この記事でわかること
- 澄ましバターとギーは同じものか
- 違う。ギーは乳成分を茶色く色づけてから漉す
- 強火のソテーにバターを使いたい
- 澄ましバター。約250℃まで煙が出ない
- カレーやスパイスの炒めに使う脂
- ギー。焦がした乳成分の香ばしさが付く
- 市販のギーを選ぶとき
- 原材料が乳脂肪かバターだけのものを選ぶ
澄ましバターとギーは、どちらもバターを加熱して水と乳成分(たんぱく質と糖)を取り除き、乳脂肪だけを残した脂です。フランス料理では澄ましバターで肉や魚を焼き、インド料理ではギーでスパイスを炒めます。
レシピや商品では2つが同じものとして書かれていることが多いのですが、作り方の最後の段階が違います。澄ましバターは乳成分を色づく前に除き、ギーは乳成分を茶色く色づけてから漉し(こし)ます。その違いが香りに出ます。
この記事では、バターを加熱して作る澄ましバターとギーについて、何が違うか、どの料理でどちらを選ぶか、市販のギーやバターオイルの見分け方を扱います。
違いは、乳成分を色づく前に除くか、色づけてから漉すか
| 普通のバター | 澄ましバター | ギー | |
|---|---|---|---|
| 乳成分 | 残っている | 色づく前に除く | 茶色く色づけてから漉す |
| 色 | 淡い黄色(固形) | 澄んだ黄色 | 琥珀色(こはくいろ)に近い黄色 |
| 香り | 乳の香り | 弱い | ナッツのような香ばしさ |
| 煙が出る温度 | 150〜175℃ | 約250℃ | 約250℃ |
出典: 煙が出る温度は調理科学の文献値(CIA『The Professional Chef』ほか)で、銘柄や作り方で変わります。
どちらもバターから水と乳成分を除いた脂
バターは乳脂肪が8割、水が約16%、乳成分が約1%でできています(バターの成分)。澄ましバターもギーも、このうち水と乳成分を除いて、乳脂肪だけを残したものです。
食塩不使用バターは100gのうち脂質が83.0gなので、取れる脂は多くて83gです。泡や沈殿と一緒に少し失うため、手元に残るのは約80gになります。
澄ましバターは白いうちに分け、ギーは茶色くなるまで煮る
澄ましバターは、バターを弱火で溶かして静かに置き、上に浮いた白い泡と底に沈んだ白い沈殿を除いて、間の澄んだ脂だけを取ります。乳成分は白いうちに除くので、色も香りも付きません。
ギーは、溶かしたバターをさらに煮て水を飛ばします。110〜120℃まで上げると泡が引いて水の泡立つ音が止まり、底の乳成分が金色から茶色に色づきます。そこで火を止めて漉します。
日本では呼び名が混ざっている
日本のレシピや商品では、ギーを「澄ましバター」と呼ぶことがよくあります。色づけて作ったものでも、澄ましバターの名前で売られていることがあります。
レシピや商品の名前だけでは区別できないので、色と香りで見分けます。澄んだ淡い黄色で香りが弱ければ澄ましバター、琥珀色に近く香ばしければギーです。
色づけるかどうかで、香りが分かれる
澄ましバターは乳の香りが弱まり、癖の少ない脂になる
澄ましバターは、乳の香りを持つ乳成分を色づく前に除くので、乳の香りが弱まり、癖の少ない脂になります。
素材の香りを邪魔しないので、白身魚や鶏肉のソテー、繊細なソースに使えます。バターの風味は残りますが、普通のバターを仕上げに落としたときほどは香りません。
ギーは焦がした乳成分の香ばしさが脂に移る
ギーの香りは、色づいた乳成分から脂に移ります。乳成分のたんぱく質と糖が加熱で反応して香ばしい香りを作り(メイラード反応)、加熱でココナッツのような甘い香りの成分(ラクトン)も増えます。
焦がしバターと同じ方向の香りですが、焦げた粒は漉して除くので、苦みや黒い粒は残りません。焦がしバターは粒ごと使うソースで、ギーは炒め油として使う脂です。
