この記事でわかること
- 塩麹で肉が柔らかくなる理由
- 多くは塩の保水。酵素の力はキウイの約1/8と弱い
- 塩麹で肉が柔らかくならない
- 酵素の力はキウイの約1/8。効いた試験はひき肉とささみ
- 塩麹でうま味が増えるのはなぜ
- 麹の酵素が肉のタンパク質を切り、アミノ酸を作る
- 柔らかさだけが欲しい
- 果物の酵素のほうが強い。しっとりだけなら塩で足りる
塩麹に漬けた豚ロースを焼いたら、しっとりしていました。同じように漬けた厚切りの肩ロースは、思ったほど柔らかくなりませんでした。それでも、塩だけで焼いたときより味に厚みがあります。
この3つは、塩麹に入っている別々のもの——塩・酵素・糖——が起こしています。
この記事が扱うのは、麹調味料のうち、漬けている間に食材に何が起きるかです。何gを何時間漬けるかは塩麹の量と漬け時間に、塩麹と甘酒の使い分けは麹調味料の使い方まとめにあります。
麹に漬けると起きることは、塩・酵素・糖の3つに分かれる
| 漬けた肉で起きる変化 | 起こしているもの | 試験で出た効き方 |
|---|---|---|
| しっとりする | 塩麹の塩 | 焼いて出ていく汁が約6%少ない(豚ロース・冷蔵で一晩) |
| 柔らかくなる | プロテアーゼ(タンパク質を切る酵素) | 鶏ささみは噛み切る力がおよそ半分。豚ロースの塊では機械で測れる差が出なかった |
| うま味が増える | プロテアーゼ(鶏肉では肉自身の酵素も加わる) | グルタミン酸が約2.8倍(豚ロース・冷蔵で一晩) |
| 甘くなる | アミラーゼ(デンプンを切る酵素)が麹の米から作った糖 | 市販の塩麹は重さの約2割が糖 |
豚ロースの値は阿部・秋田(2019)、鶏ささみは前橋(2017)、糖は前橋ほか(2015)の市販14製品の平均。
塩・酵素・糖で、効き方の強さが違います。甘酒は塩を含まないので、しっとりさせる働きがありません。
しっとりの大半は、塩が作っている
塩を含む漬け床は、焼いて出ていく汁が約6%少ない
豚ロースをいろいろな漬け床に冷蔵で一晩漬け、70℃で1時間加熱した試験があります。塩を含む漬け床は、含まない漬け床より、加熱で減った重さが平均で約6%少なくなりました。
塩を含む漬け床には、酵素を止めた塩麹や、ただの塩水も入っています。それでも同じように減りました。汁を肉の中に留めたのは、酵素ではなく塩です。
塩が肉のタンパク質の一部を溶かして水を抱えさせる仕組みは、肉の保水性とドリップの科学と肉に塩を振るタイミングと科学にあります。
冷蔵で一晩では、酵素の差は機械で測れなかった
同じ試験で、焼いた肉の硬さを機械で測りました。普通の塩麹と、加熱して酵素を止めた塩麹とで、差はありませんでした。差が出たのは、酵素剤を足して酵素を増やした塩麹だけです。
食べ比べでは、塩麹に漬けた肉は甘酒に漬けた肉より柔らかく、ジューシーと評価されました。塩水だけで漬けた肉も、甘酒より柔らかいと評価されています。研究は、塩による保水が柔らかさの評価にも効いたと見ています。
柔らかくするのはプロテアーゼだが、力は強くない
タンパク質を切る力は、生姜の約3倍、キウイの約1/8
| 食材 | タンパク質を切る力(1gあたり、units。大きいほど速く切る) |
|---|---|
| キウイ | 0.92 |
| 塩麹(自家製・仕込んで21日目) | 0.12 |
| 生姜 | 0.04 |
牛乳のタンパク質(カゼイン)を切る速さで比べた値。圓口ほか(2016)。
