この記事でわかること
- バターは何でできているか
- 乳脂肪8割・水約16%・乳成分約1%。脂肪80%以上が条件
- バターがすぐ焦げるのはなぜか
- 水が飛ぶと温度が上がり、乳成分が150℃付近で色づく
- 冷たい・室温・溶かしの使い分け
- 冷たい=パイとソース、室温=空気を抱かせる、溶かし=しっとり
- 強火で焼くときのバター
- 油で焼き始めて仕上げに足すか、澄ましバターを使う
- 発酵バター・ギーは何が違うか
- 発酵は香りと酸味、ギーは乳成分を色づけてから漉した脂
バターは、牛乳から分けたクリームをかき混ぜ、脂肪の粒を集めて練り固めたものです。乳の香りを持つ脂で、冷蔵庫では固く、口の中で溶けます。
フランス料理ではソースの土台で、冷たいバターを溶かし込んでソースそのものにします。菓子とパンでは、パイ生地やクロワッサンの層と、焼き菓子の生地に抱かせた空気をつくります。同じ脂でも、冷たいか、やわらかいか、溶けているか、焦がしたかで仕事が変わります。
この記事では、バターが何でできていて料理の中で何をしているか、温度ごとの使い方、発酵・澄まし・ギーなどの種類と選び方、保存までを扱います。サラダ油やオリーブオイルとの選び分けは油の種類と選び方にあります。
バターは脂が8割、残りは水と少しの乳成分
成分の比率と、料理で効く3つの性質
| バターの成分(g/100g) | 有塩バター | 食塩不使用バター | 発酵バター(有塩) |
|---|---|---|---|
| 脂質(ほぼ乳脂肪) | 81.0 | 83.0 | 80.0 |
| 水分 | 16.2 | 15.8 | 13.6 |
| たんぱく質 | 0.6 | 0.5 | 0.6 |
| 炭水化物(乳糖など) | 0.2 | 0.2 | 4.4 |
| 食塩相当量 | 1.9 | 0 | 1.3 |
出典: 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」の100gあたりの値。成分規格は「乳及び乳製品の成分規格等に関する命令」。
脂が8割を占め、残りのほとんどは水です。有塩・食塩不使用のバターでは、たんぱく質と乳糖を合わせた乳成分は1%前後しかありません(発酵バターは炭水化物が4.4gと多めです)。この少ない水と乳成分が、香りと焦げやすさのもとです。
| バターの性質 | 料理で起きること | だからこうする |
|---|---|---|
| 乳の香りを持つ脂 | 溶かすと乳の甘い香り、色づけるとナッツのような香りが出る | 香りを足したい仕上げや菓子に使う |
| 水が約16%、乳成分が約1%入っている | 熱すると泡立ち、泡が静まると色づいて焦げやすい | 強火の工程は油で始め、バターは後から足す |
| 温度で硬さが変わる | 冷蔵庫では固く、室温でやわらかく、約28〜36℃で溶ける | 作るものに合わせて、冷やすか室温に戻してから使う |
油と比べると、香りが強く熱に弱い
| サラダ油 | エクストラバージンオリーブオイル | バター | 澄ましバター(水と乳成分を除いたもの) | |
|---|---|---|---|---|
| 香り | ほぼ無い | 果実と草の香り | 乳の香り | 乳の香りが弱まる |
| 水と乳成分 | 無い | 無い | 水約16%・乳成分約1% | ほぼ無い |
| 発煙点(℃) | 230前後 | 160〜210 | 150〜175 | 250前後 |
| 冷蔵庫での状態 | 液体 | 濁って固まりかける | 固い | 固まる |
| 向く使い方 | 揚げ物・強火の炒め物 | 生でかける・中温で焼く | 仕上げ・ソース・菓子 | 強火のソテー |
出典: 発煙点は調理科学の文献値で、油の銘柄や精製度で変わる。バターは文献によって150℃から175℃前後まで幅があり、乳成分が色づき始める温度も150℃付近を目安とする。
冷たい・室温・溶かし・焦がしで、バターの使い道が変わる
| バターの温度(℃) | 見た目と手ざわり | 料理で起きること | 代表料理 |
|---|---|---|---|
| 0〜5(冷蔵庫から出してすぐ) | 固く、切ると角が立つ | 生地の中で溶けずに残る。温かいソースにゆっくり溶ける | パイ・タルト生地、ソースに溶かし込む仕上げ(モンテ) |
| 15〜20(室温に戻す) | 指で押すと跡が残る | 砂糖とすり混ぜると空気を抱き込む | パウンドケーキ、クッキー、ハーブバター |
| 28〜36で溶ける(溶かす) | 液体になる | 生地に均一に混ざるが、空気は抱かない | マドレーヌ、クレープ |
