この記事でわかること
- 韓国料理はなぜ発酵したものを重ねるのか
- 酸味と大豆・魚介のうま味が増えるから。塩も重なる
- 重ねると何がおいしくなるのか
- キムチの酸味、醤の大豆と塩辛の魚介のうま味
- キムチチゲがしょっぱくなる理由
- 塩の約3分の2はキムチから。醤は後から減らす
- キムチを増やしたら醤はどれだけ減らす
- キムチ100gにつきクッカンジャン約14g
- 日本料理の発酵調味料との違い
- 日本は調味料で付け、韓国は発酵した具も煮込む
キムチチゲのレシピを見ると、キムチ500gを入れた鍋に、さらにクッカンジャン(汁物用の韓国醤油)を大さじ2入れています。キムチはもう塩漬けされているのに、なぜ醤まで足すのでしょうか。
韓国料理は、台所に仕込んでおいた醤(ジャン)・塩辛・キムチという発酵したものを、1つの鍋と1つの膳に重ねて味を作ります。重ねると酸味と、大豆と魚介の2つのうま味が増えます。
キムチチゲに醤まで足すのは、キムチが酸味と魚介のうま味を、クッカンジャンが大豆のうま味を持ってくるからです。
代わりに塩も重なるので、先に入るキムチの塩から数え、後から入れる醤を減らします。
この記事では、韓国料理が発酵したものをなぜ重ねるのか、重ねると味の何が増えるのか、塩がどこで重なりすぎるのかを扱います。
食べ物で体を整えるという考え方(薬食同源(やくしょくどうげん))は、おいしさの側ではなく体の側の話なので、韓国料理の薬食同源で扱います。
2つの考え方がそれぞれ台所のどの場面で手を変えるかは、韓国料理の考え方にまとめています。
カンジャン・テンジャン・コチュジャンそれぞれの性質と選び方は韓国醤油と韓国の醤(ジャン)にあります。日本・中国・フランス・イタリア料理と並べた違いは韓国料理の特徴で扱います。
韓国料理は、仕込んだ醤・塩辛・キムチを1つの鍋に重ねる
韓国の醤づくりは2024年に無形文化遺産に記載され、味噌・醤油・唐辛子味噌といった醤は、韓国の食事の土台とされています。醤は飯・キムチと並ぶ食事の中心で、野菜・魚・肉と合わせて使われます。
| 発酵したもの | 何を発酵させたか | 料理に足すもの | 食塩(g/100g) |
|---|---|---|---|
| クッカンジャン(汁物用の醤油) | 大豆だけで作ったメジュ(味噌玉) | 汁の塩と大豆のうま味 | 19〜22 |
| テンジャン(味噌) | クッカンジャンを取ったあとのメジュ | 汁の塩と大豆のうま味・熟成の香り | 12〜15 |
| コチュジャン(唐辛子味噌) | もち米・唐辛子粉・メジュの粉 | 甘み・辛味・とろみ | 7〜10 |
| セウジョッ(小エビの塩辛) | 小エビを塩で1か月以上 | 塩と魚介のうま味 | 19.8 |
| キムチ(白菜) | 塩漬けの白菜に塩辛と薬味 | 酸味・辛味・うま味・塩 | 2.9 |
出典: 醤の塩はサイト内のクッカンジャン・テンジャン・コチュジャンの記事(塩分%)。キムチとセウジョッは日本食品標準成分表(八訂)の食塩相当量で、セウジョッは「あみ 塩辛」の値。セウジョッの仕込みは韓食振興院の標準レシピ。
1つの鍋には、この表の2つか3つが同時に入ります。キムチチゲならキムチとクッカンジャン、汁物ならクッカンジャンに、食べる人が卓でセウジョッを足します。テンジャンチゲはテンジャン1つで作るので、あとで塩の量を比べる基準にします。
キムチそのものが、塩辛を重ねた発酵品
キムチは、香辛料と発酵させた魚介で味付けした保存野菜と定義されています(キムジャンの無形文化遺産の記載)。キムチは、野菜の発酵の中に、魚介の発酵がもう1つ入っている食べ物です。
韓国の標準レシピでは、白菜10株(約20kg)を天日塩(てんぴじお)2kgで6〜8時間漬け、セウジョッ400gとカタクチイワシの魚醤500gを薬味に合わせます。
白菜1kg当たりではセウジョッ20gと魚醤25gです。ほかのキムチと汁に塩辛をどれだけ入れ、塩とどう置き換えるかは韓国料理の塩辛(ジョッカル)の使い方にあります。
