豚肉の火入れ|フライパンは中心63℃で止めて3分休ませる、低温調理は58〜61℃でピンクが残る

豚肉の火入れ|フライパンは中心63℃で止めて3分休ませる、低温調理は58〜61℃でピンクが残る

この記事でわかること

豚は中心何度で火を止めるか
フライパンは中心63℃で止めて3分休ませる
ロースやヒレをピンクに仕上げたい
低温調理58〜61℃。58℃で厚さ25mmなら1¾時間
角煮をとろけさせたい
85〜90℃で2時間。沸騰させない
残るリスクの減らし方
新鮮な国産のかたまり肉。レバーと分けて扱う
安全を優先するなら
中心63℃30分、または75℃1分(規格基準)

豚肉は「しっかり火を通すもの」と教わった人ほど、ロースやヒレをパサつかせます。焼き切った豚は、中心が66℃を超えて肉汁を押し出したあとの状態です。

先に答えを書きます。フライパンやオーブンなら中心63℃で火を止めて3分休ませる、低温調理なら58〜61℃です。どちらも薄いピンクが残り、しっとり仕上がります。

この記事が扱うのは食材別の火入れのうち豚肉です。加熱法と部位ごとのおいしい温度、残るものと減らし方、安全を優先する人の公表値、とんかつ・角煮の温度と時間を1本にまとめます。

豚肉は中心63℃で止めて休ませる、低温調理は58〜61℃

加熱法ごとのおいしい中心温度と時間

加熱法おいしい中心温度と時間止めどきの目安
フライパン・グリル・オーブン中心63℃で火を止め、3分休ませる切り口が薄いピンクで、肉汁が透明
揚げる(とんかつ)170℃で4〜5分、2〜3分休ませて中心63℃泡が小さくなり、音が高くなる
低温調理58〜61℃。58℃で厚さ25mmなら1¾時間湯温がそのまま中心温度になる
煮込む(角煮・煮豚)85〜90℃で2〜3時間箸がすっと通り、脂が透き通る

出典:低温調理の時間は Douglas Baldwin「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」Table 5.1。冷蔵庫から出した5℃の肉を湯に入れてからの総時間です。

フライパンの中心63℃と3分の休ませは米国農務省の推奨です。

中心63℃で火を止めると、休ませるあいだに余熱で1〜3℃上がり、中心が65℃前後で落ち着きます。アクチンが固まり始める66℃の手前で止まるので、肉汁が残ります。

58〜61℃で止まるとしっとりする

肉の食感は2つのタンパク質で変わります。ミオシンは50℃前後から固まって弾力を作り、アクチンは66℃から固まって筋繊維を縮め、水分を押し出します(タンパク質の変性)。

58〜61℃はミオシンだけが固まった状態です。断面はピンクで、噛むと肉汁が出ます。63℃で30分保った豚は繊維の束が太くなり、65℃を超えると繊維の存在感がはっきり出ます。

低温調理の厚さ別の総時間と、部位ごとの厚みの読み方は低温調理の豚肉の温度と時間にあります。

部位ごとに向く料理と温度

部位脂とコラーゲンおいしい温度向く料理
ヒレ脂1.9%、コラーゲン少ない低温調理58〜60℃、焼くなら63℃で止めるソテー、ヒレカツ、ロースト
ロース背脂あり、コラーゲン少ない63℃で止めて3分休ませるとんかつ、ソテー、ロースト
もも脂少ない、コラーゲン少ない低温調理58〜61℃、焼くなら63℃で止めるロースト、煮豚、ハム
肩ロース脂が網目状、コラーゲンやや多い63〜65℃、薄切りなら強火で短時間生姜焼き、焼豚、焼肉
バラ脂34.6%、コラーゲン多い85〜90℃で2〜3時間角煮、東坡肉、ベーコン
すね・肩脂少ない、コラーゲン非常に多い80〜95℃で2〜4時間煮込み、シチュー

出典:脂肪量は日本食品標準成分表。おいしい温度はこの記事の加熱法の表と同じ値です。

ヒレ・ロース・ももは66℃を超えるとパサつく部位で、バラ・すねは66℃を超えてからが本番の部位です。コラーゲンは65℃付近で縮んで肉を硬くし、80℃以上を2時間保つとゼラチンに変わります(コラーゲンのゼラチン化)。

残るのはE型肝炎ウイルス、減らすのは買い方

60℃前後で死ぬものと残るもの

食品安全委員会の評価書は、豚の食肉の危害要因を6つに整理しています。評価書が引いた研究の死滅条件を並べると、おいしい温度で何が残るかが分かります。

危害要因種別研究で報告された死滅条件
旋毛虫(せんもうちゅう)寄生虫52℃47分、55℃6分、60℃で瞬時
トキソプラズマ寄生虫55℃5分で感染性消失、61℃で瞬時
有鉤条虫(ゆうこうじょうちゅう)寄生虫60℃(80℃とする報告もある)
サルモネラ属菌細菌60℃15分で殺菌
カンピロバクター細菌55〜60℃で数分間
E型肝炎ウイルス(HEV)ウイルス63℃30分でリスクが一定程度減る

