この記事でわかること
- 塩麹で肉が柔らかくならない
- 酵素が残っていない製品がある。冷蔵売り場か自家製を使う
- 塩麹と甘酒のどちらを使うか
- 下味ごとなら塩麹、塩分を自分で調整するなら甘酒+塩
- 塩麹は何g使うか
- 食材の重さの10%。塩分約1.1%になる
- 焼くとすぐ焦げる
- 糖が約2割ある。拭ってから中火以下で焼く
塩麹に漬けた鶏むね肉が、ある日はしっとり柔らかく、別の日はいつもと変わらない。焼いたら中より先に表面が黒くなった。甘酒で漬けたら、甘いのに味がぼやけた。
どれも、麹調味料が食材に何を持ち込むかを知っていれば説明がつきます。この記事が扱うのは、調味のうち麹調味料、なかでも家庭で使う塩麹と甘酒で漬ける・和えるとき、どちらを何にどう使うかです。作り方とレシピは扱いません。
麹調味料で迷うのは、この3つ
| 迷うこと | 答え |
|---|---|
| 漬けると何が変わるか | 酵素で柔らかくなり、うま味と甘味が増える。塩麹なら下味もつく |
| 塩麹と甘酒のどちらを使うか | 下味ごと入れるなら塩麹、塩分を自分で調整するなら甘酒に塩を足す |
| 焼く・煮るときに何に気をつけるか | 糖が多いので焦げやすい。酵素は60℃を超えると働かなくなる |
順に読む必要はありません。詰まっているところから読んでください。
麹に漬けると、酵素が肉や魚を柔らかくし、うま味と甘味を足す
柔らかさとうま味はプロテアーゼ、甘味はアミラーゼ
米麹には、麹菌が作った酵素が残っています。塩麹や甘酒に漬けると、その酵素が食材の表面から働きます。
| 麹が持ち込むもの | 食材に何が起きるか | 料理でどう変わるか |
|---|---|---|
| プロテアーゼ(タンパク質を切る酵素) | 肉や魚のタンパク質を小さく切り、アミノ酸ができる | 加熱しても固くなりにくい。うま味が増す |
| アミラーゼ(デンプンを切る酵素) | 米のデンプンを糖に変える | 麹そのものが甘くなる |
| 糖(塩麹で重さの約2割) | 食材の表面に残る | 甘味が加わり、焼き色がつきやすくなる |
| 塩(塩麹のみ) | 肉の中に入り、水を抱えさせる | 下味がつき、焼いても汁が出にくい |
酵素がそもそも何をしているかは発酵の科学の「麹菌」の節にあります。ここで覚えておくのは、柔らかくするのはプロテアーゼだけだという点です。
塩麹の塩は、肉に塩を振るのと同じ働きをする
塩麹に入っている塩が肉にしていることは、塩を振ったときと変わりません。塩が肉のタンパク質の一部を溶かし、加熱しても水を抱えたままにします。仕組みとタイミングは肉に塩を振るタイミングと科学にあります。
麹が塩の上に足しているのは、酵素・糖・うま味の3つです。塩だけで漬けた肉より柔らかく、甘く、うま味が強くなるのは、この3つの分です。
市販の塩麹には、酵素が残っていないものがある
2012年に市販されていた塩麹14製品を調べた研究では、5製品でタンパク質を切る酵素が検出されませんでした。加熱殺菌したかどうかと、売られるまでの温度で、残り方が大きく変わります。冷蔵で売られていた製品は、酵素が比較的多く残っていました。
酵素が無い塩麹は、甘味のある塩として働きます。下味はつきますが、柔らかくはなりません。柔らかさを狙うなら、冷蔵売り場の塩麹か、自分で仕込んだ塩麹を使います。
塩麹と甘酒は、塩が入っているかどうかで使い道が変わる
塩麹と甘酒は、同じ米麹から作ります。違いは塩を入れるかどうかだけです。研究で使われた配合では、乾燥米麹100gに、塩麹なら18.4%の塩水を120g、甘酒なら水を120ml合わせています。
| 比べること | 塩麹 | 甘酒 |
|---|---|---|
