この記事でわかること
- フランス料理の用語が細かい理由
- 名前1つで材料・寸法・手順まで同じものを指すよう、そろえてきたから
- ア・ラ・ブルギニョンの中身
- 小玉ねぎ・マッシュルーム・ベーコンを重さで4:2:1、煮汁は赤ワイン
- ブルノワーズとマセドワーヌの違い
- ブルノワーズは2mm角、マセドワーヌは5mm角のさいの目
- 知らないソース名の読み方
- 土台のソースを探し、違いを1つ足す。ショロンはベアルネーズにトマト
牛肉の煮込みのレシピに「ア・ラ・ブルギニョン」とだけ書いてあります。玉ねぎは「ブルノワーズに」、添えるソースは「ショロン」。どれも説明がありません。
フランス料理の用語が細かいのは、名前1つで、材料・寸法・手順まで同じものを指せるようにそろえてきたからです。ア・ラ・ブルギニョンと書けば、小玉ねぎ・マッシュルーム・ベーコンを添え、赤ワインで煮ることまで伝わります。
この記事では、フランス料理がなぜ技法・切り方・配合に名前を付けてそろえたかと、レシピの名前を読むと台所で何が分かるかを扱います。
焼き方11語の中身はフランス料理の焼き技法に、切り方の寸法と練習はフランス料理の包丁技術にあります。
産地・名前・ソースの3つが台所のどの場面に効くかは、フランス料理の考え方にまとめています。
フランス料理の名前は、材料と寸法と手順をまとめて指す
名前が指すものは、種類によって違います。レシピに出る5種類の名前と、その1語で分かることを並べました。
| 名前の種類 | 例 | その1語で分かること |
|---|---|---|
| 切り方 | ブルノワーズ | 2mm角のさいの目に切る |
| 焼き方 | ポワレ | やや穏やかな火で、溶かしバターをかけながら中まで焼く |
| ソース | ベアルネーズ | 白ワインとエストラゴン酢を煮詰め、卵黄とバターでつなぐ |
| 付け合わせ | ア・ラ・ブルギニョン | 小玉ねぎ・マッシュルーム・ベーコンを添え、赤ワインで煮る |
| 厨房の持ち場 | ソーシエ | フォン(肉や骨の煮出し汁)を取り、ソースを作る係 |
出典: 寸法はフランス料理の包丁技術、焼き方はフランス料理の焼き技法、ソース・付け合わせ・持ち場は『Le Guide Culinaire』第2版。
日本語のレシピなら「玉ねぎをみじん切り」「赤ワインで煮て、小玉ねぎとマッシュルームを添える」と文で書くところを、フランス料理は1語で済ませます。そのかわり、1語が何を指すかを知らないと読めません。
エスコフィエは、同じ名前なら同じ中身になるようにそろえた
名前をそろえたのは、料理人エスコフィエ(1846〜1935)の料理書『Le Guide Culinaire(ル・ギッド・キュリネール)』です。初版は1903年で、配合を約5,000収めています。
同じ名前の料理は、同じ材料と浮き実で作る
スープの章の頭で、エスコフィエは、同じ名前のスープは種類を問わず、材料と浮き実(スープに浮かべる具)をすべて統一した、と書いています。
それが本全体で自分に課した規則で、名前の混乱を厳密で筋の通った順序に置き換える、ただ1つの方法だったと続けます。
変えてよいのは形と盛り付けで、材料は変えない
付け合わせの章も同じ言い分です。付け合わせの組み合わせは動かさず、変えてよいのは形と盛り付けだけで、材料は変えない、と書いています。
分量は10人分で書き、牛の大きな塊に添えるか、ステーキ用の小さな切り身に添えるかで増減させます。名前が同じなら、量が変わっても材料の組み合わせと比は変わりません。
書いたのは土台で、やり方の自由は残した
前書きでは、この本を「本というより道具」として作ったと書いています。各人が自分のやり方を立てる自由は残し、仕事の土台になる伝統的な形だけを定めた、という言い分です。
第2版の序では、経験頼みだった配合を、偶然に任せない方法と精度に従わせる、とも書いています。名前は、その土台を一語で呼び出すための見出しです。
名前がそろうと、厨房では一語で指示が通る
同じ名前なら同じ中身になれば、誰が作っても同じ皿が出ます。それを使っていたのが、持ち場ごとに料理人を分けたホテルの大きな厨房(ブリガード)です。
