この記事でわかること
- 日本料理はうま味で何を減らしたか
- 脂。肉じゃがの脂はビーフシチューの約1割
- うま味で塩はどれだけ減らせるか
- 汁物なら、うま味を足して醤油を引くと約3割
- 和食はなぜうま味で味を支えるのか
- 肉を避けた時代が長く、脂を持たないだしが支えた
- 家のどの料理で効かせるか
- 煮含め・お浸し・椀物・炊き込みご飯
- フランス・中国料理との違い
- 土台の液体はどれも脂がほぼ0。違うのはそのあと
肉じゃがとビーフシチューは、どちらも肉と芋を煮た料理です。けれど食品成分表で比べると、100g当たりの脂は肉じゃが1.3g、ビーフシチュー12.6gで、10倍近く違います。
肉じゃがにはバターもルーも入っていません。味の厚みを出しているのは、だしと醤油と牛肉のうま味です。
うま味は昆布のグルタミン酸やかつお節・肉のイノシン酸が出す味で、日本料理ではだしと醤油・味噌がこれを運びます。日本料理は、脂で味の厚みを出す代わりに、うま味で味を支えてきました。
ただ、同じ成分表で塩を見ると、肉じゃがは1.2g、ビーフシチューは1.0gです。うま味が置き換えたのは脂で、塩ではありません。塩まで減らすには、もう1つ手を加えます。
この記事では、日本料理が味の厚みを何で出しているかを扱います。うま味で脂と塩がどれだけ減るか、家のどの料理で効かせるかまでを書きます。調味を比率で合わせる形は和食の「地」の体系、だしの引き方はだしの科学にあります。うま味・発酵調味料・地・切り方の4つが、引き算・余白・旬のどれを支えているかは日本料理の技法にまとめています。
日本料理は、脂の代わりにうま味で味の厚みを出す
同じ型の料理を並べると、脂の差と、塩の差の無さが一度に見えます。
| 料理(100g当たり) | 味の厚みを出すもの | 脂質(g) | 食塩相当量(g) |
|---|---|---|---|
| 肉じゃが | だし・醤油・牛肉のうま味 | 1.3 | 1.2 |
| ビーフシチュー | ルーのバター・肉の脂 | 12.6 | 1.0 |
| 筑前煮 | だし・醤油・鶏肉と干し椎茸のうま味(最初に油で炒める) | 3.5 | 1.1 |
| チキンシチュー | ルーのバター・牛乳・鶏肉の脂 | 8.0 | 0.7 |
出典: 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」調理済み流通食品類。市販の惣菜の標準的な配合から計算した値で、家の作り方で動きます。
脂は、和風の煮物が洋風の煮込みの1割から半分です。塩は、和風の煮物のほうが少し多くなっています。
和食の特徴として、うま味を上手に使うことで動物性油脂の少ない食生活になっていることが挙げられています。表の数字は脂についてその通りで、塩についてはそう言えません。
肉を避けた時代が長く、味は脂を持たないうま味が支えた
7世紀後半から1872年まで、牛や鶏の肉を避けてきた
675年、天武天皇は牛・馬・犬・猿・鶏の肉を食べることを禁じました(鹿や猪は対象の外です)。牛や鶏の肉を避ける習慣は、明治天皇が1872年に肉食を解くまで続きました。
そのあいだ、牛や鶏の脂で料理の味を濃くすることはできませんでした。その間に味の厚みを担ったのは、昆布とかつお節から引くだしと、大豆を発酵させた醤油と味噌のうま味だったと考えられます。
うま味は水に溶け、脂を持たない
うま味は、1908年に池田菊苗(いけだ きくなえ)が昆布のグルタミン酸として突き止めた基本味です。
うま味のもとは、昆布に多いグルタミン酸、かつお節に多いイノシン酸、干し椎茸に多いグアニル酸です(うま味の科学)。どれも水に溶けて出てきます。
| 土台の液体(100g当たり) | 脂質(g) | 食塩相当量(g) |
|---|---|---|