| 塩分(重さあたり) | 多くの製品で8〜13%(14製品の平均11%) | ほぼ無い(100gあたり食塩相当量0.2g) |
| 糖(重さあたり) | 平均約22% | 100gあたり炭水化物18.3g |
| タンパク質の分解 | 塩が酵素の働きを抑える | アミノ酸が塩麹の約1.5倍できる(60℃で仕込んだ場合) |
| 漬けると入るもの | 下味・酵素・甘味 | 酵素・甘味(塩は別に足す) |
塩分と糖は前橋ほか(2015)の市販塩麹14製品の分析と、日本食品標準成分表(八訂)の甘酒の値。アミノ酸の差は同論文の研究室製の比較。
塩麹は、下味と酵素を一度に入れる
塩麹の定番の量は、食材の重さの10%です。肉300gなら30gです。この数字は塩分から出ています。塩分11%の塩麹を10%使うと、食材に対する塩は約1.1%になります。肉に塩を振るときの量(0.5〜1.5%)と同じ範囲です。
だから製品の塩分が違えば、量も変えます。塩分13%の製品を10%使うと、約1.3%になります。袋の食塩相当量を見て、食材に対する塩が1%前後になる量にします。
冷蔵で漬ける時間の目安は、薄切り肉で30分程度、厚切り肉で2時間〜1日程度、魚の切り身で30分〜1日程度です。厚いものほど長くかかります。
甘酒は、甘味と酵素だけを入れる。塩は別に足す
甘酒には塩がほとんど入っていません。甘酒だけで漬けると、甘味は入っても下味がつきません。塩は別に加えます。肉に塩を振るときと同じく、食材の重さの1%前後が目安です。
塩が無いぶん、塩分を自分で調整できます。醤油で味をつけたい料理や、塩を控えたい料理では、塩麹より扱いやすくなります。甘酒の甘味がどこから来るかは糊化×酵素の科学にあります。
甘酒も塩麹と同じで、加熱殺菌したものには酵素が残っていないことがあります。その場合、甘味はつきますが柔らかくはなりません。
やりたいことから選ぶ
| やりたいこと | 使うもの |
|---|---|
| 下味と柔らかさを一度につけたい | 塩麹(食材の重さの10%を、塩分で調整) |
| 塩分を自分で調整したい・醤油で味をつけたい | 甘酒+塩か醤油 |
| 甘味を足して、焼き色もつけたい | 甘酒(塩麹と同じく糖が多いので焦げやすい) |
| 柔らかさは要らず、塩味だけでよい | 塩(麹は要らない) |
漬けた食材を焼くときは、焦げと、酵素が止まる温度に気をつける
糖とアミノ酸が多いので、表面が先に焦げる
焼き色と香ばしさは、糖とアミノ酸が熱で反応してできます(メイラード反応の科学)。塩麹は重さの約2割が糖で、酵素が作ったアミノ酸も含みます。つまり焼き色の材料が、最初から表面に塗ってあることになります。
そのため中に火が通る前に、表面の麹の粒が黒くなります。対処は3つです。
- 焼く前に、表面の麹を指かキッチンペーパーで拭う
- フライパンなら中火以下で焼き、厚いものは蓋をして中まで火を通す
- 揚げるなら、油の温度を普段より低めにする
酵素は60℃を超えると働かなくなる
麹の酵素は熱に弱く、温度が上がるほど早く働かなくなります。
米麹を塩水と混ぜて温度ごとに保った試験では、50℃と60℃では6時間たっても酵素がほぼ残っていました。60℃のまま24時間置くとデンプンを切る酵素はほぼ止まり、70℃ではタンパク質を切る酵素が2時間でほぼ止まりました。
甘酒を55〜60℃で作るのは、この境目の手前で酵素を数時間働かせるためです。
焼く・煮る食材は、中心まで火を通せば60℃を超え、表面はもっと早く超えます。だから柔らかさを作れるのは漬けている間で、焼き時間を延ばしても酵素の効果は足せません。
塩・塩水・味噌床と比べると、麹は酵素と糖まで持ち込む
肉や魚を漬けて下味をつけるやり方は、麹のほかにもあります。何が食材に入るかで比べると、麹調味料の違いが見えます。
