この記事でわかること
- 魚は中心何度で止めるか
- 白身58〜62℃、赤身50〜60℃、脂の多い魚55〜65℃
- サーモンをとろける食感にしたい
- 低温調理43〜49℃。中心が届いたら出す
- 煮魚を崩さずしっとり
- 80〜85℃を保ち、沸騰させずに10〜15分
- 残るリスクの減らし方
- 刺身用か−20℃24時間冷凍済みを選び、当日に使う
- 安全を優先するなら
- 中心60℃1分か70℃以上、または冷凍処理済み
「魚を焼いたらパサパサになった」「中がまだ生だった」——魚は肉より低い温度で固まり、少しの行きすぎで水を失います。
先に答えを書きます。焼く・煮る・蒸すなら白身は中心58〜62℃、赤身は50〜60℃、脂ののった魚は55〜65℃です。温度を保てる低温調理なら、サーモン43〜49℃、白身49〜60℃、マグロ38〜43.5℃まで下げられます。
この記事が扱うのは食材別の火入れのうち魚(切り身・一尾)です。魚の種類と調理法ごとのおいしい温度、残るものと減らし方、安全を優先する人の公表値、焼き・煮・蒸しの火入れを1本にまとめます。貝とエビは貝と甲殻類の火入れにあります。
魚は白身58〜62℃、低温調理ならサーモン43〜49℃
魚の種類ごとのおいしい中心温度
| 魚の種類 | 焼く・煮る・蒸すときの中心温度(℃) | 低温調理の湯温(℃) | 仕上がり |
|---|---|---|---|
| 白身(鯛・ヒラメ・タラ) | 58〜62 | 49〜60 | 身がほぐれず、しっとり |
| 赤身(マグロ・カツオ) | 50〜60(中心はレアでよい) | 38〜43.5 | 赤身の色と香りが残る |
| 脂ののった魚(サーモン・サバ・ブリ) | 55〜65 | 43〜49(サーモン) | 脂が溶け、半生でとろける |
| 小魚(アジ・イワシ) | 60〜65 | ——(薄くて温度を保つ意味が無い) | 短時間で火が通る |
出典:低温調理の湯温は Douglas Baldwin「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」。焼く・煮る・蒸すの中心温度は、温度を保てない加熱で止めたときの到達点です。
焼く・煮る・蒸すは火を止めても中心が上がり続けるので、低温調理より5〜10℃高いところで止めます。低温調理は湯温がそのまま中心温度になるので、中心が届いたら出します。長く置く理由がありません。
魚は44〜45℃で固まり始め、66℃で水を失う
| 中心温度(℃) | 魚のタンパク質に起きること | 身の状態 |
|---|---|---|
| 44〜45 | ミオシンが変性を始める | 半透明から白へ変わり始める |
| 50 | ミオシンが凝固する | 箸で押すと層に分かれる |
| 58〜62 | ミオシンが固まり、アクチンはまだ | ふっくら、しっとり |
| 66 | アクチンが変性を始める | 筋繊維が縮み、水分を押し出す |
| 70以上 | 水分が急速に抜ける | パサパサ、硬い |
出典:タンパク質の変性。畜肉のミオシンは50℃前後で、魚だけ44〜45℃です。
魚が肉より低い温度で仕上がるのは、ミオシンが5℃低く固まるからです。筋繊維は肉の10分の1の長さ、コラーゲンは3分の1、水分は70〜80%なので、崩れやすく、水を失いやすい身です。
魚の種類ごとに向く調理法
| 魚の特徴 | 向く調理法 | 理由 |
|---|---|---|
| 脂ののった魚 | 焼き、蒸し | 余分な脂を落とすか、脂を活かす |
| 淡白な白身魚 | ソテー、蒸し、蒸し煮 | 油脂で補うか、繊細な味を活かす |
| 赤身魚 | 表面だけ焼く | 中心レアで旨味を活かす。たたき、ステーキ |
| 鮮度の高い魚 | 蒸し | 素材の味がそのまま出る |
| 身崩れしやすい魚 | 蒸し煮 | 動かさず均一に火が通り、ソースと一体になる |
| 鮮度が落ちた魚 | 煮魚 | 調味料で臭みを覆える |
鍋料理は、魚の火入れとしてはいちばん不向きです。食卓で放置されて温度が上がり続けるからです。魚鍋は魚の旨味を出汁に移す料理と捉え、魚は最後に入れて2〜3分で引き上げます。
残るのはアニサキス、減らすのは買い方
何が残りうるか
| 相手 | 正体 | 何で減らすか |
|---|---|---|
