老抽(ラオチョウ)|成分・製法・着色効果と煮込み料理への応用

中華料理

老抽(ラオチョウ)は、中国醤油の着色用醤油です。生抽(シェンチョウ)を基に追加熟成し、カラメルを添加することで、濃い黒褐色ととろみのある質感を持たせた醤油で、煮込み料理の照り出しや炒飯の色付けに欠かせません。

中国醤油の体系では、味は生抽、色は老抽という原則があり、老抽は「色と照りのための醤油」として位置づけられています。本記事では、老抽の成分・製法・着色メカニズムから、紅焼肉や炒飯での具体的な使い方、生抽との使い分け、日本のたまり醤油との比較まで、老抽を徹底的に解説します。

目次

基本情報

項目詳細
中国語老抽(lǎo chōu)
読み方ラオチョウ(普通話)、ロウチャウ(広東語)
濃い黒褐色(ほぼ黒色)
塩分濃度約14-16%
質感とろみあり(カラメルと濃縮による)
カラメル添加あり(焦がした黒砂糖・糖蜜)
主な用途着色:煮込み(紅焼)・炒飯・蒸し物・マリネ
生抽との関係生抽を追加熟成+カラメル添加で製造
代表産地広東省、香港、台湾
代表ブランド李錦記(老抽王)、海天(草菇老抽)、珠江橋

成分と特徴

生抽より低い塩分濃度

老抽の塩分濃度は約14-16%で、生抽の15-18%と比較して低めに設定されています。これは老抽の設計思想に基づくものです。

醤油塩分濃度主な役割
生抽15-18%調味(塩味・旨味)
老抽14-16%着色(色・照り)
日本の濃口醤油約16%万能(調味+着色)

老抽は料理に色を付けるために使うものです。色を濃くしたいときに多めに加えても、塩辛くなりすぎない設計になっています。生抽で味を決めた後、老抽で色を足すという中華料理の使い方において、この塩分差は合理的です。

カラメルによる甘みと苦味

老抽の最も顕著な特徴は、カラメル(焦がした黒砂糖・糖蜜)の添加です。このカラメルが老抽に独特の甘み・苦味・濃い色を与えます。

カラメルの添加量と種類

項目詳細
添加量全体の約20-30%
種類Class III カラメル色素(アンモニアカラメル)
原料黒砂糖、糖蜜
効果着色力、粘度向上、甘苦い風味

Class III カラメル色素(アンモニアカラメル)は、高塩分溶液中でも安定した着色力を発揮するため、醤油への添加に適しています。一般的なカラメルは塩分に弱く沈殿しやすいですが、アンモニアカラメルは塩分15%前後の環境でも均一に溶解し、長期間安定します。

味わいのプロファイル

  • 甘み:カラメル由来のまろやかな甘さ。砂糖のような直接的な甘さではなく、焦がした糖の深い甘みです
  • 苦味:カラメル化反応で生成される苦味成分。煮込み料理に複雑な味の層を加えます
  • 旨味:生抽由来のアミノ酸を含みますが、カラメルで希釈されるため、生抽ほど強くありません

とろみのある質感

老抽は生抽と比べて明らかにとろみがあります。これはカラメルの添加と濃縮工程によるものです。

とろみの要因

要因メカニズム
カラメル添加高分子カラメル色素が粘度を上げる
濃縮工程水分を飛ばすことで固形分濃度が増す
追加熟成長期間の熟成でメラノイジンが増加

このとろみは、料理における老抽の役割を支えています。食材の表面をコーティングし、光沢のある照りを生み出します。広東料理では見た目の美しさが非常に重視されるため、この照り(光沢)効果は老抽の最も重要な機能の1つです。

製法

生抽からの製造工程

老抽は、すでに完成した生抽を原料として、さらに加工を施す醤油です。

工程詳細期間目的
1. 生抽の準備完成した生抽を基材として使用-旨味とアミノ酸の基盤
2. 追加熟成生抽をさらに発酵・熟成させる2-3ヶ月以上色の深みと風味の円熟
3. カラメル添加Class IIIアンモニアカラメルを加える-着色力と粘度の付与
4. 糖蜜添加糖蜜を加えて甘みと色の深みを追加-甘みのプロファイル形成
5. 濃縮水分を飛ばしてとろみを出す数日粘度と色素濃度の向上
6. 火入れ・濾過・瓶詰め加熱殺菌、澱の除去、製品化-品質安定と製品化

