鶏肉の火入れ|むねは58〜60℃でしっとり、ももは70〜75℃でジューシーに仕上げる温度

鶏肉の火入れ|むねは58〜60℃でしっとり、ももは70〜75℃でジューシーに仕上げる温度

この記事でわかること

鶏むね肉をしっとりさせたい
低温調理58〜60℃。58℃で厚さ25mmなら2¼時間
鶏もも肉をジューシーに焼きたい
皮目から弱火で脂を出し、中心70〜75℃で止める
唐揚げの火の通し方
160℃4分、3分休ませ、180℃1分。中心70〜75℃
残るリスクの減らし方
新鮮なものを買ってすぐ冷蔵し、ドリップを拭く
安全を優先するなら
中心63℃30分、または75℃1分(食品安全委員会)

鶏肉は「むねはパサパサ、ももは生焼け」という失敗が、同じ火入れで同時に起きます。むねは66℃を超えると水を押し出し、ももは70℃に届かないとすじが残るからです。

先に答えを書きます。むね肉は低温調理58〜60℃(58℃で厚さ25mmなら2¼時間)、もも肉を焼く・揚げるなら中心70〜75℃です。むねはしっとり、ももは皮がパリッとして中がジューシーに仕上がります。

この記事が扱うのは食材別の火入れのうち鶏肉です。部位と加熱法ごとのおいしい温度、残るものと減らし方、安全を優先する人の公表値、サラダチキン・唐揚げ・皮パリの焼き方を1本にまとめます。

鶏肉はむね58〜60℃、ももは70〜75℃

部位と加熱法ごとのおいしい中心温度と時間

部位と加熱法おいしい中心温度と時間止めどきの目安
むね・ささみの低温調理58〜60℃。58℃で厚さ25mmなら2¼時間、30mmなら2¾時間湯温がそのまま中心温度になる
むねの余熱調理(鍋で湯に入れて放置)沸く直前の湯に入れて火を止め、蓋をして30〜40分中心63〜65℃。切り口が白く、汁が透明
むねのフライパン観音開きにして皮目3分、裏返して蓋をし弱火5分中心66℃の手前で火を止め、3分休ませる
ももの低温調理63〜65℃。65℃で厚さ25mmなら55分、30mmなら1¼時間やわらかさを出すならそれより長く
ももを焼く・揚げる中心70〜75℃皮がきつね色、骨のきわの汁が透明
手羽・骨付きの煮込み80〜90℃で1〜2時間骨からすっと外れる

出典:低温調理の時間は Douglas Baldwin「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」Table 4.1。冷蔵庫から出した5℃の肉を湯に入れてからの総時間です。

フライパン・グリル・揚げ物の70〜75℃は、温度を保てない加熱で、すじの多いももがほどけて脂が溶ける温度です。むね肉をこの温度まで上げると、水分の2割近くが出ていきます。

むねは66℃で水を失い、ももは70℃からほどける

部位脂(%)コラーゲン温度を上げると起きること
ささみ0.8ほぼ無い66℃からアクチンが縮み、水分を押し出す
むね1〜2少ない同上。脂が無いので失った水を補えない
もも10〜15やや多い65℃付近でコラーゲンが縮み、70℃以上でゼラチンに変わる
手羽中程度非常に多い80℃以上を1時間保つととろける

出典:脂肪量は日本食品標準成分表。変性温度はタンパク質の変性とコラーゲンのゼラチン化。

ミオシンは50℃前後から固まって弾力を作り、アクチンは66℃から固まって筋繊維を縮めます。むねの58〜60℃はミオシンだけが固まった状態で、断面はしっとり、繊維がほぐれます。

ももは脂とコラーゲンが補うので、75℃まで上げても乾きません。むしろ65℃で止めたももはすじがゴムのように残ります。

部位ごとに向く料理

部位向く料理その料理での温度
むねサラダチキン、鶏ハム、蒸し鶏、棒棒鶏低温調理58〜60℃、余熱調理で中心63〜65℃
ささみしゃぶしゃぶ、和え物湯に通して中心60℃前後
もも唐揚げ、照り焼き、ソテー、コンフィ焼く・揚げるなら70〜75℃、コンフィなら65℃で12〜24時間
手羽先・手羽元煮込み、スープ、グリル80〜90℃で1〜2時間、グリルなら中心75℃
皮皮せんべい、焼き鳥の皮弱火で脂を出し、180℃以上で仕上げる

出典:温度は「部位と加熱法ごとのおいしい中心温度と時間」の表と同じ値です。コンフィの65℃で12〜24時間は Douglas Baldwin の家禽のもも肉の値です。

鶏皮は約1mmと薄く、豚皮(3〜5mm)と違って5〜10分でパリパリになります。冷たいフライパンに皮目から置いて弱火で脂を出すと、皮が乾いてから焼き色が付きます。