| アニサキス | 寄生虫。約2〜3cmの白い糸状 | 加熱60℃1分・70℃以上、または冷凍−20℃24時間以上 |
| ヒスタミン | 魚肉のヒスチジンから菌の酵素が作る物質 | 作らせない。死んだ瞬間からの低温管理 |
| 腸炎ビブリオ | 沿岸の海水にいる菌。15℃以上で活発 | 真水で洗う、4℃以下で保存、加熱60℃10分 |
出典:厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」、同「腸炎ビブリオ食中毒予防」。
おいしい温度(白身58〜62℃、サーモン43〜49℃)では、アニサキスは死にません。ヒスタミンは一度できると加熱で壊れません。だから魚は、肉と違って加熱の温度ではなく買い方で減らします。
減らす手は買い方にある
| やること | なぜ効くか |
|---|---|
| 刺身用(生食用)として売られている魚を使う | 生で食べる前提で流通している |
| 冷凍処理済みの魚を使う | −20℃24時間以上でアニサキスが死ぬ |
| 低温で運ばれ、冷蔵で保存された魚を使う | ヒスタミンは一度できると加熱で壊れない |
| 内臓を早く取り除く | 魚が死ぬと幼虫が内臓から筋肉へ移る |
| 調理前に流水で洗い、4℃以下で保存する | 腸炎ビブリオは真水で増えず、低温で止まる |
| 買った日に使う | 置くほど幼虫が筋肉へ移り、ヒスタミンが増える |
家庭の冷凍庫(−18℃前後)では−20℃24時間の条件を満たせません。冷凍処理は、処理済みとして売られている魚で代えます。サーモンは天然のサケに寄生虫が多く、養殖の刺身用を選ぶ理由はここにあります。
安全を優先するなら中心60℃1分か70℃以上
公表値は加熱か冷凍の2通り
子どもや高齢者に出すとき、刺身用も冷凍処理済みも手に入らないときは、公表値を使います。
| やり方 | 条件 | 仕上がり |
|---|---|---|
| 加熱で処理する(アニサキス) | 中心60℃で1分、または70℃以上 | 白身は層が消え、蒸し魚の質感 |
| 加熱で処理する(食肉と同じ基準) | 中心75℃で1分以上 | しっかり火が通る |
| 冷凍で処理する | −20℃で24時間以上(処理済みを選ぶ) | 温度は好みで選べる |
出典:厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」、大量調理施設衛生管理マニュアル。加熱の条件は中心温度に達してからの維持時間です。
白身を中心60℃で1分保つと、58〜62℃の上限に近く、しっとりは残ります。70℃以上はアクチンが縮んだあとの質感で、煮魚の煮汁や蒸し魚のソースで水分を補う前提の仕上がりです。
色では火の通りを読めない
白身は50℃で白く変わりますが、白くなった時点では60℃1分を満たしていません。逆に赤身は60℃でも赤みが残ることがあります。
厚さ2cm以上の切り身は、いちばん厚いところに中心温度計を刺します。温度計が無いときの見方は五感で温度を見分けるにあります。
肉との違いは固まる温度と残る相手
肉との比較
| 食材 | おいしい中心温度 | 残るものと減らし方 | ミオシンが固まり始める温度 |
|---|---|---|---|
| 魚(この記事) | 白身58〜62℃、低温調理38〜60℃ | アニサキス。刺身用か冷凍処理済みを選ぶ | 44〜45℃ |
| 牛肉 | 48〜60℃ | 菌は表面。かたまりのまま表面を焼く | 50℃前後 |
| 鶏肉 | もも70〜75℃、むねの低温調理58〜60℃ | カンピロバクターが筋肉に。新鮮なものを冷蔵で | 50℃前後 |
| 貝と甲殻類 | 49〜60℃ | 腸炎ビブリオ。真水で洗い4℃以下で | 魚と同じ |
出典:変性温度はタンパク質の変性。おいしい温度は各食材の記事の値です。
肉は加熱の温度と時間で菌を減らしますが、魚の相手(アニサキス・ヒスタミン)は加熱で減らすものではありません。魚だけ、安全が買い方に寄ります。
作りたい料理から魚を選ぶ
| 作りたいもの | 選ぶ魚 | 理由 |
|---|---|---|
| 皮パリのソテー・ポワレ | 鯛、スズキ、サーモン | 皮が厚く、150〜170℃で皮だけ乾かせる |
