この記事でわかること
- ラードと牛脂の違い
- 豚か牛か。溶ける温度はラード30〜40℃、牛脂40〜50℃
- どちらを使うか迷ったら
- 冷めて食べるならラード、熱々で出すなら牛脂
- サラダ油やバターとの違い
- 常温で固まり、肉の香りがあり、水が無いので焦げにくい
- ラードが無いとき牛脂で代わりになる?
- 炒め物ならなる。冷めて食べる餡や生地は口に脂が残る
- 純製ラードと調製ラード
- 純製は豚脂だけ、調製は他の油脂を加えたもの
ラードは豚の脂身を、牛脂(ぎゅうし。ヘットとも呼ぶ)は牛の脂身を加熱して溶かし出した脂です。どちらも常温では白く固まり、溶かすと透明な油になります。
中国料理ではラードで青菜を炒め、餃子の餡に練り込みます。日本のすき焼きは牛脂を鍋に溶かしてから肉を焼き、ベルギーのフライドポテトは牛脂で揚げてきました。同じ動物の脂でも、豚と牛では溶ける温度と香りが違い、向く料理が分かれます。
この記事では、ラードと牛脂が何でできていて植物油やバターと何が違うか、溶ける温度による使い分け、向く料理、種類と選び方、代わりに使うときに変わること、合わせるもの、保存までを扱います。油全体の選び方は油の種類と選び方にあります。
ラードと牛脂は、水をほとんど含まない動物の脂
成分はほぼ脂だけで、飽和脂肪酸の割合も近い
| 成分 | ラード | 牛脂 |
|---|---|---|
| 脂質(g/食品100g) | 100.0 | 99.8 |
| 水分(g/食品100g) | 0 | 微量 |
| 飽和脂肪酸(g/脂肪酸100g) | 42.4 | 45.8 |
| 一価不飽和脂肪酸(g/脂肪酸100g) | 47.0 | 50.2 |
| 多価不飽和脂肪酸(g/脂肪酸100g) | 10.6 | 4.0 |
出典: 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」。脂肪酸は、脂に含まれる脂肪酸の合計を100gとしたときの量。
どちらも中身はほぼ脂だけで、水をほとんど含みません。飽和脂肪酸の割合も42%と46%で、大きくは違いません。
違いが大きいのは多価不飽和脂肪酸で、ラードは牛脂の約2.6倍あります。この脂は空気に触れると傷みやすいので、ラードのほうが牛脂より早く古いにおいが出ます(油の酸化)。
| ラードと牛脂の性質 | 料理で起きること | だからこうする |
|---|---|---|
| 常温で固まる | 冷めると料理の表面や餡の中で白く固まる | 冷めて食べるか、熱々で出すかで選ぶ |
| 水をほとんど含まない | 熱しても泡が立たず、色づく材料も入っていない | 強火の炒め物・揚げ物に使える |
| 肉の香りがある | 豚は穏やかなコク、牛は牛肉そのものの香り | 香りを足したい料理に使い、足したくないなら植物油 |
植物油・バターと比べると、固まる・焦げにくい・肉の香り
| 比べるもの | サラダ油 | バター | ラード | 牛脂 |
|---|---|---|---|---|
| 香り | ほぼ無い | 乳の香り | 豚の穏やかなコク | 牛肉の香り |
| 水と乳成分 | 無い | 水約16%・乳成分約1% | ほぼ無い | ほぼ無い |
| 発煙点(煙が出始める温度、℃) | 230前後 | 150〜175 | 190前後 | 200前後 |
| 冷蔵庫での状態 | 液体 | 固い | やわらかく固まる | 固く締まる |
出典: バターの水と乳成分は「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」の有塩バター。発煙点は調理科学の文献値で、精製度や製品で変わる。牛脂は250℃前後とする文献もある。
溶ける温度の差が、冷めたときのおいしさを分ける
ラードは体温あたりで溶け、牛脂は体温では溶けきらない
出典: 融点は日本食肉消費総合センター「食肉用語事典」ほか(脂肪の融点)。部位・品種・測定条件で数℃動く。
飽和脂肪酸の割合が近くても、溶ける温度は牛脂のほうが10℃ほど高くなります。ラードに多い多価不飽和脂肪酸は溶けやすい脂で、これが脂全体の溶ける温度を下げる一因です。
冷めて食べるものはラード、熱々で出すものは牛脂
牛脂で焼いた肉は、皿の上で冷めると表面に白い脂が浮いて固まります。口に入れても体温では溶けきらず、ロウのような脂が舌に残ります。
ステーキやすき焼きは、焼きたてを温めた皿で出すので、この欠点が出ません。牛脂が向くのは、熱いうちに食べきる牛肉料理です。
ラード(背脂)は口の中でほぼ溶けるので、冷めて食べるものに向きます。餃子や肉まんの餡、中国の焼き菓子の生地、弁当の炒飯でも、脂っぽさが舌に残りにくくなります。
