中華スープの種類は4つの並列ではない|毛湯・清湯・上湯は一本の階段

中華料理

中華料理のスープには毛湯・清湯・上湯・白湯といった名前があります。多くの解説はこれを箇条書きで横に並べます。

そこが分かりにくさの原因です。この4つは並列ではありません。

湯は「澄ませる階段」と「別系統の白湯」

実際の構造は、澄ませて格を上げていく一本の階段と、そこから外れた白湯です。

上湯 シャンタン 清湯 チンタン 毛湯 マオタン 白湯 パイタン 二湯 アールタン 挽き肉で澄ませる 乾物で旨味を足す 材料を替えて強火で炊く 水を足して取り直す ← 薄くなる 格が上がる → 澄ませる系は一本の階段。白湯は材料からして別系統で、階段の上下では比べられない。
毛湯を起点に、澄ませると清湯、乾物で旨味を足すと上湯。白湯は材料を替えた別系統。
種類読み濁り火加減・時間用途
毛湯マオタン少し濁る弱火で約3時間あらゆる料理の基本
清湯チンタン澄んでいる弱火そのまま飲むスープ・素材の味を活かす料理
上湯シャンタン澄んでいる弱火高級料理
白湯パイタン意図的に白濁強火または長時間濃厚に仕上げたい料理
二湯アールタン少し濁る弱火二番スープ。惜しまず使う用途

階段の段が上がるほど手間と材料費が上がります。どの段を使うかは料理が決めます。

毛湯——すべての土台

毛湯は鶏ガラ・ひねどり(親鳥)・豚背骨に、生姜の皮と白ネギの青い部分を入れて弱火で約3時間煮出します。

用途は「どのような料理にも使う基本」です。炒め物の仕上げ、煮込みのベース、エビチリのような料理に入ります。

技術としてはフォンブイヨン同じ位置にあります。骨と香味野菜を弱火で煮出す点はほぼ同じです。

香味野菜仕上がりの方向
フォン・ブイヨン(仏)玉ねぎ・にんじん・セロリ甘みと厚み
毛湯(中)生姜・葱香りで肉の匂いを抑える

違いは香味野菜だけです。ここが料理全体の方向を決めます。

弱火を守る理由もフォンと同じで、沸騰させると脂が乳化して濁るからです。ただし毛湯は澄ませることを目的にしていないので、多少の濁りは許容します

清湯は挽き肉で澄ませる——コンソメと同じ技法

清湯は挽き肉のタンパク質で澄ませたスープです。

澄む仕組みは肉のタンパク質の凝固作用です。タンパク質が固まる際に、濁りの原因になっている物質を一緒に吸着して連れていきます。

作り方が2つに分かれている

ここで資料が食い違います。

方式何から作るか澄ませる材料時間
① 毛湯を澄ませる出来上がった毛湯豚もも肉・鶏胸肉のミンチ毛湯の3時間+清澄化
② 水から取る鶏ひき肉350g・豚赤身ひき肉/水2L30分

3時間と30分。どちらかが間違っているわけではありません。違うのは、出汁を取る工程と澄ませる工程を分けるか兼ねるかです。

  • ①は分ける。先に毛湯で出汁を取り、あとから挽き肉で澄ませる。だから毛湯の時間が別に必要
  • ②は兼ねる。挽き肉が出汁の素と濾過材を同時にやる。だから30分で済む

②が短いのは手抜きではなく、挽き肉に二役やらせているからです。

コンソメとの違いは2つだけ

機序はコンソメと同じです。フランスと中国が別々に同じ物理に到達しています。赤身の肉を使う(脂は澄ませる邪魔になる)という制約まで一致します。

違うのは扱い方です。

コンソメ〔仏〕清湯〔中〕
澄ませる材料卵白+赤身の挽き肉赤身の挽き肉のみ
凝固物の扱い液面に層を作り、触らずに濾過材として使う静かに混ぜ、最後に濾して取り除く
共通点タンパク質の凝固で濁りを吸着する/赤身を使う同じ

用途は「スープ料理」「素材の味を引き出したい料理」です。そのまま飲める澄んだスープという位置づけもコンソメと同じです。

上湯——旨味を掛け算する最上級

上湯はひねどり・豚もも肉・牛すね肉に、金華ハム・白粒こしょう・陳皮(乾したみかんの皮)を加えて取ります。

特徴は2つあります。

  1. 動物性の素材を3種類重ねる(鶏・豚・牛)。単一素材では出ない厚みが出ます
  2. 熟成した乾物を足す。金華ハムはグルタミン酸が濃縮されており、うま味の相乗効果を狙った操作です

