この記事でわかること
- 渋味に専用の受容体がなく、触覚に近い感覚である理由
- 沈殿が始まる濃度と、渋いと感じる濃度が一致する実測
- 柿の脱渋でタンニンが減っていないこと
- タンニン由来の渋味と、酸による渋味で打ち手が変わること
濃く出しすぎた緑茶、若い赤ワイン、まだ渋の抜けきらない柿。口の中がキュッと縮んで、舌も歯茎もざらつく。あの感覚を「苦い」と呼んでいる人は多いのですが、苦味とはまったく別の仕組みで起きています。
この記事が扱うのは、料理の科学の⑥「人がどう感じるか」の群のうち、専用の受容体を持たず、口の中で起きる物理的な変化として感じるものとしての渋味です。
味覚の記事群の中での立ち位置:2つ目の「味覚ではない」もの
受容体を持つものと、持たないもの
この群には、すでに「味覚ではないもの」が2つあります。辛味(痛覚)とコク(受容体はあるが固有の味がない)です。渋味はそのどちらとも違う理由で、基本味の外にいます。
| 感覚 | 何が受容体を叩くか | どう感じているか |
|---|---|---|
| 甘味 | 糖(T1R2/T1R3) | 味覚 |
| 塩味 | ナトリウムイオン(ENaC) | 味覚 |
| 酸味 | 水素イオン(OTOP1) | 味覚 |
| 苦味 | 多様な化合物(T2R 約25種) | 味覚 |
| うま味 | アミノ酸・核酸(T1R1/T1R3) | 味覚 |
| 辛味 | カプサイシンなど(TRPV1=痛覚の受容体) | 痛覚・温度感覚 |
| コク | γ-グルタミルペプチドなど(CaSR) | 他の味の出方が変わる |
| 渋味(この記事) | 専用の受容体は無い | 口の中の上皮への直接の刺激 |
北畠直文の研究報告書はこう書いています。「苦味が T2Rs を受容体とする化学感覚であるのに対して、渋味は、特定の受容体を介さず、渋味物質が直接口腔内上皮を刺激して、味を感じているとされている」。
英語での表現を並べると、何を感じているかがはっきりします。puckering(すぼまる)、shrinking(縮む)、drying(乾く)、roughness(ざらつき)。どれも口の中の物理的な状態で、味の質を表す言葉がひとつもありません。
苦味と渋味は、同じ飲み物で同時に起きる
混同されるのには理由があります。茶にもワインにも苦味物質と渋味物質の両方が入っているからです。苦味の科学がカテキン・タンニンを「渋みを伴う苦味」として挙げているのは、2つの別々の感覚が同時に起きているためです。
| 苦味 | 渋味 | |
|---|---|---|
| 受容体 | T2R(約25種) | 無い |
| どこで感じるか | 舌の味細胞 | 舌・歯茎・頬の粘膜全体 |
| 消え方 | 口をすすげば流れる | 唾液が戻るまで残る |
| 抑え方 | 甘味・塩味・脂質 | 別のタンパク質、または量を減らす |
この違いは実務に効きます。甘味を足して消えるなら苦味、口の中のざらつきが残るなら渋味です。抑え方が別なので、最初に見分ける価値があります。
渋味の正体は、口の中で起きる沈殿
タンニンが唾液タンパク質を沈殿させる
唾液には、タンニンと結びつきやすいタンパク質が含まれています。タンニンが口に入るとこのタンパク質と結んで水に溶けない固まりを作り、口の中の滑りを保っていた唾液が働かなくなります。粘膜が乾き、ざらつき、舌が引きつる。これが収れん感の正体です。
沈殿が始まる濃度と、渋いと感じる濃度が一致する
沈殿の量と感覚の強さは、実測で対応しています。
| 測ったもの | 値(タンニン酸の濃度) |
|---|---|
| 何らかの味刺激を感じ始める濃度 | 0.15 mg/mL |
| 渋味として感じる閾値 | 0.30 mg/mL(1 mM) |