鍋や皿の縁に残った脂が白く固まっていたら、その脂が溶ける温度より料理が冷めています。
ラードが向くのは炒め・餡・生地、牛脂は牛肉を焼く・揚げる料理
炒める: ラードは野菜と米にコクをまとわせる
ラードは190℃前後まで煙が出ないので、強火の炒め物に使えます。豚の香りは穏やかで、野菜や米の味を隠さずにコクだけを足します。
中国料理の青菜炒めや炒飯がその代表です。鍋をよく熱してからラードを溶かし、薄く煙が上がる手前で具を入れます(炒め物の火加減)。
餡と生地: 固まる脂が肉汁を抱え、粉を包む
餃子や焼売の餡には、ラードを練り込む作り方があります。冷たいうちは脂が固まったまま肉に混ざり、加熱すると溶けて肉汁と一緒に皮の中に残ります(餃子)。
生地では、固形のラードが粉の粒を包み、水が粉に届きにくくなります。生地が締まらないので、焼くとほろっと崩れる食感になります(練り込み生地)。
中国では酥(スー)と呼ぶ層のある焼き菓子に、メキシコではトウモロコシの生地を蒸すタマルに、スペインではほろほろ崩れる焼き菓子ポルボロンにラードを使います。バターのような乳の香りは出ないので、具や粉の香りが前に出ます。
焼く・揚げる: 牛脂は牛肉の香りを足す
すき焼きは、熱した鍋に牛脂を溶かして鍋肌に脂を回してから肉を焼きます。牛脂の香りが肉と割下(わりした)に移ります。
ステーキの焼き始めにサラダ油の代わりに牛脂を使うと、焼き色と一緒に牛の香りが乗ります(牛肉の火入れ)。
揚げ物では、ベルギーのフライドポテトが伝統的に牛脂で揚げられてきました。植物油に牛脂やラードを混ぜて揚げると、衣に香ばしさとコクが乗ります(揚げ物)。牛脂で揚げたものは冷めると衣の中で脂が固まるので、揚げたてで出します。
種類は、取る部位と精製のしかたで分かれる
| 種類 | 何か | 料理で変わること | 代表料理 |
|---|---|---|---|
| 純製ラード | 精製した豚脂だけを使ったもの(日本農林規格) | 豚のコクがそのまま出る | 炒飯、青菜炒め、餃子の餡 |
| 調製ラード | 豚脂を主に、他の食用油脂を加えたもの(日本農林規格) | 豚の香りが薄まり、穏やかになる | 家庭の炒め物 |
| 豚の背脂(せあぶら) | 豚の背中の皮の下の脂。一般的なラードの主な原料 | 口の中で溶けやすい | 背脂を浮かせたラーメン |
| 豚の腎臓まわりの脂 | 腎臓を包む脂。英語ではリーフラード | 溶ける温度が高く、生地の中で固形のまま残る | 菓子の生地 |
| 牛脂(ヘット) | 牛の脂身を溶かして取った脂 | 牛肉の香りが強く、冷めると固く締まる | すき焼き、ステーキ、フライドポテト |
| スエット(英国) | 牛や羊の腎臓まわりの固い脂を、溶かさず生のまま刻んだもの | さくっとしたタルト生地とは違う、やわらかい生地になる | プディング、煮込みに入れるダンプリング |
出典: 純製・調製の区分は農林水産省「精製ラードの日本農林規格」。
牛脂は、精肉売り場で配られる白いかたまりのほか、精製した製品も売られています。
豚の背脂を細かく切り、弱火でゆっくり溶かして漉(こ)せば、家でもラードが取れます。脂身が色づく前に火を止めると、冷えて固まったとき白く、香りの穏やかなラードになります。
選び方・代わりに使うとき・合わせるもの
表示は「純製」か「調製」かを見る
豚のコクをはっきり出したいなら、名称に「純製ラード」とあるものか、原材料が豚脂だけのものを選びます。調製ラードは原材料欄に豚脂以外の油脂が並び、香りは穏やかです。
作る料理で選ぶ脂
| 作りたいもの | 選ぶ脂 | なぜか |
|---|---|---|
| 炒飯・野菜炒めにコクを足す | ラード | 強火に耐え、豚の香りが穏やか |
| 餃子・肉まんの餡 | ラード | 加熱で溶けて肉汁に混ざり、冷めても舌に残りにくい |
| 中国の焼き菓子・ほろっと崩れるクッキー | ラード | 固形のまま粉を包み、乳の香りが無い |
| ステーキ・すき焼き | 牛脂 | 牛肉の香りを足し、熱々で食べきる |
| 揚げ物に香ばしさを足す | 植物油にラードか牛脂を混ぜる | 脂の香りが衣に乗る |
| 香りを足したくない | 植物油 | 脂の香りが料理の香りを隠さない |
代わりに使うとき変わること
| 置き換え | 変わること | 向くか |
|---|---|---|
| ラード → 牛脂 | 牛の香りが強くなり、冷めると脂が固まる | 熱々で出す炒め物なら使える。餡・生地・弁当は向かない |
| ラード → サラダ油 | コクと香りが出ない | 炒め物なら使える。生地のほろっと崩れる食感は出にくい |
