この記事でわかること
- 最初の分かれ目が「解凍して出すか、凍ったまま出すか」である理由
- ムースが冷凍で壊れる3か所(水を抱える網目・気泡・油の粒)
- 作り方3つで、糖・脂肪・固形分・ゼラチン・固める材料のどれを変えるか
- 自分の配合で確かめる離水率・断面・形の測り方と、試作の順番
冷凍したムースを解凍したら、型の縁に水の線が出て、口当たりがボソボソに。そんな経験はありませんか? ゼラチンのゼリーは、冷凍に向きません。それでも冷凍で売られるムースケーキは、解凍して出せます。違いは腕ではなく、固める材料と配合と凍らせ方の条件にあります。
読み終わると、自分のムースを冷凍前提で作るとき、糖・脂肪・ゼラチン・固める材料・凍らせ方のどこを変えればよいかがわかります。扱うのはムースの層だけで、スポンジやタルト台は扱いません。
先に出し方を選び、冷凍で壊れる3か所を見てから、作り方ごとに変えるものと、自分の配合で確かめる測り方へ進みます。
最初に選ぶのは2つ——解凍して出すかとゼラチンを使えるか
目標は、冷凍する前と同じ口当たり——なめらかで、気泡が残っていて、水が出ない——で食べることです。作り方は3つあり、次の2つを選ぶと1つに絞れます。
解凍して出すか、凍ったまま出すか。 解凍して出すなら、固めたものが氷に耐えなければなりません。凍ったまま出すなら、氷そのものが固めるので、ゼラチンは要りません。
ゼラチンを使えるか。 宗教やヴィーガンの指定、口溶けの指定で使えないなら、固める材料を氷に耐える別のものに替えます。
速く凍らせて、短く置くほど崩れにくい
崩れにくくするのは、速く凍らせることと、置く日数を短くすることです。急速冷凍機が無ければ、層を薄く分けて、凍る速さを近づけます。
日をまたいで置くなら、凍ったまま出すか、ゼラチン以外で固めます。扉の開け閉めで庫内の温度が上下するたびに、溶けかけた氷が凍り直して粒が育ち(冷凍で壊れる4つの理由)、ゼラチンが抱えた水を逃がすからです。何日持つかは、置いた日数ごとに出る水の量で確かめます。
ムースは冷凍で3か所が壊れる——水を抱える網、気泡、油の粒
ゼラチンで固めるふつうのムースは、水を抱えるゼラチンの網、軽さを作る気泡、生クリームとチョコレートの油の粒の3つでできています。冷凍は、この3か所を別々の理由で壊します。
ゼラチンは水を抱えた網で、氷がその網を破る
ゼラチンは冷えると、細い糸が絡み合った網になり、その隙間に水を抱えます。ゼリーや煮こごりがプルンと固まっているのは、この網目(あみめ)が水を抱えているからです(ゲル化の科学)。
凍らせると、水は氷になって体積を増やし、網目を内側から破ります(凍結と解凍の科学)。解凍すると氷は水に戻りますが、破れた網目は戻らず、抱えきれない水が外に出ます。これが離水(りすい)で、型の縁の水の線の正体です。
ムースの網目も同じゼラチンです。だから解凍して出すなら、網目を密にして凍る水を減らすか、氷に耐える材料に替えます。
気泡は、ゆっくり凍ると大きく育った氷の粒に押し潰される
ムースの軽さは気泡で、卵白のタンパク質の膜か、生クリームの脂肪の骨組みが空気を囲んでいます(メレンゲと生クリームの違い)。
ゆっくり凍ると氷の粒が大きく育ち、気泡の膜を押し広げて潰します。
舌に粒として残る大きさまで育つのを、アイスクリームは撹拌と急速冷却と糖・脂肪で抑えています(結晶化の科学)。型に流してから凍らせるムースは撹拌が使えないので、速く凍らせる・糖・脂肪の3つで守ります。
生クリームとチョコレートの油の粒は、氷に押しのけられてくっつく
生クリームもガナッシュも、水の中に油の粒が細かく散った状態(乳化)です。
水が氷になると、氷が場所を取って油の粒を押しのけ、押しのけられた油同士がくっつきます。くっついた油は解凍しても元の粒には戻らず(冷凍で壊れる4つの理由)、舌に残るざらつきと、表面に浮く油になります。
だから油の粒には、速く凍らせることと、ガナッシュと生クリームの温度差で油が分かれないように合わせる温度で手を打ちます。
作り方ごとに、変えるものが違う——糖・脂肪・固形分・ゼラチン・固める材料
変えられるのは、配合の5つと凍らせ方です。
| 変えるもの | ゼラチン+解凍 | 凍ったまま | ゼラチンなし+解凍 |
|---|---|---|---|
