イタリア料理がシンプルな理由|入れないものと、足すときの止めどころ

イタリア料理がシンプルな理由|入れないものと、足すときの止めどころ

この記事でわかること

イタリア料理がシンプルな理由
料理の名前ごとに入れる素材の一覧があるから
本場のボロネーゼに入れないもの
にんにく・ハーブ・香辛料・ブランデー・粉・燻製
ナポリのピッツァの材料
生地は粉・水・塩・酵母、上はトマトと5つまで
ラグーの味が足りないとき
香りを足さず、煮る時間と最後の塩で直す
日本・フランス料理との違い
除くのでもソースを足すのでもなく、一覧の外を足さない

ボロネーゼのレシピを見ると、にんにくもハーブも入っていないことがあります。足せば香りは立ちそうです。それでもボローニャで登録された配合は、にんにく・ローズマリー・パセリを「認めない変化」として名指ししています。

イタリア料理がシンプルなのは、料理の名前ごとに入れる素材の一覧を持ち、一覧に無いものを足さないからです。この記事で原文を確かめたのは、ボローニャのラグーとピッツァ・ナポレターナの2つの一覧です。

この記事では、イタリア料理が1皿の素材をなぜ少なく保つのかと、登録された配合が何を入れて何を入れないか、足したくなったときにどこで止めるかを扱います。

日本・中国・フランス料理と並べたイタリア料理の違いはイタリア料理の特徴で扱います。ボローニャは豚の脂と卵のパスタ、ナポリはオリーブオイルと乾麺のように、土地ごとに脂と麺を揃えることはイタリア料理の地方の違いにあります。

素材を少なくすることと土地の料理を守ることが、それぞれ台所のどの場面に効くかはイタリア料理の考え方にまとめています。

料理の名前ごとに、入れる素材の一覧がある

ボローニャのラグー(挽肉のソース)は、料理の文化団体 Accademia Italiana della Cucina(アッカデミア・イタリアーナ・デッラ・クチーナ)が1982年にボローニャ商工会議所へ配合を登録し、2023年に改訂しました。

ナポリのピッツァは、EU が伝統的特産品保証(TSG。作り方や組成の伝統を名前と一緒に守る制度)に「ピッツァ・ナポレターナ」を登録し、材料と量を仕様書に書いています。

料理のどこ入れるもの入れないもの
ラグーの肉牛肉・生の豚ばら肉仔牛肉・燻製した豚ばら
ラグーの香り玉ねぎ・にんじん・セロリ・ワインにんにく・香草・香辛料・ブランデー
ラグーの汁ととろみトマト・ブロード・牛乳(任意)とろみ付けの小麦粉
ピッツァの生地小麦粉・水・塩・酵母油・砂糖
ピッツァの上(チーズあり)トマト・塩・モッツァレラ・バジル・オイルにんにく・オレガノ・ほかの具
ピッツァの上(チーズなし)トマト・塩・にんにく・オレガノ・オイルチーズ・ほかの具

出典: ラグーは Accademia の2023年の登録配合、ピッツァは EU 規則 No 97/2010。ピッツァの「入れないもの」は仕様書の材料の外にあるもの。

商工会議所の登録はラグーを含めて34件ありますが、カルボナーラの登録は見つけられませんでした。

ボローニャのラグーは、香草とにんにくを入れない

入れるのは、肉と香味野菜とトマトとワインと牛乳

2023年の登録配合は、6人分で次の量です(1982年版の材料は原文を確かめられませんでした)。

材料量(6人分)
牛肉の粗挽き400g
生の豚ばら肉(パンチェッタ・フレスカ)150g(薄切りを挽くか刻む)
玉ねぎ・にんじん・セロリ約60gずつ
トマトのパッサータ(裏ごし)200g
二倍濃縮トマトペースト大さじ1
エキストラバージンオリーブオイル大さじ3
ワイン(赤か白)グラス1杯
全乳(任意)グラス1杯
ブロード(軽いもの。固形スープの素や水でもよい)最初に熱いものを1カップ、以後は足す
塩・胡椒煮上がってから入れる(分量は原文に無い)

出典: Accademia の2023年の登録配合。単位は原文のまま(グラスの ml は無い)。鍋は直径24〜26cmの厚手。香味野菜はソッフリットの基本の2:1:1より玉ねぎが少ない。

