この記事でわかること
- じっくり加熱すると甘く・うまくなるのはなぜ?
- 食材の酵素が40〜75℃で、デンプンや核酸から甘み・うま味を作るから
- 何℃のあたりで増える?
- さつまいも60〜75℃、干し椎茸50〜70℃、トマト50〜60℃、米40〜60℃
- どの食材でもゆっくりがいい?
- 鶏肉のうま味(イノシン酸)は逆で、加熱の前半を速くしたほうが残る
- 温度を上げすぎたら?
- 酵素は80℃あたりで大きく弱る。甘み・うま味を増やせるのは最初の加熱のうち
焼き芋は、石焼きやオーブンでじっくり焼くと甘くなり、電子レンジで一気に温めると甘さが足りない、とよく言われます。干し椎茸のうま味成分も、戻したあと煮るあいだに増えます。同じ食材でも、どう温めたかで味が変わります。
理由は、食材の中にある酵素です。加熱の途中の40〜75℃あたりで、酵素がデンプンを分けて糖にし、核酸(細胞の中にある成分)を分けてうま味成分にします。
温度が上がりきると、酵素は弱って働かなくなります。だから、食材の中がその温度にいる時間が長いほど、甘み・うま味が増えます。
ただし、同じ温度帯でうま味を壊す酵素も働きます。鶏肉のように、加熱の前半を速くしたほうがうま味が残る食材もあります。
この記事では、加熱の途中で酵素が味を増やしたり減らしたりする仕組みと、食材ごとの温度と温め方を扱います。
焼き芋の甘さの仕組みだけを詳しく知りたいときは糊化×酵素の科学に、温度ごとに肉や野菜で何が起きるかの一覧は温度で食材はどう変わるかにあります。
加熱の途中で味が増えるのは、食材の酵素が働くから
味が増える食材と、増える温度です。
| 食材 | 増える味 | 増える成分 | 増える温度(℃) |
|---|---|---|---|
| さつまいも | 甘み | 麦芽糖 | 60〜75 |
| 干し椎茸 | うま味 | グアニル酸 | 50〜70 |
| 栗 | 甘み | 麦芽糖 | 50前後 |
| トマト | うま味 | グアニル酸 | 50〜60 |
| 米 | 甘み | ブドウ糖 | 40〜60 |
出典: さつまいもは中村ほか(2014)と農研機構(2012)、干し椎茸は澤田・遠藤(1990)と澤田ほか(1993)、栗は山﨑・松添(2025)、トマトは安藤・坂口(2015)、米は Kasai ほか(2000)。
酵素は40〜75℃あたりで働き、80℃あたりで弱る
酵素は、食材の成分を分ける働きを持つたんぱく質です。温度が上がるほど速く働きますが、上がりすぎると形が崩れて働けなくなります。これを失活(しっかつ)といいます。
味を作る酵素は、どの食材でもおおむね40〜75℃で働き、80℃のあたりで大きく弱ります。だから、食材の中がこの温度にいる時間が長いほど、甘み・うま味がたくさんできます。
火を強めると、食材の中はこの温度を数分で過ぎてしまい、酵素が働ける時間が短くなります。
デンプンは、ほどけてからでないと分けられない
さつまいもの甘みを作る酵素(β-アミラーゼ)は、デンプンを分けて麦芽糖にします。ただし、生のデンプンは粒が固く、酵素がほとんど分けられません。水を吸ってほどける糊化(こか)が起きてから、はじめて分けられます。
さつまいものデンプンが糊化し始めるのは、60℃あたりからです。酵素は80℃のあたりで大きく弱ります。だから、さつまいもが甘くなるのは、糊化が始まってから酵素が弱るまでの60〜75℃です。
栗は、50℃前後で甘くなる品種が多い
栗も、さつまいもと同じ麦芽糖で甘くなります。ただし、多くの品種で甘みが最も増えるのは50℃前後で、さつまいもより低い温度です。70℃で最も増える品種もあり、品種で違います。
栗の酵素はさつまいもより熱に弱く、デンプンが糊化する70℃前後まで持たないためとみられています。
同じ温度帯で、味を壊す酵素も働いている
