この記事でわかること
- 飾り切りにはどんな種類がある?
- 形を見せる・切り込みで開かせる・角を落として揃えるの3つ
- 見た目のほかに何が変わる?
- 切り込みは火の通りと味の入り方、形を揃えると火の通り
- イカの切り込みはどこまで深く?
- 厚みの3/5〜4/5。切り離さず、残りでつなぐ
- 和・仏・中・タイでどう違う?
- 代表的な技法は、日本とタイが形を見せ、中国は開かせ、仏は揃える
人参の梅も、イカの松笠(まつかさ)も、じゃがいもの樽形も、どれも「飾り切り」と呼ばれます。けれど、梅は煮ても形が変わらず、イカは火を入れた瞬間に花のように開き、樽形は鍋の中で全部が同じ時間に煮上がります。
同じ名前で呼ばれていても、包丁でしていることは別物です。
この記事では、切り方の分類のうち「飾り切りにはどんな種類があり、それぞれ料理の何を変えるか」を扱います。梅や菊の1つずつの作り方は扱いません。
飾り切りは、何をするかで3種類に分かれる
飾り切りは、包丁で何をするかで3つに分かれます。
形を見せる飾り切り、切り込みを入れて加熱や塩で開かせる飾り切り、角を落として形を揃える飾り切りです。
| 飾り切りの種類 | 包丁ですること | 代表 | 料理で変わること |
|---|---|---|---|
| 形を見せる | 花・葉・鳥の輪郭に削る | 人参のねじ梅(ねじうめ)、花れんこん、タイの果物の彫刻 | 見た目と季節感 |
| 開かせる | 切り離さない深さで切り込む | 中国の花刀、かのこイカ、菊花(きっか)かぶ | 見た目、火の通り、味の入り方 |
| 揃える | 角を落とし、同じ大きさ・同じ面の数にする | トゥルネ、六方むき(ろっぽうむき)、面取り | 火の通りの揃い方、盛り付けで欠けにくい |
検索で出てくる「松」「竹」「木の葉」「うさぎ」は、ほとんどが形を見せる飾り切りです。形の名前は数え切れないほどありますが、この記事では包丁ですることで3つに分けます。

隠し包丁(かくしぼうちょう)・ふつうの切り方とはここが違う
隠し包丁も、材料に切り込みを入れる点は開かせる飾り切りと同じです。
違いは向きで、隠し包丁は盛り付けたときに見えない裏側に入れ、火の通りと味の入り方だけを受け持ちます。飾り切りは見える側に入れ、開いた形も見せます。
ふつうの切り方は、寸法を揃えることだけが目的です。せん切り・角切り・そぎ切りの寸法の違いは、細切り技法の世界比較、サイコロ切り技法の世界比較、削ぎ切り技法の世界比較にあります。
和・仏・中・タイで、代表的な飾り切りの種類が違う
4つの料理は、どれも飾り切りを持っています。ただ、名前の付いた代表的な技法を並べると、集まる種類に偏りがあります。
| 料理 | 飾り切りの呼び名 | 代表的な技法が集まる種類 | 代表的な技法 | 主な材料 |
|---|---|---|---|---|
| 日本料理 | むきもの(剥き物)、飾り切り | 形を見せる | ねじ梅、花れんこん | 人参、大根、れんこん |
| 中国料理 | 花刀(ホアダオ) | 開かせる | 麦穂(マイスイ)形、荔枝(ライチ)形 | イカ、豚の腎臓、白身魚 |
| フランス料理 | トゥルネ(tourner) | 揃える | トゥルネ、シャトー | じゃがいも、人参 |
| タイ料理 | ケーサラック(แกะสลัก) | 形を見せる | すいかの花、パパイヤの鳥 | すいか、パパイヤ、かぼちゃ |
出典: 中国は搜狐の花刀の教材(2019年)、フランスは US Patent 7,278,346、タイは Thailand Foundation(2025年)、花れんこんは三条市。種類の列は、各出典の技法をこの記事の3種類に分けたもの。