| 唾液の37 kDaのタンパク質が上澄みから消える濃度 | 0.20 mg/mL |
| そのタンパク質の沈殿量が最大になる濃度 | 0.26 mg/mL |
| 官能試験で渋味を感じた濃度 | 0.27 mg/mL 以上 |
出典: 北畠直文「食物・食品の渋みの機構解析と評価」科学研究費助成事業 研究成果報告書 25350111(2013-2018)。唾液は採唾器で採取した耳下腺唾液、タンパク質の分析はSDS電気泳動による
消えた37 kDaのタンパク質は、塩基性プロリンリッチタンパク質と判断されました。タンニン酸はこのタンパク質を狙い撃ちするように反応していました。
沈殿が始まる濃度と、渋いと感じる濃度がほぼ重なっています。 渋味が化学的な受容ではなく沈殿という物理現象の手応えだ、という説明をこの一致が支えています。
渋味は「タンニンの量」では決まらない
柿の実験:量は同じ、渋味だけ消える
渋柿の研究に、この記事でいちばん重要な数値があります。柿の果汁にペクチンを加えていったときの測定です。
| 柿の果汁に加えたもの | 渋味のスコア | タンパク質と結合できるタンニン(mg/mL) | 総ポリフェノール量(mg/mL) |
|---|---|---|---|
| 蒸留水(対照) | 4.0 | 10.39 | 11.04 |
| ペクチン 0.1% | 3.7 | 7.32 | 11.06 |
| ペクチン 0.5% | 2.7 | 7.83 | 11.12 |
| ペクチン 1.0% | 1.5 | 2.07 | 11.50 |
| ペクチン 2.0% | 1.0 | 1.76 | 11.41 |
出典: 平智「カキ果実の脱渋機序の解明ならびに長期貯蔵に関する研究」日本食品保蔵科学会誌 35(1), 2009、表1。渋味のスコアは0(渋くない)〜4(きわめて渋い)でパネリスト3人の平均。結合できるタンニンはタンパク結合法、総ポリフェノール量はフォーリン・デニス法による測定
渋味は4.0から1.0に落ち、結合できるタンニンは10.39から1.76へ、6分の1以下になりました。ところが総ポリフェノール量は11.04から11.41で、統計的な有意差がありません。
つまり、タンニンは1つも減っていないのに渋味だけが消えています。
脱渋はタンニンを「結合できない形」に変える操作
ここから原理がひとつに定まります。渋味を決めているのは、タンニンの総量ではなく、タンパク質と結合できる状態のタンニンの量です。
渋柿の脱渋も同じです。炭酸ガスやアルコールで処理すると果肉の中にアセトアルデヒドができ、可溶性のタンニンが「あたかもフェノール樹脂が固まるように縮合して不溶化」します。タンニンは果肉に残ったままで、口の中で溶け出せなくなっただけです。果肉が柔らかくなる過程でも、同じ結果になります。
| 果肉の軟化度 | 噛む前の渋味スコア | 噛んだ後の渋味スコア | 可溶性タンニン(mg/gFW) |
|---|---|---|---|
| I(十分に硬い) | 3.5 | 4.0 | 15.15 |
| II(全体にかなり軟らかい) | 1.0 | 3.5 | 16.61 |
| III(指で押すと一部が崩壊する) | 0.0 | 2.5 | 12.23 |
| IV(非常に軟弱で一部が崩壊) | 0.0 | 0.0 | 0.51 |
出典: 平 2009、表2。渋味のスコアは0(渋くない)〜4(きわめて渋い)でパネリスト3人の平均、可溶性タンニンは生果重1gあたり
軟化度 II に注目すると、可溶性タンニンは16.61 mg/gFWと硬いものより多いのに、噛む前の渋味は3.5から1.0に落ちています。軟化で水に溶けるようになったペクチンがタンニンと複合体を作り、崩れた細胞の断片にタンニンが吸着したからです。