塩麹でキウイほどの効き目を出すには、長く置くか、量を増やすしかありません。ただし塩麹を増やすと塩も増えるので、量で補える幅には限りがあります。
塩が入ると、タンパク質を切る力は落ちる
麹のタンパク質を切る酵素は、塩で働きが抑えられます。塩10%の中では、働きが約65%に落ちたという報告があります。
塩を入れない甘酒と比べると、差が見えます。同じ麹を60℃で仕込むと、アミノ酸のでき方は甘酒のほうが塩麹の約1.5倍でした。
酵素の働きだけなら、塩の無い甘酒のほうが進みます。ただし甘酒には、しっとりさせる塩が入っていません。甘酒で漬けるなら、塩を別に足します(麹調味料の使い方まとめ)。
柔らかくなった試験は、ひき肉とささみ
酵素は、漬けた表面から働きます。肉の表面から何mmまで届くかを測った研究は、見つかりませんでした。
柔らかくなった試験は、牛ひき肉(混ぜて60分置く)と鶏ささみ(一晩でおよそ半分)です。豚ロースの塊では、差が出ませんでした。
酵素が触れる面の広い肉ほど効きやすいと考えられます。柔らかさを狙うなら、ひき肉・ささみ・薄切り肉に使います。薄切り肉で測った試験は見つかりませんでした。
うま味は、塩麹が足すのではなく肉から引き出す
塩麹そのもののうま味は、味噌の1/10しかない
塩麹に入っているグルタミン酸(うま味の中心になるアミノ酸)は、多い製品でも0.1%程度です。味噌の約1/10で、食材の重さの10%を使えば、食材にとってはさらに1/10になります。
それでも、豚ロースを塩麹に冷蔵で一晩漬けると、肉のグルタミン酸は約2.8倍になりました。塩麹のアミノ酸が全部肉に移っても届かない量です。増えた分は、肉の中から出ています。
麹の酵素が切ってアミノ酸にする。鶏肉では肉の酵素も加わる
麹の酵素は、肉のタンパク質を短い切れ端(ペプチド)にし、さらにアミノ酸まで切ります。鶏肉では、その切れ端を肉がもともと持っている酵素も切って、グルタミン酸を作ることが分かっています。
肉を寝かせて熟成させるとうま味が増えるのは、肉自身の酵素がタンパク質を切るからです(肉の熟成)。塩麹に漬けると、タンパク質が切れてうま味が増えるという熟成と同じ変化が、一晩のうちに少しだけ起きます。
魚や野菜にも、切れ端をアミノ酸にする酵素は多かれ少なかれあります。ただし、塩麹に漬けた魚や野菜でアミノ酸がどれだけ増えるかは、測られていません。
塩麹の甘味は、麹の米の糖から来る
アミラーゼが切るのはデンプンで、肉にはほとんどありません(豚ロースの炭水化物は100gあたり0.2g)。アミラーゼが働く相手は麹の米で、甘味は漬ける前に塩麹の中でできあがっています。
市販の塩麹は重さの約2割(14製品の平均21.9%)が糖で、味噌の約2倍です。塩の2倍の糖を含むので、味噌と同じくらいの塩分でも、塩味が柔らかくなるとされています。
この糖が肉の柔らかさにも効くかは、分かっていません。糖は漬けた肉の表面に残るので、焼くと色づきやすく、焦げやすくなります。
柔らかさだけなら果物、しっとりだけなら塩でよい
| 漬け方 | しっとり | 柔らかさ | うま味 | 甘味 |
|---|---|---|---|---|
| 塩を振る・塩水に漬ける | つく | 酵素によるものは無い | 増えない | 入らない |
| すりおろした果物(キウイ・パイナップル) | 塩を足せばつく | 強い | 測られていない | 果物の甘味 |
| 酵素が残っている塩麹 | つく | 弱い(キウイの約1/8) | 増える | 入る |
| 酵素が残っていない塩麹 | つく | 酵素によるものは無い | 増えない | 入る |