手順は、豚ばら肉を油で溶かし、香味野菜を中弱火で玉ねぎが焦げた味にならないように炒め、火を上げて挽肉をジュージューいうまで約10分焼きます。

ワインを酒の匂いがしなくなるまで飛ばし、トマトを入れ、熱いブロードを足しながら蓋をして約2時間(3時間まで)煮ます。牛乳は途中で入れて吸わせ、塩と胡椒は最後に入れます。

煮上がりは濃いオレンジ色で、肉にまとわりつくクリーム状です。火加減の読み方はイタリア料理の火加減にあります。

外すのは香り・強い酒・粉、足してよいのは肉と野菜ときのこ

登録配合は、材料のほかに3つの一覧を持っています。

登録配合の区分ラグーに使うもの
認める変化牛約60%・豚約40%の合い挽き
認める変化包丁で刻んだ肉
認める変化塩漬けのパンチェッタ(平たいか巻いたもの)
認める変化ナツメグの香りを少し
認めない変化仔牛肉・豚肉だけ
認めない変化燻製したパンチェッタ
認めない変化にんにく・ローズマリー・パセリ・ほかの香草や香辛料
認めない変化ワインの代わりのブランデー
認めない変化とろみを付ける小麦粉
加えてよいもの鶏のレバー・心臓・砂肝
加えてよいもの皮を外してほぐした豚のソーセージ
加えてよいもの下茹でしたグリーンピース(仕上げに入れる)
加えてよいもの戻した乾燥ポルチーニ

出典: Accademia Italiana della Cucina の2023年の登録配合。

認めない側に並ぶのは、香りの強いもの(にんにく・香草・香辛料・ブランデー・燻製)と、とろみを粉で作ることです。加えてよい側に並ぶのは肉と野菜ときのこで、香りづけとして一覧に入っているのはナツメグだけです。

ピッツァ・ナポレターナは、材料も量も仕様書に書いてある

生地は粉・水・塩・酵母の4つ

仕様書の生地は、水1Lに塩50〜55gを溶かし、酵母3gを入れて、小麦粉を合わせて1.8kgまで足していく配合です。油も砂糖も入りません。

工程仕様書の値
水と塩水1Lに塩50〜55g
酵母と粉酵母3g、粉は合わせて1.8kg
1回目の発酵25℃で2時間
生地玉1個180〜250g
2回目の発酵室温で4〜6時間
焼く薪の窯で485℃、60〜90秒
焼き上がりの大きさ直径35cm以内、中央0.4cm、縁1〜2cm

出典: EU 規則 No 97/2010 の仕様書。

生地を伸ばすのは手だけで、麺棒やプレス機は使えません。仕様書が書く焼き上がりの合図は、縁が盛り上がって金色に焼け、全体がやわらかく、4つに折りたためることです。発酵の仕組みは発酵生地にあります。

上にのせるのは、トマトにモッツァレラかにんにく

上にのせる組み合わせは3通りで、どれもトマトの上に塩をふり、最後にオリーブオイルをかけます。

組み合わせトマト(g)チーズ(g)ほかにのせるものオイル(g)
チーズを使わない70〜100なしオレガノひとつまみ・にんにく1片の薄切り4〜5
水牛のモッツァレラ60〜8080〜100生のバジル数枚4〜5
モッツァレラ(TSG)60〜8080〜100生のバジル数枚4〜5

出典: EU 規則 No 97/2010 の仕様書。水牛のモッツァレラはモッツァレラ・ディ・ブーファラ・カンパーナ(DOP)。オイルは+20%まで認める。

チーズをのせるときはトマトを10〜20g減らし、オレガノとにんにくはチーズと同じ1枚にのせません。焼き上がりのトマトは、余分な水だけが抜けて形を保っています。

素材の数が少ない分、種類と状態まで書いてある

2つの文書は、素材の数を絞った分、種類と状態まで書いています。ラグーの豚ばら肉は生か塩漬けで、燻製は外します。

ピッツァのモッツァレラは原産地呼称(DOP)の水牛のものか TSG のもの、オリーブオイルはエキストラバージン、小麦粉は生地の強さ(W値)220〜380です。

この記事では、名前どおりの味に近づけたいなら、素材を足すより先に、一覧の素材をこの種類と状態に揃えることをすすめます。

足したくなったら、香りではなく手順と時間で直す

味が薄いときは、香りを足す前に手順を見直す

ラグーの味が薄いときに、にんにくやコンソメを足す前に、登録配合の手順と比べて次を確かめます。

  1. ワインを酒の匂いが消えるまで飛ばしたか
  2. 挽肉をジュージューいうまで約10分焼いたか
  3. 2時間で肉がまだ硬ければ、3時間まで延ばしたか
  4. 塩と胡椒を煮上がってから入れて、味を見たか

