日本料理の割主烹従|刺身は赤身を1cm、締まった白身を2〜3mmに切る

日本料理の割主烹従|刺身は赤身を1cm、締まった白身を2〜3mmに切る

この記事でわかること

割主烹従とはどういう意味か
切ることが主、火を通すことが従。割烹の語源とされる
刺身はどのくらいの厚さに切るか
まぐろは約1cm、鯛や平目は2〜3mm、いかは幅4〜5mm
なぜ赤身は厚く、白身は薄く切るのか
生の身の硬さが魚で違う。硬い白身は薄くして噛み切りやすくする
刺身の包丁はどう動かすか
押さずに、刃元から刃先まで一度で手前に引く
煮物の面取りと隠し包丁は何のためか
面取りは盛るときの欠け止め。隠し包丁は厚みの1/3で、火と味を中に入れる

同じ鯛の柵(さく)でも、1cmの厚さに切るか、包丁を寝かせて2〜3mmにそぐかで、噛んだときの歯ごたえがまるで変わります。付ける醤油とわさびは同じです。

割烹(かっぽう)という語は、割主烹従(かっしゅほうじゅう)から来ているとされます。割は切ること、烹は火を通すことで、切ることが主、火を通すことが従という意味です。

この記事では、日本料理がなぜ切ることを主にしたのか、切り方で口当たりと味の入り方がどう変わるかを扱います。

包丁の技を順に身につける段は日本料理の包丁技術にあります。うま味・発酵調味料・地・切り方の4つが、引き算・余白・旬のどれを支えているかは日本料理の技法にまとめています。

火を通さない一皿があるから、日本料理は切ることを主にした

日本料理には、刺身のように火を通さずに出す料理があります。火を通さなければ、切り口がそのまま口当たりになります。

火を通す料理でも、日本料理は火を抑えます。煮物は沸かさずに80〜90℃で煮含め、仕上げにソースで味をまとわせません(日本料理の火加減)。火と調味料で形や味を作り直さない分、包丁で作った形と厚さが器の上まで残ります。

切り方で変わるもの何で変わるかこの記事の節
噛んだときの歯ごたえ厚さ(身の硬さに合わせる)刺身は、身の硬さで厚さを変える
切り口の角と、身のつぶれ包丁を押すか引くか片刃で手前に引くと、身がつぶれにくく角が立つ
野菜のシャキッと感・やわらかさ繊維に沿うか断つか繊維の向きで歯ごたえが、厚さで味の入る時間が変わる
味が中心まで入る時間厚さ繊維の向きで歯ごたえが、厚さで味の入る時間が変わる
煮たあとに形が残るか面取り・隠し包丁と火加減煮物の面取りは欠け止め、隠し包丁は味の入り口

同じ素材でも、切る厚さと向きを変えるだけで、口当たりと味の入り方が変わります。

刺身は、身の硬さで厚さを変える

白木のまな板の上に、同じ鯛の柵を3通りに切って左から並べた写真。平切りは厚さ1cmほどの角の立った切り身が倒れずに並び、そぎ切りは包丁を寝かせて薄く広く切った切り身が重なり、糸造りは細い糸のように切った身が小山になっている。それぞれの下に名前を焼き込んでいる

同じ鯛の柵を、平造り(ひらづくり。写真の文字は平切り)・そぎ造り(そぎづくり。写真の文字はそぎ切り)・糸造り(いとづくり。糸のように細く切る)の3通りに切ったものです。厚さが変わると、同じ身でも口に入れたときの歯ごたえが別物になります。

刺身は、赤身を厚く、白身を薄く切るのが基本です。

刺身の切り方向く魚刺身の寸法包丁の入れ方
平造りまぐろなど、やわらかい赤身厚さ約10mm柵に刃を垂直に当て、刃渡り全体で手前に一度で引く
そぎ造り鯛・平目など、身の締まった白身厚さ2〜3mm包丁を30〜45度に寝かせ、斜めに入れて引く
薄造り(うすづくり)ふぐ厚さは公表値なし(向こうが透けるほど)そぎ造りをさらに薄く引く
細造り(ほそづくり)いか幅4〜5mm7〜8cm幅の柵を、刃先で縦に線を引くように細く切る

