果実酒はホワイトリカー以外でも作れる|20度以上の条件と酒の選び方

梅酒はホワイトリカーで作るものだと思われています。実際にはブランデーでもウイスキーでも作れます。

ただし**守らなければならない条件があり、それは法律で決まっています。**そこから確認します。

漬ける酒の条件は「20度以上」——これは法律

果実を酒に漬ける行為は、酒税法上新たに酒類を製造したものとみなされます。ただし例外規定があり、条件を満たせば製造行為として扱われません。

国税庁が示す条件は4つです。

条件内容
目的消費者が自分で飲むため
度数アルコール分20度以上のもの
課税酒税が課税済みのものに限る
販売販売してはならない

さらに、混和してはいけない物品が定められています。

分類対象
穀類・でん粉米、麦、あわ、とうもろこし、こうりゃん、きび、ひえ若しくはでん粉又はこれらのこうじ
果実ぶどう(やまぶどうを含む)
添加物アミノ酸若しくはその塩類、ビタミン類、核酸分解物若しくはその塩類、有機酸若しくはその塩類、無機塩類、色素、香料又は酒類のかす

根拠法令は酒税法第7条・第43条第11項、同法施行令第50条、同法施行規則第13条第3項です。

ここから2つの実用的な帰結が出ます。

**ぶどうは漬けられません。**自家製のぶどう酒は作れず、シャインマスカットなどを酒に漬ける行為も該当します。

ワインでは漬けられません。一般的なワインは20度未満だからです。同じ理由で日本酒も多くが15度前後なので、使うなら20度以上のもの(原酒など)を選ぶ必要があります。

度数が決めるのは「何が溶けるか」

20度以上という条件は法律の話ですが、度数には抽出上の意味もあります。

酒は水とアルコールの混合物です。だから水溶性の成分と脂溶性の成分を両方溶かせます。

水溶性だけ 水溶性と脂溶性の両方 脂溶性だけ 水溶性 酸味・糖・色素・うま味 脂溶性 香気成分・辛味成分 ↑ 酒だけが両方にかかる
酒は水とアルコールの混合物なので、水溶性と脂溶性の両方を溶かせる唯一の溶媒になる。

これが水で取る場合との決定的な違いです。香辛料やハーブの香気成分(テルペン類・アルデヒド類・フェノール類など)の多くは脂溶性で、水にはほとんど溶けません。だから油で香りを移す技法が成り立ちます。

酒はその中間に立ちます。水では取れない香りと、油では取れない酸味や糖を、一度に取れます。

そして度数が上がるほど脂溶性側に寄ります。

度数の帯よく出るもの仕上がりの傾向
20〜25度水溶性が主(酸味・糖・色素)果実の味の輪郭が出る。ただし薄まる余裕が少ない
35度前後水溶性+脂溶性の香り標準。味と香りが両方出る
40度以上脂溶性の香気成分がよく出る香りが強く立つ。酒自身の風味も乗りやすい

つまり度数の選択は「何を取りたいか」の選択です。香りを立てたいなら高め、酸味と甘みの輪郭を出したいなら低め。ただし20度は下回れません。

ホワイトリカーが基準になる理由

ホワイトリカーは酒税法上の焼酎甲類です。廃糖蜜を発酵させ、連続式蒸留器で得たエタノールに加水して36度未満にしたものを指します。

蒸留風味
乙類(本格焼酎)一度の蒸留原料の風味が残る
甲類(ホワイトリカー)連続で蒸留を繰り返す癖がなくすっきりする

蒸留を繰り返すほど不純物が落ちるので、ホワイトリカーは風味を持たないように作られた酒です。「無味無臭といわれるほど癖がない」と言われるのはこのためで、果実の風味を殺しません