カラメルの添加量は製品によって異なりますが、一般的に全体の20-30%がカラメル由来の成分です。高級品(老抽王)ほどカラメルの質が高く、雑味のない均一な着色が得られます。

着色のメカニズム

老抽が料理に色と照りを与えるメカニズムは、複数の化学反応の組み合わせです。

反応メカニズム色素老抽における寄与度
カラメル化糖を加熱→高分子色素ポリマーカラメル色素約60-70%(主要因)
メイラード反応アミノ酸+還元糖→褐色ポリマーメラノイジン約20-25%
酸化フェノール化合物の酸化酸化フェノール約5-10%

カラメル化による色素が老抽の着色力の主体です。メイラード反応由来のメラノイジンも寄与しますが、カラメル添加による直接的な着色が最も大きな割合を占めます。

最適な使い方

煮込み料理(紅焼)

紅焼(ホンシャオ)は、老抽の最も代表的な使い方です。「紅」は赤褐色、「焼」は加熱調理を意味し、老抽による美しい赤褐色の照りが料理名の由来になっています。

紅焼肉(豚の角煮)での使い方

紅焼肉は老抽の効果が最も分かりやすい料理です。生抽で味の基盤を作り、老抽で色と照りを加えます。

段階使う醤油量(4人分)タイミング効果
味の基盤生抽大さじ3煮込み開始時塩味と旨味の基盤
色と照り老抽大さじ1煮込み中盤(開始30分後)赤褐色の照り
味の微調整生抽小さじ1-2仕上げ前塩味の最終調整

なぜ煮込み中盤に加えるのか:煮込み開始時に加えると、長時間加熱でカラメルが分解し、苦味が強くなります。中盤(開始30分後)に加えることで、色は十分に浸透しつつ、苦味を抑えられます。

その他の紅焼料理

料理老抽の量(4人分)生抽との比率ポイント
紅焼肉大さじ1生抽3:老抽1煮込み中盤に投入
紅焼魚小さじ2生抽4:老抽1魚は色が付きやすいため少なめ
醤爆鶏大さじ1生抽2:老抽1鶏肉は色を濃くして照りを出す
紅焼排骨(スペアリブ)大さじ1生抽3:老抽1骨付き肉は色の浸透に時間がかかる

炒飯

炒飯に老抽を加えると、美しい琥珀色に仕上がります。ただし、量の加減が重要です。

使い方のポイント

  • 使用量:小さじ1-2(4人分)。これ以上は黒っぽくなります
  • 加えるタイミング:ご飯を炒めた後、仕上げの段階で
  • 手順:老抽を鍋肌から回し入れ、素早く全体を混ぜ合わせる(5-10秒以内)
  • 注意:加えすぎると黒く、また甘みが目立ちます。少量から調整してください
炒飯の種類老抽の量(4人分)併用する調味料仕上がりの色
揚州炒飯小さじ1生抽 大さじ1淡い琥珀色
福建炒飯小さじ1.5生抽 大さじ1 + オイスターソースやや濃い琥珀色
醤油炒飯(シンプル)小さじ2生抽 大さじ1.5はっきりした褐色

蒸し物の仕上げ

蒸し物では、老抽は蒸した後のかけダレや、蒸す前のコーティングとして使います。

料理使う醤油使い方量の目安
蒸し鶏生抽 + 老抽少量タレとして混ぜて添える生抽大さじ2 + 老抽小さじ1
粉蒸肉老抽蒸す前に肉にコーティング大さじ1
蒸し魚蒸魚醤油(老抽不使用)蒸し上がりにかける大さじ2-3

蒸し鶏では、生抽をベースに少量の老抽を混ぜることで、薄い褐色のタレになり、白い鶏肉に上品な色が加わります。粉蒸肉では、蒸す前に豚肉を老抽でコーティングし、蒸し上がりに深い赤褐色を出します。

下味(マリネ)

