この記事でわかること
- 中華の湯(タン)とは
- 鶏・豚の骨や肉から、うま味を先に引いておく液体。塩も脂もほぼ0
- 中国料理はなぜ湯を土台に置くのか
- 味精が出る前は湯でしかうま味を作れず、炒めの60〜90秒では引く時間も足りない
- 清湯と白湯の使い分け
- 汁を飲む料理は清湯、汁の厚みで食べる料理は白湯、炒めは毛湯
- 鶏ガラスープの素で代える量
- 湯100mlに約1.7g。入る塩約0.8gの分、醤油を小さじ1弱引く
- 和のだしとの違い
- 和は料理ごとに引き、中華は一鍋を持って料理で使い分ける
中華のレシピの材料欄には、「湯(タン)200ml」「鶏ガラスープ 大さじ1」のように、水の代わりにスープを入れる行がよく出てきます。宮保鶏丁(ゴンバオジーディン)の合わせ調味にも大さじ1、麻婆豆腐にも250ml入ります。
湯(タン)は、鶏や豚の骨・肉から、うま味を先に引いておく液体です。中国料理は、この液体を水の代わりに使って、料理の味の土台にしてきました。
この記事では、中国料理が湯を味の土台に置いた理由、清湯(チンタン)と白湯(パイタン)をどの料理に使い分けるか、家で鶏ガラスープの素に代えるときの量と塩の直し方を扱います。
湯の取り方(材料・火加減・時間)は中華スープの種類に、湯の上に載せる合わせ調味の比率は中華の合わせ調味料にあります。
湯と油・合わせ調味・とろみの6つの技法が、五味調和・色香味形・医食同源のどれを支えるかは中国料理の技法にあります。
中華の湯は、うま味を先に引いておく液体
中国語では、うま味を鮮味(シエンウェイ)と呼びます。山東料理は湯を「百鮮の源」と呼び、澄んだ清湯と乳白の奶湯(ナイタン)を、料理によって使い分けてきました。
湯は使う料理で4つに分かれます。
| 湯 | 見た目と味 | 使う料理 | 料理の例 |
|---|---|---|---|
| 毛湯(マオタン)・二湯(アールタン) | 少し濁る | 汁が少し入る炒め・煮物 | 炒めの合わせ調味、麻婆豆腐、エビチリ |
| 清湯 | 澄んで、うま味がすっきりしている | 汁を飲む料理、白い野菜を湯で見せる料理 | 開水白菜(カイシュイバイツァイ。四川)、清湯什錦(チンタンシージン。山東) |
| 上湯(シャンタン) | 澄んで、乾物のうま味が重なる | 宴席の料理、青菜を湯で煮る料理 | 上湯菜心(シャンタンツァイシン。広東) |
| 白湯(山東では奶湯) | 乳白で、とろみがある | 汁の厚みで食べる料理 | 奶湯蒲菜(ナイタンプーツァイ。蒲の新芽の白湯煮。山東)、白湯の鍋・麺 |
出典: 料理の例は新浪旅遊・網易号・DELISH KITCHEN(references)、毛湯の用途は中華スープの種類。
毛湯は鶏ガラや豚骨を弱火で約3時間煮出す湯で、清湯・上湯・二湯の起点です。
清湯は毛湯を挽き肉で澄ませて作るほか、水から挽き肉で直接取る作り方もあります。上湯は清湯に金華ハムなどの乾物のうま味を足したもの、二湯は一度取ったあとの材料に水を足して取り直した湯です。
白湯は豚足やもみじのようにコラーゲンと脂の多い材料を沸かし続けて白く濁らせた、別の系統です(中華スープの種類)。
レシピの「高湯(ガオタン)」は、肉や鶏・鴨を煮た湯、または湯一般を指します。
湯を土台に置いた理由
味精が出る前、うま味は湯でしか作れなかった
中国の料理界には「唱戯的腔、当兵的槍、厨子的湯」という言い回しがあります。役者には声、兵には銃、料理人には湯、という意味です。台湾の新聞も「唱戲的腔,廚師的湯」と引き、湯を作れない料理人は立っていけないと書いています。
中国の調査報道は、味精(ウェイジン。うま味調味料)の無い時代に鮮味を出せたのは、鶏・牛・豚・海鮮から長く炊いた湯だったと説明しています。
昔の山東料理の店には「一鍋湯(イーグオタン)」という言い方があり、料理の前に湯を一鍋炊いておき、使い切ったら客がいても店を閉めたといいます。
同じ記事は、のちに味精が広まり、湯を炊くより味精を振るほうが手早くなったと書いています。家の台所にある鶏ガラスープの素も、原材料にチキンエキスと調味料(アミノ酸等)が並びます。
