この記事でわかること
- フランス料理がバターとクリームで仕上げる理由
- つやととろみと乳の香りを足すため。香りは煮立てると変わるので最後に入れる
- 仕上げに入れるバターの量
- 原典でソース1Lに80〜140g。家庭の200mlなら16〜28g
- バターを入れるときの温度
- 45〜55℃のソースに冷たいバターを溶かす。60℃を超えると分かれる
- 焦がしバターを止めるところ
- 140〜150℃。底の粒がきつね色になり、ナッツの香りが立ったら移す
鶏のソテーのレシピの最後に「火を止め、冷たいバター20gを加えて鍋を揺すりながら溶かす」とあります。20gは多くないか、なぜ火を止めるのか、煮立てて溶かしてはいけないのかで手が止まります。
フランス料理は、バターとクリームを最後に足し、入れたら煮立てません。量は原典でソース1Lに80〜140g、止めどきは温度で言えます。
この記事では、フランス料理がバターとクリームで仕上げる理由と、どの工程でどれだけ入れ、どこで止めるかを扱います。
バターがソースに溶けてつながる仕組みは乳化ソースの温度帯に、素材としてのバターの成分と種類はバターとはにあります。
仕込み・ワイン・バターとクリームが鍋に入る時と、焼いた鍋の上でどうつながるかは、フランス料理の土台にまとめています。
フランス料理は、バターとクリームを最後に足して止める
フランス料理で乳脂肪を足す工程を、入れる時と止めるところで並べました。ここで「止める」は、火から下ろすか、煮詰めるのをやめることです。
| 工程 | いつ入れるか | 量の目安 | どこで止めるか |
|---|---|---|---|
| モンテ(仕上げのバター) | ソースができてから、火から下ろして | ソース1Lに80〜140g | 45〜55℃で溶かし、入れたら煮立てない |
| ブール・ノワゼット(焦がしバター) | 魚や肉を焼き終えてから、別の鍋で | 魚1〜2切れに20g | 140〜150℃、底の粒がきつね色 |
| クリームの煮詰め | ソースの液体を煮詰める途中で | ソース1Lに200〜250ml | 量が3分の2になり、スプーンの背を覆ったら |
| 仕上げのクリーム | 煮詰めて漉し(こし)たあと、最後に | ソース1Lに100〜150ml | 生のまま混ぜ、もう煮詰めない |
出典: 量は『Le Guide Culinaire』第2版のスープとソースの配合から。温度は乳化ソースの温度帯とムニエル。ノワゼットの量はムニエルのソース用の量です。
どの工程も、乳脂肪は皿の最後のほうで入ります。先に作っておく土台(フォン・グラス・ルー)とは入る時が違い、土台の話はフランス料理の仕込みにあります。
エスコフィエは、バターを入れたら二度と煮立てないと書いた
最後に入れる理由を書いたのは、料理人エスコフィエ(1846〜1935)の料理書『Le Guide Culinaire(ル・ギッド・キュリネール)』です。初版は1903年で、スープとソースの配合ごとに、乳脂肪を入れる時と量を書いています。
最後の1分に、火から下ろして入れる
とろみのあるスープの節で、エスコフィエは、仕上げは最後の1分に火から下ろして行い、スープ1Lにバター80〜100gの割合だと書きました。
ソースも同じ形です。魚のソース・ベルシーは、火から下ろしてバター100gとパセリを入れます。
煮立てると、バターの香りが変わる
同じ節で、エスコフィエは、バターを入れたスープは二度と煮立ててはならない、これは絶対の原則だ、と書いています。理由は、沸騰がバターの風味を変えるからで、その風味はスープの中にはっきり残っていなければならない、という言い分です。
発酵バターの香りの成分ジアセチルは、沸点が約88℃です(フランス料理のテロワール)。煮立てると湯気と一緒に抜けるので、香りを残すバターは火から下ろしてから入れます。
クリームのスープには、バターを足さない
エスコフィエは、クリームで仕上げるスープ(クレーム)と、卵黄でつなぐスープ(ヴルーテ)を分けています。
| スープ | つなぎ | 最後に足すもの(1Lあたり) |
|---|---|---|
| クレーム | 薄いベシャメル | ごく新鮮なクリーム200ml。バターも卵黄も足さない |