噛んだ後の列が、この記事の原理をもう一度示しています。軟化度 III は口に入れた瞬間は渋くないのに(0.0)、噛むと渋くなります(2.5)。 噛んで細胞を壊せば、封じられていたタンニンがまた出てくるからです。タンニンは減っていません。
だから渋柿を皮が破れないように手でやさしくもむと、その場で渋味が減ります。果肉が崩れて、タンニンが断片に吸着するためです。
だから渋味は戻ることがある
結合を封じただけで、タンニンはそこにあります。だから「渋もどり」が起きます。いったん消えた渋味が、加熱処理や酸の添加などによって再び出現する現象です。
封じていた結合が外れて、またタンパク質と結べる状態に戻る、ということです。脱渋した柿を加熱する菓子で渋が出るのはこれにあたります。
茶:発酵度で渋味の「質」が変わる
量は緑茶が一番多い
同じ条件(茶葉6.0gに沸騰水450 mLを加えて3分)で淹れた茶の渋味物質量です。
| 茶の種類 | 渋味物質量(タンニン酸当量、mg/mL) |
|---|---|
| 緑茶(不発酵) | 1.95 |
| 烏龍茶(半発酵) | 0.60 |
| 紅茶(発酵) | 1.73 |
出典: 北畠 2019。フォーリン・デニス法でタンニン酸当量として算出
緑茶の渋味閾値はタンニン酸当量で約0.14 mg/mLなので、この条件の緑茶は閾値の14倍近い濃度で飲んでいることになります。
同じ量にそろえると順番が逆になる
ここが面白いところです。3種の抽出液を同じタンニン酸当量0.60 mg/mLにそろえて比べると、渋味の強さは次の順になりました。
不発酵の緑茶 < 半発酵の烏龍茶 < 発酵の紅茶
同じ量なのに、発酵が進んだ茶ほど渋味が強い。発酵でカテキンが重合してできた物質のほうが、唾液タンパク質と強く結ぶということです。
唾液の側は同じでした。沈殿した画分に現れたのは、3種ともほぼ同じ35 kDa付近の酸性プロリンリッチタンパク質とヒスタチンでした。捕まえる側は同じで、捕まえられる側の性質が違います。
だから「緑茶が一番渋い」も「紅茶が一番渋い」も、条件次第で両方正しくなります。量で比べるなら緑茶、同じ量あたりの強さで比べるなら紅茶です。
手は2つに分かれます。溶かし出す量を減らすか、溶け出したものを結ばせるかです。カテキン類とカフェインは高温ほど溶け出しやすく、うま味のアミノ酸は低温でも溶け出すとされるので、湯温を下げて時間を短くすると前者になります。後者は次の節で扱います。
タンニンが無くても渋くなる——酸とタンパク質
pH を下げるだけで渋くなる
渋味=沈殿、という原理が正しいなら、タンニンが無くても沈殿すれば渋いはずです。実際そうなります。
大豆分離タンパク質・乳清分離タンパク質・オボアルブミン(卵白のタンパク質)の水溶液を、pHだけ変えて官能試験にかけた結果です。
| タンパク質 | pH 7.0 での渋味 | pH 3.5 での渋味閾値(mg/mL) |
|---|---|---|
| 大豆分離タンパク質 | 感じない | 0.83 |
| 乳清分離タンパク質 | 感じない | 4.0 |
| オボアルブミン | 感じない | 12.5 |
| β-ラクトグロブリン | 感じない | 4.1(pH 4.0 での値) |
出典: 北畠 2019、4.(3)。タンニンは加えていない
pH 7.0では全く渋味を感じないのに、pH 3.5にすると全部が渋くなりました。 pH 3.5はこれらのタンパク質が沈殿しやすいpH(等電点)に近く、そこで沈殿が起きます。タンニンが唾液タンパク質を沈殿させるのと、口の中で起きる結果が同じになります。
台所で起きるところ