出典:内閣府 食品安全委員会「豚の食肉の生食に係る食品健康影響評価」(2014年12月)が引用した各研究。帯の右端は個別研究の報告値で、調理の設定値ではありません。

寄生虫と細菌は、58〜61℃の低温調理でも、63℃で止める焼きでも減ります。残りうるのはE型肝炎ウイルスだけです。

63℃未満でHEVがどれだけ減るかを示す一次データは、見つけられませんでした。だからこの記事は58〜61℃を「HEVに安全な温度」とは書かず、残りうることを知ったうえで、次の手で減らします。

減らす手は買い方と扱い方にある

やることなぜ効くか
新鮮な国産のかたまり肉を使うと畜場の検査を通り、流通の履歴が追える
レバーと分けて扱う(まな板・包丁・保存)HEVは肝臓に多く残る。移さない
買ってすぐ冷蔵(10℃以下)し、2〜3日で使う表面の菌が内側へ入る前に加熱できる
かたまりのまま使う挽く・刺す・味を浸み込ませると表面の菌が中に入る
中心温度計でいちばん厚いところを測る豚は色で火の通りが読めない
低温調理は湯温を一定に保てる機器で低い側に落ちた時間は菌が減らない

HEVは豚が育つあいだに感染し、筋肉より肝臓に残ります。銘柄や飼育方法では減らせないので、減らし方は肉の履歴(国産・新鮮・かたまり)に寄ります。

挽肉・テンダライズ処理(刃で筋を切った肉)・成形肉は、表面の菌が中に入っています。これらは中心75℃で1分(色が白く変わるまで)を使います。

安全を優先するなら中心63℃で30分

公表値は中心63℃30分と同等の5組

子どもや高齢者、妊娠中の人に出すとき、温度計や低温調理器が無いときは、公表値を使います。豚の食肉の規格基準は、中心63℃で30分以上、またはこれと同等以上です。

中心温度(℃)中心温度に達してからの維持時間仕上がり
6330分ピンクが残ることがある。繊維の束が太い
6515分繊維の存在感が出る
6611分ここから水分が抜ける側に入る
703分しっかり火が通った食感
751分中心が白く変わる。従来の「よく焼いた豚」

出典:厚生労働省「豚の食肉の基準に関するQ&Aについて」、同「食肉の加熱条件に関するQ&A」。すべて中心温度に達してからの維持時間で、湯温でも総時間でもありません。

HEVは妊娠中の人で劇症化しやすいとされています。妊娠中の人に出す豚を63℃30分の側で作る理由はここにあります。この5組がなぜ同じ安全性で並ぶのかは58℃が63℃30分より低くても成り立つ理由にあります。

色は火の通りの目安にならない

加熱した豚肉がピンクのまま残ることがあります。ミオグロビンの色は、pH・燻煙・発色剤で動くので、ピンクは「生」の印ではありません。

厚生労働省が色の目安を書いているのは75℃1分の側だけで、中心の色が白っぽく変わるのが、75℃に達して1分加熱した目安です。63℃で止めた豚はピンクが残ることがあるので、温度計で確かめます(肉の色と安全)。

牛・鶏との違いは脂と残る相手

残る相手と脂の融点の比較

食材おいしい中心温度残るものと減らし方脂の融点
牛肉48〜60℃(レア〜ミディアム)菌は表面。かたまりのまま表面を焼く40〜50℃
豚肉(この記事)63℃で止める。低温調理58〜61℃HEVが中に。新鮮な国産を選ぶ30〜48℃(部位差大)
鶏肉70〜75℃。むねの低温調理58〜60℃カンピロバクターが筋肉に。新鮮なものを冷蔵で30〜32℃

出典:脂の融点は脂肪の融点と口どけ。おいしい温度は各食材の記事の値です。

ミオシンとアクチンの変性温度は、牛・豚・鶏で変わりません(魚だけ44〜45℃)。違うのは残る相手で、牛は表面を焼けば済み、豚はウイルスが中にいて見た目で分からず、鶏は菌が筋肉そのものにいます。

豚脂は部位で性格が変わります。背脂は30〜40℃で溶けて口溶けがよく、リーフラード(腎臓まわりの脂)は43〜48℃で溶けきりません。冷めてもおいしい豚料理が多いのは、背脂が体温で溶けるからです。

作りたい料理から部位を選ぶ

作りたいもの選ぶ部位理由
ピンクのしっとりした豚ヒレ、もも、ロース脂とコラーゲンが少なく、58〜63℃で止めると肉汁が残る
とろける煮込みバラ、すねコラーゲンが多く、85℃以上を2時間保つとほどける
甘辛いタレに負けない焼き物肩ロース、バラ脂が多く、強火でも乾かない
皮をパリパリに皮付きバラ、ロース皮が3〜5mmと厚く、200℃以上で30〜60分かけて焼ける