| ヴルーテ | 卵黄3個とクリーム100ml | バター80〜100g |
出典: 『Le Guide Culinaire』第2版のクレームとヴルーテの規則。
クレームは、クリームだけで仕上げてバターを重ねません。ソースには、鶏のシュプレームのようにクリームとバターを両方入れるものもあり、原典は料理ごとにどちらを入れるかを書き分けています。
仕上げのバターは、ソース1Lに80〜140g
原典の配合を、ソース1Lあたりと、家庭で2人分の200mlあたりに直しました。
| 料理 | 原典の量 | 1Lあたりのバター(g) | 200mlあたりのバター(g) |
|---|---|---|---|
| とろみのあるスープ | 1Lにバター80〜100g | 約90 | 約18 |
| 鶏のソース・シュプレーム | 1Lにバター80g・クリーム100ml | 約80 | 約16 |
| 魚のソース・ベルシー | 約1.1Lにバター100g | 約90 | 約18 |
| 舌平目のソース・ノルマンド | クリーム込み約900mlにバター125g | 約140 | 約28 |
出典: 『Le Guide Culinaire』第2版。1Lと200mlの欄は、バターを入れる前のソースの量で割った書き手の換算です。
鶏の白いソースは80g前後、魚のソースは90〜140gで、魚のほうが多く入ります。どの魚にどのソースを当てるかはフランス料理のソースの役割にあります。
ソースより濃い例外が、グラス・ド・ヴィアンド・ブーレです。煮詰めたフォン500mlにバター125g(1Lなら250g)とレモン汁数滴を溶かします。
エスコフィエは、野菜の水分で崩れるとろみのソースより、これを野菜に添えた小さな肉料理に当てました。
家庭のパンソース200mlなら、まずバター16〜20gで始めます。冷たいバターを5gずつに切っておくと、溶ける速さを見ながら足せます。
止めどきは、温度と見た目でわかる
乳脂肪を入れる工程は、どれも止めどきの温度と、そのときの見た目があります。
モンテは45〜55℃。鍋の縁が静まってから入れる
ソースを火から下ろし、温度計で50℃前後まで下がったのを確かめてから、冷蔵庫から出したばかりのバターを入れます。鍋を揺すって溶かし、溶けきる前に次のひとかけを足します。
温度計が無いときは、ソースをスプーンで少し取って唇に当て、熱いがすすれるくらいまで待ちます(書き手の目安)。冷たいバターは溶けるたびにソースの熱を奪うので、入れ始めるとソースの温度は下がっていきます。
冷たいバター(5℃前後)は45〜55℃のソースの中でゆっくり溶け、乳のたんぱく質が脂を包んで、つやととろみが出ます。60℃を超えると脂が分かれて浮き、40℃以下ではバターが溶けきりません(乳化ソースの温度帯)。
溶けきったら、表面に油の粒が浮かず、スプーンの背に薄い膜が残ります。ここで直火には戻しません。温め直すときは湯煎に当てます。
ブール・ノワゼットは140〜150℃。ナッツの香りが立ったら移す
ノワゼットはヘーゼルナッツのことで、その色まで加熱したバターをブール・ノワゼットと呼びます。中火より弱めで溶かすと、大きな泡が細かい泡に変わり、泡が静まると底の粒がきつね色になります。
この140〜150℃でナッツの香りが立ったら、火から外して料理の上か冷たい器に移します。鍋に置いたままでも色が進み、160℃を超えると黒くなって苦みが出ます(ムニエル)。
エスコフィエは、ムニエルの魚にレモン汁を絞り、湯通ししたパセリを散らして、ノワゼットにしたバターをかけ、すぐ出すよう書いています。濡れたパセリに熱いバターが当たって立つ泡が、客の前でまだ残っているように、という言い分です。
焼いている肉や魚にバターをかけ続ける方法はアロゼにあります。
クリームは3分の2まで煮詰めて、新しいクリームで戻す
クリームは2回に分けて入れます。1回目は煮詰めて濃度を作る分、2回目は最後に生のまま足す分です。
ソース・シュプレームは、鶏のヴルーテ1Lにクリーム250mlを少しずつ入れながら、強火で量が3分の2になるまで煮詰めます。漉したあと、クリーム100mlとバター80gを足します。