出典: 平造り・そぎ造り・細造りは寿司職人の指導(サライ.jp)。そぎ造りの厚さと角度は削ぎ切り技法の世界比較の値。

生の身の硬さは、コラーゲンの量で変わる

22種の魚の筋肉を測った研究では、コラーゲン(筋肉を包む膜のたんぱく質)の量は、身の重さの0.34〜2.19%と、魚によって約6倍の開きがありました。同じ研究は、このコラーゲンが生の切り身の硬さに効いていると報告しています。

鯛や平目は身が固いので薄く、まぐろは身が柔らかいので厚く切ります。硬い身は薄くすれば歯が通りやすくなり、やわらかい身は厚くすれば噛みごたえが残ります。

やわらかい赤身は、平造りで約1cm

まぐろの柵は、筋目(身に入っている白い筋の流れ)を見て、筋目と交差する向きに刃を当てます。筋を断つと口当たりがよくなります。

厚さは約1cm(10mm)です。刃元を柵に当て、刃渡り全体を使って手前に一度で引き切ります。切った身は刃に乗せたまま右へ送り、順に並べます。

身の締まった白身は、そぎ造りで2〜3mm

鯛や平目は、包丁を30〜45度に寝かせ、柵の左端から斜めに刃を入れて、2〜3mmにそぎます。左手の指先で身の端を軽く押さえ、筋目を断つように引きます。最後に刃先を立てて柵から切り離します。

ふぐの薄造りは、そぎ造りの2〜3mmよりさらに薄く、皿の柄が透けるほどに引きます。厚さを数値で示した公表値は見つかりませんでした。

いかは、4〜5mm幅の細造りで繊維を断つ

スルメイカの胴の繊維は、胴の長い向きに対して直角に走っています。胴を横に7〜8cm幅の柵にし、縦に4〜5mm幅で切ると、繊維が短く断たれて噛み切りやすくなります。

生で食べるので、魚もいかも刺身用として売られているものを使います。

片刃で手前に引くと、身がつぶれにくく角が立つ

刺身に使う柳刃(やなぎば)包丁は、表側だけに刃を付けた片刃です。刃の角度は15〜20度で、刃渡りは24〜30cmあります(包丁の種類と特徴の比較)。

片刃は裏側が平らで、わずかにくぼませてあるので、切った身が刃の裏に貼りつかずに離れます。長い刃渡りは、1切れを一度の引きで切り離すためです。

押して切ると、身がつぶれて切り口が荒れる

包丁を上から押して切ると、刃が身に入る前に、刃の下の身が押されてつぶれやすくなります。刺身を押して切ると、切り口が荒れるとされます。

手前に引いて切ると、刃が身の上を長い距離滑るあいだに少しずつ入っていくので、下へ押す力が小さくて済みます。身がつぶれにくく、切り口の角が立ちます。

刃元から刃先まで一度で引き、往復させない

1切れは、刃元を当てて刃先まで一度で引き切り、前後に往復させません。

柵は冷蔵庫から出したら、手で触る時間を短くします。手の体温が身に移ると、食感と香りが落ちます。

家に柳刃が無ければ、両刃の牛刀でも、押さずに刃渡りを長く使って引けば切れます。包丁を持ち替えて段を上がる順は日本料理の包丁技術にあります。

繊維の向きで歯ごたえが、厚さで味の入る時間が変わる

繊維に沿えばシャキッと、断てばやわらかくなる

野菜にも繊維の向きがあります。繊維に沿って切ると、繊維が長いまま残ってシャキッとした歯ごたえになります。繊維を断って切ると、繊維が短くなってやわらかく、噛み切りやすくなります。