食材の中には、うま味成分を作る酵素と、できたうま味成分を分解する酵素の両方があります。どちらも40〜70℃あたりで働くので、途中の温度に長くいるほど増えるとは限りません。
干し椎茸は、うま味を作る酵素と壊す酵素が同時に働く
干し椎茸のうま味成分のグアニル酸は、加熱の途中で、酵素が椎茸の核酸を分けて作ります。
同じ温度帯で、別の酵素ができたグアニル酸を分解します。作る酵素は50〜60℃、壊す酵素は60℃前後で弱り、70℃で両方とも止まります。グアニル酸が増えるのは、作る側が壊す側を上回る50〜70℃です。
鶏肉のうま味は、加熱の前半がゆっくりだと減る
鶏肉のうま味成分のイノシン酸は、加熱で作られるのではなく、もとから肉に入っています。加熱の前半で分解する酵素が働くと、減ります。
加熱のしかたで、仕上がりに残るイノシン酸がこれだけ違います。
| 加熱のしかた | 中心の温度が上がる速さ(℃/分) | 残ったイノシン酸(生を100として) |
|---|---|---|
| 電子レンジ | 約10 | 約65 |
| オーブン | 約2 | 約16 |
| 電子レンジで中心60℃まで温めてからオーブン | 前半だけ約10 | 約50 |
出典: 粟津原ほか(2013)
イノシン酸が減るのは、中心が60℃に届くまでのあいだです。オーブンではそこまでに時間がかかり、そのあいだ分解が続きました。
トマトも、作る反応と壊す反応が同時に進む
トマトを温めると、グアニル酸ができる反応と、グアニル酸が壊れる反応が同時に進みます。差が最も大きくなる50〜60℃で、グアニル酸が最も多く残ります。80℃以上では作られません。
ブロッコリーは、50〜60℃で辛みや苦みのもとが減る
ブロッコリーやクレソンのようなアブラナ科の野菜には、辛みや苦みのもと(グルコシノレート)が入っています。加熱の途中で酵素がこれを分解し、最も減るのは50〜60℃です。
蒸すと、ほとんど減りませんでした。この温度を数分で過ぎたためと考えられています。
食材ごとに、途中の温度にいる時間を長くするか短くするか
甘み・うま味を増やしたい食材は途中の温度にいる時間を長くし、うま味を守りたい鶏肉や、辛み・苦みを残したいブロッコリーは短くします。
| 食材 | その温度にいる時間 | 家庭での手 |
|---|---|---|
| さつまいも | 長く | 150〜160℃のオーブンで60〜90分 |
| 干し椎茸 | 長く | 戻し汁ごと水から中火にかけ、10〜20分で沸かす |
| トマト | 加熱すれば増える | 250℃のオーブンで15分焼く |
| 米 | ふつうに炊けば通る | 浸水してから炊く |
| ブロッコリー | 辛み・苦みのもとを残すなら短く | 蒸す |
| 鶏肉 | 短く | 電子レンジで中心60℃まで温めてから焼く |
出典: 150〜160℃・60〜90分は当サイトの焼き芋の記事と同じ目安。10〜20分は、干し椎茸の論文の昇温の速さ(1分に4〜7℃)を20℃から90℃までに当てはめた時間で、本文の3〜5分も同じ速さを50℃から70℃までに当てはめた時間。
さつまいもは、オーブンで60〜90分かけて焼く
さつまいもは、中が60〜75℃にいる時間を長くします。150〜160℃のオーブンで60〜90分焼くと、中がゆっくり上がります。太いところに竹串がすっと通れば焼き上がりです。焼き方の手順は焼き芋の作り方にあります。
干し椎茸は、戻し汁ごと水から煮る
戻した椎茸は、戻し汁ごと鍋に入れ、水から中火にかけます。研究では、1分に4〜7℃のペースで温度を上げたときにグアニル酸がたまりやすいとされています。
20℃から90℃までなら10〜20分かけて沸かす速さで、煮立った湯に入れると50〜70℃を一瞬で過ぎます。温度計で見るなら、湯が50℃から70℃に上がるまでに3〜5分かけます。
だしとして引くときの温度はだしの科学に、グアニル酸と昆布のグルタミン酸を合わせたときの効果はうま味の相乗効果にあります。
