フランス料理のソースの役割|牛・豚・鴨・魚に当てるソース

フランス料理のソースの役割|牛・豚・鴨・魚に当てるソース

この記事でわかること

フランス料理のソースの役割
焼いた・茹でた主素材に足りない汁気・脂・酸を足すこと
網焼きの牛に合わせるソース
ベアルネーズか、赤ワインを煮詰めたボルドレーズ
豚・鴨・魚に合わせるソース
豚はロベール、鴨はオレンジ、魚はオランデーズ
フォンは何を使うか
ジビエはジビエ、魚は魚のフュメ。牛・豚・鴨は茶色いフォン
日本・中国料理との違い
別の鍋で作り、皿の上で主素材と合わせる

ステーキのレシピに「ベアルネーズを添える」とあります。肉は焼けば食べられます。それでもフランス料理のレシピは、肉を焼く手順とは別に、もう1つの鍋でソースを作らせます。

フランス料理のソースは、焼いた・茹でた主素材に足りないものを、皿の上で足すための液体です。網焼きにすると肉の汁気は網の下へ落ち、茹でた白身魚には脂がほとんどありません。ソースは、その汁気と脂、主素材が持たない酸を足します。

省いても皿は成り立ちますが、足りないものは戻りません。ソースを作る時間が無いときの最小の形は、網焼きの肉ならバター10gと塩、フライパンで焼いたなら鍋に残った焼き汁を溶かしたものです。

この記事では、フランス料理がなぜソースを皿の仕上げに置いたかと、どの主素材にどのソースを当てる(選んで添える)かを扱います。

ソースの数と派生の系譜はフランス料理の母ソースに、文化を問わないソースの味の組み立てはソースの味の設計にあります。

ショロンやパロワーズのような派生のソース名を、土台のソースと1つの違いとして読む方法はフランス料理の用語が細かい理由にあります。

ソースを当てる前の素材を、産地の名でどう選ぶかはフランス料理のテロワールにあります。

産地・名前・ソースの3つが台所のどの場面に効くかは、フランス料理の考え方にまとめています。

ソースは、焼いた肉や魚に足りないものを皿の上で足す

先に2つの語をそろえます。フォンは肉や骨を煮出したソースの土台の出汁で、魚の骨で取るものはフュメと呼びます。「つなぐ」は、卵黄やバターで脂と水分を混ぜ合わせ、分かれない状態にすることです(乳化)。

エスコフィエ(1846〜1935)の料理書『Le Guide Culinaire(ル・ギッド・キュリネール)』は、各ソースの末尾に何に添えるかを書いています。それを主素材ごとに並べました。

主素材と調理当てるソースソースが足すもの口当たり
網焼きの肉(牛など)ベアルネーズバターの脂、エストラゴン酢の酸不透明でもったり、酸と香草が立つ
網焼きの赤身の肉ボルドレーズ赤ワインの酸とコク、骨髄の脂澄んだ茶色で、さらりと流れる
網焼きの豚ロベール白ワインとマスタードの酸と辛み茶色で、玉ねぎの粒が残る
蒸し煮にした鴨オレンジのソースオレンジとレモンの酸茶色で、柑橘の香りが立つ
茹でた魚・野菜オランデーズバターの脂、レモンの酸淡い黄色でなめらか
舌平目ノルマンド舌平目のフュメのうま味、クリームとバターの脂白くなめらか

出典: 『Le Guide Culinaire』第2版の各ソースの注記。鴨は「鴨の蒸し煮オレンジ添え」の手順から。「ソースが足すもの」と「口当たり」は、配合から書き手が読んだものです。

原典が書いているのは何に添えるかまでで、なぜそのソースかは書いていません。配合を見ると、どの組み合わせも、主素材にもともと少ないか、調理で出ていったものを、ソースが持っています。

