中華料理のスープには毛湯・清湯・上湯・白湯といった名前があります。多くの解説はこれを箇条書きで横に並べます。
そこが分かりにくさの原因です。この4つは並列ではありません。
湯は「澄ませる階段」と「別系統の白湯」
実際の構造は、澄ませて格を上げていく一本の階段と、そこから外れた白湯です。
| 種類 | 読み | 濁り | 火加減・時間 | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| 毛湯 | マオタン | 少し濁る | 弱火で約3時間 | あらゆる料理の基本 |
| 清湯 | チンタン | 澄んでいる | 弱火 | そのまま飲むスープ・素材の味を活かす料理 |
| 上湯 | シャンタン | 澄んでいる | 弱火 | 高級料理 |
| 白湯 | パイタン | 意図的に白濁 | 強火または長時間 | 濃厚に仕上げたい料理 |
| 二湯 | アールタン | 少し濁る | 弱火 | 二番スープ。惜しまず使う用途 |
階段の段が上がるほど手間と材料費が上がります。どの段を使うかは料理が決めます。
毛湯——すべての土台
毛湯は鶏ガラ・ひねどり(親鳥)・豚背骨に、生姜の皮と白ネギの青い部分を入れて弱火で約3時間煮出します。
用途は「どのような料理にも使う基本」です。炒め物の仕上げ、煮込みのベース、エビチリのような料理に入ります。
技術としてはフォンやブイヨンと同じ位置にあります。骨と香味野菜を弱火で煮出す点はほぼ同じです。
| 香味野菜 | 仕上がりの方向 | |
|---|---|---|
| フォン・ブイヨン(仏) | 玉ねぎ・にんじん・セロリ | 甘みと厚み |
| 毛湯(中) | 生姜・葱 | 香りで肉の匂いを抑える |
違いは香味野菜だけです。ここが料理全体の方向を決めます。
弱火を守る理由もフォンと同じで、沸騰させると脂が乳化して濁るからです。ただし毛湯は澄ませることを目的にしていないので、多少の濁りは許容します。
清湯は挽き肉で澄ませる——コンソメと同じ技法
清湯は挽き肉のタンパク質で澄ませたスープです。
澄む仕組みは肉のタンパク質の凝固作用です。タンパク質が固まる際に、濁りの原因になっている物質を一緒に吸着して連れていきます。
作り方が2つに分かれている
ここで資料が食い違います。
| 方式 | 何から作るか | 澄ませる材料 | 時間 |
|---|---|---|---|
| ① 毛湯を澄ませる | 出来上がった毛湯 | 豚もも肉・鶏胸肉のミンチ | 毛湯の3時間+清澄化 |
| ② 水から取る | 水 | 鶏ひき肉350g・豚赤身ひき肉/水2L | 30分 |
3時間と30分。どちらかが間違っているわけではありません。違うのは、出汁を取る工程と澄ませる工程を分けるか兼ねるかです。
- ①は分ける。先に毛湯で出汁を取り、あとから挽き肉で澄ませる。だから毛湯の時間が別に必要
- ②は兼ねる。挽き肉が出汁の素と濾過材を同時にやる。だから30分で済む
②が短いのは手抜きではなく、挽き肉に二役やらせているからです。
コンソメとの違いは2つだけ
機序はコンソメと同じです。フランスと中国が別々に同じ物理に到達しています。赤身の肉を使う(脂は澄ませる邪魔になる)という制約まで一致します。
違うのは扱い方です。
| コンソメ〔仏〕 | 清湯〔中〕 | |
|---|---|---|
| 澄ませる材料 | 卵白+赤身の挽き肉 | 赤身の挽き肉のみ |
| 凝固物の扱い | 液面に層を作り、触らずに濾過材として使う | 静かに混ぜ、最後に濾して取り除く |
| 共通点 | タンパク質の凝固で濁りを吸着する/赤身を使う | 同じ |
用途は「スープ料理」「素材の味を引き出したい料理」です。そのまま飲める澄んだスープという位置づけもコンソメと同じです。