香りを濃くするには、煮る温度を上げるか、発酵バターから作ります。南インドでは120〜140℃まで上げ、インドの伝統的なギーは発酵させたクリームから作ったバターで作ります。
どちらも焦げにくく、日持ちする
煙が出る温度は、バターの150〜175℃から約250℃に上がる
普通のバターが強火で焦げるのは、乳成分(たんぱく質と糖)が150℃付近で色づき、黒くなるからです。脂そのものが焦げるのではありません。
澄ましバターとギーは、その乳成分を除いてあるので、約250℃まで煙が出ません。肉や魚を180〜200℃で焼き付けても焦げず、バターの風味を付けられます(ソテー)。
水も入っていないので、熱した鍋に入れても水がはねません。
水が無いので、普通のバターより日持ちする
カビや菌が増えるのに必要な水と乳成分が無いので、澄ましバターとギーは普通のバターより傷みにくくなります。冷蔵庫の無かったインドで、ギーが常温で使われてきた理由です。
ただし脂の酸化は進みます(脂質の酸化)。
どの料理に向くかで、バター・澄ましバター・ギーを選ぶ
| 作るもの | 選ぶ脂 | なぜか | 普通のバターだと |
|---|---|---|---|
| 肉や魚を強火で焼き、バターの風味も付けたい | 澄ましバター | 約250℃まで焦げず、乳の香りが素材を邪魔しない | 焼き付ける180〜200℃で乳成分が黒く焦げ、表面に苦みが付く |
| オランデーズなど温かい乳化ソース | 澄ましバター | バターの水(約16%)でソースが薄まらず、濃さを卵黄とレモン汁の量で調整できる | 作れるが、バターの水が入ってゆるく薄いソースになる |
| カレー・豆の煮込み、スパイスの香りを油に移す | ギー | スパイスを炒めても脂が焦げず、ギー自身の香ばしさも加わる | スパイスより先に乳成分が焦げる。焦げない火まで弱めると、香りが油に移りにくい |
| ロティ・パラーターなど層を作るパン | ギー | 熱い鉄板で焼きながら塗り足しても焦げない | 塗り足すたびに乳成分が焦げ、生地に黒い点が付く |
| 仕上げに落とす、ソースをつなぐ、焼き菓子 | 普通のバター | 乳成分が乳の香りを出し、水と乳成分がソースの乳化を助ける | (この行は普通のバターで作る) |
強火で焼くなら澄ましバター、スパイスの香りを移すならギー
フランス料理では、ムニエルやソテーで肉や魚を焼き付ける段階に、澄ましバターを使うことがあります(ムニエル)。焦げずに、バターの風味だけが付きます。
インド料理は、ホールスパイスをギーで炒めて香りを脂に移し、その脂で料理を仕上げます(香りを油に移す)。バターチキンカレーも、ホールスパイスをギーで弱火で炒めるところから始めます。
ギーの香ばしさが邪魔になる料理には、澄ましバターを使います。淡白な魚や、フランス料理のソースです。反対に、インド料理でギーの代わりに澄ましバターを使うと、焦がした乳成分の香ばしさが入りません。
仕上げの香りがほしいなら、普通のバターのまま使う
乳成分を除いた脂は、普通のバターの代わりにならない場面があります。
ソースの仕上げに冷たいバターを溶かし込んでとろみを付ける操作は、バターの水と乳成分が乳化を助けて成り立ちます(乳化ソースの温度帯)。澄ましバターやギーではとろみが付きません。
焼き上がった肉や魚に落とす仕上げのバターも、乳成分が乳の香りを運びます。量が少なく強火にかけないので、普通のバターで足ります。
1つだけ用意するなら、強火の焼き物が多ければ澄ましバター、インド料理を作るならギーです。どちらも作らないなら、油で焼き始めて火を弱めてから普通のバターを足す方法で、焦がさずにバターの香りを付けられます。
バターから水と乳成分を除いた脂は、各地にある
バターから水と乳成分を除く方法は、冷蔵庫の無い土地で乳脂肪を保存する手段として各地にあります。
| 土地 | 呼び名 | 作り方 | 使う料理 |
|---|---|---|---|