エスコフィエは、ソースを料理の要とし、土台をフォンに置いた

『Le Guide Culinaire』のソースの章は、ソースを料理の要と呼ぶ一文で始まります。フランス料理が世界で抜きん出たのはソースのおかげで、作るときにはどれだけ注意しても足りない、と続けます。

同じ段落で、ソースのもとになるのは肉から取った汁(フォン)だと書いています。茶色いソースには茶色いフォンを、ヴルーテ(白いフォンにルーでとろみを付けたソース)には白いフォンを使います。

ソースの味はルーではなく、フォンから来る

エスコフィエは、エスパニョール(茶色いフォンにルーでとろみを付けた母ソース)の味は、エスパニョール自身のものではなく、使ったフォンから来ると書きました。ルーが足すのはとろみで、味はほとんど足しません。

だから、ソースの味を良くしたいときは、とろみの付け方より先にフォンを見ます。仔牛のフォンは、資料により8時間から2日煮出します。時間が資料ごとに違う理由はフォン・ド・ヴォーの作り方にあります。

同じソースを何にでもかけると、皿が同じ味になる

同じ章は、19世紀の最後の25年にエスパニョールが使われすぎ、どの皿の味も一つの味気ない味に混ざった、と振り返っています。その反動で、大きな厨房は澄んだ仔牛のフォンに戻り、エスパニョールは大きな蒸し煮と煮込みに使う場所を絞りました。

フォンは、主素材に合わせて選ぶ

総論の後半で、エスコフィエは「肉とそのソースは調和させる」という規則を挙げています。フォンを使うソースでは、主素材に合ったフォンを選びます。

主素材使うフォン原典の言い分
ジビエ(野生の鳥獣)ジビエのフォン牛や仔牛のフォンは使わない。味は弱くなるが、その獣の香りが残る
魚その魚のフュメ魚のソースには、フュメを必ず足す
軽い肉・鶏焼いた鍋の焼き汁エスパニョールより、焼き汁から作るソースが向く
牛・豚・鴨茶色いフォン(エスパニョール・ドゥミグラス)ボルドレーズ・ロベール・鴨のオレンジがこれを使う

出典: 『Le Guide Culinaire』第2版のソースの総論と各ソースの配合。

ジビエと魚は、同じものから取ったフォンを使う

ジビエ用のポワヴラード(酢と胡椒を効かせた茶色いソース)は、ジビエのくず肉とジビエの茶色いフォンで煮て作ります。主素材と同じ獣の骨と肉から、ソースのもとを取っています。

魚のソースも、牛や仔牛の香りを持ち込まないよう、魚のフュメで作ります。

軽い肉と鶏は、焼いた鍋の焼き汁をソースにする

鍋底に残った焼き汁を液体で溶かすことをデグラッセと呼びます。エスコフィエは、軽い肉や鶏の料理には、この焼き汁から作るジュ・リエ(とろみを付けた汁)が向くと書いています。

焼き汁は、その主素材から出たものです。

家庭では、肉を焼いたフライパンの脂を捨て、白ワインかフォンを鍋底が隠れるまで注いで焼き色を溶かし、木べらで鍋底に引いた筋が一瞬残るくらいまで4〜5分煮詰めてから、冷たいバターを混ぜ込みます(パンソース)。

主素材に何が足りないかで、足すものを選ぶ

フォンを選んだら、主素材に足りないものを足します。脂・酸・うま味のどれを足すかの一般論はソースの味の設計にあります。ここでは、原典の配合の数字を家庭の量に直して読みます。

網焼きの牛には、バターのソースか、煮詰めた赤ワインのソース

網焼きは、鍋に焼き汁が残りません。デグラッセで取り戻せないので、ソースを別に作って添えます。

ベアルネーズは、白ワインとエストラゴン(タラゴン)酢を同量ずつ合わせてエシャロットを加え、3分の1の量まで煮詰めます(鍋底に液が薄く広がるくらい)。

原典はそこに卵黄6個とバター500gをつなぎます。家庭で卵黄2個なら、白ワインと酢を各70ml、バター170gです。

ボルドレーズは、赤ワイン300mlを75mlまで(鍋を傾けると底が見えるくらいまで)煮詰め、エスパニョールと牛の骨髄50gを加えます。原典は「赤身の肉の網焼き専用」と書いています。

