この記事でわかること
- フランス料理が仕込みをする理由
- フォンは何時間もかかり、それが無いとソースも煮込みも始められないから
- 先に作るものと、その場で作るもの
- フォン・茶色いルー・グラスは先に、白いルーとワインはその場で
- 家庭で仕込む量
- 鶏ガラと手羽1kgに水1.2Lで3時間、フォン1L。煮詰めればグラス100ml
- フォンの保存期間
- 冷蔵1〜2日、冷凍2〜3か月(USDA の目安)
鶏のクリーム煮のレシピに「鶏のフォン500ml」とあります。フォンの取り方を調べると、鶏ガラを3時間煮るとあり、夕食に間に合いません。
フランス料理は、何時間もかかる土台を先に作っておき、当日は数分の工程だけで一皿を組みます。先に作るのは時間のかかるものと置いておけるもので、数分で済むものと香りはその場で作ります。
この記事では、フランス料理が土台を先に仕込む理由と、何を先に作り何をその場で作るか、家庭で何をどれだけ仕込むかを扱います。
フォンの取り方の温度と時間はフォン・ド・ヴォーの作り方に、ルーがとろみを付ける仕組みはルーの設計に、母ソースの系譜はフランス料理の母ソースにあります。
仕込み・ワイン・バターとクリームが鍋に入る時と、焼いた鍋の上でどうつながるかは、フランス料理の土台にまとめています。
何時間もかかる土台を先に作り、当日は数分で組む
フランス料理の土台を、先に作るものとその場で作るものに分けました。
| 土台 | 何か | いつ作るか | なぜその時か |
|---|---|---|---|
| 白いフォン | 骨・肉・香味野菜を水で煮出した、ソースと煮込みの液体 | 先に | 3時間かかる |
| 茶色いフォン | 焼いた骨で取るフォン | 先に | 骨だけで12時間以上かかる |
| グラス | フォンを10分の1以下に煮詰めたもの | 先に | フォンを取ってからさらに煮詰める |
| 茶色いルー | バターと小麦粉を茶色くなるまで炒めたもの | 先に | 炒める時間が長い |
| デュクセル | きのこのみじん切りを、水分が飛ぶまで炒めたもの | 先に | 水分を飛ばせば置いておける |
| 白いルー | バターと小麦粉を色づけずに炒めたもの | その場で | 数分で済む |
| 大きなミルポワ | にんじん・玉ねぎ・セロリなどを切って炒めた香味野菜 | その場で | 切って炒めるだけで済む |
| 香りのワイン | ソースの仕上げに足すワイン | その場で | 煮ると香りが飛ぶ |
線を引くのは、かかる時間と、置いておけるかどうかです。何時間もかかるものを当日に作ると夕食に間に合わず、数分で済むものを先に作っても当日の時間はほとんど減りません。
エスコフィエは、フォンを仕事の土台に置いた
この線引きを書いたのは、料理人エスコフィエ(1846〜1935)の料理書『Le Guide Culinaire(ル・ギッド・キュリネール)』です。初版は1903年で、ソースの章をフォンの話から始めています。
フォンが無ければ、ソースも煮込みも始められない
エスコフィエは、フォンを仕事の土台、最初に要るもので、それが無ければまともなことは何も始められない、と書きました。料理人が何度でも戻ってくる出発点だ、とも書いています。
同じ節は、土台に含めるものを並べています。フォンのほかに、魚のフュメ、グラス、ルー、大きなソース(エスパニョール・ヴルーテ・ベシャメル・トマト)、ミルポワ、マリナード(漬け汁)、ファルス(詰め物)です。
仕込みがそろうと、厨房の仕事が止まらずに流れる
エスコフィエは、料理人がフォンの仕込みに特別な注意を払えば、厨房全体の仕事が規則正しく流れ、注文された料理を決まりどおりに作れる、と続けます。