残るのはカンピロバクター、減らすのは鮮度と冷蔵

何が残りうるか

相手どこにいるか死ぬ温度と時間
カンピロバクター腸にいて、処理の過程で筋肉の中にも入る中心63℃で30分(食品安全委員会の対象菌)
サルモネラ属菌皮・表面・ドリップ60℃15分、75℃1分

出典:内閣府 食品安全委員会「肉を低温で安全においしく調理するコツ」、厚生労働省「食肉の加熱条件に関するQ&A」。

カンピロバクターは細菌性食中毒の原因の第1位で、鶏の筋肉そのものにいます。牛のように表面を焼けば済む肉ではなく、豚のように履歴で減らせる相手でもありません。

58〜60℃の低温調理は、Baldwin の表の時間を満たせばサルモネラを1000万分の1、リステリアを100万分の1に減らします。余熱調理とフライパンは温度を保てないので、公表値を満たしたとは言えません。だから減らし方を先に置きます。

減らす手は買い方と扱い方にある

やることなぜ効くか
新鮮なものを選び、買ってすぐ冷蔵(10℃以下)菌は10℃以上で増える。増える前に加熱する
ドリップを拭き、袋と汁を触ったら手を洗う菌はドリップに多い。他の食材に移さない
まな板と包丁を生野菜と分ける加熱しない食材に移るのがいちばん多い経路
中心温度計でいちばん厚いところを測る鶏は骨のきわが遅れる。色では読めない
低温調理は湯温を一定に保てる機器で低い側に落ちた時間は菌が減らない
当日中に食べ切る加熱後に残った菌が増える時間を与えない

鶏の生食(鶏刺し・たたき)は、厚生労働省が販売・提供を控えるよう通知しています。表面を炙っても中の菌は残るので、低温調理の時間を満たすか、公表値を使います。

安全を優先するなら中心63℃で30分

公表値は中心63℃30分と同等の4組

子どもや高齢者、妊娠中の人、体調の悪い人に出すとき、温度計や低温調理器が無いときは、公表値を使います。食品安全委員会は鶏肉について、中心63℃に達してから30分を示しています。

中心温度(℃)中心温度に達してからの維持時間仕上がり
6330分むねは繊維の束が太くなる。ももはすじが残る
6515分むねから水が出始める
703分ももがほどけ始める
751分中心が白く変わる。唐揚げ・ソテーの到達点

出典:内閣府 食品安全委員会「肉を低温で安全においしく調理するコツ」、厚生労働省「食肉の加熱条件に関するQ&A」。すべて中心温度に達してからの維持時間で、湯温でも総時間でもありません。

63℃に届くまでの時間は、むね肉300g・厚さ3cmを63℃の湯に入れて68分(食品安全委員会の実測)です。到達してから30分なので、合計1時間40分です。この4組が同じ安全性で並ぶ理由は58℃が63℃30分より低くても成り立つ理由にあります。

色では63℃30分を確かめられない

むね肉は60℃前後で白く変わりますが、白くなった時点では63℃30分を満たしていません。逆に、63℃で30分保ったむね肉は、骨のきわがピンクのまま残ることがあります。

色を作るミオグロビンと、菌を減らす温度と時間は別に動きます(肉の色と安全)。温度計を持たないときの考え方は低温調理は温度計なしで成り立たないにあります。

牛・豚との違いは残る相手と脂の軽さ

残る相手と脂の融点の比較

食材おいしい中心温度残るものと減らし方脂の融点
牛肉48〜60℃(レア〜ミディアム)菌は表面。かたまりのまま表面を焼く40〜50℃
豚肉63℃で止める。低温調理58〜61℃E型肝炎ウイルスが中に。新鮮な国産を選ぶ30〜48℃(部位差大)
鶏肉(この記事)もも70〜75℃。むねの低温調理58〜60℃カンピロバクターが筋肉に。新鮮なものを冷蔵で30〜32℃

出典:脂の融点は脂肪の融点と口どけ。おいしい温度は各食材の記事の値です。

ミオシンとアクチンの変性温度は、牛・豚・鶏で変わりません。違うのは残る相手で、鶏だけが筋肉そのものに菌を持ちます。だから鶏のむね肉でしっとりを取るなら、温度を保てる低温調理が要ります。

鶏脂は30〜32℃で溶けて体温より低く、冷めても口に残りません。棒棒鶏や蒸し鶏のような冷製が成り立つのは、この融点のためです。

作りたい料理から部位を選ぶ

作りたいもの選ぶ部位理由
しっとりした冷製・サラダむね、ささみ脂が無く淡白。58〜60℃で止めれば水分が残る
皮パリで中がジューシーもも(皮付き)脂とコラーゲンが補うので75℃でも乾かない
唐揚げ・フライドチキンもも高温の油で中心75℃まで上げても肉汁が残る
とろける煮込み・スープ手羽、骨付きももコラーゲンが多く、80℃以上で1時間保つとほどける