| 150前後(泡が静まったあと) | 底の粒が茶色になり、ナッツの香り | 乳成分が色づいて香りが出る | フィナンシェ、ムニエル |
| 150〜175(さらに熱する) | 煙が出る | 焦げて苦くなる | ここまで上げない |
出典: 0〜20℃の温度帯は明治「バターをおいしく食べよう」。溶ける温度は乳脂の一般的な物性値(脂肪の融点)。
冷たいまま使うと、生地はさくっと焼け、ソースはつながる
パイ生地では、バターを固いまま生地の間に挟みます。焼くとバターの水が水蒸気になり、生地の層を押し上げます。作業中にバターが溶けると生地に染み込んでしまい、層は出ません(折り込み生地)。
タルト生地では、冷たいバターを粉にすり混ぜて粉の粒を脂で包みます。水が粉に届きにくくなるので生地が締まらず、焼くとほろほろ崩れる食感になります(練り込み生地)。
ソースの仕上げに冷たいバターを溶かし込むのがモンテです。冷たいバターは45〜55℃のソースの中でゆっくり溶け、乳成分のたんぱく質が脂を包んで、ソースが乳化したままとろみとつやが出ます(乳化ソースの温度帯)。
ソースを火から外し、鍋の縁がふつふつしなくなってから入れるのが目安です。60℃を超えると乳成分が固まり、脂が浮いて分離します。
室温でやわらかくすると、空気を抱き込む
室温に戻したバターは、指で押すと跡が残るくらいのやわらかさです。この状態で砂糖とすり混ぜると、細かい空気が入って白っぽくふくらみます。その空気が焼くときに膨らみ、パウンドケーキやクッキーの軽さになります。
一度溶けたバターは、冷やし直しても元のなめらかさに戻りません。空気を抱かなくなるので、溶かしてしまったバターはクリーム状にする工程には使わず、溶かしバターの菓子に回します。
溶かすと、しっとり重い食感とつやになる
溶かしたバターは生地に均一に混ざり、粉の粒を脂で包みます。空気は入らないので、マドレーヌやクレープのように、詰まってしっとりした生地になります(クレープ生地)。
焼き上がった肉や野菜に溶かしバターをからめると、表面につやと乳の香りが乗ります。
焦がすと、ナッツのような香りが出る
焦がしバターはフランス語でブール・ノワゼット(ヘーゼルナッツ色のバター)と呼ばれます。
小鍋か明るい色のフライパンで、中火より弱めに溶かします。大きな泡が立ち、やがて細かい泡に変わり、泡が静まると底の粒が茶色になります。
ナッツのような香りが立ったら、すぐに冷たい器に移して色づきを止めます。黒い粒が出て煙が上がったら焦げすぎで、苦みが出ます。
フィナンシェの生地、ムニエルのソース、セージと合わせたパスタに使います(ムニエル、アロゼ)。
種類は、クリームの段階と加熱の段階で分かれる
クリームの段階で分かれる種類
バターは、牛乳から分けたクリームをかき混ぜて脂の粒を集め、練り固めて作ります。その手前でクリームを発酵させるか、練る工程で塩を加えるかで種類が分かれます。
| バターの種類 | 作り方の違い | 料理で変わること | 代表的な使い方 |
|---|---|---|---|
| 非発酵バター | クリームをそのままかき混ぜる | 乳の香りがおだやか | 料理と菓子全般。日本の市販品の多く |
| 発酵バター | クリームを乳酸菌で発酵させてから作る | 乳酸菌の香りと、ほのかな酸味が出る | パンに塗る、クロワッサン、サブレ。欧州で広く使われる |
| 有塩バター | 練る工程で食塩を加える | 塩味がつく | パンに塗る、料理 |
| 食塩不使用バター | 塩を加えない | 塩の量を自分で加減できる | 菓子、ソース |
有塩バターは食塩相当量が100gあたり1.9g(成分表の値。市販品の表示は1.4〜1.6g)、食塩不使用は0gです。菓子や料理での使い分けと、置き換えるときの塩の計算は有塩バターと無塩バターの違いにあります。
バターを加熱して分ける種類
| バターの種類 | 作り方の違い | 料理で変わること | 代表料理 |
|---|---|---|---|
| 澄ましバター | 弱火で溶かして静かに置き、上の泡と下の沈殿を除いて澄んだ脂だけを取る | 発煙点が約250℃に上がり、焦げにくい。乳の香りは弱まる | 強火のソテー、オランデーズソース |
| ギー | 水が飛ぶまで煮て、乳成分を色づけてから漉す | 香ばしい香りが残る。水が無いので日持ちする | インドのカレーや豆の煮込み、スパイスの香りを油に移すテンパリング |
| 焦がしバター | 乳成分ごと色づける | ナッツの香りが強い。焦げやすさは残る | フィナンシェ、ムニエル |