| 崩れない煮魚 | カレイ、金目鯛、ブリ | 身がしまり、80〜85℃で形を保つ |
| 半生のとろける食感 | 刺身用サーモン、マグロ | 冷凍処理済みなら43〜49℃・38〜43.5℃で出せる |
| 丸ごとの蒸し魚 | 鮮度の高い白身一尾 | 100℃の蒸気で均一に火が通る |
焼き・煮・蒸しの火入れ
焼き魚は遠火の強火、皮目7割
| 手順 | やること | 外すとどうなるか |
|---|---|---|
| 1 | 塩をして10〜15分置き、水分を拭く | 水分が残ると皮が乾かない |
| 2 | グリルを250〜300℃に予熱する | 低温では皮が網に貼り付く |
| 3 | 皮目から全体の7割を焼く | 身側から焼くと皮が縮んで反る |
| 4 | 裏返して3割、中心58〜62℃で出す | 置き続けると余熱で66℃を超える |
遠火にすると、表面が焦げる前に中心が届きます。ソテー・ムニエルは150〜170℃の油で皮目から入れ、裏返してからバターを加えて130〜150℃でかけます(アロゼ)。
煮魚は80〜85℃、沸騰させない
| 手順 | やること | 外すとどうなるか |
|---|---|---|
| 1 | 煮汁を沸騰させてから魚を入れる | 冷たい煮汁から入れると臭みが出る |
| 2 | 火を弱めて80〜85℃を保つ | 沸騰させると身が崩れ、パサつく |
| 3 | 落とし蓋をして10〜15分 | 蓋が無いと上面に火が通らない |
| 4 | 魚を取り出してから煮汁を煮詰める | 魚ごと煮詰めると硬くなる |
80〜85℃は、中くらいの泡が連続して上がる「蟹の目」の湯加減です。蒸し煮(アクアパッツァ・ポシェ)は、液体を魚の半分まで入れ、蓋をして中火で10〜15分です。
蒸し魚は強火で8〜12分
蒸し器の湯を沸かしてから魚を入れ、強火で8〜12分(厚さで変わる)です。100℃の蒸気で均一に火が通り、脂が保たれます。身が縮んだら加熱しすぎです。
仕上げに熱したごま油と醤油をかけるのが清蒸(チンジョン)です。余熱で中心が上がるので、皿に出したあと数分で食べ始めます(余熱を使いこなす)。
よくある失敗と対策
パサついた部分的
- なぜ
- 中心が66℃を超えてアクチンが収縮し、抱えていた水分を放出しました
- どうする
- 蒸し汁やソースを絡めて水分を補い、盛り付け直します
- 次から
- 中心58〜62℃で火を止め、残りは余熱で通します
中が生だった回復できる
- なぜ
- 表面だけ高温になり、魚の低い熱伝導率のため中心まで熱が届きませんでした
- どうする
- 蓋をして中火で蒸し焼きにし、中心まで火を通します
- 次から
- 中火でじっくり焼き、厚い魚は蓋をして熱を回します
煮崩れた部分的
- なぜ
- 加熱で筋節をつなぐ結合組織が緩み、沸騰の対流や接触で身が分離しました
- どうする
- 崩れた身はほぐして別皿に移します。残りは動かさず火を止めます
- 次から
- 焼く間は触らず、煮るときは沸騰させず80〜85℃を保ちます
フライパンに貼り付いた回復できる
- なぜ
- 予熱不足で皮のタンパク質が金属面と結合し、焼き固まる前に貼り付きました
- どうする
- 動かさず焼き続けます。皮が焼き固まれば自然に剥がれます
- 次から
- フライパンを十分に予熱してから魚を入れます
臭みが残った部分的
- なぜ
- 表面の水分に溶けたトリメチルアミンが残り、加熱で揮発して匂いが立ちました
- どうする
- レモンなどの酸を効かせ、トリメチルアミンを中和して匂いを抑えます
- 次から
- 塩を振って水分を抜き、霜降りで表面の臭み成分を洗い流します
手元の魚でやることは4つ
- 焼く・煮る・蒸すなら白身は中心58〜62℃で止めます。箸で押すと層に分かれ、身がほぐれません
- 半生のとろける食感は低温調理で取ります。サーモン43〜49℃、白身49〜60℃、マグロ38〜43.5℃で、中心が届いたら出します
- 刺身用か冷凍処理済みの魚を選び、買った日に使います。残るアニサキスとヒスタミンは、加熱の温度では減らせません
- 安全を優先するなら中心60℃で1分か70℃以上です。子どもや高齢者に出すとき、刺身用が無いときはこちらを使います
魚は、肉より5℃低く固まり、肉より早く水を失います。止めどきを5〜10℃手前に置けば、ふっくらした魚になります。