野菜の切り方繊維の向き野菜の歯ごたえ使う料理
けん(大根の細切り。太さ0.5〜1mm)沿うシャキッとする刺身のつま
横けん(太さ1mm以内)断つやわらかく、口でほどける刺身のつま
煮物の根菜断つやわらかく煮える煮物
きんぴらのごぼう・人参沿う歯ごたえが残る炒め煮

出典: 細切り技法の世界比較、日本料理の包丁技術。

繊維の向きで、調味料がしみ込む速さまで変わるかを測った資料は見つかりませんでした。味の入り方を確かに変えるのは、次の厚さです。

味が中まで入る時間は、厚さの2乗で延びる

煮汁の塩や糖は、切り口から中心へ少しずつ広がります。中心まで届く時間は、厚さのおよそ2乗で延びます。厚さが2倍なら約4倍、3倍なら約9倍です。

同じ大根の輪切りでも、厚さ1.5cmと3cmでは、中心まで味が入る時間が約4倍違います。煮る時間を延ばせない料理は、薄く切って揃えます。厚く切るなら、「隠し包丁は、見えない側に厚みの1/3まで入れる」の項の切り込みで、味の入り口を足します。

入っていく煮汁の側の比率は和食の「地」の体系、煮汁の味を支えるうま味は日本料理のうま味、醤油や味噌の香りを残す入れどきは和食の発酵調味料にあります。

煮物の面取りは欠け止め、隠し包丁は味の入り口

面取りは盛るときに角を欠かさないため。煮崩れは80〜90℃で防ぐ

面取りは、切った野菜の角を薄く削る切り方です。煮崩れを防ぐためと説明されることが多いのですが、本来の目的は盛り付けのときに箸が角に当たって形が欠けるのを防ぐことです。

煮崩れのほうは火加減で防ぎます。沸騰した煮汁で長く煮ると、面取りをしていても崩れます。湯気がほのかに立つ80〜90℃で煮れば、面取りをしなくても崩れないとされます。

こんなとき煮物の面取り煮汁の温度
器に盛って角を見せる煮物(料理屋の炊き合わせなど)する80〜90℃
家で煮て、鍋から取り分ける省いてよい80〜90℃
里芋・かぼちゃなど、崩れやすい根菜盛り付けで角を見せるならする沸かさない。80〜90℃を保つ

出典: 和樂web(2026年2月、『和樂』2010年10月号の再編集)の野崎洋光さんの解説。

隠し包丁は、見えない側に厚みの1/3まで入れる

隠し包丁は、盛り付けたときに見えない側に入れる切り込みです。見た目は変えずに、火の通りと味の入り方だけを受け持ちます(飾り切りの世界比較)。

厚さ3cmに切ったふろふき大根なら、片面に十字の切り込みを、厚みの1/3(約1cm)まで入れます。切り込みの分だけ、煮汁が中心に近いところまで入る入り口ができます。

深さの1/3は家庭向けのレシピに多い目安で、一次情報の値は見つかりませんでした。

フランスと中国は火に揃えて切り、日本は切り口そのものを出す

どの料理体系も、切り方の寸法を持っています。違うのは、切った寸法を何に合わせるかです。

料理体系切り方の寸法の例寸法を何に合わせるか主な包丁
日本料理平造り厚さ約10mm・そぎ造り厚さ2〜3mm・けん太さ0.5〜1mm生で食べたときの口当たり。魚の身の硬さで厚さを変える片刃の柳刃・出刃・薄刃を使い分ける
フランス料理ブルノワーズ2mm角・マセドワーヌ5mm角火の通り。寸法を揃えて、同じ時間で同じように火を通す両刃の牛刀
中国料理丁(ディン)8〜10mm角・絲(スー)幅2mm強火で短く炒めるときの火の通り。味は火と合わせ調味料で作る菜刀(さいとう。中華包丁)1本