ソース・ア・ラ・クレームも同じ形で、ベシャメルとクリーム1.2Lを750mlまで煮詰め、新しいクリーム150mlで元の濃さに戻します。
煮詰めの止めどきは、スプーンの背をソースが薄く覆い、指でなぞった線がすぐには消えないところです。そこから先の濃さは、最後に入れる生のクリームとバターで作ります。煮詰め方そのものは煮詰めるソースにあります。
煮詰めるクリームは、乳脂肪の多いものを選ぶ
フランスでは、乳脂肪の量でクリームの呼び名が変わる
フランスの政令は、クリームを乳脂肪の量で呼び分けています。
| 呼び名 | 政令の条件 | 日本で近いもの |
|---|---|---|
| crème(クレーム) | 乳脂肪30%以上 | 種類別「クリーム」で乳脂肪30%以上のもの |
| crème légère(クレーム・レジェール) | 乳脂肪12%以上30%未満 | 乳脂肪の少ないクリーム、植物性脂肪入りのホイップ |
| crème fraîche(クレーム・フレッシュ) | 加熱は低温殺菌だけで、作ってから24時間以内に詰めたもの | 該当する規格は無い |
出典: フランスのクリームの政令(Décret n° 80-313)。日本の種類別「クリーム」は乳脂肪分18.0%以上(乳等省令)。
crème fraîche の「フレッシュ」は新鮮さの条件で、乳脂肪の量の名ではありません。乳脂肪30%以上なら crème fraîche、それより少なければ crème légère fraîche と名乗ります。
フランスの店に並ぶ、どろっとした crème fraîche は乳酸菌で発酵させたものです。政令はこの固さの違いを呼び名に分けていません。
煮詰めるなら、乳脂肪30%以上を選ぶ
乳脂肪の多いクリームほど、煮立てても固まりにくくなります。脂肪の粒を包む膜が乳のたんぱく質をつかまえて、たんぱく質どうしが固まるのを防ぐからです。
原典の多くの配合は、煮詰める分に crème、最後に足す分にクレーム・ドゥーブル(濃いクリーム)を使っています。家庭では、種類別「クリーム」で乳脂肪30%以上のものを選びます。
ワインやレモンの酸がある鍋にクリームを入れるときは、先にワインを煮詰めきってから入れます。乳脂肪の少ないクリームほど、たんぱく質をつかまえる脂肪の粒が少なく、酸と一緒に煮立てると分かれやすくなります。
日本・中国料理と比べると、仕上げに足す脂の量が違う
どの料理体系も、皿の最後に何かを足して味を整えます。違うのは、そこで足す脂の量です。
| 料理体系 | 仕上げに足す脂 | 2人分の1皿に足す脂(g) |
|---|---|---|
| 日本料理(煮物・汁物) | 足さない。だしと醤油のうま味で厚みを出す | 0 |
| 中国料理 | 明油(ミンヨウ)。鍋肌から油を回しかける | 4〜10 |
| フランス料理 | バターかクリーム | 16〜28 |
出典: 日本料理のうま味、明油、『Le Guide Culinaire』第2版。中国料理は炒め物1人前に小さじ1/2〜1(2〜5ml)を2人分にし、油1ml≒1gで、フランス料理はソース200mlで数えています。
明油は照りと香りのための数gで、皿の味の芯は炒めた具が持ちます。フランス料理のバターは、200mlのソースに16〜28g入り、ソースの味の一部になります。
フランスは、乳脂肪を多く食べる国でもあります。フランス人は欧州で最も多く乳脂肪を消費し、2022年は1人あたり年8.2kgでした。
日本料理の煮物は、脂を足さずにだしで煮ます。100gあたりの脂は肉じゃがで1.3gで、バターとルーで煮るビーフシチューの12.6gの約1割です。うま味で厚みを出す理由は、日本料理のうま味にあります。
うまくいかせる条件
| こんなとき | どうする | 理由 |
|---|---|---|
| ソースを温かく保ちたい | 湯煎で、ソースが60℃を超えないように置く | 直火に戻すと60℃を超えて分かれる |
| AOP(EUの原産地呼称保護)や発酵バターがある | モンテにだけ使い、焦がしと炒めは普通のバターにする | 香りは約88℃で抜ける |
| 鴨や霜降りの牛など脂の多い肉 | バターは200mlに10g以下にし、酸のソースを当てる | 肉の脂にバターの脂が重なる |