| かつお・昆布だし(荒節〈あらぶし〉) | 0.0 | 0.1 |
| 洋風だし | 0.0 | 0.5 |
| 中華だし | 0.0 | 0.1 |
| 鶏がらだし | 0.4 | 0.1 |
出典: 日本食品標準成分表2020年版(八訂)だし類。かつお・昆布だしの脂質は成分表では Tr(ごく微量)で、ここでは0.0と書いています。
土台の液体は、どの国のものも脂はほぼ0です。だしは、油を利用しない日本料理の核とされています。日本料理の煮物と汁物は、この液体に脂を足さずに仕上げます。
減ったのは脂で、塩は減っていない
肉と芋の煮込みで、脂は肉じゃがが約1割
肉じゃがとビーフシチューでは、脂は約10倍、エネルギーは78kcalと153kcalで約2倍違います。ビーフシチューの脂は、ルーを作るバターと、煮込む肉から出ます。
日本料理でも、油を使えば脂は増えます。筑前煮は最初に鶏肉と野菜を油で炒めるので3.5gあり、油で炒めてから煮る中国料理の八宝菜(3.2g)と変わりません。脂が少ないのは、油を使わずに、だしと醤油で煮る料理です。
塩は、和風の煮物のほうが少し多い
4品の比較表では、食塩相当量は和風の煮物のほうが0.1〜0.4g多くなっています。日本の成人は1日に平均10.0gの食塩をとっています(2016年の国民健康・栄養調査)。
家の和食のうま味は、だしだけでなく醤油と味噌からも入ります。醤油と味噌は、うま味と一緒に塩も運びます。うま味で味を支えるだけでは塩は減らず、塩を減らすには、うま味を足したうえで醤油を引く操作が要ります。醤油と味噌が塩と一緒に何をどれだけ運ぶかは和食の発酵調味料にあります。
汁物の塩は、うま味を足して醤油を引くと約3割減らせる
すまし汁は、塩を29%減らしても普通の味付けと同じ評価だった
すまし汁を3通りに作り、34人が中身を知らされずに食べ比べた試験があります。
| すまし汁1杯(水120g)の作り方 | 食塩相当量(g) | 普通の味付けからの減り(%) | おいしさの評価 |
|---|---|---|---|
| 普通の味付け | 0.75 | 0 | 基準 |
| 醤油だけ減らす | 0.58 | 23 | はっきり下がる |
| うま味を足して醤油を減らす | 0.53 | 29 | 普通の味付けと同じ |
出典: 石田・手塚 2011(日本栄養・食糧学会誌 64(5))。おいしさ・塩味の強さ・味全体の強さを7段階で評価し、「はっきり」は統計で差が出たもの。
同じ試験で、みそ汁も食塩相当量0.89gを0.70gまで、21%減らせました。足したのはうま味調味料ですが、一番だしは同じ組み合わせ(昆布のグルタミン酸とかつお節のイノシン酸)を素材から取っています。
汁を付けた献立で、ほかの品の塩をどう配るかは日本料理の献立で扱っています。
醤油だけ減らすと、塩味だけでなく味全体が弱くなる
醤油だけを減らした汁は、塩味の強さに加えて、味全体の強さまで下がりました。うま味を足した汁は、塩が少ないのに両方とも普通の味付けと並びました。
味が薄いと感じたとき、塩や醤油を足す前に、うま味の足りない側を足します。どちらが足りないかの見分け方は、グルタミン酸とイノシン酸の組み合わせの節にあります。
減らせるのは2〜3割まで
試験で確かめられたのは、汁物で21〜29%です。食品全体でうま味に置き換えた場合の推計でも、成人1日の食塩10.0gに対して最大22.3%(2.2g)でした。塩を半分まで減らせたという試験は、ここで調べた範囲にはありません。
家で効かせるのは、うま味を素材に吸わせて汁ごと食べる料理
うま味は水に溶けるので、液体と一緒に素材の中へ入ります。だから効くのは、だしを素材に吸わせる料理と、汁ごと食べる料理です。
煮物は、沸かさずに煮含めて、だしごと素材に吸わせる