果物の酵素で肉を柔らかくするのは、日本だけのやり方ではありません。熱帯の地域では、硬い肉をパパイヤの葉で包んで柔らかくしてきました。市販の肉の軟化剤にも、パパイヤの酵素が使われています。
| やりたいこと | 使うもの |
|---|---|
| 焼いてもパサつかせたくない | 塩(塩麹でなくてよい) |
| 硬い肉をはっきり柔らかくしたい | 果物の酵素。塩麹なら、ひき肉や薄切り肉に |
| うま味を増やしたい | 酵素が残っている塩麹で、冷蔵で一晩 |
| 下味・しっとり・うま味を一度につけたい | 酵素が残っている塩麹 |
うまくいかせる条件
| 条件 | 外すとどうなるか |
|---|---|
| 酵素が残っている塩麹(冷蔵で売られているもの・自家製)を使う | 下味としっとりはつくが、柔らかさとうま味は増えない |
| うま味を狙うなら、冷蔵で一晩漬ける | 約2.8倍は18時間漬けた試験の値。短いと増え方は分からない |
| 柔らかさを狙うなら、ひき肉・薄切り肉・ささみに使う | 厚い塊では、機械で測れるほど柔らかくならないことがある |
| 漬けるのは冷蔵庫 | 酵素は室温のほうが速く働くが、肉が傷みやすい |
| 柔らかさとうま味は、漬けている間に作る | 麹の酵素は60℃を超えると止まるので、焼き時間を延ばしても足せない |
よくある失敗と対策
肉が固くなった諦める
- なぜ
- プロテアーゼの力はキウイの約1/8で、冷蔵一晩の豚ロースの塊では機械で測れる差が出ませんでした。酵素が無い製品もあります
- どうする
- 焼いた後は戻せません。繊維を断つ向きに薄く切って食べます
- 次から
- 柔らかさを狙うなら、酵素が残っている塩麹をひき肉や薄切り肉に使うか、果物の酵素を使います
旨味が乗らない部分的
- なぜ
- 塩麹そのもののうま味は味噌の約1/10しかありません。酵素が残っていない製品だと、肉からうま味を引き出す働きもありません
- どうする
- 昆布だしや醤油など、うま味を持つ調味料を合わせます
- 次から
- 冷蔵で売られている塩麹か自家製を使い、冷蔵で一晩漬けます
パサついた部分的
- なぜ
- 甘酒で漬けて塩を足しませんでした。塩が無いと、焼いて出ていく汁が多くなります
- どうする
- たれやソースと合わせて食べます
- 次から
- 甘酒で漬けるときは、食材の重さの1%前後の塩を加えます
しっとりは塩、柔らかさとうま味は酵素が作る
- しっとり感の多くは塩麹の塩が作ります。塩を含む漬け床は、焼いて出ていく汁が約6%少なくなります
- 柔らかくするのはプロテアーゼですが、力はキウイの約1/8です。柔らかくなった試験は、ひき肉とささみです
- うま味は塩麹が足すのではなく、麹の酵素が肉のタンパク質を切って引き出します
参考文献
- 阿部真紀・秋田修「塩麹に含まれる麹由来酵素および食塩の食肉調理への効果」日本醸造協会誌 114(5) 258-267(2019)|豚ロースを塩麹に冷蔵で一晩漬けたときの遊離アミノ酸・加熱損失・硬さ・食べ比べ、ひき肉と鶏肉の先行研究について
- 前橋健二「塩麹の調味特性」日本海水学会誌 71(4) 232-239(2017)|塩麹のグルタミン酸と還元糖の量、塩によるタンパク質分解の低下、食材自身の酵素によるうま味の生成について
- 圓口智子・湯川夏子・中西洋子「自家製塩麹のカゼイン分解活性」日本調理科学会誌 49(2) 166-171(2016)|塩麹・生姜・キウイフルーツのタンパク質分解の強さの比較について