

加熱できないという制約がどこから来るかは酒で取る抽出の仕組みに整理しました。同じ制約が果実酒にも効いています。

よくある失敗と対策

苦い・えぐい部分的
なぜ
香気成分が出きったあと、葉や茎のタンニン類が遅れて溶け出しています
どうする
苦味は抜けません。新しい酒で割って薄めるか、漬け直します
次から
3日目から味見を始め、香りが立った時点でハーブを引き上げます
香りが弱い・飛んだ回復できる
なぜ
酒の度数が低く、脂溶性のテルペン類が溶け出せずに葉へ残っています
どうする
度数の高い酒に替えて漬け直すか、日数を延ばして様子を見ます
次から
度数の高い酒を選び、1日1〜2回瓶をゆすって濃度の偏りをなくします
カビ・傷みが出た諦める
なぜ
浮いたハーブが液面から出て、空気に触れた部分で微生物が増えています
どうする
傷んだものは戻せません。廃棄して瓶ごと煮沸消毒し直します
次から
瓶の大きさを液量に合わせ、生は水気を拭いてから液面下に沈めます