トマトは、焼くと増える
トマトは、生で使うより焼いたほうがうま味が増えます。250℃のオーブンで15分焼くと、どの品種でもグアニル酸が増えました。
米は、浸水と炊きはじめの40〜60℃で甘くなる
米は、炊飯の途中の40〜60℃で、米の酵素がデンプンを分けてブドウ糖を作ります。60℃に届いたころには、甘みのもとは炊き上がりとほぼ同じ量になっています。
浸水しているあいだにも酵素は働き、炊飯中に増える糖の約2割は浸水の分でした。浸水を省くと、この分の甘みが減ります。
鶏肉は、電子レンジで中心60℃まで温めてから焼く
鶏肉は、加熱の前半を速くすると、イノシン酸が多く残ります。電子レンジで中心60℃まで温めてからオーブンで焼くと、オーブンだけで焼いたときの約3倍が残りました。中心の温度は、肉の厚いところに温度計を差して確かめます。
前半を速くしても、仕上げの中心温度は下げません。鶏肉をフライパンやグリルで焼くときは、中心75℃で1分以上が国の示す目安です。部位ごとのおいしい温度は肉の火入れ温度にあります。
よく聞く話は本当か
「電子レンジの焼き芋は甘くならない」
ふつうの品種では、そうなりやすいと考えられています。電子レンジは中が一気に上がるので、60〜75℃にいる時間が短くなるからです。
農研機構が育成した「クイックスイート」のように、糊化する温度がふつうの品種より約20℃低い品種は、電子レンジでも甘くなります。デンプンが低い温度でほどけるので、酵素がまだよく働くうちに分け始められるからです。
「β-アミラーゼは70℃で一番働く」
芋から取り出した酵素が一番働くのは50〜60℃です。芋の中で甘くなるのが60〜75℃なのは、デンプンが糊化するのを待つからです。
「70℃で一番働く」は、芋が甘くなる温度としては外れていませんが、酵素そのものの性質ではありません。
「低温でじっくり加熱すれば、何でもうまくなる」
本当ではありません。鶏肉のイノシン酸は、加熱の前半がゆっくりなほど減ります。
増えるのは、加熱の途中でうま味成分や糖が作られる食材です。さつまいも・栗・干し椎茸・トマト・米がそうで、もとからあるうま味が分解されるだけの鶏肉は逆です。
「玉ねぎをじっくり炒めると甘くなるのも、酵素のはたらき」
酵素ではないと考えられています。玉ねぎは、炒めても甘い糖がほとんど増えません。褐色になるまで炒めると、糖はむしろ減ります。
甘く感じるのは、辛みのもとが熱で消え、水が抜けて糖が濃くなり、組織がやわらかく崩れるからです。くわしくは飴色玉ねぎの科学で扱っています。
出典: 時友・山西(1993)、玉木・鵜飼(2003)
「足りなかった甘みは、あとから低い温度に置けば足せる」
足せないと考えられます。栗では、70℃で30分加熱したあとに40℃で1時間置いても、甘みは増えませんでした。最初の加熱で酵素が弱っていたためとみられています。
出典: 加島ほか(2018)
甘み・うま味を増やすなら、最初に火を入れるときに途中の温度にいる時間を取ります。
甘みとうま味を増やすために押さえること
- さつまいも・干し椎茸・トマト・米は、40〜75℃あたりにいる時間を長くすると甘み・うま味が増えます。栗は多くの品種で50℃前後です
- 鶏肉は逆で、加熱の前半を速くするとうま味が残ります。仕上げの中心温度は下げません
- 酵素は80℃あたりで大きく弱ります。甘み・うま味を増やせるのは最初の加熱のうちです
- 干し椎茸は、砂糖や塩を沸いてから入れます
よくある失敗と対策
甘くならない回復できる
- なぜ
- さつまいもを電子レンジや強火で一気に加熱し、デンプンがほどけてから酵素が弱るまでの60〜75℃にいた時間が短すぎました
- どうする
- 砂糖や蜜を足す料理(スイートポテト・大学芋)に回します
- 次から
- 150〜160℃のオーブンで60〜90分、または石焼きのように中がゆっくり上がる加熱にします