同じ本の巻末には、60人の厨房が400〜500人分の注文を1時間から1時間半で出す段取りが載っています(フランス料理の用語が細かい理由)。
早く出せと言われても、土台の味は変えない
第2版の序で、エスコフィエは、客が早く出すことを求め、応えなければ客を失うと書きました。仕事の方法と給仕の形は改めるが、変えてはならないのは料理の質と、仕事の土台であるフォンの味だ、という言い分です。
早さは当日の工程を短くして作り、土台の味は前の日までに作っておきます。
先に作るのは、時間がかかるものと、置いておけるもの
原典を読むと、同じ種類の土台でも、先に作るものとその場で作るものが分かれています。
茶色いルーは先に、白とブロンドのルーはその場で
ルーの配合は、色によらずバター500g・小麦粉600gです。違うのは加熱の長さで、エスコフィエは、茶色いルーは加熱が長いので先に作り、ブロンドと白のルーはふつう使うときに作る、と書いています。
原典は、白いルーの加熱を、生の粉の匂いが消えるまでの数分と書いています。家庭の鍋では、白いルーは鍋底130℃で7〜10分、茶色いルーは170〜180℃で15分前後です(ルーの設計)。
細かいミルポワとデュクセルは、水分を飛ばして先に作る
ミルポワは、にんじん・玉ねぎ・セロリと脂の少ない豚ばらを切って炒め、料理の味を強めるために加えるものです。原典の配合は、にんじん125g・玉ねぎ125g・セロリ50g・生ハム100gで、細かさは用途で変えます。
料理に香りを付けるための大きなミルポワは、ふつうその場で切ります。先に作るのは、ザリガニやオマールに使う細かいミルポワで、バターで火が通るまで蒸し煮し、器に詰めてバターを塗った紙をかぶせて置きます。
デュクセルは、きのこのみじん切りに玉ねぎとエシャロットのみじん切りを加え、バターで炒めたものです。原典は、きのこの皮と軸250gを細かく刻んで絞り、バター30gと油30gで水分が飛ぶまで炒め、ミルポワと同じく紙をかぶせて置きます。
原典は、刻んだ野菜の水分が残ると、長く置いたときにカビや発酵の原因になると書いています。先に作って置くものは、水分を飛ばしてから器に詰めます。
香りのワインは、火から下ろしてから入れる
ドゥミグラス(仕上げたエスパニョール)には、最後にマデラ酒をソース1Lに50ml入れます。エスコフィエは、ワインは沸かすと香りが飛ぶので、ソースの仕上げのワインは火から下ろして入れるよう勧めています。
フォンは3時間から12時間以上煮て味を取りますが、ワインの香りは煮ると減ります。だから香りのワインは仕込みに入れず、当日に回します。
鍋の焼き汁を溶かすワインは別の役目で、酸味とアルコールの匂いを飛ばすために沸かして煮詰めます。火から下ろして入れるのは、仕上げに香りを足すワインだけです。
マリネ・煮込み・デグラッセでワインをどこまで煮詰めるかは、フランス料理のワインの使い方にあります。
家庭で仕込むなら、鶏のフォン1Lから始める
家庭で最初に仕込むなら、鶏のフォンです。鶏ガラは安く手に入り、仔牛の骨より短い時間で取れます(フォン・ド・ヴォーの作り方)。
原典の白いフォンを10分の1にする
原典の白いフォンは10L分の配合で、鶏のフォンも同じ配合に鶏を足して取ります。10分の1にすると、家庭の鍋に収まる1Lになります。
| 材料 | 原典(10L分) | 家庭(1L分) |
|---|---|---|
| 骨と肉 | 仔牛のすね・くず肉10kg、鶏のガラ4羽分 | 鶏ガラと手羽1kg |
| 水 | 12L | 1.2L |
| 香味野菜 | にんじん800g・玉ねぎ400g・ポロねぎ300g・セロリ100g | にんじん80g・玉ねぎ40g・長ねぎ30g・セロリ10g |