設計として見ると、ホワイトリカーは溶媒として純粋であることに価値があります。果実の香りだけを取り出したいときの標準です。

売られているのが35度前後なのも理由があります。果実の水分で薄まる分の余裕を見ているからです(後述します)。

基本の配合と手順は後半で扱います。砂糖の結晶サイズと溶解速度の関係そのものは氷砂糖の記事に詳しくあります。

酒を変えると何が変わるか

度数の目安酒自身の風味仕上がり向く果実
ホワイトリカー35度前後ほぼない果実の香りがそのまま立つ梅・レモン・ゆずなど繊細な香り
ブランデー40〜50度が多い樽香とほのかな甘み果実の香りに樽の香りが重なる梅・あんず・いちじくなど濃い果実
ウイスキー40度前後樽とスモークの香り酒の個性が強く出る柑橘・りんご
ウォッカ40度以上薄いホワイトリカーに近いが度数が高い香りを強く取りたい果実
日本酒多くが15度前後米の甘みと旨味そのままでは条件を満たさない。20度以上のものを選ぶ柑橘など

判断の軸は1つです。果実の香りを主役にするならホワイトリカー、酒の香りと重ねて別の風味を作るならブランデーやウイスキー。

上位の解説は他の酒について「癖が出る」と書きます。しかし癖は欠点ではなく設計の選択です。ブランデー梅酒がわざわざ作られているのは、その重なりを狙っているからです。

基本の配合と手順

梅酒を例に取ります。

材料分量役割
青梅1kg風味の元
氷砂糖500〜800g甘味付け、浸透圧によるエキス抽出
ホワイトリカー(35度)1.8L抽出媒体、保存性の確保

手順の要点は5つです。

  1. 青梅は水洗い後、水気を完全に拭き取る(水分が残ると雑菌繁殖の原因になる)
  2. 竹串でヘタを取り除く
  3. 広口瓶に梅と氷砂糖を交互に層状に入れる
  4. ホワイトリカーを注ぐ
  5. 冷暗所で保存。3か月で飲めるが、6か月〜1年熟成させると風味がまろやかになる

砂糖の量で仕上がりが変わります。

氷砂糖の量(梅1kgに対し)甘味向いている飲み方
500g控えめロック、ソーダ割り
600〜700g標準オールラウンド
800gしっかりストレート、お湯割り

果実の水分で度数は下がる

漬けたときの度数は、**仕込み時より下がります。**果実の大半は水分で、それが酒に移って薄まるからです。

だから35度前後で仕込むのは理にかなっています。20度ちょうどで仕込むと、薄まって条件を割る可能性があります。

度数が下がると雑菌が繁殖できる余地が生まれます。これがカビや濁りの原因です。失敗の主因は3つに絞れます。

原因何が起きるか
果実の水気が残っていた仕込み時点で薄まる。雑菌も持ち込む
度数の低い酒を使った保存性が足りない
果実に対して酒が少なすぎた果実が液面から出る

対策は1つに集約されます。**果実が完全に液面下にあること。**浮いて空気に触れた部分からカビます。

濁りについては見分けが必要です。果肉が崩れた濁りは害がありませんが、表面に膜が張る・異臭がするのは別です。前者は単なる懸濁で、乳化でも腐敗でもありません。

まとめ:法律の枠の中で酒を選ぶ

  • 条件は20度以上・課税済み・自分で飲むため・販売しない。根拠は酒税法第7条ほか
  • ぶどうは漬けられません。禁止リストは「加えると醸造になってしまうもの」を並べている。ワインや通常の日本酒では漬けられない(20度未満)
  • 度数は「何が溶けるか」を決める。酒は水溶性と脂溶性を両方溶かせる唯一の溶媒で、度数が上がるほど香りの成分側に寄る
  • ホワイトリカーは風味を持たないように作られた酒(甲類=連続式蒸留)。果実の香りを主役にするための標準
  • 酒を変えるのは癖を足す設計。ブランデーやウイスキーは酒の香りを重ねたいときに選ぶ
  • 果実の水分で度数は下がる。35度前後で仕込むのは余裕を見ているため。要点は果実を液面下に保つこと
  • 梅1kgに氷砂糖500〜800g、ホワイトリカー1.8Lが基本。砂糖の量で甘味と飲み方が変わる。氷砂糖を使うのはゆっくり溶けて浸透圧の急変を防ぐため

酒を溶媒として使うときの全体像(両方溶かせるが加熱できないというトレードオフ)は酒で取る抽出の仕組みにあります。