豚の脂は甘辛い味付けに負けません。角煮・生姜焼き・とんかつが日本に根づいたのは、背脂が体温で溶けて、冷めても口当たりが変わらないからです。

とんかつ・ローストポーク・角煮の作り方

とんかつは170℃で4〜5分、休ませて中心63℃

手順やること外すとどうなるか
1肉を常温に30分戻し、筋を切って軽く叩く中心が冷たいと衣が焦げる前に届かない
2塩・胡椒、小麦粉→卵→パン粉粉が厚いと油を吸う
3170℃の油で4〜5分(厚さ1.5cm)160℃以下では衣が油を吸う
4網に上げて2〜3分休ませる余熱で中心が63℃に届く

泡が小さくなり、音が高くなったら揚げ上がりです。切り口の中心が薄いピンクで、肉汁が透明なら火が通っています。

ローストポークとヒレは63℃で止める、低温調理なら58〜60℃

作り方温度と時間止めどき
オーブンのロースト(ロース・もも)160〜180℃で1〜2時間中心63℃で出し、10〜15分休ませる
フライパンのヒレ中火で全面1〜2分、蓋をして弱火5分火を止めて5分休ませ、中心63℃
低温調理(ヒレ・もも)58〜60℃で1½〜2時間(厚さ25mm)取り出して表面を1分以内で焼く
コンフィ(ヒレ・もも)65〜75℃の脂で2〜3時間箸で押して弾力が戻る

出典:低温調理の時間は Douglas Baldwin Table 5.1。オーブンとコンフィの時間は目安で、止めどきは中心温度で見ます。

ローストは休ませるあいだに中心が2〜4℃上がります。目標より手前で出すのは、この上がり幅を数えるためです(余熱を使いこなす調理術)。

角煮は85〜90℃で2時間、沸騰させない

手順やること外すとどうなるか
1バラのかたまりを沸いた湯で30分ゆでるアクが残り、脂が抜けない
2一口大に切り、水・酒・砂糖・醤油で煮る先に切ると形が崩れる
385〜90℃を保ち、落とし蓋で90分〜2時間沸騰させると繊維が縮んで硬くなる
4一晩冷やして脂を外し、温め直す脂が口に残る

箸がすっと通り、脂が透き通ったらゼラチン化が進んでいます。低温調理なら65〜70℃で24〜36時間置くと、形を保ったままほどけます。

よくある失敗と対策

中が生だった回復できる
なぜ
厚みに対して加熱時間が足りず、中心がミオシンの固まる温度に届いていません
どうする
蓋をして弱火で加熱を続け、中心温度を測って63℃に届いたら火を止めます
次から
いちばん厚いところに温度計を刺します。厚い部位は切り分けるか時間を延ばします
パサついた部分的
なぜ
中心が66℃を超えてアクチンが変性し、縮んだ筋繊維が抱えていた水分を押し出しました
どうする
ソースや煮汁を絡めて水分を補い、薄く切ります
次から
中心63℃で火を止め、3分休ませてから切ります。低温調理なら湯温を61℃以下に置きます
肉が固くなった回復できる
なぜ
煮込み時間が足りず、コラーゲンがゼラチン化する前で止まりました
どうする
沸騰させず弱火で2時間以上煮込み続けます
次から
85〜90℃で2時間以上、沸騰させずにゼラチン化まで進めます
油っぽい・重い回復できる
なぜ
油温が低く衣の脱水が進まないまま、油が衣の内部へ入り込みました
どうする
網に上げて油を切り、高温で短時間揚げ直します
次から
170℃を保ち、一度に入れる量を抑えて温度低下を防ぎます
衣・皮がベチャッとした回復できる
なぜ
皮の水分が残り、脂が融け出す温度まで表面が上がりきりませんでした
どうする
水気を拭いて高温で表面を焼き直します
次から
焼く前に水気を拭き取り、高温で仕上げます

手元の豚肉でやることは4つ

  1. フライパンやオーブンなら中心63℃で火を止め、3分休ませます。切り口は薄いピンク、肉汁は透明です
  2. ピンクのしっとりした豚を作るなら低温調理58〜61℃です。58℃で厚さ25mmなら1¾時間、角煮は85〜90℃で2時間です
  3. 新鮮な国産のかたまり肉を、レバーと分けて扱います。残りうるのはE型肝炎ウイルスで、63℃未満で減らす時間は確かめられていません
  4. 安全を優先するなら中心63℃で30分、または75℃で1分です。妊娠中の人や子どもに出すときはこちらを使います

豚は、寄生虫を恐れて焼き切る肉ではなくなりました。何が残るかを知っていれば、63℃で止めた薄いピンクの豚を、自分で選べます。