同じ網焼きの牛でも、酸と香草を立たせたいならベアルネーズ、ワインのコクで重ねたいならボルドレーズを選びます。

脂の多い豚と鴨には、マスタードや柑橘の酸

豚の網焼きに添えるロベールは、玉ねぎをバターで色づけずに炒め、白ワインを煮詰め、ドゥミグラスで、スプーンの背が薄く覆われるくらいまで10分煮ます。火から下ろしてから、できあがり500mlに対してマスタード大さじ1と砂糖ひとつまみを加えます。

鴨の蒸し煮は、エスパニョールと茶色いフォンで煮て、煮汁の脂を除いて煮詰めます。煮詰まったソースに鴨1羽あたりオレンジ2個とレモン半個の果汁を加え、ソースをのばします。

どちらも、豚と鴨の脂の重さを、マスタードと柑橘の酸で切っています。

淡白な魚には、卵黄とバターのソース

茹でた白身魚は脂が少なく、身の味も穏やかです。オランデーズは、原典では卵黄5個とバター500gにレモン汁を数滴加えたソースで、家庭なら卵黄1個にバター100gの割合です。原典は「魚と野菜専用」と書いています。

舌平目に当てるノルマンドは、魚のヴルーテに舌平目のフュメとマッシュルームの煮汁を加え、卵黄とクリームでつないで、最後にバターを溶かし込みます。魚のうま味の上に、乳脂肪のコクを重ねたソースです。

当てたソースは、最後に入れたもので壊れる

主素材に合わせて足したものは、仕上げの温度で壊れます。ロベールと鴨のオレンジには、原典に「入れたら煮立てない」と注意書きがあります。

ソース最後に入れるもの守ること目で見る合図
ロベール・鴨のオレンジマスタード、柑橘の果汁入れたら煮立てない鍋の縁に小さな泡が出たら火から外す
ベアルネーズ・オランデーズバター混ぜ込む間は60〜65℃。できたら湯煎で温かく保つ泡立て器の跡が筋になって残る
パンソース(仕上げのバター)冷たいバター45〜55℃で溶かし込む。60℃を超えると分かれる表面に油の粒が浮かず、つやが出る

出典: 煮立てないは『Le Guide Culinaire』第2版の注記。目で見る合図は書き手の記述。温度は乳化ソースの温度帯。

マスタードと柑橘は、煮立てると香りが飛び、酸っぱさだけが残ります。卵黄とバターは、熱しすぎると卵黄が固まり、脂が分かれて、足したはずの口当たりが崩れます。

卵黄のソースは、60〜65℃では殺菌されない

ベアルネーズとオランデーズの卵黄は、60〜65℃で止めるので、十分に殺菌されるところまでは火が通りません。おいしく作るにはこの温度で止めます。

安全を優先するなら、生で食べられる新しい卵か、市販の殺菌液卵黄(卵黄を60℃で3.5分加熱したもの)を使い、作り置きせずその食事のうちに使い切ります(フランス料理の火加減)。

日本・中国料理と違い、ソースは別の鍋で作って合わせる

味を素材に入れる場所が、体系ごとに違います。

料理体系味を入れる場所主素材との関係
日本料理比率の決まった地(合わせ調味液)で、煮る段階で一度に入れる素材を地に通し、脂やソースをかけて隠さない
中国料理鍋の中で調味料を具に絡め、仕上げに油を回す具と調味料を同じ鍋で一つにする
フランス料理主素材とは別の鍋でソースを作り、皿の上で合わせる主素材に合ったフォンでソースを作り、足りないものを足す