この型は実務で一番見落とされています。酸性のプロテイン飲料、乳製品のドリンクにレモンを入れたもの、豆乳に柑橘を合わせたもの、酸の強いチーズソース。どれも「えぐい」「粉っぽい」と表現されがちですが、正体は等電点沈殿による渋味です(レモン汁はpH 2.0〜2.5、食酢は2.5〜3.5。酸とアルカリの科学の一覧より)。タンパク質が酸でどう変わるかはタンパク質変性の科学で扱っています。
打ち手が違うことに注意が必要です。 タンニン由来なら乳を足せば和らぎますが、こちらに乳を足しても、足したタンパク質も一緒に沈殿するだけです。pHを上げるか、濃度を下げるか、先に加熱変性を済ませておくかになります。
渋味を抑える打ち手
先に別のタンパク質と結ばせる
原理を打ち手に言い換えると1行になります。唾液タンパク質に届く前に、別の何かにタンニンを結ばせればいい。
実証もされています。ゼラチンを加えると、タンニン酸の渋味も茶の渋味も明らかに抑えられました(ゼラチンの種類によって効果に差があります)。ゼラチンとタンニン酸が複合体を作ったためです。
打ち手の決定表
| 場面 | 何が渋いか | 打ち手 | 原理 |
|---|---|---|---|
| 渋い紅茶 | 発酵で重合したポリフェノール | 牛乳か生クリームを落とす | 乳タンパク質が唾液より先にタンニンと結ぶ |
| 渋い赤ワイン | ぶどう由来のタンニン | チーズや脂の多い肉と合わせる | タンパク質と脂質が唾液の代わりになる |
| 渋い柿 | 可溶性タンニン | 生クリーム・クリームチーズと合わせる。または手でもむ | 結合させるか、果肉の断片に吸着させる |
| 渋い緑茶 | カテキン類 | 湯温を下げ、抽出時間を短くする | そもそも溶かし出す量を減らす |
| 渋い豆の煮汁 | 水溶性のタンニン | ゆでこぼす | 溶け出した分を捨てる |
| 酸性のタンパク質飲料 | 等電点沈殿したタンパク質 | pHを上げるか濃度を下げる | タンニンではないので乳を足しても効かない |
効く手と効かない手の見分けが要ります。 タンニン由来の渋味なら「別のタンパク質を足す」が効きます。等電点沈殿由来の渋味には効きません。まずどちらかを見分けてから手を選びます。
甘味も渋味を和らげますが、こちらは感じ方の側の効果(抑制)で、口の中の沈殿そのものは減りません。味どうしの打ち消し合いは味の相互作用で扱っています。
まとめ
- 渋味は味覚ではありません。専用の受容体を持たず、渋味物質が口の中の上皮を直接刺激して生じる、触覚に近い感覚です
- 正体は口の中で起きる沈殿です。沈殿が始まる濃度と、渋いと感じる濃度はほぼ一致します
- 効いているのは量ではなく状態です。柿ではタンニンが1つも減らないまま渋味だけが消えます
- だからタンニンが無くても渋くなります。酸でタンパク質が沈殿すれば、それも渋味です
- 打ち手は、唾液に届く前に別のタンパク質と結ばせること。ただし酸による渋味には効きません
よくある失敗と対策
苦い・えぐい回復できる
- なぜ
- タンニンが唾液のプロリンリッチタンパク質と結んで沈殿し、収れん感が出ています
- どうする
- 乳製品か脂の多いものを合わせ、唾液より先にタンニンを結ばせます
- 次から
- 茶は湯温を下げて抽出を短くし、溶け出す量そのものを減らします
ザラつく・ボソボソする部分的
- なぜ
- 酸でタンパク質が等電点沈殿し、口の中がざらつく収れん感になっています
- どうする
- pHを戻すか、水分を足して濃度を下げます。乳を足しても効きません
- 次から
- 酸を入れる前に加熱変性を済ませるか、酸の量を等電点の手前で止めます
小さなコツ
渋い柿をもむ
皮を破らないように手でやさしく数分もみます
なぜ果肉が崩れてタンニンが断片に吸着し、口で溶け出せなくなります
渋い紅茶を丸める
牛乳か生クリームを少量落とします
なぜ乳タンパク質が唾液より先にタンニンと結びます