| ブーケガルニ | パセリの茎100g・タイム・ローリエ1枚 | パセリの茎10g・タイム1枝・ローリエ1枚 |
| 煮る時間 | 3時間 | 3時間 |
出典: 『Le Guide Culinaire』第2版の白いフォンと鶏のフォン。家庭の欄は書き手の換算で、ポロねぎは長ねぎで代えています。原典は水12Lに塩60gを入れますが、煮詰める予定なら入れません。
火加減は、沸騰させずに表面が静かに揺れる85〜95℃を保ちます(フォン・ド・ヴォーの作り方)。浮いてきたアクは、浮いているうちにお玉ですくいます。
ハーブの束ね方はブーケガルニにあります。
煮詰めてグラスにすれば、製氷皿に収まる
グラスは、フォンを強火で煮詰め、濃くなるにつれて火を弱めて作ります。スプーンを入れて引き上げ、つやのある膜が切れずに覆えば仕上がりです。1Lのフォンが100ml以下になります(煮詰めるソース)。
100mlのグラスを大さじ1(15ml)ずつ製氷皿で凍らせると6〜7個になり、1個がフォン約150ml分です。ゼラチンが多いので、冷えるとゴムのように固まり、取り出しやすくなります。
冷蔵は1〜2日、冷凍は2〜3か月を目安にする
| 置き方 | 目安 |
|---|---|
| フォン・グラスを冷蔵 | 1〜2日 |
| フォン・グラスを冷凍 | 2〜3か月 |
| 茶色いルー・デュクセルを冷凍 | 2〜3か月を上限 |
出典: USDA(米国農務省)「Cold Food Storage Chart」の Gravy & meat broth(肉のブロス)。茶色いルーとデュクセルは公表値が見つからず、フォンと同じ値を書き手の目安にしています。
冷凍は食品を安全に保ち続けるので、冷凍の期間はおいしさを保てる長さです。
フォンは、取ったら小さい容器に分けて早く冷まし、使う分だけ取り出せる大きさで凍らせます。
仕込みがあると、当日のソースは何分で組めるか
当日に残るのは、数分で済む工程だけです。
| 当日に作るもの | 仕込みが無いとき | 仕込みがあるとき |
|---|---|---|
| 焼いた肉のソース | 白ワインで鍋の焼き汁を溶かし、4〜5分煮詰める | グラス1個を水135mlで溶き、焼き汁を溶かして4〜5分煮詰める |
| 鶏のクリーム煮のソース | フォンを3時間取ってから、白いルーを7〜10分 | 解凍したフォン500mlに、白いルー(小麦粉31g・バター26g)を7〜10分 |
| とろみの付いた肉汁(ジュ・リエ) | フォンを3時間取ってから煮詰める | フォン1Lを250mlに煮詰め、水で溶いた片栗粉かコーンスターチ7.5gでつなぐ |
| 野菜の詰め物 | きのこを刻んで、水分が飛ぶまで炒める | デュクセル大さじ4(100g)に白ワイン50mlを加え、ほぼ煮詰める |
出典: パンソースの4〜5分はパンソース、ルーの時間はルーの設計。
小麦粉の量は原典のヴルーテ(フォン5.5Lにルー625g)の比、ジュ・リエは原典(フォン4Lを1Lにし、アロールート30g)の比、詰め物は原典のデュクセルの配合を家庭の量に直したもの。
グラス1個(15ml)に水135mlを足すと、フォン150ml分に戻ります。
小麦粉31gはフォン500mlの約6%で、かけるソースの濃さ(5〜8%)に入ります。
フォンがあるかどうかで、当日の時間は3時間変わります。
焼き汁のソースを肉ごとに組み立てる方法はフランス料理のソースの役割に、仕上げに入れるバターの量と止めどきはフランス料理のバターとクリームにあります。
日本・中国料理と比べると、何を先に持つかが違う
どの料理体系も、うま味の液体を土台に置きます。違うのは、何を先に作って持っておくかです。