炒めの60〜90秒では、具からうま味を引く時間が足りない
家のコンロの炒めは、1回150〜200gまでで、もやし200gなら60〜90秒で仕上げます(中華の火加減)。
肉と骨のうま味は時間をかけて出てきます。毛湯は弱火で約3時間炊きます(中華スープの種類)。炒めの90秒は、その約120分の1です。
炒めのあいだに具から汁に出るうま味の量を測った資料は見つからなかったので、ここは時間の比からの見立てです。
そこで、先に何時間もかけて引いた湯を、炒めの最後に少しだけ足します。宮保鶏丁の合わせ調味(碗汁〈ワンジー〉)は、鶏むね300〜350gに対して湯が15gです(中華の合わせ調味料)。
大さじ1の湯には、3時間かけて骨から引いたうま味が入っています。
湯は塩も脂もほぼ0なので、塩と香りを別に足せる
| 液体(100g当たり) | 脂質(g) | 食塩相当量(g) |
|---|---|---|
| 中華だし | 0.0 | 0.1 |
| 鶏がらだし | 0.4 | 0.1 |
出典: 日本食品標準成分表2020年版(八訂)だし類(日本料理のうま味の表と同じ値)。
湯が運ぶのはうま味だけで、塩と脂はほとんど入りません。だから中国料理は、塩を醤油と塩で、香りを油で、とろみを片栗粉で、湯とは別に入れて量を変えられます。香りを油に移す工程は香味油、とろみは中華のとろみにあります。
清湯と白湯は、汁の量と色で選ぶ
汁を飲み、素材の色を見せる料理は清湯
開水白菜は、白菜の芯を澄んだ清湯に浸して出す四川の料理です。開水は中国語で沸かした水のことで、清湯がただのお湯に見えるほど澄んでいることを名前にしています。
清湯は濁りが無いので、白菜や豆腐、青菜の色がそのまま見えます。汁を飲む料理では、湯の味がそのまま料理の味になります。上湯菜心のように青菜を湯で煮る広東の料理は、清湯にさらに乾物のうま味を重ねた上湯を使います。
清湯は沸かすと濁ります。表面がかすかに揺れる94℃前後に保ちます(中華の火加減)。
汁の厚みで食べる料理は白湯(奶湯)
白湯は、骨から出たゼラチンが脂を水に細かく散らして白く濁ったものです(中華スープの種類)。口に入れると、清湯より厚みととろみがあります。
山東料理の奶湯蒲菜は、淡い蒲の新芽を乳白の湯で煮て、湯の厚みで食べさせます。家では白湯を鍋や麺の汁にし、具よりも汁を味わう料理に使います。
白湯は約100℃で沸かし続け、強火で沸かしてから中火で2〜3時間炊きます(中華の火加減)。材料を多く使う業務用の白湯は6時間炊きます(中華スープの種類)。
汁が少し入るだけの炒めと煮物は毛湯
炒めの合わせ調味に入る湯は大さじ1前後、麻婆豆腐でも豆腐約500gに湯250mlです(中華のとろみ)。醤油や豆板醤の色と味が上に重なるので、湯が澄んでいるかどうかは皿に出ません。
こうした毎日の料理には、澄ませる手間をかけない毛湯や、一度取ったあとの材料から取り直した二湯を使います。
| 料理で何を見せるか | 選ぶ湯 |
|---|---|
| 汁を飲む、素材の色を見せる | 清湯(宴席なら上湯) |
| 汁の厚みととろみを味わう | 白湯 |
| 汁は少なく、醤油や豆板醤で色をつける | 毛湯・二湯、または鶏ガラスープの素 |
家で代えるときの量
家で湯を取るなら、清湯は水から挽き肉で取ると30分で済みます。水2Lに鶏ひき肉350gと豚赤身ひき肉を使います(中華スープの種類)。取る時間が無いときは、鶏ガラスープの素で代えます。
鶏ガラスープの素は「湯と塩」が1さじになっている
味の素の丸鶏がらスープは、小さじ1杯が約2.5gで、その中に食塩相当量1.2gが入っています。重さの約半分が塩です。
メーカーの目安は、スープなら水600mlに小さじ4杯(約10g)です。湯100mlに直すと約1.7g(小さじ2/3)で、塩が約0.8g入ります。汁の塩分は約0.8%で、そのまま飲めるスープの塩加減になっています。
本物の湯は、同じ100mlに塩が0.1gしかありません。素で代えると、湯と一緒に塩が入ってきます。レシピがそのあと醤油や塩を足すなら、塩が二重になります。
レシピの湯の量ごとに、素と引く醤油を見る