漬け上がったキムチの塩は、白菜キムチの配合を揃えた韓国の研究で2.7%、日本食品標準成分表で100g当たり2.9gです(研究は抄録で確認)。
1年かけて仕込み、冬のあいだ使い続ける
キムジャン(冬の前にキムチを一度に漬けて分け合う行事)は、2013年に無形文化遺産に記載されました。その記載では、漬ける日までに1年をかけて材料を揃えます。
| 時期 | 仕込むもの |
|---|---|
| 春 | エビやカタクチイワシを塩漬けにして発酵させる |
| 夏 | 塩水に使う天日塩を買う |
| 晩夏 | 赤唐辛子を干して粉にする |
| 晩秋 | 冬のあいだ食べるキムチを一度に漬ける |
出典: UNESCO「Kimjang, making and sharing kimchi in the Republic of Korea」(2013)。
醤も同じで、醤油を数十年熟成させて家の味を保つ家もあります。台所には季節ごとに仕込んだ発酵したものがいつもあり、料理はそこから取り出して重ねて作ります。
重ねると増えるのは、酸味と、大豆と魚介のうま味と、熟成の香り
発酵したものを1つ足すごとに、塩と一緒に別の味が入ります。塩だけで味を付けた鍋との違いはここにあります。
| 重ねるもの | 増える味 | 使われる料理 |
|---|---|---|
| 醤(カンジャン・テンジャン) | 大豆のたんぱく質が分かれたうま味、熟成の香り | 汁・チゲ・ナムル |
| 塩辛(セウジョッ・魚醤) | 魚介のたんぱく質が分かれたうま味 | キムチ・汁・ゆで豚 |
| キムチ | 乳酸発酵の酸味、唐辛子の辛味 | チゲ・炒めご飯・チヂミ |
| コチュジャン | もち米の甘み、辛味、とろみ | 炒め物・ビビンバ |
出典: 何を発酵させたかは「仕込んだ醤・塩辛・キムチ」の表の出典、味の出どころは発酵の科学。
大豆の醤と魚介の塩辛は、違うたんぱく質からうま味を出す
醤は大豆のたんぱく質が、塩辛はエビやイワシのたんぱく質が、発酵と熟成のあいだに分かれてアミノ酸になります。どちらもうま味のもとになり、出どころが大豆と魚介に分かれるので、重ねると1つで付けたときより味の出どころが増えます。
キムチのグルタミン酸に豚肉のイノシン酸を合わせると、うま味は掛け算で強まります。キムチチゲに豚肉を入れる組み合わせがこれに当たり、比率と仕組みはうま味の相乗効果にあります。
よく漬かったキムチの酸味は、煮る料理に回す
韓国の標準レシピのキムチチゲは「よく漬かったキムチ」を使うと指定しています。漬かって酸味の出たキムチは、そのまま食べるより、豚肉と一緒に煮て酸味の角を落とすと味の芯になります。
同じレシピには砂糖が大さじ1入っています。理由はレシピに書かれていませんが、漬かったキムチの酸味を丸めていると考えられます。漬かり具合で呼び名と使い道が変わることは韓国料理の特徴の、キムチの漬かり具合の節にあります。
塩が重なりすぎるのは、キムチと醤を同じ鍋に入れるとき
重ねるほど味の出どころは増えますが、どれも塩を持っています。重なりすぎるのは、塩の多いキムチと醤を同じ鍋に入れるときです。
キムチチゲの塩の約3分の2は、キムチが持ってくる
韓国の標準レシピ(4人分)で、塩がどこから入るかを数えました。
| 料理(4人分) | 塩の入り口 | 鍋に入る食塩(g) | 1人分の食塩(g) |
|---|---|---|---|
| キムチチゲ | キムチ500g | 14.5 | 3.6 |
| キムチチゲ | クッカンジャン大さじ2(36g) | 6.8〜7.9 | 1.7〜2.0 |
| キムチチゲ | 合計(薄ければ塩を足す) | 21.3〜22.4 | 5.3〜5.6 |
| テンジャンチゲ | テンジャン大さじ4(72g) | 8.6〜10.8 | 2.2〜2.7 |
出典: 分量は韓食振興院の標準レシピ「김치찌개」「된장찌개」。キムチの塩は日本食品標準成分表(八訂)の2.9g/100g、醤の塩はサイト内の記事の塩分%で計算。大さじ1は醤油・味噌とも18gで換算。
キムチチゲの塩の65〜68%は、キムチから入ります。同じ4人分でも、醤1つで作るテンジャンチゲの約2倍の塩が入ります。