| 料理体系 | 先に持つもの | 引き方 |
|---|---|---|
| 日本料理 | 長くは持たない。だしを使う日に引く | 昆布は60℃で1時間、一番だしは沸騰後1〜2分で漉す |
| 中国料理 | 一鍋の湯 | 毛湯(マオタン)を弱火で約3時間炊く |
| フランス料理 | フォン、グラス、ルー、デュクセル、ミルポワ | 白いフォン3時間、茶色いフォン12時間以上。それぞれに名前を付けて別に作る |
出典: だしの科学、中華スープの種類、『Le Guide Culinaire』第2版。
昆布とかつお節は成分が早く出きるので、日本料理は使う日に引きます。骨は長く出続けるので、中国料理とフランス料理は先に炊いて持ちます。中国料理は、その毛湯を澄ませて清湯(チンタン)にし、乾物を足して上湯(シャンタン)にします。
フランス料理はそこから先も分けて持ちます。とろみのルー、うま味を詰めたグラス、香りのデュクセルを別々に作っておき、当日に組み合わせます。だしが味の厚みに何を担うかは日本料理のうま味にあります。
うまくいかせる条件
| こんなとき | どうする | 理由 |
|---|---|---|
| 週末に1回だけ時間がある | 鶏のフォンを1L取り、半分をグラスに煮詰める | フォンは煮込みに、グラスはソースに使える |
| 冷凍庫が狭い | フォンをすべてグラスに煮詰める | 体積が10分の1以下になる |
| 市販のフォンしかない | 塩の入ったものは煮詰めず、そのままソースや煮込みの液体にする | 煮詰めると塩も濃くなる |
| ルーを作り置きたい | 茶色いルーだけ先に作る | 白いルーは7〜10分で済み、先に作っても当日の時間はほとんど減らない |
よくある失敗と対策
味が濃い・塩辛い部分的
- なぜ
- 塩を入れて取ったフォンを、グラスに煮詰めました。水だけが飛んで塩は鍋に残るので、10分の1に煮詰めると塩の濃さは10倍になります
- どうする
- 塩を入れずに取ったフォンか水でのばし、ソースの塩を入れずに味を見ます
- 次から
- 煮詰める予定のフォンには塩を入れず、塩はソースを仕上げるときに入れます
カビ・傷みが出た諦める
- なぜ
- きのこの水分が飛びきる前にデュクセルを容器に詰めました。残った水分の中で微生物が増え、においが変わりました
- どうする
- においが変わったものは捨てます。炒め直しても元には戻りません
- 次から
- 木べらで鍋底をこすっても水が出ず、きのこが油で光るまで炒めてから冷まして詰めます
香りが弱い・飛んだ回復できる
- なぜ
- ワインを仕込みの段で入れ、フォンと一緒に何時間も煮ました。香りの成分は沸騰で飛ぶので、皿に出すころには残っていません
- どうする
- 仕上げたソースを火から下ろし、1Lに50mlの割合でワインを足して香りを戻します
- 次から
- 香りを付けるワインは、当日、火から下ろしてから入れます。1Lのソースに50mlが原典の量です
仕込むときに押さえる4つ
フランス料理の仕込みは、何時間もかかる土台を前の日までに作り、当日を数分の工程にするための段取りです。
- フォンは、それが無ければソースも煮込みも始められない土台です。白いフォンは3時間、茶色いフォンは12時間以上かかります
- 先に作るのは、フォン・グラス・茶色いルー・デュクセルのように、時間がかかるものと水分を飛ばして置いておけるものです
- 白いルー、大きなミルポワ、香りのワインは、当日その場で作ります
- 家庭では、鶏ガラと手羽1kgから鶏のフォン1Lを取り、冷蔵は1〜2日、冷凍は2〜3か月を目安に使います
フォンが1L冷凍庫にあれば、鶏のクリーム煮のソースは、白いルーを炒める7〜10分から始められます。