この記事でわかること
- ステーキの中心温度
- レア48〜52℃、ミディアムレア54〜56℃、ミディアム58〜60℃
- ローストビーフをピンクに仕上げたい
- 低温調理55〜57℃。55℃で厚さ25mmなら2¾時間
- すね・肩をほろほろにしたい
- 80〜95℃で3〜8時間、または55〜57℃で24〜48時間
- 残るリスクの減らし方
- かたまりのまま使い、表面を焼く。挽肉は挽きたてを当日中に
- 安全を優先するなら
- 中心55℃97分〜63℃瞬時、表面は60℃2分(規格基準)
牛肉は、同じ肉を同じ温度で焼いても、部位でまったく違う結果になります。ヒレは54℃で最高になり、すねは54℃では噛み切れません。
先に答えを書きます。ステーキはレア48〜52℃・ミディアムレア54〜56℃・ミディアム58〜60℃、ローストビーフの低温調理は55〜57℃です。すね・肩は80〜95℃で3〜8時間、または55〜57℃で24〜48時間です。
この記事が扱うのは食材別の火入れのうち牛肉です。焼き加減と部位ごとのおいしい温度、残るものと減らし方、安全を優先する人の公表値、ステーキとローストビーフの焼き方を1本にまとめます。
牛肉はレア48〜52℃、ローストビーフは55〜57℃
焼き加減ごとのおいしい中心温度
| 焼き加減 | 休ませたあとの中心温度(℃) | 断面と手応え |
|---|---|---|
| ブルー | 40〜45 | 中心が冷たく赤い。生に近い |
| レア | 48〜52 | 中心が赤く、肉汁が多い。とても柔らかい |
| ミディアムレア | 54〜56 | 中心がピンク。柔らかく肉汁が出る |
| ミディアム | 58〜60 | わずかにピンク。適度な弾力 |
| ミディアムウェル | 62〜65 | ほぼ火が通る。弾力がはっきり |
| ウェルダン | 68〜72 | 全体に火が通り、肉汁が出尽くす |
出典:フランス料理の焼き加減の呼称(Bleu・Saignant・À point・Bien cuit)に対応する中心温度の目安。休ませるあいだに2〜3℃上がるので、火から下ろすのはその手前です。
加熱法ごとのおいしい温度と時間
| 加熱法 | おいしい中心温度と時間 | 止めどきの目安 |
|---|---|---|
| フライパン・グリル(ステーキ) | 目標の2〜3℃手前で火を止め、焼いた時間と同じだけ休ませる | 指で押して弾力が戻る。肉汁が浮き始める |
| 低温調理(ローストビーフ) | 55〜57℃。55℃で厚さ25mmなら2¾時間、57℃なら2時間 | 湯温がそのまま中心温度になる。30mmは3時間 |
| オーブン(ローストビーフ) | 120〜130℃で40〜60分、中心52〜54℃で出す | 休ませて54〜56℃に届く |
| 煮込む(すね・肩・バラ) | 80〜95℃で3〜8時間 | フォークでほぐれる |
| 低温調理(すね・ブリスケット) | 55〜57℃で24〜48時間 | 赤みを残したままほどける |
出典:低温調理の時間は Douglas Baldwin「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」Table 5.1。冷蔵庫から出した5℃の肉を湯に入れてからの総時間です。
レアからミディアムまでが同じ肉で選べるのは、牛の菌が表面にいて、中心を自分で選べるからです。50℃前後でミオシンが固まり、66℃からアクチンが縮んで水を押し出します(タンパク質の変性)。
牛脂は40〜50℃で溶けます。霜降りは脂が溶ける50℃以上まで上げないと、脂っぽいだけで旨味が出ません。だから霜降りはミディアムレア〜ミディアム(54〜60℃)が合います。
部位ごとに向く料理と温度
| 部位 | 脂とコラーゲン | おいしい中心温度 | 向く料理 |
|---|---|---|---|
| ヒレ | 脂4.8%、コラーゲン非常に少ない | 50〜54℃(レア〜ミディアムレア) | ステーキ、カツレツ |
| サーロイン・リブロース | 霜降り、コラーゲン少ない | 54〜60℃(ミディアムレア〜ミディアム) | ステーキ、焼肉、すき焼き |
| ランプ・イチボ・シンタマ | 脂少〜中、コラーゲン少ない | 54〜57℃ | ローストビーフ、たたき |
| 肩ロース | 脂中〜多、コラーゲンやや多い | 58〜62℃、薄切りなら短時間 | すき焼き、しゃぶしゃぶ |
| 肩(ウデ)・バラ | コラーゲン多い | 80〜95℃で数時間 | 煮込み、シチュー、カルビ |
| すね | コラーゲン非常に多い | 80〜95℃で3〜8時間 | 煮込み、ポトフ |
出典:脂肪量は日本食品標準成分表。温度は「加熱法ごとのおいしい温度と時間」の表と同じ値です。