味付けは淡白なので、照り焼き・唐揚げ・カレー・タンドリーのどれも受け入れます。脂が軽いので、濃い味でも食べ疲れしません。

サラダチキン・唐揚げ・皮パリの作り方

サラダチキンは58〜60℃で2時間、余熱なら30〜40分

作り方温度と時間止めどき
低温調理塩1%をすり込んで袋に入れ、58〜60℃で2〜2¾時間(厚さ25〜30mm)湯温に届いたら時間を数える。取り出して冷ます
余熱調理常温に30分戻し、沸く直前の湯に入れて火を止め、蓋をして30〜40分中心温度計で63〜65℃。足りなければ弱火で5分

出典:低温調理の時間は Douglas Baldwin Table 4.1。余熱調理の時間は鍋の大きさと湯の量で動くので、中心温度で見ます。

余熱調理は湯温が下がり続けるので、中心は63〜65℃で止まります。しっとりしますが公表値の63℃30分は満たしていないので、新鮮なものを当日中に食べる作り方です。子どもや高齢者に出すなら低温調理か公表値を使います。

唐揚げは160℃4分、休ませて180℃1分

手順やること外すとどうなるか
1一口大に切り、醤油・酒・生姜で下味、片栗粉をまぶす大きさが揃わないと火の通りがばらつく
2160℃の油で4分高温から入れると衣が焦げて中が届かない
3網に上げて3分休ませる余熱で中心が均一になる
4180℃の油で1分表面の水分が飛んでカリッとする

二度揚げの1回目で中まで火を通し、休ませて中心を均一にし、2回目で表面を乾かします。切って骨のきわの汁が透明なら中心70〜75℃に届いています。

もも肉は冷たいフライパンに皮目から

手順やること外すとどうなるか
1常温に30分戻し、皮目にフォークで穴、塩1%で10分皮が縮んで反る
2冷たいフライパンに皮目を下に置き、弱火で10〜12分強火だと脂が出る前に皮が焦げる
3皮がきつね色になったら裏返し、中火で3分皮目が8割、肉面は2割
4火を止めて3分休ませる切ると肉汁が流れる

皮の下の脂が溶けて出きると、皮は薄く乾いてパリパリになります。出た脂は捨てずに、付け合わせの野菜を焼くのに使えます。

よくある失敗と対策

パサついた部分的
なぜ
66℃を超えてアクチンが変性し、筋繊維が収縮して保水していた水分を押し出しました
どうする
ソースや煮汁に浸して水分を補い、繊維を断つ方向に薄く削ぎます
次から
むね肉は低温調理58〜60℃にします。焼くなら中心が66℃に届く前に火から外し、余熱で仕上げます
肉が固くなった回復できる
なぜ
コラーゲンがゼラチン化する温度帯に届かず、結合組織が硬いまま残りました
どうする
蓋をして弱火で加熱を続け、75℃前後を保ってゼラチン化まで進めます
次から
もも肉は中心70〜75℃まで上げます。むね肉と同じ温度で止めません
衣・皮がベチャッとした回復できる
なぜ
皮の水分の蒸発に熱が奪われ、脂が融け出す温度まで皮の表面が上がりきりませんでした
どうする
皮目を下にして強火に上げ、水分を飛ばしてから焼き直します
次から
冷たいフライパンに皮目から置き、弱火で脂をゆっくり融かし出します
中が生だった回復できる
なぜ
表面だけが高温にさらされ、熱伝導が中心へ届ききる前に加熱を終えました
どうする
蓋をして弱火で蒸し焼きにし、中心温度が上がるまで待ちます
次から
厚みを均一に開き、蓋をして熱を全体へ回します
肉汁が流れ出た部分的
なぜ
加熱で筋繊維に押し出された肉汁が、休ませる前に切ったため圧力で流れ出ました
どうする
流れた肉汁は捨てずソースに使います。肉自体の水分は戻せません
次から
焼き上げ後3分以上休ませ、肉汁が繊維へ戻る時間を取ります

手元の鶏肉でやることは4つ

  1. むね肉は低温調理58〜60℃です。58℃で厚さ25mmなら2¼時間、断面はしっとりして繊維がほぐれます
  2. もも肉は皮目から弱火で脂を出し、中心70〜75℃で止めます。皮はきつね色、骨のきわの汁は透明です
  3. 新鮮なものを買ってすぐ冷蔵し、ドリップを拭き、まな板を分けます。残るのはカンピロバクターで、鶏の筋肉そのものにいます
  4. 安全を優先するなら中心63℃で30分、または75℃で1分です。子どもや高齢者に出すとき、温度計が無いときはこちらを使います

むねとももでは、おいしい温度が12℃以上違います。部位ごとに温度を変えれば、「むねはしっとり、ももはジューシー」が同じ台所で両立します。