レシピはクッカンジャンを大さじ2で止め、塩は「薄ければ」足すとしています。理由は書かれていませんが、キムチの塩が先に入る分を残していると読めます。
塩1gぶんの量で換算して、後から入れる醤を減らす
キムチを増やしたり、別の醤を足したりするときは、塩1gを入れるのに要る量で置き換えます。
| 食塩1gを入れるのに使うもの | 使う量(g) |
|---|---|
| 食塩 | 1 |
| クッカンジャン | 4.5〜5.3 |
| セウジョッ(あみの塩辛) | 5.1 |
| テンジャン | 6.7〜8.3 |
| コチュジャン | 10〜14 |
| キムチ | 34 |
出典: 「仕込んだ醤・塩辛・キムチ」の表の食塩(g/100g)から計算。
キムチを100g増やすと、塩が2.9g増えます。そのぶんクッカンジャンを約14g(大さじ1弱)減らせば、鍋の塩は元のままです。
逆に、テンジャンチゲにキムチを100g入れるなら、テンジャンを20〜24g(大さじ1強)減らします。
煮詰めると、重ねた塩も一緒に濃くなる
チゲは沸いたら弱火に落とし、キムチチゲは20分+10分、テンジャンチゲは10分+15分で煮ます(韓国料理の火加減)。
強火のまま煮ると水だけが飛び、重ねた塩はすべて鍋に残ります。水が3分の2に減れば、塩の濃さは1.5倍になります。仕組みは蒸発と煮詰めにあります。
膳では、塩辛を卓に置き、食べる人が自分の椀で足す
1つの膳でも、発酵したものは重なります。韓国の標準レシピの汁物は、塩を鍋と卓の2か所に分けています。
| 汁物(4人分) | 具の下味 | 汁の味付け | 卓に置くもの |
|---|---|---|---|
| プゴク(干しスケトウダラの汁) | クッカンジャン大さじ1 | クッカンジャン大さじ1と塩 | セウジョッ・唐辛子粉 |
| コンナムルクッパ(豆もやしの汁かけ飯) | なし | 水1.5Lにクッカンジャン大さじ2・セウジョッ・塩 | セウジョッ・刻んだ青唐辛子・海苔 |
出典: 韓食振興院の標準レシピ「북엇국」「콩나물국밥」。汁の塩とセウジョッの量は、レシピに g の指定が無い。
鍋の味付けはクッカンジャンと塩(コンナムルクッパはセウジョッも)で付け、卓にもセウジョッを添えます。足すかどうかは、食べる人が自分の椀で決めます。卓のセウジョッは5gで塩約1g、キムチを50g添えれば塩1.45gが膳に足されます。
汁・キムチ・おかずを1つの膳にどう組み、チゲの日に汁を付けないと塩がどれだけ減るかは韓国料理の献立にあります。
日本料理は発酵の調味料で味を付け、韓国料理は発酵した具も煮る
発酵したものを料理の土台に置くのは、日本料理も同じです。違うのは、発酵したものを調味料としてだけ入れるか、具としても鍋に入れるかです。
| 料理体系 | 1つの料理に入る発酵したもの | 入れ方 |
|---|---|---|
| 韓国料理 | キムチ(中に塩辛)+クッカンジャンやテンジャン。卓にセウジョッ | テンジャンとクッカンジャンは汁に溶かし、キムチは具として25〜30分煮込む |
| 日本料理 | 醤油・味噌・みりん・酢のうち、料理に要るもの | だしに溶かし、味噌は沸く手前で溶いて沸かさない |
| 中国料理 | 豆板醤・醤油・紹興酒 | 豆板醤を油で炒めて香りを出してから煮る |
出典: 日本料理と中国料理は和食の発酵調味料、韓国料理は韓食振興院の標準レシピ「김치찌개」「된장찌개」。
日本料理は、発酵の香りが沸騰で飛ばないように、味噌は沸く手前で溶き、醤油は仕上げにも足します。塩1gを醤油で入れるなら6.9g、淡色辛みそなら8.1gと、1つの調味料の量で数えます。
韓国料理は、醤を汁に溶かしたうえで、酸味の出たキムチを具ごと煮込み、酸味とうま味を汁に移します。塩は、キムチ・醤・塩辛の3つの入り口から入るので、足し算で数えます。
うまくいかせる条件
| こんなとき | どうするか | なぜ |
|---|---|---|
