日本料理の引き算|アク・臭み・脂と水の抜きどころと、重ねない調味

日本料理の引き算|アク・臭み・脂と水の抜きどころと、重ねない調味

この記事でわかること

日本料理の引き算とは
アク・臭み・脂と水を除き、調味を重ねないこと
霜降りの湯の温度
魚は80〜90℃、肉は沸いた湯に10〜15秒
青菜の下茹では何秒か
合わせて1分以内。えぐみは湯ごと捨てる
どこで引くのをやめるか
汁ごと食べる・油で調理するなら引かない
フランス・中国料理との違い
どちらも引くが、引いたあと香りや脂を足す

煮魚のレシピに「霜降りする」とあります。省いても煮魚はできます。それでも和食のレシピは、霜降り、アク取り、下茹で、塩をして出た水を拭く、と火にかける前の手間が多くあります。

どれも、素材に無いものを足す工程ではありません。素材の中にある邪魔なものを、先に外へ出して捨てる工程です。日本料理の「引き算」は、この除く工程と、除いたあとに味を重ねすぎないことを合わせた呼び名です。

この記事では、日本料理の引き算のうち、素材から何を除いてどこで止めるかと、調味をどう重ねないかを扱います。器と量に空きを残す盛り方は日本料理の余白で扱い、同じ食材を季節の時期で食べ分けることは日本料理の旬で扱っています。旬・引き算・余白の3つが台所のどの場面に効くかは、日本料理の考え方にまとめています。

日本料理が引くのは、アク・臭み・脂と水、重ねた調味

引くものは4つに分かれます。

引くものおもなやり方目安(時間・温度・比率)やりすぎたときに失うもの
アク・えぐみ青菜を茹でて湯を捨てる/ナスやごぼうを水にさらす/煮汁の泡をすくう青菜は合わせて1分以内、ナスは2〜3分ビタミンCやカリウム、味のもとも水に出る
臭み・ぬめり熱湯をかけて冷水で洗う(霜降り)魚は80〜90℃、肉は沸いた湯に10〜15秒100℃で魚の皮がめくれ、身に火が入る
余分な脂と水塩をして出た水を拭く/湯で脂を落とす魚は重さの1〜2%の塩で10〜20分塩が入りすぎて塩辛くなる
重ねた調味合わせた地で一度に味を入れ、薬味は食べる直前に添える八方だしはだし8:醤油1:みりん1塩で埋めると味がぼやける

出典: 茹で方のコツ、霜降り、浸透圧の科学、和食の「地」の体系。ナスは references のトクバイ。

アク・臭み・脂と水は、素材から除く引き算です。重ねた調味は、素材に無いものを重ねない引き算です。

和食が引くのは、雑味を覆うものが無いから

和食の特徴として、多様で新鮮な食材と「その持ち味の尊重」、そしてうま味を上手に使うことで動物性油脂の少ない食生活になっていることが挙げられています。

持ち味を主役にする料理は、土台の味が薄くなります。すまし汁なら、水120gに対して食塩相当量は0.75gほどです(日本料理のうま味)。出汁はゼラチンもバターも持たないので、とろみや脂で口の中を覆うこともありません。

覆うものが無いので、アクのえぐみも魚の臭みも、汁と煮物にそのまま出ます。日本料理は、皿の上で隠せないものを、火にかける前に除いておく料理です。

アクとえぐみは、水と湯に出して取り除く

アクは、えぐみ・渋み・苦みのもとになる成分と、煮汁に浮く泡をまとめた呼び名です。野菜のアクは水に溶けるものが多く、湯や水に出してから捨てます。煮汁に浮いたアクは、すくって取ります。

青菜は沸いた湯で1分以内。えぐみは湯ごと捨てる

ほうれん草は、野菜の10倍の湯で、茎から入れて約30秒、葉を沈めて約10秒、合わせて1分以内に茹でます。茎を指でつまんで、生の張りが抜けていれば引き上げます(茹で方のコツ)。

えぐみのもとのシュウ酸は、茹でると湯へ出ます。9種類の野菜を茹でた実験では、水に溶けるシュウ酸が30〜87%減り、減った分はほぼすべて茹で汁から見つかりました。おひたしで茹で湯を捨てるのは、えぐみを湯ごと捨てるためです。

ただし、湯はえぐみだけを選んで抜くことはできません。同じ湯に、ほうれん草のビタミンCは100g当たり35mgから13mgへ、カリウムは690mgから343mgへ出ていきます。