| フランス | ブール・クラリフィエ(澄ましバター) | 色づけずに分ける | 焼き付け・ソース |
| インド | ギー | 色づけてから漉す | スパイスの炒め油 |
| 中東 | サムン | ギーより長く煮て漉す | マンサフ(ヨルダンの肉と米の料理) |
| エチオピア | ニテル・キッベ | フェヌグリークなどのスパイスと煮て漉す | ドロ・ワット(鶏の煮込み) |
ニテル・キッベは、スパイスの香りを移す工程を、脂を作る段階で済ませた形です。
市販のギー・バターオイルは、原材料の欄で見分ける
原材料が乳脂肪かバターだけのものを選ぶ
市販のギーには、植物油やココナッツオイル、MCTオイルを混ぜたものがあります。原材料に乳脂肪やバター以外が書かれていれば、混ぜ物の入った品です。香りも、煙が出る温度も、純粋なギーとは変わります。
種類別の「バターオイル」は乳脂肪99.3%以上
日本の乳製品の規格では、「バターオイル」は乳脂肪分99.3%以上・水分0.5%以下の乳製品です。包装の種類別の欄に「バターオイル」とあれば、乳脂肪だけでできた脂です。
国際規格(コーデックス)は、ギーを乳脂肪99.6%以上の別の品目として定め、特に発達した風味を持つものとしています。同じ乳脂肪の脂でも、ギーは香りを含めた名前です。
家で作るか買うか
家で作るなら、バター200gから約160gが取れます。焼き物に数回使う量なら、食塩不使用バターから作れば足ります。
手作りの手順は、バターの記事の種類の節にあります。インド料理を続けて作るなら、市販のギーを1瓶買うほうが手間がかかりません。
よくある失敗と対策
バターが焦げた部分的
- なぜ
- 普通のバターで強火のソテーをして、バターに含まれる乳成分(たんぱく質と糖)が150℃付近で黒く焦げました
- どうする
- 焦げたバターは捨て、鍋を拭いて油か澄ましバターで焼き直します
- 次から
- 強火で焼くところから澄ましバターを使うか、油で焼き始めてバターは火を弱めてから足します
小さなコツ
ギーを乾いたスプーンで取る
瓶には濡れたスプーンを入れず、使うたびにふたを閉めて光を避けます
なぜ水が入るとカビや菌が増える条件がそろい、空気と光は脂の酸化を進めます
参考文献
- 乳及び乳製品の成分規格等に関する命令(昭和26年厚生省令第52号)——バターオイルの成分規格(乳脂肪分99.3%以上・水分0.5%以下)
- Tetra Pak Dairy Processing Handbook「Anhydrous milk fat (AMF) and butter oil」——Codex(CXS 280-1973)の乳脂製品の規格表(ギーは乳脂肪99.6%以上)とギーの定義
- e-PG Pathshala(INFLIBNET)「Technology of Ghee making」——ギーを煮る温度(110〜120℃、南インドで120〜140℃)、止めどき、香りの成分(ラクトン)、発酵クリームのバターから作ると香りがよいこと
ほか5件を見る
- 明治 食育「バターをおいしく食べよう」——澄ましバターの取り方(泡・澄んだ脂・沈殿の3層)
- 文部科学省 食品成分データベース(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年)——食塩不使用バターの水分・脂質・たんぱく質
- Wikipedia「Smoke point」——バター150℃(CIA The Professional Chef 9th ed.)、澄ましバター約250℃
- Wikipedia「Smen」——中東のサムンはギーより長く煮て水と乳成分を除くことが多い
- Rouxbe「Making Hollandaise with Whole Butter」——オランデーズを普通のバターで作ると水がソースを薄めるので、澄ましバターを使う方法が一般的