| ラード → バター | 乳の香りが出て、強火では焦げる | 菓子の生地なら使える。強火の炒め物は向かない |
| 牛脂 → ラード | 牛の香りが無くなり、冷めても固まりにくい | 焼き油としては使える |
| ラード → ショートニング | 豚の香りが無くなる。20世紀初めに植物油から作られた固形の脂 | 菓子の生地なら使える |
合わせるもの
香りの強い薬味
| 合わせるもの | なぜ合うか | 代表料理 |
|---|---|---|
| にんにく | 香りが脂に溶け出し、脂ごと具に回る | 青菜のにんにく炒め |
| しょうが・ねぎ | 香りが豚の脂のにおいを抑え、コクだけが残る | 餃子の餡、炒飯 |
醤油と甘み
| 合わせるもの | なぜ合うか | 代表料理 |
|---|---|---|
| 醤油・砂糖 | 加熱で香ばしくなる甘辛さに、牛脂の香りが重なる | すき焼き |
| 醤油 | 焦げた醤油の香りとラードのコクが米に回る | 醤油炒飯 |
酸で重さを切る
| 合わせるもの | なぜ合うか | 代表料理 |
|---|---|---|
| 酢 | 酸が脂の重さを切り、後味が軽くなる | 焼き餃子の酢醤油 |
| レモン | 牛脂の香りを残したまま口をさっぱりさせる | ステーキのレモン添え |
ラードは冷蔵、牛脂は小分けで冷凍する
ラードは牛脂より傷みやすい脂が多く、空気と光で古い油のにおいが出ます。開封したらふたをしっかり閉めて冷蔵し、早めに使い切ります。
開封後に何日もつかの目安は、確かめられる資料が見つかりませんでした。使う前ににおいをかぎ、古い油のにおいがしたら使いません。
精肉売り場の牛脂は、1回に使う大きさに分けてラップで包み、冷凍します。使う分だけ出して、凍ったまま鍋で溶かせます。
よくある失敗と対策
脂が口の中で固まる回復できる
- なぜ
- 牛脂は40〜50℃で溶ける脂です。料理が冷めると表面で固まり、口の中の温度では溶けきらずに残りました
- どうする
- 温め直して、温めた皿で熱いうちに出します
- 次から
- 冷めて食べる料理(弁当・作り置き・餡)にはラードを使います
バターが焦げた部分的
- なぜ
- ラードの代わりにバターで強火の炒め物をしました。バターに入っているたんぱく質と乳糖が150℃付近で色づき、炒め物の温度で焦げました
- どうする
- 焦げた脂を拭き取り、植物油かラードで炒め直します
- 次から
- 強火で炒めるならラードか植物油を使い、バターは香りづけに最後に足します
油が劣化した諦める
- なぜ
- 開封したラードを常温に置きました。ラードは牛脂より酸化しやすい脂が多く、古い油のにおいが出ました
- どうする
- においが出たものは戻りません。新しいものに替えます
- 次から
- 開封したら密閉して冷蔵し、早めに使い切ります
参考文献
- 文部科学省 食品成分データベース(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年)14016 ラード|水分・脂質と、脂肪酸総量100gあたりの飽和・一価不飽和・多価不飽和脂肪酸について
- 文部科学省 食品成分データベース(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年)14015 牛脂|水分・脂質と脂肪酸組成について
- 農林水産省 精製ラードの日本農林規格(改正の新旧対照表)|純製ラードと調製ラードの定義について
ほか7件を見る
- Wikipedia「Smoke point」|ラードの発煙点190℃(CIA The Professional Chef 9th ed.)について
- Wikipedia「Lard」|背脂と腎臓まわりの脂(リーフラード)の融点の違いと、菓子の生地での使い方について
- America's Test Kitchen「Lard」|ラードを使ったパイ生地がさくっと崩れる理由について
- Wikipedia「Suet」|スエットが牛や羊の腎臓まわりの生の脂であることと、プディング・ダンプリングでの使い方について
- Foods & Wines from Spain「Polvorones de Estepa PGI」|ポルボロンの生地にラードを20〜25%使うことについて
- Chowhound「What Makes Belgian Fries So Crispy?」|ベルギーのフライドポテトを牛脂で2度揚げする伝統について
- The Daily Meal「For The Absolute Best Homemade Masa, You Need Lard」|メキシコのタマルの生地にラードを泡立てて使うことについて