注文を名前で読み上げ、持ち場ごとに割り振る
『Le Guide Culinaire』の巻末には、大きな厨房の仕事の割り振り方が載っています。
注文が入ると、担当の料理人が料理名を読み上げます。各持ち場の長(シェフ・ド・パルティ)は、そのうち自分の持ち場の品を書き取ります。
材料を管理する持ち場(ガルド・マンジェ)は、その日の注文を全部書いた表を受け取ります。持ち場が頼み忘れても、料理名から材料を用意して送ります。
エスコフィエは、これで60人の厨房が400〜500人分の注文を1時間から1時間半で出せる、と書いています。
持ち場の種類と、どの段で何を身につけるかはフランス料理スキルマップにあります。
国家資格は、いまも技術を名前で問う
フランスの料理人の国家資格 CAP cuisine(料理の職業適格証)は、最低限身につける技術の一覧を、技術の名前で並べています。現行の基準(2016年の省令)の一覧から抜き出しました。
| 一覧の区分 | 並んでいる名前(抜粋) |
|---|---|
| 野菜を切る | ミルポワ・ブルノワーズ・ペイザンヌ・ジュリエンヌ・マセドワーヌ |
| 下ごしらえ | シズレ(細かく刻む)、トゥルネ(面取りして形を整える) |
| 加熱 | ソテー、ソテーしてデグラッセ(鍋の焼き汁を溶かす)、ポシェ(ゆでる) |
| フォンとソース | フュメ(魚のだし)を取る、卵黄やバターでつなぐソース |
出典: CAP cuisine Annexe VI「身につける技術の一覧」。
一覧に寸法や手順は書かれていません。名前だけで、何をする技術かが受験者にも採点者にも伝わる前提です。
レシピの名前を読むと、台所で何が分かるか
名前が同じなら中身が同じなので、家庭のレシピに出てきた1語からも、材料と比と寸法が読めます。
付け合わせの名前は、材料とその比を指す
ア・ラ・ブルギニョン(ブルゴーニュ風)は、原典では10人分で、小玉ねぎのグラッセ(照り煮)500g、4つ割りにしてバターで炒めたマッシュルーム250g、焼き色を付けたベーコン125gです。重さで4:2:1になります。
煮汁は必ず上等な赤ワインにし、原典はこれをア・ラ・ブルギニョンの「絶対の特徴」と書いています。4人分なら、小玉ねぎ200g、マッシュルーム100g、ベーコン50gです。
赤ワインを白ワインに替えて煮たら、付け合わせが同じでもア・ラ・ブルギニョンではありません。赤ワインをどれだけ入れ、どこまで煮詰めてから煮るかは、フランス料理のワインの使い方にあります。
切り方の名前は、火の通る時間をそろえる寸法を指す
ブルノワーズは2mm角、マセドワーヌは5mm角のさいの目です。
名前が同じなら寸法が同じなので、同じ鍋で同じ時間に火が通ります。レシピに2つの切り方の名前が出たら、それぞれ別の時間で煮る材料だと読めます。
例外はミルポワです。ミルポワは寸法ではなく、にんじん・玉ねぎ・セロリなどの香味野菜の組み合わせを指す名前で、原典も細かさは使い道で変えると書いています。煮る時間が長い料理ほど大きく切ります。
派生の名前は、土台に1つの違いを足したもの
ソースの名前の多くは、土台のソースに1つだけ違いを足したものです。原典は派生を、土台のソースの名前を参照して書いています。
| 名前 | 土台 | 足すもの・替えるもの |
|---|---|---|
| ベアルネーズ | (土台) | 白ワインとエストラゴン酢を煮詰め、卵黄とバターでつなぐ |
| ショロン | ベアルネーズ | 仕上げの香草を入れず、体積の4分の1の濃いトマトピュレを足す |
| フォイヨ(ヴァロワ) | ベアルネーズ | 溶かした肉の煮詰め汁(グラス・ド・ヴィアンド)を足す |
| パロワーズ | ベアルネーズ | エストラゴンを同じ量のミントに替える |
出典: 『Le Guide Culinaire』第2版のソースの章。ベアルネーズの分量と当て方はフランス料理のソースの役割。
知らないソース名に出会ったら、土台のソースを探し、違いを1つ足せば作れます。土台のソースの系譜はフランス料理の母ソースにあります。
日本・中国料理と比べると、名前を付ける場所が違う