| 漬け方 | 塩 | 糖 | タンパク質を切る酵素 | 向くもの |
|---|---|---|---|---|
| 塩を振る | 入る | 入らない | 入らない | 素材の味をそのまま出したいステーキ・焼き魚 |
| 塩水に漬ける | 入る | 入れることもある | 入らない | パサつきやすい鶏むね肉・豚ロース |
| 味噌床 | 入る | 入る | 入る | 味噌の香りをつけたい魚・豚肉 |
| 塩麹 | 入る | 入る | 製品による | 下味と柔らかさを一度につけたい肉・魚・野菜 |
| 甘酒 | ほぼ入らない | 入る | 製品による | 塩分を自分で調整したい料理 |
塩と塩水が持ち込むのは塩だけです。麹を使う漬け床は、塩に加えて糖と酵素を持ち込みます。
日本では古くから、米麹をべったら漬けや三五八(さごはち)漬けのような漬物や、魚や肉の漬け床に使ってきました。塩麹はその漬け床を、塩・麹・水だけに絞ったものです。
うまくいかせる条件
| 条件 | 外すとどうなるか |
|---|---|
| 柔らかさを狙うなら、酵素が残っている塩麹(冷蔵で売られているもの・自家製)を使う | 下味はつくが、柔らかくならない |
| 塩麹の量は製品の塩分から出し、食材に対する塩を1%前後にする | 塩分の高い製品では塩辛くなる |
| 漬けるのは冷蔵庫で、厚切り肉は2時間〜1日 | 薄切り肉と同じ30分では、厚切り肉の中まで味が入らない |
| 焼く前に表面の麹を拭い、中火以下で焼く | 中より先に表面が黒く焦げる |
| 甘酒で漬けるなら、塩を別に足す | 甘いのに味がぼやける |
よくある失敗と対策
表面が焦げた部分的
- なぜ
- 塩麹は重さの2割ほどが糖で、アミノ酸も多いので、メイラード反応が普通の肉より低い火加減で進みます。表面に残った麹の粒が先に焦げます
- どうする
- 焦げた粒をこそげ落とし、火を弱めて蓋をし、中まで火を通します
- 次から
- 焼く前に表面の麹を指かキッチンペーパーで拭い、中火以下で焼きます。揚げるなら油の温度を低めにします
肉が固くなった諦める
- なぜ
- 塩麹にプロテアーゼ(タンパク質を切る酵素)が残っていなかったか、漬けた時間が短く、タンパク質が分解されませんでした
- どうする
- 焼いてしまった後は戻せません。薄く切って、たれやソースと合わせて食べます
- 次から
- 柔らかさを狙うなら、冷蔵で売られている塩麹か自家製を使い、厚切り肉は冷蔵で2時間以上漬けます
味が濃い・塩辛い部分的
- なぜ
- 塩分13%前後の塩麹を重さの10%使うと、食材に入る食塩が1.3%を超えます。塩麹に漬けたうえに醤油や塩でも味をつけると、さらに増えます
- どうする
- 塩を含まない野菜や汁と合わせて、皿の上で薄めます
- 次から
- 製品の食塩相当量を見て、食材に対する塩分が1%前後になる量に変えます。あとから塩を足しません
味が薄い・ぼやけた回復できる
- なぜ
- 甘酒には食塩がほとんど入っていない(100gあたり0.2g)ので、甘酒だけで漬けると糖は入っても塩味がつきません
- どうする
- 焼き上がりに塩か醤油で味を足します
- 次から
- 甘酒で漬けるときは、食材の重さの1%前後の塩を別に加えます
柔らかさは漬けている間に作り、焼くときは焦がさない
- 麹に漬けると、プロテアーゼが肉や魚を柔らかくし、うま味と甘味が増えます。ただし市販品には酵素が残っていないものがあります
- 塩麹と甘酒の違いは塩だけです。塩麹は重さの10%で食材の塩分が約1.1%になり、甘酒は塩を別に足します
- 漬けた食材は糖が多くて焦げやすく、酵素は60℃を超えると働かなくなります。柔らかさは漬けている間に作り、焼くときは拭って中火以下で焼きます