上湯——旨味を掛け算する最上級
上湯はひねどり・豚もも肉・牛すね肉に、金華ハム・白粒こしょう・陳皮(乾したみかんの皮)を加えて取ります。
特徴は2つあります。
- 動物性の素材を3種類重ねる(鶏・豚・牛)。単一素材では出ない厚みが出ます
- 熟成した乾物を足す。金華ハムはグルタミン酸が濃縮されており、うま味の相乗効果を狙った操作です
陳皮は香りの層を足します。旨味だけでなく香りまで設計しているのが上湯です。
構造として見れば、上湯は清湯の技法に乾物の旨味を上積みしたものです。澄ませる技術は同じで、素材の格が上がっています。
だから家庭で上湯を目指す意味は薄いです。金華ハムは手に入りにくく費用も見合いません。毛湯を丁寧に取るほうが料理は良くなります。
白湯だけ材料が違う——強火は目的ではなく手段
白湯の材料は豚げんこつ・豚足・鶏足(もみじ)・豚背脂・豚網脂です。他の湯とは根本的に違います。
共通点はコラーゲンと脂が極端に多いこと。つまり白湯は火加減の前に材料で決まっています。
白く濁るのは乳化です。骨から出たゼラチンが乳化剤として働き、脂を水の中に細かく散らします。
「強火」と「弱火6時間」はどちらも正しい
ここでも資料が食い違います。
| 出典 | 火加減 |
|---|---|
| 調理師学校の解説 | 「ぐらぐらと強火で炊く」 |
| 業務用レシピ | 「沸騰したら弱火にする。蓋をして6時間」 |
理由はどちらも書いていません。乳化の条件で考えると解けます。
乳化には乳化剤(ゼラチン)と撹拌(対流)の両方が必要です。強火は撹拌を得る手段であって目的ではありません。
材料でゼラチンと脂を十分に稼げば火力は落とせます。豚足・もみじ・背脂を大量に使って6時間かける方式がこれです。材料が軽ければ強火で撹拌を稼ぐしかありません。どちらも同じ条件を別の手段で満たしています。
分量は比率で覚える
業務用の記録では、水10Lに対してゲンコツ4kg・豚足1kg・もみじ1kg・背脂300gで6時間炊き、完成5Lになります。半分まで煮詰まる計算です。
家庭では量が合いませんが、比率は使えます。水の重量に対して骨と皮を6割前後。これが白湯の目安になります。
二湯——中華と和の「取り直し」は向きが逆
二湯は一度取った材料に水を足して取り直す二番スープです。日本の二番だしとまったく同じ発想です。
ただし階段の向きが逆です。
| 一番目 | 取り直し | 階段の向き | |
|---|---|---|---|
| 和のだし | 一番だし(最高) | 二番だし | 下に降りる(薄くなる) |
| 中華の湯 | 毛湯(基本) | 二湯 | 上に積む(毛湯→清湯→上湯) |
和は一番だしを頂点として下に段が続きます。中華は毛湯を土台として上に段を積みます。
まとめ:階段のどこを使うかで決める
- 湯は4種類の並列ではない。毛湯 →(挽き肉で澄ませる)→ 清湯 →(乾物で旨味を足す)→ 上湯という格の階段と、別系統の白湯
- 毛湯は弱火で約3時間。フォンやブイヨンと同じ位置にあり、違うのは香味野菜(生姜と葱)だけ
- 清湯はコンソメと同じ機序。違いは卵白を使わないことと、層にせず濾して取り除くこと。清湯は濾す道具が仕上がりを決める
- 清湯の作り方が3時間と30分に分かれるのは方式の差。挽き肉に出汁と濾過材の二役をやらせれば短くなる
- 上湯は清湯の技法+乾物の上積み。家庭では狙う意味が薄く、毛湯を丁寧に取るほうが効く
- 白湯は材料で決まっている。コラーゲンと脂が極端に多い部位を使う。強火は撹拌を得る手段で、材料が重ければ弱火長時間でも成立する
- 二湯は和の二番だしと同じ発想だが階段の向きが逆。和は薄くなる方向、中華は濃く精製する方向
中華の湯は水で取る出汁の一つで、取り直しの向きが和のだしと逆という特徴があります。仏のフォンとの比較もそちらにあります。