肉のたんぱく質が熱で変わる温度
ことわりクッキングが記事に書いている値の出どころです。値と条件を、参照した文献と一緒に並べています。
値
| 値 | 対象と条件 | 版 | 文献 |
|---|---|---|---|
| 50°C | 牛・豚・鶏のミオシン 肉の中心温度。ミオシンが固まって肉が白くなり、弾力が出始める温度 | rev 1 2026-11-05 | [1][2][3] |
| 66°C | 牛・豚・鶏のアクチン 肉の中心温度。アクチンが変わって筋繊維が縮み、抱えていた水を押し出し始める温度 | rev 1 2026-11-05 | [1] |
| 66〜73°C | 牛・豚・鶏のアクチン 肉の中心温度。アクチンが変わり始めてから変わり終わるまでの幅 | rev 1 2026-11-05 | [1][3] |
| 60°C | 牛・豚・鶏のミオシン 肉の中心温度。ミオシンが固まりきる温度。ここまで来ると、肉は白く弾力のある状態になっている | rev 1 2026-11-06 | [1][3] |
| 65°C | 牛・豚・鶏のコラーゲン 肉の中心温度。すじ(コラーゲンの線維)が強く縮み、肉が硬くなり始める温度 | rev 1 2026-11-06 | [1][4][5][6][7] |
| 55°C | 牛・豚・鶏のコラーゲン 肉が水分を含んだまま加熱されているとき。時間をかければコラーゲンがゼラチンに変わり始める、いちばん低い温度 | rev 1 2026-11-06 | [8][9][10][11] |
補足
50°C(牛・豚・鶏のミオシン)
- 幅
- ミオシンの変化は40〜60°Cの幅にわたって進む。測り方と昇温の速さで数°C動く
- この値を採った理由
- Martens ほかは牛肉のミオシンが40〜60°Cの幅で変わるとし、Tornberg は筋肉のたんぱく質が45〜50°Cでゲル(網目)になるとまとめている。 肉が白くなり弾力が出るのは、このゲルができる段階なので、その上の端の50°Cを「固まり始める温度」とした。 石渡ほかの56.3°Cは熱の吸収が最も大きくなる温度で、変わり始める温度ではない。 文献が測ったのは牛の筋肉で、豚・鶏にも同じ値を使っている
- 文献ごとの値
66°C(牛・豚・鶏のアクチン)
- 幅
- アクチンの変化は66〜73°Cにわたって進む
- この値を採った理由
- Martens ほかが示したアクチンの変わる幅(66〜73°C)の下の端を、水が抜け始める温度とした。 同じ論文は、肉汁が減るのはおもにアクチンが変わるときだとしている。 文献が測ったのは牛の筋肉で、豚・鶏にも同じ値を使っている
- 文献ごとの値
-
- [1] 66〜73°C(牛の3つの筋肉を示差走査熱量測定(DSC)で測り、その温度まで加熱した肉を官能評価)
66〜73°C(牛・豚・鶏のアクチン)
60°C(牛・豚・鶏のミオシン)
- 幅
- 熱の吸収が最も大きいのは56°C前後で、55°Cを越えるとミオシンの大半は固まっている。ゆっくり温めるほど、低い温度で固まりきる
- この値を採った理由
- Martens ほかは、牛肉のミオシンが40〜60°Cの幅で変わるとしている。その上の端の60°Cを、固まりきる温度とした。 同じ論文は、60〜67°Cに加熱した肉の食感が最も好まれ、そこではミオシンとコラーゲンは変わり、アクチンはまだ変わっていないとしている。 石渡ほかの56.3°Cは熱の吸収が最も大きくなる温度で、変化の途中にあたる。石渡ほか(p. 24、4.3)は、湯の温度が59.5°Cのローストビーフでは中心が50°Cに届かないうちにミオシンがほぼ固まりきると計算しており、ゆっくり温めると固まりきる温度は下がる。 文献が測ったのは牛の筋肉で、豚・鶏にも同じ値を使っている
- 文献ごとの値
65°C(牛・豚・鶏のコラーゲン)
- 幅
- コラーゲンの分子が変わるのは53〜63°Cで、線維が縮み始めるのは60°C前後から。強く縮んで肉を締めつけるのは65°Cを越えてから
- この値を採った理由
- 文献の値が割れているのは、測っているものが違うから。Martens ほか(56〜62°C)と Tornberg(53〜63°C)は、コラーゲンの分子が熱で変わる温度で、Tornberg は線維が縮むのはその後だとしている。 Martens ほかは、56〜62°Cでコラーゲンが変わると肉の繊維はかえってほぐれやすくなり、60〜67°Cの肉の食感が最も好まれたとしている。分子が変わるだけでは、肉は硬くならない。 Baldwin は、結合組織は60°C前後で縮み始め、65°Cを越えると強く縮むとしている。若松と日本食肉消費総合センターも、肉のコラーゲンが縮んで硬くなるのを65°Cからとしている。 読者が知りたいのは肉が硬くなる温度なので、強く縮み始める65°Cを採った。文献が測ったのはおもに牛で、豚・鶏にも同じ値を使っている
- 文献ごとの値
55°C(牛・豚・鶏のコラーゲン)
- 幅
- 50〜55°Cからとする文献もある。進む速さは温度が上がるほど速く、55°Cでは1〜2日かかる。煮込みでやわらかくなる温度として70〜85°Cを挙げる資料もある