どの料理体系も、よく使うやり方に名前を付けています。違うのは、何に名前を付けたかです。
| 料理体系 | 名前を付けたもの | 例 |
|---|---|---|
| 日本料理 | 合わせ調味液の比率 | 八方だし(だし8:醤油1:みりん1)を基準に、塩八方・酒八方と作り分ける |
| 中国料理 | 切り方の寸法 | 丁(ディン)8〜10mm角、絲(スー)幅2mm |
| フランス料理 | 切り方・焼き方・ソース・付け合わせ・持ち場 | ブルノワーズ2mm角、ア・ラ・ブルギニョン、ショロン、ソーシエ |
フランス料理は、皿の中の材料の組み合わせと、厨房の分業にまで名前を付け、それを1冊にまとめました。だからレシピの1語が、日本料理なら数行で書く手順の代わりになります。
うまくいかせる条件
家庭のレシピで名前に出会ったときに、どう読むかです。
| こんなとき | どうする | 理由 |
|---|---|---|
| 知らないソース名が出た | 名前に含まれる土台のソースを探し、違いを1つだけ足す | 派生は土台+1つの違いで書かれている |
| 付け合わせの名前だけ書いてある | 材料の比を保ったまま、人数で量を増減する | 名前が指すのは材料の組み合わせと比で、量ではない |
| 切り方の名前が2つ出た | 名前ごとに別の時間で火を通す | 寸法が違えば、火が通る時間が違う |
| 名前の材料が手元に無い | 名前を付けずに作る。白ワインで煮た牛肉は「白ワイン煮」 | 名前が指す材料と、皿の中身が食い違う |
よくある失敗と対策
火の通りにムラが出た回復できる
- なぜ
- 2mm角と5mm角を同じ鍋に同時に入れました。熱が芯まで届く時間は大きいほど長く、5mm角の芯が固く残りました
- どうする
- 大きいほうだけ取り出して下茹でし直すか、2mm角に切り直して鍋に戻します
- 次から
- 1つの鍋に同時に入れる野菜は、同じ名前の切り方にそろえます
煮崩れた部分的
- なぜ
- 2時間以上煮る香味野菜を2mm角に切り、早く柔らかくなったあとも煮続けたので、組織がほどけて崩れました
- どうする
- 煮汁をこして崩れた野菜を除き、新しい香味野菜を大きめに切ってバターで炒め、添え直します
- 次から
- 煮る時間が長いほど、香味野菜は大きく切ります。ミルポワは寸法を指す名前ではないので、使い道で細かさを変えます
水っぽい・ゆるい回復できる
- なぜ
- 煮詰めていないトマトを入れ、卵黄が抱えたバターの脂の粒の間に水分が増えて薄まり、ソースが流れました
- どうする
- トマトを別の小鍋で、木べらで鍋底に引いた筋が残るまで煮詰めてから入れ直します
- 次から
- トマトは濃縮ピュレか、よく煮詰めたものを、ソースの体積の4分の1だけ入れます
名前を読むときに押さえる4つ
フランス料理の用語は、覚える単語の数ではなく、1語が指す中身の量で細かくなっています。
- 同じ名前なら、材料の組み合わせと比は同じです。変わるのは量と盛り付けです
- 厨房では、料理名を読み上げるだけで、各持ち場が自分の品を用意します
- 切り方の名前は寸法を、付け合わせの名前は材料とその比を指します
- 知らないソース名は、土台のソースに1つの違いを足したものとして読みます
名前に従えば、初めて作る皿でも、エスコフィエの厨房と同じ材料と比から始められます。
参考文献
- Escoffier, A.『Le Guide Culinaire, aide-mémoire de cuisine pratique』(初版1903年。引用は第2版、Émile Colin。前書き Avant-Propos、第2版序、ポタージュ・付け合わせの章の序、巻末「大きなブリガードの仕事の割り振り」)
- Escoffier, A.『A Guide to Modern Cookery』Heinemann, 1907(英訳。配合に1〜2973の通し番号を振る)
- Ministère de l'Éducation nationale「CAP Cuisine, Annexe VI : Liste des techniques professionnelles à maîtriser」(2016年3月17日の省令の付録)