出典: 寸法はサイコロ切り技法の世界比較と日本料理の包丁技術の値。

フランス料理は、野菜を決まった寸法に切り揃えて、鍋の中で火の通りを揃えます。中国料理は、菜刀1本で材料を同じ大きさに切り、強い火で短く炒め、合わせ調味料で味をまとめます。どちらも、切ったあとに火と調味料が料理を仕上げます。

日本料理の刺身は、切ったところで料理が終わります。だから寸法を1つに揃えるより、魚の身の硬さに合わせて厚さを変えます。

うまくいかせる条件

こんなときどうするか外すとどうなるか
まぐろを刺身にする筋目と交差させて約1cmの平造り薄いと噛みごたえが残らず、筋に沿って切ると口当たりが落ちる
鯛や平目を刺身にする包丁を30〜45度に寝かせて2〜3mmにそぐ厚いと硬くて口に残る
いかを刺身にする7〜8cm幅の柵を縦に4〜5mm幅幅が広いと繊維が残って噛み切れない
刺身を切る刃元から刃先まで一度で引く。往復させない押すと切り口がつぶれやすい
柵を扱う冷やしたまま、触る時間を短く身がぬるくなり、食感と香りが落ちる
根菜を煮る沸かさず80〜90℃。盛り付けで角を見せるなら面取り沸かし続けると面取りしても崩れる
大根を3cmに切って煮る見えない側に厚みの1/3まで十字の隠し包丁中心まで味が入らない

よくある失敗と対策

固まりすぎた回復できる
なぜ
白身をまぐろと同じ1cmに切りました。筋肉のコラーゲンが生の身を硬くしているので、厚いと噛み切れません
どうする
切った刺身を、さらに2〜3mmにそぎ直します
次から
白身は包丁を30〜45度に寝かせて、2〜3mmにそぎます
水っぽい・ゆるい部分的
なぜ
包丁を上から押して切ったか、柵を手で長く持っていました。切り口がつぶれ、身がぬるく緩んでいます
どうする
切った分は戻りません。残りの柵を冷蔵庫で冷やし直してから切ります
次から
刃元から刃先まで一度で手前に引き、往復させません。柵は冷やしたまま、触る時間を短くします
煮崩れた部分的
なぜ
沸騰させたまま煮たので、細胞どうしをつなぐペクチンが分解して緩んだ組織が、沸騰の対流で揺すられて崩れました
どうする
火を弱め、湯気がほのかに立つくらいまで下げて、残りの時間を煮ます
次から
沸いたら火を弱め、80〜90℃で煮含めます。面取りは盛るときに角を欠かさないためのものです
味が染み込まない回復できる
なぜ
大根を厚く切ったまま、短い時間で煮ました。味が中心まで入る時間は、厚さの2乗で延びます
どうする
火を止めて煮汁ごと冷まし、冷める間に中まで味を入れます
次から
厚く切るなら、盛ったとき見えない側に厚みの1/3まで十字の隠し包丁を入れます

切り方で押さえる4つ

日本料理は、火を通さない一皿を持ち、火を抑えて煮るので、包丁で作った形と厚さが器の上まで残ります。

  • 刺身は身の硬さで厚さを変えます。まぐろは約1cm、鯛や平目は2〜3mm、いかは幅4〜5mmです
  • 片刃の包丁を押さずに、刃元から刃先まで一度で手前に引くと、切り口がつぶれにくくなります
  • 野菜は繊維に沿えばシャキッと、断てばやわらかくなり、味が入る時間は厚さの2乗で延びます
  • 面取りは盛るときの欠け止めで、煮崩れは80〜90℃で防ぎます。厚く切るなら隠し包丁を厚みの1/3まで入れます

フランス料理と中国料理は、切った寸法を火の通りに合わせます。日本料理の刺身は、切ったところで料理が終わるので、寸法を魚に合わせます。