- この値を採った理由
- Baldwin は、55°Cがコラーゲンがゼラチンに変わるいちばん低い温度で、温度が高いほど速く進むとしている。同じ指南書の別の節は、50〜55°Cを越えると変わり始めるとしている。 若松の70〜80°Cと日本食肉消費総合センターの75〜85°Cは、煮込みの数時間で肉がやわらかくなる温度で、変わり始める温度ではない。 Baldwin が牛の肩など硬い部位を55°Cで24〜48時間置くとしているのは、55°Cでも時間をかければ進むことを示している。 読者が知りたいのは「この温度でいつかはやわらかくなるか」なので、Baldwin の55°Cを採った
- 文献ごとの値
文献
- [1] Martens H, Stabursvik E, Martens M. Texture and colour changes in meat during cooking related to thermal denaturation of muscle proteins. Journal of Texture Studies 13(3): 291–309, 1982論文・該当箇所 Abstract・測り方 牛の3つの筋肉を示差走査熱量測定(DSC)で測り、その温度まで加熱した肉を官能評価
- [2] Tornberg E. Effects of heat on meat proteins – Implications on structure and quality of meat products. Meat Science 70(3): 493–508, 2005論文・該当箇所 Abstract・測り方 総説。溶液中の筋原線維たんぱく質(濃度0.5%超)がゲルになる温度
- [3] 石渡奈緒美・福岡美香・為後彰宏・酒井昇「真空調理法に基づく畜肉加熱処理時のタンパク質変性分布および微生物挙動の予測」日本食品工学会誌 14(1): 19–28, 2013論文・該当箇所 p. 22(4.1)・測り方 国産牛モモ肉を DSC で昇温速度10°C/分で測った吸熱のピーク温度
- [4] Tornberg E. Effects of heat on meat proteins – Implications on structure and quality of meat products. Meat Science 70(3): 493–508, 2005論文・該当箇所 Abstract・測り方 総説。コラーゲンの分子が変わる温度で、線維が縮むのはその後
- [5] Douglas Baldwin「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」Version 0.4kウェブ・該当箇所 Section 2: Effects of Heat on Meat・測り方 総説。結合組織が縮み始める温度(60°C前後)と、強く縮む温度(65°C超)
- [6] 若松純一(北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター)「肉のかたさを科学的に考えてみよう!」セミナー資料, 2018ウェブ・該当箇所 p. 14–15・測り方 解説。コラーゲン線維が縮み始め、元の1/3〜1/4になる温度
- [7] 日本食肉消費総合センター「肉を煮る/煮込みによる肉のコラーゲンの変化」(出典は「食肉と健康に関するフォーラム」委員会報告書、平成8年度)ウェブ・測り方 解説。肉のコラーゲンが縮み始めて硬くなる温度
- [8] Douglas Baldwin「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」Version 0.4kウェブ・該当箇所 Section 5: Beef・測り方 総説(Powell ほか 2000・This 2006 を引く)。コラーゲンがゼラチンに変わるいちばん低い温度
- [9] Douglas Baldwin「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」Version 0.4kウェブ・該当箇所 Section 2: Tough Meat・測り方 総説(Neklyudov 2003・This 2006 を引く)。コラーゲンがゼラチンに変わり始める温度
- [10] 若松純一(北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター)「肉のかたさを科学的に考えてみよう!」セミナー資料, 2018ウェブ・該当箇所 p. 15・測り方 解説。コラーゲンが徐々にゼラチンに変わる温度
- [11] 日本食肉消費総合センター「肉を煮る/煮込みによる肉のコラーゲンの変化」(出典は「食肉と健康に関するフォーラム」委員会報告書、平成8年度)ウェブ・測り方 解説。肉のコラーゲンがゼラチンに変わってやわらかくなり始める温度
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