日本とタイは形を見せ、中国は開かせる
むきものは、野菜を花や葉の形に剥いたり削ったりする日本料理の技法です。ねじ梅は、人参を梅の花の形に削り、花びらにひねりを入れたものです。
形には意味が込められていて、たとえば穴の開いたれんこんは「先の見通しがよい」とされ、おせちに入ります。
タイの彫刻は、小さな彫刻用ナイフ1本で、すいかやパパイヤに花や鳥を彫ります。熟した果物は食べるために、硬い未熟な果物は長く飾るために彫ります。2014年にタイの文化振興局が無形文化遺産に登録しました。
中国料理の花刀は、切り込みが熱で開いて形になることを前提にした技法です。生のうちは格子の切り込みにしか見えません。
フランスは形を揃える
トゥルネは、根菜を同じ大きさ・同じ面の数(5面か7面)の樽形に削る切り方です。中央が太く、両端が細くなります。
シャトーは、じゃがいもを大きめのトゥルネにしたものです。調理師学校の競技会でも、西洋料理の課題の1つは、長さ5〜5.5cmのシャトーを6個揃えることです。
フランス料理には、トゥルネのほかにも、丸くくり抜く、溝を彫るといった飾り切りがあります。

切り込みが開くのは、熱で縮むか、塩でしんなりするから
開かせる飾り切りだけは、切ったあとに形が変わります。開かせる力は2つあります。イカは熱で縮む力、かぶは塩でしんなりする力です。
イカは、加熱で縮んで開く
イカの胴の外側の皮は4層あり、いちばん内側の層はコラーゲンの繊維が胴の長さの向きに走っています。この層は加熱すると長さの向きに強く縮むので、イカは胴に沿って丸まります。
切り込みが厚みの途中で止まっていれば、切っていない部分が身をつないだまま縮みます。すると、丸まった外側では切り込みの両側が引き離され、縁が反り返って開くと考えられます。

日本料理のかのこイカ・布目(ぬのめ)イカ・松笠イカも、胴の表面に切り目を入れて焼いたり煮たりするものです。開いた切り込みの分だけ表面が広くなるので、タレや煮汁がからむ面も増えます。
かぶは、塩でしんなりさせて開く
菊花かぶは、かぶに細かい格子の切り込みを入れてから、塩水に浸けます。
塩でかぶの水が抜けてしなやかになり、切り込みの間が離れて菊の花びらのように開きます。
塩水に先に浸けておくと、あとの甘酢も切り込みの奥まで染みます。家庭向けのレシピでは、水400mlに塩小さじ2(約3%)で冷蔵庫に30分、甘酢に1時間以上が目安です。
角を落とすと、火の通りが揃い、盛り付けで欠けにくい
揃える飾り切りは、切り込みを開かせません。トゥルネや六方むき(里芋などの皮を6つの面に剥く切り方)は、どの切り身も同じ大きさ・同じ形に揃えます。同じ形なら、同じ時間で同じように火が通ります。
面取りは角を薄く削る切り方で、煮崩れを防ぐためと説明されることが多い技法です。
けれど、料理人の解説では、本来の目的は、盛り付けのとき箸が角に当たって形が欠けるのを防ぐことだとされます。煮崩れのほうは火加減で防げ、湯気がほのかに立つ80〜90℃で煮れば、面取りをしなくても崩れないとされます。
出典: 和樂web(2026年2月、『和樂』2010年10月号の再編集)の野崎洋光さんの解説。煮物の火加減と煮崩れの関係は、煮る技術の火加減にあります。
深さは厚みの3/5〜4/5、切り離さない
開かせる切り込みは、深さ・刃の傾き・交わる角度で形が変わります。どの材料でも、切り離さずに途中で止めるのが共通の条件です。
花刀は、底に厚みの1/5を残す
中国料理の花刀は、深さを厚みの3/5〜4/5で止め、2方向から交わるように入れます。教材は、花刀ごとに次の値を示しています。
| 花刀の名前 | 1回目の刃 | 2回目の刃 | 2本の切り込みが交わる角度(°) | 向く材料 |