ナスとごぼうは水にさらす。長くさらすと味も抜ける

ナスは切ったら水に2〜3分さらします。

ごぼうを40分水にさらす工程では、アクと変色のもとになるポリフェノールが減りました。

白く仕上げたい酢の物や炊き合わせでは、さらす時間を取ります。醤油で色を付けて煮るなら、切り口の変色を止める数分で切り上げます。

煮汁のアクは、浮いている間にすくう

肉や骨を水から煮ると、40〜60℃のあいだに水に溶けるたんぱく質が出ていき、80℃を超えると固まって泡として浮きます。

骨付きの肉や鶏ガラを水から火にかけるのはこのためです。沸いた湯に入れると表面が先に固まり、血やアクが中に残ります(湯引きによる臭み取り)。

浮いた泡は、浮いている間にすくいます。すくわずに煮立て続けると、固まったものが砕けて煮汁に戻り、濁りになります(フォンの取り方)。沸き始めに浮いた泡を取ったら、火を弱めて沸き立たせずに煮ます。

臭みとぬめりは、熱湯で表面だけ固めて洗い流す

魚や肉の臭みは、表面のぬめりや血合い、皮の下の脂に溶け込んでいます。霜降りは、熱湯で表面だけを固め、冷水の中で指で落とす下ごしらえです(霜降り)。

魚は80〜90℃の湯をかけ、表面が白くなったら止める

魚の切り身やアラは、ざるにのせて80〜90℃の湯を回しかけます。表面がうっすら白く変わったらすぐ冷水にとり、血合い・ぬめり・残ったうろこを指で落とします。

同じ鯛の切り身に湯をかけたあとの表面を、湯の温度で3つ並べた比較。70℃以下は表面が生のまま透けたピンクでつやがあり、80〜90℃は皮と身の表面がうっすら白く霜が降りたように変わり、100℃は皮が縮んで裂け、身からめくれ上がっている

湯の温度魚の表面
70℃以下固まりきらず、ぬめりと臭みが残る
80〜90℃表面だけが白く固まり、中は生のまま
100℃皮が縮んでめくれ、身も縮んで硬くなる

出典: 霜降り。

沸いた湯は、火を止めて1〜2分おくか、差し水をして90℃前後に下げてから使います。何度もかけると中まで火が入り、うま味が流れ出して身がパサつきます。表面が白くなった1回で止めます。

肉は沸いた湯に10〜15秒くぐらせる

牛すじや豚バラは、一口大に切って沸いた湯に10〜15秒くぐらせ、表面が白くなったら冷水にとります。魚より身が崩れにくいので、沸騰した湯で表面の脂とアクを落とします。

余分な脂と水は、塩と湯で外に出して拭き取る

余分な水と脂には臭みが溶けていて、煮汁に移ると味も薄めます。塩で水を引き出し、湯で脂を落として、外に出たものを拭き取ります。

塩で水を引き出して拭く

素材塩の量(重さに対して)おく時間
魚の切り身1〜2%10〜20分
野菜の塩もみ2〜3%30分〜1時間

出典: 浸透圧の科学。

魚は、表面に水の粒が浮いてきたら拭き取ります。この水には臭みも溶けています。拭き取ってから霜降りに進むのが、煮魚の下ごしらえの基本の組み合わせです。

おく時間を延ばすほど、水が抜けると同時に塩が中へ入ります。魚は塩辛くなります。表の時間を超えて置かないことが止めどころです。

湯で脂を落とす

豚バラの角煮や牛すじの煮込みは、霜降りの段階で表面の脂を湯に溶かし出し、その湯は捨てます。仕上がりがくどくなりすぎるのを防ぎ、煮汁が澄みます(霜降り)。

調味は重ねず、合わせた地で一度に入れる

素材から除いたあとは、素材に無い味を重ねすぎないようにします。

下味を重ねず、地で一度に入れる

洋食のレシピは、塩、こしょう、白ワインと、その場で味を重ねていきます。和食は、あらかじめ合わせた調味液を作っておき、そこに食材を通します。この調味液を「地(じ)」と呼びます。

煮物の基準は八方だし(だし8:醤油1:みりん1)で、色を付けたくないなら塩、生臭みを抑えたいなら酒、と1つの比率から作り分けます(和食の「地」の体系)。味は、比率の決まった液で一度に入ります。

薬味は煮込まず、食べる直前にのせる

ねぎ、しょうが、大葉、みょうがといった薬味は、仕上げに添えるのが和食の基本です。出汁の香りを壊さず、生の香りを表面にのせます(薬味)。煮魚の生姜のように、煮る段階で入れて臭みを抑える使い方もあります。