澄ましバターとギーが焦げにくいのは、焦げる元の乳成分を取り除いてあるからです。そのぶん、普通のバターの乳の香りも弱まります。
同じバターでも、料理文化によって使い方が違います。フランス料理はバターを冷たいままソースに溶かし込み、ソースそのものにします(ブール・ブラン、モンテ)。
インド料理は日持ちのするギーを炒め油にし、スパイスの香りを移します。日本では醤油と合わせ、醤油バターとして焼き物や炒め物の仕上げに使います。
作る料理から種類を選び、酸・塩気・香りを合わせる
表示は種類別「バター」を見る
日本で「バター」と名乗れるのは、法令で決められた乳脂肪分80.0%以上・水分17.0%以下のもので、包装の「種類別」の欄に「バター」と書かれています。
「乳等を主要原料とする食品」やマーガリンは、乳脂肪が少ないか植物油が主体です。同じ量を入れても焦がしたときの香りや、生地での溶け方が変わります。
作る料理で選ぶ種類
| 作りたいもの | 選ぶバター | なぜか |
|---|---|---|
| 強火で肉や魚を焼く | 油で焼き始めて仕上げにバター、または澄ましバター | 普通のバターは150〜175℃で煙が出る |
| パイ・クロワッサン | 冷たい食塩不使用バター。香りを強くしたいなら発酵バター | 固いまま層を作り、塩の量は生地の配合で加減できる |
| ソースのモンテ・ブール・ブラン | 冷たいバター | 45〜55℃のソースにゆっくり溶かし込むため |
| パンに塗る・そのまま食べる | 発酵バターか有塩バター | 香りと塩味がそのまま味になる |
| インド料理の炒め・テンパリング | ギー | 高温でも焦げず、香ばしさが残る |
合わせるものは、酸・塩気・香りの3つから選ぶ
酸で重さを切る
| 合わせるもの | なぜ合うか | 代表料理 |
|---|---|---|
| レモン汁 | 脂の重さを酸が切り、乳の香りだけが残る | 舌平目のムニエル |
| 白ワインと酢 | 煮詰めた液に冷たいバターを少しずつ溶かし込むと、乳化してとろみが出る | ブール・ブラン |
| ケッパー | 酸味と塩気が、焦がしバターの重さを軽くする | 焦がしバターとケッパーのソース |
塩気と旨味を足す
| 合わせるもの | なぜ合うか | 代表料理 |
|---|---|---|
| 醤油 | 加熱した醤油の香ばしさに乳の香りが重なり、醤油の旨味と塩気が加わる | 醤油バター焼き、バター醤油ご飯 |
| 味噌 | 味噌の強い塩気を、バターの脂がやわらげる | 味噌バターラーメン |
| アンチョビ | 魚の旨味と塩気が脂に溶けて全体に回る | アンチョビバター |
香りを運ぶ
| 合わせるもの | なぜ合うか | 代表料理 |
|---|---|---|
| にんにく | にんにくの香りは脂に溶けやすく、バターがそれを料理全体に運ぶ | ガーリックバター、エスカルゴバター |
| セージ | 焦がしバターのナッツの香りに、セージの青い香りが重なる | セージバターのパスタ |
| タイム | 焼きながらかける(アロゼ)と、香りが肉の表面に移る | 肉のアロゼ |
保存は10℃以下で包み、使い切れない分は切って冷凍する
バターは空気と光で脂が酸化し、冷蔵庫の中のにおいも吸います。ラップで包むか密閉容器に入れ、10℃以下で保存します。開封後は2週間ほどで使い切るのが目安です。
使い切れない分は、1回に使う量に切ってラップで包み、冷凍します。脂の中に水が細かく散った形なので、冷凍して自然解凍しても組織はほとんど変わりません。
使う分だけ出し、残りはすぐ冷蔵庫に戻します。
よくある失敗と対策
バターが焦げた諦める
- なぜ
- 水が飛んで温度が150℃を超え、乳成分のたんぱく質と乳糖が色づきを通り越して焦げました
- どうする
- 黒い粒が出たら戻りません。拭き取り、新しいバターで仕上げ直します
- 次から
- 泡が静まったら火を弱めます。強火の工程は油か澄ましバターで行います
ソースが分離した諦める
- なぜ
- ソースが60℃を超えて乳成分のたんぱく質が固まり、脂を包めなくなって分離しました
- どうする
- 一度分離したソースは戻りません。煮詰めた酸の土台から作り直します
- 次から
- ソースを45〜55℃に保ち、冷たいバターを少しずつ溶かし込みます
層にならない諦める
- なぜ
- 作業中にバターが溶けて生地に染み込み、焼いても水蒸気が層を持ち上げられませんでした
- どうする
- 層は戻りません。タルト台やクッキーなど層の要らない生地として焼きます
- 次から
- バターを冷たいまま使い、生地がやわらかくなったら冷蔵庫で休ませます