出典: 和食の「地」の体系、日本料理の引き算、明油。

フランス料理は、主素材を焼く・茹でる手順と、ソースを作る手順を分けています。分けてあるので、同じ網焼きの牛にベアルネーズもボルドレーズも当てられます。

そのかわり、魚に牛のフォンのソースを当てると、魚のにおいと牛肉のにおいが皿の上で重なります。

ソースのほか、名前・産地・仕上げの脂・ワインまでを日本料理・中国料理と同じ物差しで並べた違いはフランス料理の特徴にあります。

うまくいかせる条件

家庭でフォンを何種類も仕込むのは難しいので、手元にあるものでフォンを主素材に合わせます。1種類だけ仕込むなら鶏のフォンで、その量と保存の目安はフランス料理の仕込みにあります。

こんなときどうする理由
肉や魚をフライパンで焼いた脂を捨て、白ワインかフォンを注いで焼き汁を溶かし、バターを混ぜ込む焼き汁が主素材と同じもののフォンになる
市販のフォン・ド・ヴォーしかない牛・豚・鴨の皿に使い、ジビエ・魚・鶏には使わない仔牛のにおいが、ほかの主素材のにおいに重なる
霜降りの牛や鴨など脂が多いバターのソースより、ワインや柑橘の酸のソースを当てる脂に脂を重ねると重くなる

よくある失敗と対策

ソースが分離した回復できる
なぜ
ベアルネーズやオランデーズが70℃を超え、卵黄のたんぱく質が固まって粒になり、卵黄が抱えていたバターの脂が分かれて浮きました
どうする
火から外し、冷たい水を数滴ずつ足して泡立て器で混ぜ戻します
次から
卵黄にバターを混ぜ込む間は60〜65℃、できたら湯煎で温かく保ちます
酸味が強すぎる部分的
なぜ
ロベールにマスタードを、鴨のソースに柑橘の果汁を入れたあとに煮立て、香りが飛んで酸っぱさだけが残りました
どうする
酸を入れる前の土台(フォンかドゥミグラス)を足して薄め、酸っぱさを和らげます
次から
マスタードと柑橘は火から下ろして最後に入れ、そのあと煮立てません
油っぽい・重い回復できる
なぜ
鴨や豚の脂が溶けた煮汁から脂を除かずに煮詰め、脂がソースに残りました
どうする
ソースを器に移して上の脂をすくい取り、柑橘の果汁か酢を少し足します
次から
煮詰める前に煮汁の脂を除き、脂の多い素材には酸のあるソースを合わせます
旨味が乗らない部分的
なぜ
魚のソースを水とワインだけで作り、魚の骨から出るうま味が入らないまま、バターとクリームの味だけになりました
どうする
魚の頭や骨を白ワインと水で20〜30分煮てこし、その汁で煮詰め直します
次から
魚のソースは、同じ魚か白身魚のフュメで作ります
生臭い部分的
なぜ
仔牛の茶色いフォンやドゥミグラスを魚に合わせ、魚のにおいに牛肉のにおいが重なって生臭さが目立ちました
どうする
ソースを替えます。魚を焼いた鍋に白ワインを注いで焼き汁を溶かし、バターを混ぜ込みます
次から
魚には魚のフュメか、魚を焼いた鍋の焼き汁でソースを作ります

ソースの当て方で押さえる4つ

ソースは別の鍋で作るので、主素材ごとに選び直せます。選ぶときに見るのは次の4つです。

  • フォンを使うソースの味は、とろみではなくフォンから来ます
  • フォンは主素材に合わせます。ジビエはジビエ、魚は魚のフュメ、牛・豚・鴨は茶色いフォン、家庭では焼いた鍋の焼き汁です
  • 網焼きの牛にはベアルネーズかボルドレーズ、脂の多い豚と鴨には酸、淡白な魚には卵黄とバターのソースを当てます
  • マスタードと柑橘は入れたら煮立てず、卵黄とバターのソースは湯煎で温かく保ちます

同じソースを何にでもかけないことも、ソースの当て方のうちです。