老抽は肉のマリネにも使います。ローストや焼き物の前に塗ることで、加熱時に美しい色が出ます。

代表的な使い方

料理老抽の使い方効果
叉焼(チャーシュー)蜂蜜・老抽・五香粉でマリネ大さじ2あの特徴的な赤褐色
焼鴨(ローストダック)老抽を表面に塗ってからロースト大さじ2-3パリッとした皮の美しい色
焼鵝(ローストグース)老抽 + 蜂蜜で表面をコーティング大さじ2-3飴色の照り
豚バラの下味老抽に30分漬ける大さじ1焼き上がりの色付け

叉焼の特徴的な赤褐色は、老抽のカラメルが加熱時にメイラード反応を起こし、さらに蜂蜜の糖分がカラメル化することで生まれます。

生抽との使い分け

比較表

項目老抽生抽
主目的着色・照り調味(塩味・旨味)
濃い黒褐色(ほぼ黒色)薄い赤褐色
塩分14-16%15-18%
甘みあり(カラメル由来)ほぼなし
苦味あり(カラメル由来)ほぼなし
粘度とろみありサラサラ
旨味の強さ中程度(カラメルで希釈)強い(アミノ酸が豊富)
加えるタイミング仕上げ or 煮込み中盤調味段階(序盤〜中盤)
使用量少量(色が濃いため)メインの量
単独使用まれ(通常は生抽と併用)可能(つけダレなど)

使い分けの原則

基本ルール:味は生抽、色は老抽

この原則を理解すれば、ほとんどの中華料理で正しく使い分けることができます。

料理タイプ生抽の役割老抽の役割比率の目安
炒め物味付けのメイン仕上げの色付け生抽3-4:老抽1
煮込み(紅焼)塩味と旨味の基盤色と照り生抽3:老抽1
つけダレメイン不使用生抽のみ
冷菜メイン不使用生抽のみ
マリネ(下味)味付け色付け用途により変動

つけダレや冷菜に老抽を使わない理由:老抽のカラメルの甘みと苦味は、加熱調理で他の風味と調和しますが、非加熱のタレでは甘みや苦みが目立ちすぎます。つけダレや冷菜には、すっきりした旨味の生抽のみを使います。

日本のたまり醤油との比較

老抽と日本のたまり醤油は、見た目(濃い色、とろみ)が似ていますが、本質的に異なる醤油です。

比較表

項目老抽たまり醤油
黒褐色(ほぼ黒色)濃い赤褐色
着色の仕組みカラメル添加(人工的着色)自然な長期発酵(メラノイジン)
甘みあり(カラメル由来)わずか(天然由来)
旨味中程度最強クラス(窒素分1.5-2.0%)
粘度とろみありとろみあり
原料大豆+小麦+カラメル大豆主体(小麦少量 or なし)
製法生抽+追加熟成+カラメル大豆麹の長期熟成(1-3年)
塩分14-16%約16%
主用途着色(煮込み・炒飯)刺身・寿司・照り焼き
単独使用まれ(生抽と併用)可能(つけ醤油として)
グルテンフリー通常は小麦含有小麦なしの製品あり

本質的な違い

  • たまり醤油は「旨味の醤油」です。大豆を主体とした1-3年の長期発酵で、濃厚なアミノ酸が凝縮されます。色の濃さは長期発酵の副産物であり、着色が目的ではありません
  • 老抽は「着色の醤油」です。カラメルを添加して人工的に色を濃くしており、旨味よりも色と照りの効果が主目的です

相互に代用できるか

用途老抽→たまりで代用たまり→老抽で代用
煮込みの色付け△ たまりは色が薄く、着色力が不足-
照り焼き○ たまりは照り焼きに最適△ 老抽は甘みが目立つ
刺身のつけ醤油-× 老抽はカラメルの甘苦味が不適
炒飯の色付け△ たまりは色が淡い-

基本的に、老抽とたまり醤油は代用関係にはありません。それぞれの醤油文化で異なる目的に最適化されているためです。

派生品

草菇老抽

草菇老抽(ツァオグーラオチョウ)は、乾燥藁茸(ワラタケ)のエキスを加えた老抽です。

項目詳細
ベース老抽
添加物乾燥藁茸(ワラタケ)エキス
効果旨味成分の増強、より豊かな風味
代表製品海天 草菇老抽
用途煮込み料理、高級な炒め物

通常の老抽に藁茸の旨味が加わることで、着色だけでなく風味も豊かになります。煮込み料理で使うと、より深いコクのある仕上がりになります。藁茸にはグアニル酸(キノコ特有の旨味成分)が含まれており、生抽のグルタミン酸と組み合わさることで、旨味の相乗効果が生まれます。