| ソースが大さじ3〜4杯しかない | バターを5gずつ入れ、溶けなくなったら鍋底を湯煎に当てる | 量が少ないと冷たいバターで45℃を割る |
| 有塩バターしかない | バターを溶かしきってから、塩を足すか味を見る | 有塩バター20gに塩が約0.4g入っている |
有塩バターの塩の量は、成分表の値(100gあたり1.9g)から計算しています(有塩バターと無塩バターの違い)。AOPのバターをどこに使うかはフランス料理のテロワールにあります。
よくある失敗と対策
ソースが分離した部分的
- なぜ
- バターを入れたあとにソースを火に戻し、60℃を超えました。乳のたんぱく質が固まって脂を包めなくなり、表面に油の粒が浮きました
- どうする
- 火から外し、冷たい生クリームか冷水を大さじ1入れて中心から混ぜ直します。焦げて色がついたものは戻りません
- 次から
- バターは火から下ろして45〜55℃で溶かし、入れたあとは煮立てません。温めるなら湯煎にします
バターが焦げた諦める
- なぜ
- 泡が静まったあとも火にかけ続け、バターが160℃を超えました。底に沈んだ乳成分のたんぱく質と乳糖が色づきを越えて焦げ、苦い成分ができました
- どうする
- 黒い粒が出たバターは戻りません。鍋を拭き、新しいバターで焦がし直します
- 次から
- 底の粒がきつね色になり、ナッツの香りが立った140〜150℃で、冷たい器か料理の上に移します
煮汁が減りすぎた回復できる
- なぜ
- クリームを入れたソースを、量が3分の2になったところより先まで煮詰めました。水が飛びすぎて、スプーンの跡が残るほど重くなりました
- どうする
- 火から下ろし、生クリームかフォンを大さじ1ずつ足して、スプーンの背が薄く覆われる濃さまで戻します
- 次から
- 煮詰めはスプーンの背を覆ったところで止め、残りの濃さは最後に入れる生のクリームとバターで作ります
油っぽい・重い部分的
- なぜ
- 脂の多い鴨の胸肉のソースに、白身魚のソースと同じ量のバターを溶かしました。肉の脂にバターの脂が重なり、口に脂が残りました
- どうする
- バターは足さず、ワインビネガーかレモン汁を小さじ1足して味を締めます
- 次から
- 脂の多い肉には、バターのソースより酸のソースを当てます。バターを入れるなら200mlに10g以下にとどめます
バターとクリームで仕上げるときに押さえる4つ
フランス料理のバターとクリームは、ソースができてから最後に足し、入れたら煮立てない乳脂肪です。
- 仕上げのバターは、最後の1分に火から下ろして入れます。沸騰はバターの風味を変えるので、入れたら二度と煮立てません
- 量は、原典でソース1Lに80〜140g、家庭の200mlなら16〜28gです
- 止めどきは、モンテが45〜55℃、ブール・ノワゼットが140〜150℃、クリームの煮詰めは量が3分の2になったところです
- クリームのスープにはバターを重ねず、煮詰めるクリームは乳脂肪30%以上を選びます
冒頭の鶏のソテーなら、焼き汁を溶かして煮詰めたソースを火から下ろし、冷たいバター20gを5gずつ溶かします。ソースが200mlあれば、20gは原典の割合(16〜28g)の中に入ります。
参考文献
- Escoffier, A.『Le Guide Culinaire, aide-mémoire de cuisine pratique』(初版1903年。引用は第2版、Émile Colin。スープの仕上げ〈Potages liés〉、ソース・シュプレーム、ソース・ア・ラ・クレーム、ソース・ノルマンド、ソース・ベルシー、ソース・ヴァン・ブラン、野菜を添えた肉料理のソースの注記、ブール・ア・ラ・ムニエール、魚のムニエルの仕上げ)
- Décret n° 80-313 du 23 avril 1980 relatif aux crèmes de lait(フランスのクリームの政令。crème は乳脂肪30%以上、crème légère は12%以上30%未満、crème fraîche の条件)
- FranceAgriMer「Fiche filière lait de vache 2025」(2025年1月。フランス人は欧州で最も多く乳脂肪を消費する。2022年に1人年8.2kg)