| レシピよりキムチを多く入れる | 塩1gの換算表でクッカンジャンを減らす | キムチの塩が先に入る |
| 市販のキムチを使う | 袋の食塩相当量を見て、100g当たり2.9gと比べて醤を増減する | 製品ごとに塩が違う |
| 卓にセウジョッを出す | 鍋はレシピのクッカンジャンと塩で止め、卓のセウジョッを足す前に椀で味を見る | 食べる人が卓で塩を足す |
よくある失敗と対策
味が濃い・塩辛い回復できる
- なぜ
- キムチの塩を数えずにクッカンジャンを全量入れ、キムチと醤から塩を二重に取りました
- どうする
- 水かだしを足して薄め、豆腐や野菜を増やして塩を分けます
- 次から
- キムチを入れて煮てから味を見て、クッカンジャンは半量から足します
酸味が強すぎる回復できる
- なぜ
- 漬かりすぎたキムチに溜まった乳酸が、煮汁に多く出ました
- どうする
- 砂糖を小さじ1ずつ足して味を見ます。レシピも砂糖大さじ1を入れています
- 次から
- よく漬かったキムチは煮る料理に回し、20分は煮て酸味の角を落とします
味が薄い・ぼやけた回復できる
- なぜ
- 浅漬けのキムチはまだ乳酸が少なく、汁に酸味とうま味が出なかったと考えられます
- どうする
- 塩より先にクッカンジャンを小さじ1ずつ足し、足りなければセウジョッを5gずつ(塩約1g)溶かします
- 次から
- チゲには漬かって酸味の出たキムチを使います
煮汁が減りすぎた回復できる
- なぜ
- 沸いたあとも強火で煮続け、水が飛んで重ねた塩が一緒に濃くなりました
- どうする
- 減った分の水を足し、ひと煮立ちさせてから味を見直します
- 次から
- 沸いたら弱火に落とし、キムチチゲは20分+10分で止めます
発酵を重ねるときに押さえる3つ
韓国料理は、季節ごとに仕込んだ醤・塩辛・キムチを、1つの鍋と1つの膳に重ねて味を作ります。
- キムチはそれ自体が塩辛を重ねた発酵品で、チゲに入れると酸味と魚介のうま味が一緒に入ります
- 醤と塩辛は、大豆と魚介という違うたんぱく質からうま味を足すので、重ねると味の出どころが増えます
- 塩はキムチ・醤・塩辛の3つから入るので、先に入るキムチの塩から数え、後から入れる醤を塩1gの換算で減らします
醤に香味と甘みを合わせた合わせ調味料はヤンニョム、汁・鍋・炒めでどの醤をどれだけ使うかは韓国料理の醤の使い分けにあります。
参考文献
- UNESCO「Kimjang, making and sharing kimchi in the Republic of Korea」(2013年 人類の無形文化遺産の代表的な一覧に記載。キムチの定義と、春の魚介・夏の塩・晩夏の唐辛子・晩秋の漬け込み)
- UNESCO「Knowledge, beliefs and practices related to jang making in the Republic of Korea」(2024年記載。醤は食事の土台で、野菜・魚・肉と合わせる。醤油を数十年熟成させる家)
- 文部科学省 食品成分データベース(日本食品標準成分表 八訂)「はくさい 漬物 キムチ」食塩相当量2.9g/100g
ほか7件を見る
- 文部科学省 食品成分データベース(日本食品標準成分表 八訂)「あみ 塩辛」食塩相当量19.8g/100g
- 한식진흥원(韓食振興院)標準レシピ「김치찌개」(4人分。キムチ500g・クッカンジャン大さじ2、薄ければ塩)
- 한식진흥원 標準レシピ「된장찌개」(4人分。テンジャン大さじ4)
- 한식진흥원 標準レシピ「배추김치」(白菜約20kgにセウジョッ400g・カタクチイワシの魚醤500g)
- 한식진흥원 標準レシピ「북엇국」(鍋はクッカンジャンと塩、セウジョッは好みで添える)
- 조은주・이선미・이숙희・박건영「Studies on the Standardization of Chinese Cabbage Kimchi」한국식품과학회지 30(2):324-332, 1998(白菜キムチの最終塩度2.7%)
- 農林水産省 みんなの食育「減塩」(日本人の食事摂取基準2025年版の食塩の目標量)