とろみが足りないときは、粉ではなく牛乳と煮る時間

小麦粉でとろみを付けることは、認めない変化に入っています。登録配合は、牛乳を途中で入れて吸わせ、ブロードを足しながら約2時間煮て、肉にまとわりつくクリーム状に仕上げます。

具を足したいときは、加えてよい一覧から

具を足すなら、鶏のレバー・心臓・砂肝、ほぐしたソーセージ、下茹でしたグリーンピース、戻した乾燥ポルチーニから選びます。どれも肉と野菜ときのこで、にんにくや香草のように香りを足すものは入っていません。

日本料理は除いて減らし、フランス料理はソースで足す

素材を少なく保つ料理は、イタリア料理だけではありません。違うのは、どうやって少なく保つかです。

料理体系少なく保つ方法足すもの
イタリア料理料理の名前ごとに入れる素材の一覧を持ち、一覧に無いものを足さない一覧の中の具(肉・野菜・きのこ)
日本料理下ごしらえでアク・臭み・脂と水を除き、調味を重ねない比率の決まった地と、食べる直前の薬味
フランス料理主素材はそのまま焼くか茹でるフォンから作ったソースを、別の鍋で作って添える

出典: 日本料理の引き算、フランス料理の母ソース。

日本料理は皿の上で隠せないものを先に除き、フランス料理は皿の上でソースを足します。イタリア料理は、鍋に入れる前に、入れてよいものの一覧で止めます。

うまくいかせる条件

こんなときどうするか登録配合のどこ
合い挽き肉で作りたい牛6:豚4まで。豚だけは使わない認める変化
パンチェッタが手に入らない生の豚ばら肉の薄切り150gを細かく刻む材料は生の豚ばら肉
燻製のベーコンしか無いボロネーゼとしては使わない燻製は認めない変化
牛の部位を選ぶすね・肩・ばらのようなコラーゲンの多い部位伝統の横隔膜が無いときのすすめ
香りを少し足したいナツメグをひとふりだけ認める変化はナツメグだけ
ブロードが無い水で煮る原文が水でもよいとしている
家庭のオーブンでピッツァを焼くトマト・チーズ・オイルの量だけ仕様書に揃える485℃で60〜90秒の薪窯は家庭で再現できない

よくある失敗と対策

苦い・えぐい諦める
なぜ
ソッフリットを強い火で炒め、玉ねぎの糖が焦げて苦みになり、2時間煮る間にラグー全体へ移りました
どうする
焦げた味は抜けません。香味野菜を刻み直し、鍋を替えて炒め直します
次から
中弱火で木べらで混ぜ続け、玉ねぎが透き通ってしんなりしたら肉に進みます
アルコール臭が残った回復できる
なぜ
ワインのアルコールが飛びきらないうちにトマトを入れて蓋をし、酒の匂いが鍋に残りました
どうする
蓋を外して火を上げ、酒の匂いが立たなくなるまで煮立てます
次から
ワインを注いだら、鍋から酒の匂いがしなくなるまで飛ばしてからトマトを入れます
煮汁が減りすぎた部分的
なぜ
2時間の間にブロードを足さず、水が減って鍋底の肉とトマトの糖が焦げつきました
どうする
底をこそげずに上だけ別の鍋へ移し、熱いブロードを足して煮直します
次から
表面が肉より下がったら、熱いブロードを足しながら蓋をして煮ます
衣・皮がベチャッとした部分的
なぜ
トマトを仕様書の60〜80gより多くのせ、焼く間に抜けきらなかったトマトの水が、生地の中央に残ったと考えられます
どうする
残りの生地では、トマトを量って60〜80gにしてからのせます
次から
生地玉180〜250gに、トマトはチーズありで60〜80g、なしで70〜100gにします

シンプルさを守る3つ

イタリア料理のシンプルさは、素材の数を少なくすることそのものより、料理の名前ごとに入れる素材の一覧を持ち、一覧に無いものを足さないことです。

  • 登録されたラグーとピッツァ・ナポレターナは、入れる素材と入れない素材を名指ししています
  • 具を足すなら、加えてよい一覧の肉・野菜・きのこから選びます
  • 味が足りないときは、香りを足す前に、ワインを飛ばす・肉を焼く・煮る時間・最後の塩を見直します