| 糖(配合全体に対する重さ) | 15%以上 | 20%以上 | 15%以上 |
| 生クリームの乳脂肪 | 35%以上 | 35%以上(型から抜いて切るなら42%以上) | 35%以上 |
| 固形分(ピューレを煮詰めて減らす重さの割合) | 2〜3割 | 2〜3割 | 2〜3割 |
| ゼラチン(液体に対する重さ) | 3% | 使わない | 使わない |
| 固める材料 | ゼラチン | 氷そのもの | 冷凍対応アガー・キサンタンガム・カカオ脂のどれか |
出典: 糖15〜20%は結晶化の科学のアイスクリームの値で、ムースで測った値ではないので下限として使い、離水率で確かめます。ゼラチン2〜5%はゲル化の科学、乳脂肪35%はメレンゲと生クリームの違い、42%ははちみつのセミフレッドの作り比べ。US 4,663,176(ゼラチン不使用の冷凍ムースの特許)の例は糖20〜28%で、推奨値ではなく参照値。凍らせ方と解凍は3つに共通(「うまくいかせる条件」)。
ゼラチンで固めて解凍して出すなら、ゼラチンを3%にして、網目で凍る水を減らす
網目を密にして、網目の周りで凍る水を減らします。
ゼラチンは液体に対して3%にします。5%に近づけると網目が密になりすぎて固く、口の中で溶けにくくなります。
糖は減らしません。甘さを下げたいなら、果汁やヨーグルトの酸で甘さを抑えます。
凍ったまま出すムースグラッセなら、ゼラチンは要らない——糖と脂肪と気泡が口当たりを作る
糖は配合全体の20%以上にします。糖が溶けているほど水は凍りにくくなり、凍らない水が口当たりの柔らかさになります。
生クリームは乳脂肪35%以上で立てます。型から抜いて切り分けるなら42%以上にします。
空気は、生クリームを角が立つ手前の柔らかさで止め、切るように混ぜて潰さないことで残します。
ゼラチンを使えないのに解凍して出すなら、固める材料を氷に耐えるものに替える
網目を氷に耐えるものに替えるか、チョコレートならガナッシュのカカオ脂に固める役を任せます。
| 固める材料 | 液体に対する重さ(%) | 溶かし方 | 溶かす・合わせる温度(℃) | 向くムース |
|---|---|---|---|---|
| 冷凍対応アガー | 1.3〜2.0 | 液に加えて煮る | 85以上(鍋底から泡が続けて上がる) | 加熱できる液(牛乳・煮詰めたピューレ) |
| キサンタンガム | 0.01〜0.2 | 砂糖に混ぜてから液に溶かす | 加熱なし | 加熱したくない液(果汁) |
| カカオ脂 | 量らない(ガナッシュのまま) | 冷ましたガナッシュに、柔らかく立てた生クリームを合わせる | 40〜45(指で触れて熱くない) | チョコレート |
出典: アガーの量と温度は新田ゼラチン「クールアガーフローズン」の標準使用量(13〜20g/1000ml・85℃以上)、キサンタンガムはハイドロコロイド(冷凍解凍耐性・加熱不要・ダマにしない溶かし方)、カカオ脂の温度は Dessertisans のレシピの値。
チョコレート・フルーツ・チーズで、先に守る場所が変わる
| ムース | 冷凍で先に壊れる場所 | 先にすること |
|---|---|---|
| チョコレート | 油の粒 | ガナッシュを40〜45℃に冷ましてから生クリームを合わせる |
| フルーツ | 網目 | ピューレを煮詰めて2〜3割減らす |
| チーズ | 気泡 | 生クリームを立てすぎず、空気を残す |
出典: 水の割合は日本食品標準成分表2020年版(八訂)(クリームチーズ55%、いちご90%、マンゴー82%)。
自分の配合で確かめる——離水率・断面・形を測る
配合は型の高さ・材料の水分・冷凍庫で変わるので、自分の配合で測ります。
| 測るもの | 測り方 | 合格の目安 |
|---|---|---|
| 離水率(%) | 解凍の前後で量り、減った分 ÷ 解凍前の重さ | 拭き取れる水が出ない |
| 断面 | 解凍後に温めた包丁で切り、氷の粒の跡(小さな穴)を見る | 穴が目で見えない |
| 形(分) | 皿に出して室温20℃に置き、縁が沈み始めるまでの時間を測る | 食べるまでに要る時間より長い |
形を測るとき、室温に置くのは2時間まで(調理後の食品は2時間以内に食べる)で打ち切ります。