陳皮は香りの層を足します。旨味だけでなく香りまで設計しているのが上湯です。

構造として見れば、上湯は清湯の技法に乾物の旨味を上積みしたものです。澄ませる技術は同じで、素材の格が上がっています。

だから家庭で上湯を目指す意味は薄いです。金華ハムは手に入りにくく費用も見合いません。毛湯を丁寧に取るほうが料理は良くなります。

白湯だけ材料が違う——強火は目的ではなく手段

白湯の材料は豚げんこつ・豚足・鶏足(もみじ)・豚背脂・豚網脂です。他の湯とは根本的に違います。

共通点はコラーゲンと脂が極端に多いこと。つまり白湯は火加減の前に材料で決まっています。

白く濁るのは乳化です。骨から出たゼラチンが乳化剤として働き、脂を水の中に細かく散らします。

「強火」と「弱火6時間」はどちらも正しい

ここでも資料が食い違います。

出典火加減
調理師学校の解説「ぐらぐらと強火で炊く」
業務用レシピ「沸騰したら弱火にする。蓋をして6時間」

理由はどちらも書いていません。乳化の条件で考えると解けます。

乳化には乳化剤(ゼラチン)と撹拌(対流)の両方が必要です。強火は撹拌を得る手段であって目的ではありません。

撹拌の強さ(火力・対流)→ 乳化剤の量(コラーゲン・脂)→ 材料重め × 弱火で6時間 豚足・もみじ・背脂を大量に使う 材料軽め × 強火 撹拌で足りない分を補う 白濁する 澄んだまま 同じ境界の上側に入れば白濁する。どちらの経路を通るかだけの違い。
乳化剤の量と撹拌の強さは互いを補う。材料でゼラチンを稼げば火力は落とせる。

材料でゼラチンと脂を十分に稼げば火力は落とせます。豚足・もみじ・背脂を大量に使って6時間かける方式がこれです。材料が軽ければ強火で撹拌を稼ぐしかありません。どちらも同じ条件を別の手段で満たしています。

分量は比率で覚える

業務用の記録では、水10Lに対してゲンコツ4kg・豚足1kg・もみじ1kg・背脂300gで6時間炊き、完成5Lになります。半分まで煮詰まる計算です。

家庭では量が合いませんが、比率は使えます。水の重量に対して骨と皮を6割前後。これが白湯の目安になります。

二湯——中華と和の「取り直し」は向きが逆

二湯は一度取った材料に水を足して取り直す二番スープです。日本の二番だしとまったく同じ発想です。

ただし階段の向きが逆です。

一番目取り直し階段の向き
和のだし一番だし(最高)二番だし下に降りる(薄くなる)
中華の湯毛湯(基本)二湯上に積む(毛湯→清湯→上湯)

和は一番だしを頂点として下に段が続きます。中華は毛湯を土台として上に段を積みます。

まとめ:階段のどこを使うかで決める

  • 湯は4種類の並列ではない。毛湯 →(挽き肉で澄ませる)→ 清湯 →(乾物で旨味を足す)→ 上湯という格の階段と、別系統の白湯
  • 毛湯は弱火で約3時間。フォンやブイヨンと同じ位置にあり、違うのは香味野菜(生姜と葱)だけ
  • 清湯はコンソメと同じ機序。違いは卵白を使わないことと、層にせず濾して取り除くこと。清湯は濾す道具が仕上がりを決める
  • 清湯の作り方が3時間と30分に分かれるのは方式の差。挽き肉に出汁と濾過材の二役をやらせれば短くなる
  • 上湯は清湯の技法+乾物の上積み。家庭では狙う意味が薄く、毛湯を丁寧に取るほうが効く
  • 白湯は材料で決まっている。コラーゲンと脂が極端に多い部位を使う。強火は撹拌を得る手段で、材料が重ければ弱火長時間でも成立する
  • 二湯は和の二番だしと同じ発想だが階段の向きが逆。和は薄くなる方向、中華は濃く精製する方向

中華の湯は水で取る出汁の一つで、取り直しの向きが和のだしと逆という特徴があります。仏のフォンとの比較もそちらにあります。