大根・里芋・高野豆腐の煮物は、85〜90℃で沸騰させずに煮て、形を保ったまま煮汁を中へ入れます。これを煮含め(にふくめ)といいます(煮るの技術)。
煮汁の配合の基準は八方だし(だし8:醤油1:みりん1)で、醤油は液全体の10分の1まで薄まっています(和食の「地」の体系)。素材に入るのは、だしのうま味を多く含んだ薄い液です。
お浸しは、醤油をかけずにだしで割った地に浸す
茹でた青菜に醤油をそのままかけると、盛り付けたあとに葉から水が出て、味が薄まります(醤油洗い)。
お浸しは、醤油をだしで割った浸し地(ひたしじ)に青菜を浸して、味を含ませます。調味料を先に合わせた液に食材を浸す形は和食の「地」の体系と同じで、醤油はだしで薄まり、だしのうま味と一緒に葉に入ります。
椀物とみそ汁は、汁を飲むぶん塩の差がそのまま出る
すまし汁とみそ汁は、汁を全部飲みます。塩を減らした分が、そのまま食べる塩の量になります。うま味を足して醤油や味噌を引いた分が、そのまま減塩になります。
炊き込みご飯は、具のうま味を米が全部吸う
炊き込みご飯は、煮汁を捨てずに米が吸い切ります。自治体が出している献立の例を見ます。
| 項目 | あさりの炊き込みご飯(4人分) |
|---|---|
| 米と水 | 米2合、調味料を入れてから2合の線まで水 |
| 調味料 | 醤油大さじ1.5、酒大さじ1、みりん大さじ1 |
| 具 | あさり水煮缶、油揚げ(熱湯をかけて油抜き)、しいたけ、にんじん |
| 1人分の脂質 | 1.5g |
| 1人分の食塩相当量 | 0.9g |
出典: 川崎市幸区「あさりの炊きこみご飯」2021。
だしは使わず、しいたけと醤油のうま味を米に吸わせています。
グルタミン酸とイノシン酸は、だしと具で片方ずつ入れる
グルタミン酸とイノシン酸を合わせると、うま味は単独の約7〜8倍に強まり、1:1付近で最も強くなります。この1:1は成分の比で、食材の重さの比ではありません(うま味の相乗効果)。
両方をだしから入れる必要はありません。家の和食では、片方をだしや醤油から、もう片方を具から入れる組み合わせが多くあります。
| 料理 | グルタミン酸の側 | イノシン酸・グアニル酸の側 |
|---|---|---|
| すまし汁 | 昆布 | かつお節 |
| 肉じゃが | 玉ねぎ・醤油 | 牛肉 |
| 筑前煮 | 醤油 | 鶏肉・干し椎茸 |
| あさりの炊き込みご飯 | 醤油 | しいたけ |
昆布だけのだしなら、具に肉や魚を入れるか削り節を足します。かつおだけのだしなら、醤油や味噌、玉ねぎなどの野菜で反対側がそろいます。
フランスと中国はあとから脂を足し、日本の煮物は足さない
うま味の相乗を使うことは、日本料理だけのものではありません。フランスのフォンは香味野菜と骨や肉、中国の湯(タン)は野菜やハムと鶏・豚で、同じ組み合わせを作っています(うま味の相乗効果)。
違うのは、土台の液体を作ったあとに何をするかです。
| 料理体系 | 土台の液体 | そのあとに足す脂 | 量の例 |
|---|---|---|---|
| フランス料理 | フォン | 仕上げに溶かし込む冷たいバター(モンテ) | 鶏もものソテー2人分のソースにバター20g(脂質約16g) |
| 中国料理 | 毛湯(マオタン) | 炒め油 | 白湯(パイタン)は背脂ごと煮て白く濁らせる |
| 日本料理(煮物・汁物) | 一番だし | 足さない | 0g |
フォンは骨のゼラチンを含み、煮詰めるとソースの土台になります。毛湯は鶏ガラや豚骨を弱火で約3時間煮出します。
出典: フォン、バター、中国料理の湯。バターの脂質は成分表の有塩バター81.0g/100gから計算。