レシピの湯を素で代えるときの量です。
| レシピの湯(ml) | 料理の例 | 鶏ガラスープの素(g) | 計量(小さじ) | 素から入る塩(g) | 直し方 |
|---|---|---|---|---|---|
| 15 | 炒めの合わせ調味 | 0.25 | 1/10 | 0.12 | 水で代えるか、素をひとつまみ |
| 200 | あんかけ | 3.3 | 1と1/3 | 1.6 | 醤油を小さじ2弱引く |
| 250 | 麻婆豆腐 | 4.2 | 1と2/3 | 2.0 | 醤油を小さじ2と1/3引く |
| 1000 | 酸辣湯(スーラータン)などのスープ | 16.7 | 6と2/3 | 8.0 | レシピの塩を入れずに味を見る |
出典: 味の素「丸鶏がらスープ」(小さじ1=約2.5gで食塩相当量1.2g、スープは水600mlに小さじ4杯)から、湯100mlに約1.7gとして換算。醤油は日本食品標準成分表(八訂)の濃口醤油で、小さじ1(6g)に塩約0.87g。
湯が100ml以上なら、素から入る塩は醤油小さじ1弱以上になります。醤油を引くと醤油の香りも減るので、香りを残したいときは、素を目安の半量にして醤油はレシピどおりにします。
白湯の白さととろみは、顆粒では出ない
鶏ガラスープの素は、小さじ1杯(2.5g)にたん白質が0.34gしかありません。白湯の白さととろみを作る骨のゼラチンは、顆粒からはほとんど入りません。
素で代えられるのは、毛湯と清湯の役目(うま味を足す)までです。白湯の料理を家で作るなら、手羽先や豚足のようにコラーゲンの多い部位を沸かし続けて取ります(中華スープの種類)。
合わせ調味・とろみ・香味油・明油との違い
同じ鍋で使う中国料理の技法を、鍋に入る順に並べます。
| 技法 | 何をするか | 鍋に入るとき |
|---|---|---|
| 熟油(シューヨウ) | 油の臭みを飛ばしておく | 使う前 |
| 湯 | うま味を先に引いておき、水の代わりに入れる | 炒めは合わせ調味と一緒に、煮る料理とスープは最初から |
| 香味油 | 油に香りを移す | 炒め始め |
| 合わせ調味(碗汁) | 砂糖・酢・醤油・片栗粉を、湯か酒と碗で合わせる | 加熱の最後に1回 |
| 勾芡(ゴウチエン) | 汁にとろみをつけて具にまとわせる | 味をととのえたあと |
| 明油(ミンヨウ) | 照りと香りの油をかける | とろみがついたあと |
湯は、ほかの技法が載る下の層です。合わせ調味の甘酢や醤油も、とろみのついた汁も、水ではなく湯で作るので、口に入る汁にはうま味が先に入っています。
湯を水で代えても、合わせ調味の比率ととろみの濃さは変わりません。変わるのは汁のうま味だけで、味が薄いと感じても、足りないのは塩ではなくうま味のことがあります。
和のだしは料理ごとに引き、中華の湯は一鍋を持っておく
日本料理もだしを味の土台に置きます。違うのは、うま味を引く材料と、液体の持ち方です。
| 比べるもの | 和のだし | 中華の湯 |
|---|---|---|
| 主な材料 | 昆布・かつお節 | 鶏ガラ・豚骨・肉、乾物(金華ハム・干し貝柱) |
| うま味が出る速さ | 早く出きる | 骨から長く出続ける(毛湯で約3時間) |
| 取り直しの向き | 一番だしが頂点で、二番だしは薄くなる | 毛湯を土台に、澄ませて清湯、乾物を足して上湯と上に積む |
昆布とかつお節は成分が早く出きるので、和のだしは料理のたびに引き、最初の一番だしに力を入れます。
骨は長く出続けるので、中華の湯は寸胴鍋に一鍋を炊いて持っておき、料理によって、毛湯のまま使うか、澄ませて清湯にするか、乾物を足して上湯にするかを選びます。山東料理の「一鍋湯」は、この持ち方を言っています。
グルタミン酸とイノシン酸を重ねてうま味を強める組み立ては、和のだしと中華の湯で同じです(うま味の相乗効果)。
うまくいかせる条件
| こんなとき | どうする | 理由 |
|---|---|---|
| レシピの湯を鶏ガラスープの素で代える | 湯100mlに素約1.7g。素の塩(約0.8g)の分、醤油を小さじ1弱引く | 素は重さの約半分が塩で、湯の塩0.1gの約8倍入る |
