梅シロップの材料は青梅と氷砂糖だけです。水は一滴も入れません。
それでも2週間後には、瓶いっぱいの液体になっています。
水を入れないのに液体ができる
**出てきた液体は梅の水分です。**砂糖の浸透圧で果実から引き出され、そこに砂糖が溶けて糖液になります。
ここが他の抽出と決定的に違います。
| 技法 | 溶媒を用意するか | 何が溶媒になるか |
|---|---|---|
| 水で取る | 用意する | 水 |
| 油で取る | 用意する | 油 |
| 酒で取る | 用意する | 酒 |
| 酢で取る | 用意する | 酢 |
| 砂糖で取る | ★用意しない | ★素材の水分 |
他の4つは溶媒を用意して素材を入れます。砂糖は素材から溶媒を作らせます。
配合は梅1kgに氷砂糖1kgが基本です。同量です。
上を砂糖で終える理由
瓶の底に氷砂糖を入れ、梅と氷砂糖を交互に重ねます。そして一番上は梅ではなく氷砂糖で終えます。
理由は2つあります。上に砂糖を置くと、溶けた糖液が上から下へ落ちて全体に回ります。逆に梅を上にすると、液面から出た梅が空気に触れます。
翌日からは**1日2〜3回、瓶を傾けて回します。**糖液を全部の梅にかけるためです。
1〜2週間でできあがります。7〜10日でほとんどのシロップが上がります。
ヘタを取るときは竹串を使います。これにも理由があります(後述します)。
発酵しやすいのは溶媒に守りがないから
梅シロップは発酵しやすい技法です。温度が高い、瓶を回す回数が足りないと起きます。
理由は溶媒に守りがないことです。
| 技法 | 溶媒の守り |
|---|---|
| 果実酒 | アルコール20度以上。雑菌が繁殖できない |
| 果実酢 | 酢酸3〜5%。弱いが酸がある |
| 梅シロップ | ★なし。糖液に殺菌力がない |
しかも**最初は液体すら足りていません。**梅が空気に触れている時間が、漬け込み技法の中で最も長くなります。
対策は3つあり、すべて「守りを補う」ことに向かっています。
| 対策 | 何を補うか |
|---|---|
| 酢を少量加える(大さじ1〜20cc程度) | 酸を足す |
| 梅を冷凍しておく | 液体が早くできるようにする |
| 毎日必ず回す | 空気に触れる時間を減らす |
**酢を足すのは面白い判断です。**溶媒を持ち込まない技法に、あえて別の溶媒を少量入れて守りを作っています。
糖度が上がりきれば保存性は出ます。危ないのは糖度が上がるまでの最初の数日だけです。
生梅か冷凍梅か——速さと風味のどちらを取るか
ここで資料が食い違います。「冷凍すると細胞壁が壊れてエキスが出やすくなる」とするものと、「生梅のほうが風味と香りが良い」とするものがあります。
どちらも正しく、トレードオフになっています。
| 出る速さ | 風味と香り | 発酵リスク | |
|---|---|---|---|
| 生梅 | 遅い | 上 | 高い(液体ができるまで時間がかかる) |
| 冷凍梅 | 速い | 落ちる | 低い |
冷凍すると氷の結晶が細胞壁を壊すので、中身が出やすくなります。ただし細胞が壊れるぶん、風味は落ちます。
判断はこうなります。**失敗を避けたいなら冷凍、風味を狙うなら生。**初めて作るなら冷凍、慣れたら生を試すのが現実的です。
これはハーブ酒の生と乾燥と同じ構造の判断です。素材の状態が、速さと風味を同時に動かします。
梅は金属を嫌う
ヘタを取るのに竹串を使うのは、梅が金属を嫌うためです。
理由は梅の酸です。梅はクエン酸を多く含む果実なので、酢を使っていなくても酸の問題が出ます。
ハーブビネガーでふたを金属以外にするのと同じ構造で、酸が金属を腐食させます。
料理での意味は1つです。**梅の仕込みでは金属を避けます。**竹串、ガラス瓶、樹脂のふたを選びます。
砂糖は5つ目の溶媒ではない
抽出は溶媒で決まると整理しましたが、砂糖はその4つには並びません。
**砂糖には「何が溶けるか」の軸がありません。**出てくるのは梅の水分に溶けるもの、つまり水溶性の成分です。取れるものは水と同じです。
違うのは素材から水を奪うという副作用です。だから果実は縮みます。ゆっくり溶ける氷砂糖を使うのは、この急変を抑えるためです。
まとめ:溶媒ができるまでが勝負
- 梅シロップは水を入れない。出てくる液体は梅の水分で、砂糖の浸透圧が引き出している
- だから砂糖は溶媒を持ち込まない抽出。4溶媒に並ぶ5つ目ではなく、溶媒を作らせる方法
- 一番上は氷砂糖で終える。糖液が上から回るようにするため。1日2〜3回瓶を回す
- ★発酵しやすいのは糖液に殺菌力がないから。酒の20度、酢の3〜5%に当たる守りがない。危ないのは糖度が上がるまでの最初の数日
- 対策は3つとも守りを補う方向。酢を少量/梅を冷凍/毎日回す
- 生梅は風味、冷凍梅は速さと安全。トレードオフなので狙いで選ぶ
- 梅は金属を嫌う。竹串とガラス瓶を使う
砂糖を含めた5つの溶媒の位置関係は抽出は溶媒で決まるにあります。砂糖だけが溶媒を持ち込まないという特殊な立ち位置です。