フランス料理はバターでソースにとろみとつやを出し、中国料理は油で炒めて脂を足します。日本料理のだしで煮る料理は、うま味を溶かした水をそのまま素材に入れて食べるので、脂を足す工程がありません。
うまくいかせる条件
| こんなとき | どうするか | 外すとどうなるか |
|---|---|---|
| 汁物の塩を減らす | 醤油や味噌を2〜3割まで引き、うま味の足りない側を足す | 3割を超えて減らした試験は無く、どこまで味が保てるかは分からない |
| 成分表の数値を家の料理に当てる | 惣菜の標準的な配合の値として読む | 肉の部位や油の量で脂は大きく動く |
| 油で炒めてから煮る(筑前煮など) | 炒め油は少量にとどめる | 脂は八宝菜並みになり、うま味で脂を減らした分が消える |
醤油を2〜3割引くとは、大さじ1(15ml)なら10.5〜12mlにすることです。
よくある失敗と対策
味が薄い・ぼやけた回復できる
- なぜ
- 塩を減らすと、塩味と一緒に味全体の強さも下がります。うま味を足さずに醤油だけを減らしたので、下がった分を埋めるものがありませんでした
- どうする
- 醤油を戻す前に、昆布だしなら削り節を、かつおだしなら昆布を足して温め直します
- 次から
- 塩を減らすときは、同時にうま味を足します。減らすのは2〜3割までにします
旨味が乗らない回復できる
- なぜ
- 昆布だけ、またはかつお節だけのだしで、グルタミン酸とイノシン酸の片方しかありません
- どうする
- 具かだしで、足りない側を足します。昆布だしなら削り節、かつおだしなら昆布か醤油です
- 次から
- だしと具で、2つの系統がそろうように組みます
味が濃い・塩辛い部分的
- なぜ
- 顆粒だしに、いつもの量の醤油と塩を重ねました。顆粒和風だしは重さの約4割が食塩です
- どうする
- 水か、塩を含まないだしで割ります
- 次から
- 顆粒だしを使うときは、醤油と塩を減らしてから味を見ます
うま味で押さえる4つ
日本料理は、肉の脂に頼らず、水に溶けるうま味で味の厚みを出してきました。
- 脂は減りました。肉と芋の煮込みで、肉じゃがの脂はビーフシチューの約1割です
- 塩は減っていません。醤油と味噌が、うま味と一緒に塩も運ぶからです
- 汁物の塩は、うま味を足して醤油を引くと約3割減らせます。確かめられているのはそこまでです
- 効くのは、煮含め・お浸し・椀物・炊き込みご飯のように、うま味を素材に吸わせて汁ごと食べる料理です
グルタミン酸とイノシン酸は、だしと具から片方ずつ入れれば、相乗の組み合わせになります。
参考文献
- 農林水産省「『和食』がユネスコ無形文化遺産に登録されています」(和食の4つの特徴。うま味を上手に使うことで動物性油脂の少ない食生活を実現)
- 農林水産省「だし・うま味について」(だしは油を利用しない日本料理の核)
- 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」本表(調理済み流通食品類の肉じゃが・ビーフシチュー等、だし類、バター、顆粒和風だしの脂質と食塩相当量)
ほか5件を見る
- 石田眞弓・手塚宏幸「うま味を利用した減塩料理の提案とその官能評価」日本栄養・食糧学会誌 64(5):305-311, 2011(すまし汁・みそ汁の食塩相当量とおいしさの評価)
- 東京大学プレスリリース「日本発のアプローチ『うま味』を活用した減塩インパクト」2023(成人の食塩摂取量10.0g/日、うま味で置き換えた場合の削減の推計)
- 佐藤成美「うま味とは」現代ビジネス(1908年に池田菊苗が昆布のうま味成分をグルタミン酸と突き止めた経緯)
- 石弘之「日本人の生命観(下)」nippon.com 2017(675年の肉食禁止令と1872年の解禁)
- 川崎市幸区「あさりの炊きこみご飯」2021(米2合の調味料と1人分の脂質・食塩相当量)