| 醤油の香りを減らしたくない | 素を目安の半量にし、醤油はレシピどおり | 醤油を引くと香りも一緒に減る |
| 炒めの合わせ調味に湯が大さじ1 | 水で代えるか、素をひとつまみ | 素0.25gで塩0.12g。仕上がりの塩加減はほとんど動かない |
| 白菜・豆腐を澄んだ汁で見せる | 清湯を使い、94℃前後で沸かさない | 沸かすと脂が散って濁る |
| 汁の厚みで食べる鍋や麺 | 白湯を使う。家では手羽先や豚足を沸かし続けて取る | 白さととろみは骨のゼラチンから出て、顆粒からは出ない |
よくある失敗と対策
味が濃い・塩辛い部分的
- なぜ
- 鶏ガラスープの素は重さの約半分が食塩です。レシピの湯を素で代えたうえで、レシピどおりの醤油と塩を入れたので、塩が二重に入りました
- どうする
- 水か、塩を含まない湯でのばし、片栗粉でとろみをつける料理なら濃さを見て片栗粉を足します
- 次から
- 素から入る塩(湯100mlに約0.8g)を、先に醤油か塩から引いておきます
旨味が乗らない回復できる
- なぜ
- レシピの湯を水で代えたので、炒めや煮る短い時間では具からうま味が出きらず、うま味が足りません
- どうする
- 鶏ガラスープの素を湯100mlあたり約1.7gの割合で溶かして足し、足した素の塩の分だけ醤油を控えます
- 次から
- 湯が100ml以上入るレシピは、水ではなく湯か素を溶いた湯で作ります
だしが濁った部分的
- なぜ
- 清湯を沸騰させ続けたので、泡と対流で脂が細かく砕けて水に散り、光を散らして白く見えています
- どうする
- 濁った湯は白湯として煮込みや鍋に回し、澄ませたい料理の分は取り直します
- 次から
- 清湯は沸いたら火を落とし、表面がかすかに揺れる94℃前後に保ちます
中華の湯で押さえる4つ
中華の湯は、鶏や豚の骨・肉からうま味を先に引いておき、水の代わりに入れる液体です。
- 味精が出る前、中国料理は鮮味を湯で作ってきました。炒めの60〜90秒では具からうま味を引く時間が足りないので、何時間もかけて引いた湯を足します
- 湯は塩も脂もほぼ0で、うま味だけを運びます。塩・香り・とろみは、湯とは別に入れて量を変えます
- 汁を飲み素材の色を見せる料理は清湯、汁の厚みで食べる料理は白湯、汁が少し入るだけの炒めと煮物は毛湯を使います
- 鶏ガラスープの素で代えるなら、湯100mlに約1.7g。入る塩約0.8gの分、醤油を小さじ1弱引きます
湯の取り方は中華スープの種類に、和のだしがうま味で何を減らしたかは日本料理のうま味にあります。
参考文献
- 澎湃新聞(瞭望智庫)李浩然・王祁欣「鲁菜有啥资格做八大菜系之首?」2018年12月19日(「唱戏的腔,当兵的枪,厨子的汤」の俗語、味精の無い時代に鮮味を吊湯で出したこと、魯菜館の「一锅汤」、のちに味精が吊湯に代わったことについて)
- 工商時報 姚舜「『湯』藝復興〈The One〉喝出台灣風土」2020年7月3日(「唱戲的腔,廚師的湯」、湯ができない料理人は立っていけないという言い方について)
- 新浪旅遊「鲁菜的历史进化论」2009年10月19日(山東料理の清湯と奶湯の別、清湯は色清く鮮、奶湯は色白く醇、清湯什錦・奶湯蒲菜について)
ほか4件を見る
- 界面 二毛「八大菜系排第一,这就是鲁菜」(山東料理が湯を百鮮の源とし、清湯と奶湯を清濁分明に使い分けることについて)
- 網易号「粤菜通常用的上汤、高汤、清汤、头汤、二汤这些你都会做吗?」2017年9月16日(広東の上湯の材料と用途〈上湯菜心・魚翅撈飯〉、四川の清湯の用途〈開水白菜〉、二湯を一般の料理の調味に使うことについて)
- 味の素株式会社「丸鶏がらスープ」商品詳細(小さじ1杯約2.5g、スープ1杯分2.5gあたり食塩相当量1.2g・たん白質0.34g、4人前の使用量の目安 スープ〈水600ml〉小さじ4杯、原材料について)
- DELISH KITCHEN「パイタンスープのレシピや漢字の意味」2021年2月16日(白湯を麺・鍋・雑炊に使うことについて)