コラーゲンは65℃付近で元の3分の1に縮んで肉を硬くし、80℃以上を2時間保つとゼラチンに変わります(コラーゲンのゼラチン化)。すね・肩は66℃を超えてからが本番で、ヒレ・ロースは66℃を超えると終わりです。
残るのは表面の菌、減らすのはかたまりのまま焼くこと
何が残りうるか
| 相手 | どこにいるか | 減る条件 |
|---|---|---|
| 腸管出血性大腸菌(O157など) | 表面。かたまりの中は無菌に近い | 表面を60℃で2分、または焼き色が付くまで |
| サルモネラ・リステリア | 表面とドリップ | 同上 |
| 挽肉・針打ち肉・成形肉の中の菌 | 加工で表面の菌が中に入っている | 中心75℃で1分、または低温調理58〜60℃で表の時間 |
出典:厚生労働省「食肉の加熱条件に関するQ&A」、生食用食肉(牛肉)の規格基準。
健康な牛の筋肉の中は無菌に近く、菌は解体のときに表面に付きます。表面は1時間で1cm入ると見て、かたまりのまま使えば中心は赤くてよいのが、牛だけの特徴です。
挽肉は表面の菌が全体に混ざっています。ハンバーグを中心58〜60℃の低温調理で作るなら、58℃で厚さ25mmで1¾時間(Baldwin Table 5.1)を満たします。フライパンなら中心75℃で色が変わるまでです。
減らす手は買い方と扱い方にある
| やること | なぜ効くか |
|---|---|
| かたまりのまま使い、表面全体に焼き色を付ける | 菌は表面。焼き色が付く温度で死ぬ |
| 針打ち・タンブリング・成形肉は中まで火を通す | 表面の菌が中に運ばれている |
| 挽肉は自分で挽くか挽きたてを買い、当日中に使う | 表面積が増え、菌が増える速さが上がる |
| 買ってすぐ冷蔵(10℃以下)し、ドリップを拭く | 菌は10℃以上で増える |
| 生食用の表示が無い肉を生で出さない | 規格基準の処理(表面60℃2分と削り取り)を通っていない |
| 中心温度計でいちばん厚いところを測る | 厚さ3cm以上は表面の色で中心が読めない |
牛の生食用は、肉塊の表面から1cm以上を60℃で2分以上加熱して削り取る規格基準を通った肉だけです。家庭のたたきやレアステーキは、表面を焼くことで同じ考え方を使っています。
安全を優先するなら中心55℃で97分
公表値は中心55℃97分〜63℃瞬時の9段階
子どもや高齢者、妊娠中の人に出すとき、温度計が無いときは、公表値を使います。牛のかたまりは中心と表面で条件が分かれます。
| 中心温度(℃) | 中心温度に達してからの維持時間 |
|---|---|
| 55 | 97分 |
| 56 | 64分 |
| 57 | 43分 |
| 58 | 28分 |
| 59 | 19分 |
| 60 | 12分 |
| 61 | 8分 |
| 62 | 5分 |
| 63 | 瞬時 |
出典:食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)特定加熱食肉製品の製造基準。表面は別条件で、深さ1cm以上を60℃2分以上(生食用食肉の規格基準)。
ローストビーフを55℃の低温調理で作るとき、Baldwin の表の2¾時間(厚さ25mm)は、中心が55℃に届いてから97分を保つ時間を含みます。おいしい温度と公表値が重なるのが牛です。
牛だけ条件が中心と表面の2本に分かれる理由は低温調理のローストビーフにあります。
挽肉は中心75℃で1分
挽肉・成形肉には中心の表は使えません。中心75℃で1分(厚生労働省「食肉の加熱条件に関するQ&A」)で、中の色が変わるまでです。
ローストビーフのピンクが生ではない理由は肉の色と安全にあります。ミオグロビンの色は、菌を減らす温度と時間とは別に動きます。
豚・鶏との違いは中心を選べること
残る相手と脂の融点の比較
| 食材 | おいしい中心温度 | 残るものと減らし方 | 脂の融点 |
|---|---|---|---|
| 牛肉(この記事) | 48〜60℃(レア〜ミディアム) | 菌は表面。かたまりのまま表面を焼く | 40〜50℃ |
| 豚肉 | 63℃で止める。低温調理58〜61℃ | E型肝炎ウイルスが中に。新鮮な国産を選ぶ | 30〜48℃(部位差大) |
| 鶏肉 | もも70〜75℃。むねの低温調理58〜60℃ | カンピロバクターが筋肉に。新鮮なものを冷蔵で | 30〜32℃ |
出典:脂の融点は脂肪の融点と口どけ。おいしい温度は各食材の記事の値です。
ミオシンとアクチンの変性温度は、牛・豚・鶏で変わりません。違うのは残る相手の居場所で、牛だけが表面に限られます。だから牛だけ、50〜66℃の窓をそのまま使えます。