味が薄いときは、塩を重ねる前に出汁を濃くする

引き算の料理は、塩分の低いところで味を作ります。味がぼやけたときに塩や醤油を重ねると、引いた分を塩で埋めることになります。

先に出汁を濃くします。すまし汁で、うま味を足して醤油を減らした汁は、塩を約3割減らしても普通の味付けと同じ評価だったという試験があります。試験の中身と、うま味で脂と塩がそれぞれどれだけ動くかは日本料理のうま味にあります。

フランス料理と中国料理も引くが、引いたあとに足す

素材から余分を除く下ごしらえは、和食だけのものではありません。フランス料理にはブランシール(熱湯や水から茹でて臭みやアクを抜く)、中国料理には焯水(チャオシュイ。熱湯にくぐらせて血や臭みを抜く)があります。

違いは、引いたあとに何をするかです。

料理体系下ごしらえの湯引いたあと
日本料理(霜降り)湯だけ。魚は90℃前後地と出汁で煮る。薬味は食べる直前に添える
フランス料理(ブランシール)湯だけ(塩を入れることもある)。氷水で冷やすフォンで煮込み、仕上げにバターを溶かし込む
中国料理(焯水)生姜・葱・料酒を入れた湯下味を付け、香味を重ねて調理する

出典: ブランシール、焯水、霜降り・ブランシール・焯水の比較。

フランス料理の仕上げのバターは、冷たいものを溶かし込んで、ソースにとろみとつやを出します(バター)。

和食が引いたあとに足すのは、比率の決まった地と食べる直前の薬味までで、脂やソースで覆うことはしません。だから引き足りないと臭みが残り、引きすぎると素材の味ごと薄くなって、どちらも皿に出ます。

うまくいかせる条件

引き算は、引くこと自体が目的ではありません。除いたものも食べたいとき、油が渋みを和らげるときは、引かずに残します。

こんなとき引くか理由
青菜の栄養と汁に出る味を残したい茹でずに煮るか蒸し、汁ごと食べるビタミンCやカリウムが湯に出ない(えぐみは残る)
ナスを炒める・揚げる水にさらさない油で渋みがやわらぐとされる
ごぼうを醤油で煮る変色を止める数分で切り上げる白さが要らない。さらさない作り方は香りと歯切れが少し良い
魚を煮る塩をして拭き、霜降りまでする臭みとぬめりが煮汁に移る
牛すじ・豚バラを煮込む沸いた湯で脂とアクを落とす長く煮るほど煮汁に脂と臭みが移る

よくある失敗と対策

生臭い部分的
なぜ
霜降りを省いたか湯がぬるく、表面のぬめりと血合いが残ったまま煮汁に溶け出しました
どうする
身を取り出して煮汁を漉し、生姜を足して煮直します
次から
80〜90℃の湯をかけて冷水にとり、指で血合いとぬめりを落とします
縮んだ・反り返った諦める
なぜ
沸いたままの100℃の湯をかけ、魚の皮のたんぱく質が一気に縮んで皮がめくれました
どうする
皮は戻りません。煮汁を少なめにして身を崩さずに煮ます
次から
沸いた湯は火を止めて1〜2分おくか、差し水をして90℃前後にします
だしが濁った部分的
なぜ
浮いたアクをすくわずに煮立て続け、固まったたんぱく質が砕けて煮汁に戻りました
どうする
火を弱め、目の細かい網かペーパーで漉します
次から
沸き始めに浮いた泡をすくい、そのあとは沸き立たせずに煮ます
苦い・えぐい部分的
なぜ
ほうれん草を下茹でせずにおひたしにしたか、茹で湯を使い回して、えぐみのもとのシュウ酸が残りました
どうする
かつお節やごま、油と合わせて和え衣を濃くします
次から
10倍の湯で合わせて1分以内に茹で、湯は捨てて水にとります
味が薄い・ぼやけた回復できる
なぜ
ごぼうを長く水にさらし、水に溶けるポリフェノールなどの成分ごと抜けて、味が薄くなりました
どうする
塩や醤油を足す前に、出汁を濃くするか追いがつおをします
次から
白く仕上げたい料理だけ長くさらし、醤油で煮るなら短く切り上げます

引き算で押さえる4つ

日本料理の引き算は、素材の持ち味を主役にするために、邪魔なものを火にかける前に除き、そのあと味を重ねすぎないことです。

  • アクとえぐみは、水と湯に出して捨てます。栄養や味のもとも一緒に出るので、時間で止めます
  • 臭みとぬめりは、熱湯で表面だけ固めて洗います。中まで火が入る前に止めます
  • 余分な水は、塩で引き出して拭きます。置きすぎると塩が中まで入ります
  • 調味は地で一度に入れます。味が薄ければ、塩より先に出汁を濃くします

汁ごと食べる、油で調理する、といった場面で引かずに残すことも、引き算のうちです。