|---|---|---|---|---|
| 麦穂(マイスイ)形 | 約40°に寝かせ、厚みの3/5まで | 刃を立て、厚みの4/5まで | 70〜80 | イカ、豚の腎臓 |
| 荔枝(ライチ)形 | 刃を立て、厚みの4/5まで | 刃を立て、厚みの4/5まで | 80 | イカ、豚の腎臓 |
| 菊花形 | 刃を立て、厚みの4/5まで | 刃を立て、厚みの4/5まで | 90 | 白身魚、砂肝、豆腐 |
出典: 搜狐「中式烹饪26种花刀技法」(2019年。中国の調理師向け教材の転載)。どの花刀も、間隔・深さ・刃の傾きを全体で揃えることを条件にしています。
4/5は、底に厚みの1/5を残すということです。厚さ5mmの身なら、底に1mmを残す計算になります。
魚と野菜も、刃を止める位置を先に作る
切り込みの間隔は、材料の大きさで変わります。丸ごとの魚に入れる松鼠魚(ソンシューユイ。リスの形に揚げる魚料理)は、縦の切り込みの間隔が4〜6mm、斜めの切り込みの間隔が2〜3mmです。身は皮の手前まで切りますが、皮は切りません。
野菜にも同じ止め方があります。菊花かぶは、かぶを割り箸2本で挟み、刃が割り箸に当たるところで止めて、2〜3mm間隔で切り込みます。
きゅうりのじゃばらは、調理師学校の競技会では高さの2/3まで均等な幅で切り込むと満点です。じゃばらが包丁技術のどの段の課題かは、日本料理の包丁技術にあります。
深さや間隔を外すとどうなるか
開かせる飾り切りは、切り込みの入れ方で開き方が変わります。教材が挙げる条件を外した側から読むと、次のようになると考えられます。
| 花刀の切り込み | 加熱したときに起きること |
|---|---|
| 浅すぎる | 縁が十分に反り返らず、形が出ない |
| 皮やつなぐ部分まで切る | 身がつながらず、小片にばらける |
| 間隔や深さが不揃い | 開き方が場所ごとに違い、穂やライチの形にならない |
出典: 搜狐「中式烹饪26种花刀技法」(2019年)が挙げる条件(深くて切り離さない・均一に揃える・皮を切らない)を外した場合の推論。
火の入れ方にも目印があります。イカの花刀は、強火で沸かした湯に入れ、完全に巻いたところで引き上げます。巻き終わりが、火を止める目印になります。
中国料理の包丁技術のなかで花刀がどの段に置かれているかは、中華料理の包丁技術にあります。切り方の全体像は切り方の種類と選び方にあります。
参考文献
- 搜狐「中式烹饪26种花刀技法」2019年3月(麦穂形・荔枝形・菊花形・松鼠魚・蓑衣形の花刀の角度・深さ・間隔)
- 搜狐「火爆鱿鱼的做法」2022年11月(イカの花刀を沸騰した湯に入れ、巻いたら引き上げる)
- Sushi-pedia「Kakushi bocho」(隠し包丁と飾り包丁の違い)
ほか7件を見る
- 日本食糧新聞「シーフード調理学(4)イカ<4>胴肉質の第四層外皮が硬さの原因」2001年6月4日
- 和樂web「面取りは必要? 野崎洋光さんの煮物の考え方」2026年2月(『和樂』2010年10月号の再編集)
- デリッシュキッチン「菊花かぶ」(切り込みの間隔と塩水・甘酢の時間)
- 三条市「野菜の飾り切り」(花形れんこん)
- US Patent 7,278,346「Tourne cutting method, device and kit」(トゥルネの形の定義)
- Thailand Foundation「The Art of Thai Vegetable and Fruit Carving」2025年9月
- 全国調理師養成施設協会「第42回 調理師養成施設調理技術コンクール 実施要領」2026年8月(じゃばら・シャトーの課題)