旨味が乗らない回復できる
- なぜ
- 干し椎茸を戻し汁ごと強火にかけ、グアニル酸ができる50〜70℃を数分で通り過ぎました。砂糖や塩を最初から入れると、増える量はさらに減ります
- どうする
- 昆布やかつおのだしを足して、うま味を補います
- 次から
- 戻した椎茸は戻し汁ごと水から中火にかけ、10〜20分かけて沸かします。砂糖や塩は沸いてから入れます
参考文献
- 中村善行・藏之内利和・高田明子・片山健二 (2014) サツマイモを蒸した際のマルトース生成に及ぼす塊根のβ-アミラーゼ活性およびデンプン糊化温度の影響. 日本食品科学工学会誌 61(12):577-585——糊化は通常の品種で70〜75℃から(RVA)、酵素は80℃を超えると大きく低下、糊化温度の低い品種は急な加熱でも甘い
- 中村善行・高田明子・藏之内利和・増田亮一・片山健二 (2014) 日本食品科学工学会誌 61(2):62-69——取り出したβ-アミラーゼの最適は50〜60℃、塊根を25分加熱したあとの活性はベニアズマで70℃まで未加熱と同等、80℃で約1/5
- 農研機構 作物研究所「クイックスイート」(2012)——デンプンの糊化開始はベニアズマ58.5℃、クイックスイート37.4℃
ほか11件を見る
- 澤田崇子・遠藤金次 (1990) 日本家政学会誌 41(5):407-411——シイタケのうま味を作る酵素は50〜60℃、分解する酵素は60℃前後で失活し70℃で完全に失活、5'-ヌクレオチドは50〜70℃で増える
- 澤田崇子・舘郁代・遠藤金次 (1993) 日本家政学会誌 44(9):747-752——干ししいたけの加熱で5'-ヌクレオチドが蓄積しやすい昇温速度(4〜7℃/分)、ショ糖・食塩で蓄積が減る
- 安藤聡・坂口林香 (2015) トマトの加熱調理によるグアニル酸生成およびその品種間差. 日本食品科学工学会誌 62(8):417-421——砕いたトマトでは蓄積が50〜60℃で最大、80℃以上で生成なし、250℃のオーブン15分で11品種すべて増加
- Kasai, M. ほか (2000) 日本家政学会誌 51(7):579-585——炊飯中の還元糖は40〜60℃で最も増え、主にブドウ糖。浸漬による増加は総増加の22%
- 粟津原元子・田中佐知・早瀬明子・香西みどり (2013) 加熱速度の異なる調理方法による鶏肉のうまみ成分の変化. 日本調理科学会誌 46(3):188-195——イノシン酸の残存は電子レンジ約65%、オーブン約16%、60℃まで電子レンジで上げる組み合わせで約50%
- 加島隆洋・水谷恵梨・今泉茂巳 (2018) 熟成技術によるクリ新品種の商品展開(第3報). 岐阜県産業技術センター研究報告 No.12——70℃30分のあとに40℃60分置いてもマルトースは増えなかった
- 山﨑陽・松添直隆 (2025) 異なる温度での蒸し加熱による栗の糖含量の品種間差異. 美味技術学会誌 24(1):12-20——50〜90℃で1時間蒸すと、多くの品種で麦芽糖は50℃で最も増え、70℃では増えにくい
- 長田早苗・青柳康夫 (2016) アブラナ科野菜の加熱によるグルコシノレート含有量の変化. 日本調理科学会誌 49(1):7-18——グルコシノレートは酵素が活発な50〜60℃で最も減り、蒸し・真空調理では減らなかった
- 時友裕紀子・山西貞 (1993) 加熱タマネギの甘いフレーバーについて. 日本家政学会誌 44(5):347——遊離糖は加熱で変わらないか減り、新たに生まれない
- 玉木雅子・鵜飼光子 (2003) 長時間炒めたタマネギの味, 香り, 遊離糖, 色の変化. 日本家政学会誌 54(1):69-76——褐色まで炒めると遊離糖が減る
- 食品安全委員会「食品安全」48号——鶏肉のカンピロバクター、中心部75℃以上1分間以上