牛脂は体温より高い40〜50℃で溶けるので、冷めると口に残ります。ステーキを温めた皿で出すのはこのためです。熟成(ドライエイジング21〜60日・ウェットエイジング7〜21日)が牛でだけ発達したのも、菌が表面に限られるからです。
作りたい料理から部位を選ぶ
| 作りたいもの | 選ぶ部位 | 理由 |
|---|---|---|
| 柔らかさを最優先のステーキ | ヒレ | 脂もコラーゲンも少なく、50〜54℃でいちばん柔らかい |
| 脂の旨味を味わうステーキ | サーロイン、リブロース | 霜降りが54〜60℃で溶けて肉汁と混ざる |
| ピンクのローストビーフ | ランプ、イチボ、シンタマ | 赤身で形が揃い、55〜57℃で端まで均一になる |
| ほろほろの煮込み | すね、肩、バラ | コラーゲンが多く、80℃以上で3時間保つとほどける |
味付けは塩だけで足ります。熟成の旨味と脂のコクが強いので、ソースは後から足す形が合います。
ステーキとローストビーフの焼き方
ステーキは強火→弱火→休ませる
| 手順 | やること | 外すとどうなるか |
|---|---|---|
| 1 | 30〜60分前に室温に戻し、表面の水分を拭く | 中心が冷たく焼きムラになる |
| 2 | 塩は直前か1時間以上前。5〜10分前は避ける | 表面に水が出て焼き色が付かない |
| 3 | 煙が出る直前まで熱し、触らず1〜2分ずつ両面 | 動かすと焼き色が付かない |
| 4 | 弱火に落とし、目標の2〜3℃手前で下ろす | 表面が焦げる前に中心が届かない |
| 5 | 焼いた時間と同じだけ休ませる | 切ると肉汁が流れる |
ミディアムレアなら中心50〜52℃で下ろし、休ませて54〜56℃に届かせます。温度計が無いときの指の弾力は五感で温度を見分ける、休ませる時間は余熱を使いこなす調理術にあります。
ローストビーフは120℃のオーブンか55〜57℃の低温調理
| 作り方 | 温度と時間 | 止めどき |
|---|---|---|
| 低温オーブン | 全面を焼いてから120〜130℃で40〜60分 | 中心52〜54℃で出し、20〜30分休ませる |
| 低温調理 | 55〜57℃で2¾〜3時間(厚さ25〜30mm) | 取り出して強火で表面を焼く |
出典:低温調理の時間は Douglas Baldwin Table 5.1。オーブンの時間は肉の大きさで動くので、中心温度で見ます。
休ませるあいだに中心が2〜4℃上がるので、オーブンから出すのは目標の手前です。繊維に垂直に薄く切ると、端から端まで同じピンクになります。
手元の牛肉でやることは4つ
- ステーキはレア48〜52℃、ミディアムレア54〜56℃、ミディアム58〜60℃です。目標の2〜3℃手前で下ろし、焼いた時間と同じだけ休ませます
- ローストビーフは低温調理55〜57℃です。55℃で厚さ25mmなら2¾時間、断面は端までピンクです
- かたまりのまま使い、表面全体に焼き色を付けます。菌は表面にいて、挽肉だけは中心75℃で1分です
- 安全を優先するなら中心55℃97分〜63℃瞬時、表面60℃2分です。子どもや高齢者に出すときはこちらを使います
牛は、中心の温度を自分で選べる唯一の肉です。部位と焼き加減の表から1つ選べば、同じ肉から違う料理が作れます。
よくある失敗と対策
中が生だった回復できる
- なぜ
- 表面はメイラード反応まで進んだのに、中心はミオシンが固まる50℃に届いていません
- どうする
- 120℃のオーブンか弱火のフライパンに戻し、中心温度を測りながら目標まで上げます
- 次から
- 焼く30〜60分前に室温に戻し、中心を15〜20℃にしてから焼きます
パサついた諦める
- なぜ
- 中心が66℃を超えてアクチンが変性し、縮んだ筋繊維が抱えていた水分を押し出しました
- どうする
- 薄く切ってソースを絡めるか、煮込みに転用します。肉自体の水分は戻りません
- 次から
- 目標の2〜3℃手前で火から下ろし、休ませて余熱で届かせます
焼き色がつかない回復できる
- なぜ
- 表面の水分の蒸発に熱が奪われ、メイラード反応が始まる150℃に表面が届きませんでした
- どうする
- 表面を拭き、フライパンを煙が出る直前まで熱してから焼き直します
- 次から
- 焼く直前に表面の水分を拭き取り、肉を入れたら触らずに待ちます
肉が固くなった回復できる
- なぜ
- コラーゲンの多い部位を短時間で加熱し、65℃付近で縮んだままゼラチン化まで進みませんでした
- どうする
- 煮込みに切り替え、80℃以上で2時間以上かけてゼラチン化させます
- 次から
- すね・肩・バラは焼かず、80〜95℃で3時間以上煮込みます