試作の順番は、出し方を先に選び、糖、ゼラチンの順に1段階ずつ変えます。同時に変えると、離水率を減らしたのがどちらなのか分かりません。
うまくいかせる条件
| 工程 | 条件(かっこは確かめ方) |
|---|---|
| 生クリームを立てる | 5〜10℃ |
| ゼラチン液を合わせる | 人肌まで冷ましてから |
| 層に分ける | 厚さ2cm前後 |
| 凍らせる | 金属トレーに密閉し、−1〜−5℃を30分以内(中心に刺した温度計で測る) |
| 解凍する | 冷蔵庫10℃以下、ラップのまま。カット約2時間、ホール約12時間(竹串が通る) |
| 凍ったまま出す | −6〜−10℃。室温25℃で5〜10分、冬場は10〜15分(表面に薄く汗) |
| 再冷凍 | しない |
高さが要るホールは、層ごとに凍らせてから重ねます。出典: 生クリームの温度はメレンゲと生クリームの違い、−1〜−5℃を30分以内は凍結と解凍の科学。解凍の目安は通販の冷凍ケーキの案内の値で、ムース固有の値ではなく、厚さで変わります。出す温度と室温に置く時間ははちみつのセミフレッドの値。
まとめ:出し方で変えるものが変わり、ムースの種類で先に守る場所が変わる
- 最初に選ぶのは、解凍して出すか、凍ったまま出すかです。次に、ゼラチンを使えるか。日をまたいで置くなら、ゼラチン以外で固めるか凍ったまま出します
- 壊れるのは網目・気泡・油の粒の3か所です。変えられるのは糖・脂肪・固形分・ゼラチン・固める材料と、凍らせ方です。先に守る場所はムースの種類で変わります
- 分量は自分の型と材料で、離水率・断面・形で選びます。糖とゼラチンを同時に変えません
よくある失敗と対策
離水した部分的
- なぜ
- 氷の粒がゼラチンの網目を破り、解凍後に抱えていた水が破れた網目から抜けました
- どうする
- 出た水を拭き、切り分けて出します。破れた網目は戻らないので、置くほど水が出ます
- 次から
- ゼラチンを3%に近づけ、固形分を上げ、2cm前後の層に分けて急速冷凍します
ザラつく・ボソボソする部分的
- なぜ
- ゆっくり凍る間に氷の粒が舌に残る大きさまで育ち、気泡の膜を押し潰して粒として残りました
- どうする
- 育った氷の粒は解凍しても戻りません。切り分けて出すか、作り直します
- 次から
- 糖を配合全体の15%以上にし、2cm前後の層で−1〜−5℃を30分以内に通過させます
潰れた・しぼんだ部分的
- なぜ
- 常温解凍で生クリームの脂肪の結晶が溶け、気泡を支える脂肪の骨組みが崩れました
- どうする
- 冷蔵庫に戻すと脂肪が固まって沈むのは止まりますが、潰れた気泡は戻りません
- 次から
- 冷蔵庫10℃以下でラップのまま解凍し、食べる直前まで冷蔵に置きます
参考文献
- 森永製菓 よくあるご質問「クックゼラチンで作ったゼリーは冷凍保存できますか」(ゼラチンゼリーは解凍で離水し、食感がボソボソになる)
- マルハニチロ(umios)よくあるご質問 デザートの素(ゼライス・寒天のゼリーは冷凍に適さない。1袋5gで250ml、10〜15℃以下で固まる)
- 新田ゼラチン プロショップ「クールアガーフローズン」(冷凍・解凍に対応したゲル化剤製剤。標準使用量13〜20g/1000ml、85℃以上で溶解)
ほか5件を見る
- US Patent 4,663,176 Frozen mousse and method of making same(ゼラチン不使用の冷凍ムースの組成例: 糖20〜28%・総脂肪19〜25%。20℃で4時間形を保つ)
- Ice Cream Science: Sugar in Ice Cream(糖の分子量と凝固点降下。ブドウ糖・果糖はショ糖の約2倍)
- HugKum(小学館)冷凍ケーキの解凍方法(1カット約2時間・ホール約12時間を冷蔵庫で。通販の冷凍ケーキの案内で、ムース固有の値ではない)
- 日本食品標準成分表2020年版(八訂)文部科学省(水分: クリームチーズ 55.5g、いちご 90.0g、マンゴー 82.0g/100g)
- Dessertisans: Dark Chocolate Mousse for Entremet Mousse Cakes(ゼラチン無しのガナッシュベース。ガナッシュを40〜45℃に冷ましてクリームを合わせ、型で凍らせる。耐性の測定ではない)