草菇老抽は、通常の老抽と同じ比率で使用できます。特に紅焼肉や鶏の煮込みなど、じっくり煮込む料理で効果を発揮します。

老抽王

老抽王(ラオチョウワン)は、老抽の高級品(プレミアムグレード)です。

項目通常の老抽老抽王
カラメルの質標準的高品質(雑味が少ない)
着色の均一性やや不均一なことも均一で美しい
苦味やや強いことも控えめでマイルド
価格標準的やや高価
用途日常の煮込み・炒飯高級料理、おもてなし

選び方のポイント

ラベルのチェック項目

チェック項目良い老抽避けるべき老抽
原材料大豆、小麦、食塩、カラメル大量の添加物、アミノ酸液
カラメルの種類焦糖色(カラメル色素)のみ合成着色料を含む
粘度瓶を傾けてゆっくり流れる水のようにサラサラ
濃い黒褐色、光に透かすと赤みあり真っ黒で赤みなし
等級表示老抽王、特級の表示あり表示なし

初心者へのおすすめ:李錦記の老抽王がバランスの良い選択です。カラメルの質が良く、苦味が控えめで、着色力も十分です。日本では中華食材店やAmazonで入手できます。

見分け方の実践テスト

老抽の品質は、以下の簡単なテストで確認できます。

1. 傾けテスト(粘度確認)

  • 瓶を45度に傾けて元に戻す
  • 良い老抽:内壁にゆっくりと膜が流れ落ちる(5秒以上かかる)
  • 品質の低い老抽:水のように素早く流れ落ちる

2. 透かしテスト(色の確認)

  • 小さじ1杯を白い皿に垂らし、光に透かす
  • 良い老抽:濃い赤褐色に透ける
  • 品質の低い老抽:真っ黒で赤みが全く見えない

3. 味見テスト(風味確認)

  • 少量を舐めてみる
  • 良い老抽:まろやかな甘み → 軽い苦味 → 醤油の風味
  • 品質の低い老抽:強い苦味が先行し、甘みがない

容量の選び方

使用頻度おすすめ容量理由
週1-2回使用500ml3ヶ月以内に使い切れる
月1-2回使用250ml開封後の劣化を防ぐ
初めて試す150-250ml味の確認用、無駄なく使える

保存方法

開封前

  • 保存場所:冷暗所(直射日光を避ける)
  • 保存期間:製造日から1-2年(賞味期限を確認)
  • 注意点:高温多湿を避ける

開封後

  • 保存場所:冷蔵庫
  • 保存期間:2-3ヶ月以内に使い切る
  • 注意点
    • 密閉して保存(空気との接触を最小限に)
    • カラメルは酸化しやすく、風味の劣化が早い
    • 色が変わらなくても、香りが飛んでいることがある

まとめ

老抽は、中国醤油の着色用醤油として、煮込み料理・炒飯・蒸し物に美しい色と照りを与えます。

重要なポイント

1. 成分と特徴

  • 塩分14-16%(生抽より低い)
  • カラメル添加により、甘み・苦み・濃い色・とろみ
  • 着色と照り出しに特化した設計

2. 使い方の原則

  • 味は生抽、色は老抽が基本
  • 煮込み:生抽3:老抽1が基本比率
  • 炒飯:小さじ1-2(4人分)、入れすぎに注意
  • つけダレ・冷菜には不使用

3. 代表的な使い方

  • 紅焼肉:煮込み中盤に加えて赤褐色の照り
  • 炒飯:仕上げに少量で琥珀色
  • 叉焼:マリネで特徴的な赤褐色
  • 蒸し物:生抽と合わせたタレ or 蒸し前のコーティング

4. たまり醤油との違い

  • 老抽はカラメル添加の着色醤油、たまりは長期発酵の旨味醤油
  • 見た目は似ているが、成分と用途が異なる
  • 相互の代用は基本的に不可

5. 選び方と保存

  • 老抽王(プレミアム品)がおすすめ
  • 開封後は冷蔵庫で2-3ヶ月以内に使い切る

老抽は少量で料理の見た目を劇的に変える調味料です。まずは紅焼肉や炒飯で、生抽との使い分けを実践してみましょう。

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