低温調理のプリン・茶碗蒸しの温度と時間|湯温85℃なら「す」は入らない

低温調理のプリン・茶碗蒸しの温度と時間|湯温85℃なら「す」は入らない

この記事でわかること

  • プリン・茶碗蒸しの湯温が80〜85℃になる理由(固まる温度と、すが始まる温度のあいだ)
  • 卵をだしや牛乳で薄めるほど、固まる温度が上がること
  • 蒸し器ではすが入り、低温調理では時間を延ばしても入らない理由
  • 加熱時間が卵液の量ではなく器の形と大きさで決まること

蒸し器で茶碗蒸しを作ると、表面はなめらかなのに、匙を入れると中に小さな穴が並んでいることがあります。プリンでも同じことが起きます。低温調理器なら防げると聞いて調べると、レシピの湯温は80℃・82℃・85℃と割れていて、時間も30分から75分まで幅があります。

この記事が扱うのは、低温調理の食材別の温度と時間のうち、卵をだしや牛乳で薄めて固める料理です。茶碗蒸し・プリン・クレームブリュレがここに入ります。殻付きのまま加熱する温泉卵は低温調理の卵の温度と時間で扱っています。

答えから書くと、湯温は80〜85℃ です。卵液が固まる温度より上で、すが始まる温度より下にあたります。この範囲に湯を置けば、時間を延ばしてもすは入りません。

答え|湯温は80〜85℃、時間は器の形で決まる

この記事で使う言葉

す(すだち) は、固まった卵液の中にできる小さな空洞です。卵液を混ぜたときに表面に浮く泡とは別物で、泡は漉せば取れますが、すは加熱の温度で決まります。

希釈卵液 は、卵をだし・牛乳・生クリームなどで薄めた液です。この記事では「卵液」と略します。

湯温の窓|固まる温度より上、すが始まる温度より下

卵液の状態卵液そのものの温度何で変わるか
固まり始める68〜75℃薄めるほど高い。砂糖を入れると上がる
全体が固まる80〜84℃加熱が速いほど高い
すが入り始める87〜91℃加熱が速いほど高い

出典:固まり始める温度は阿相(2020、卵を豆乳・牛乳・アーモンドミルクで0.5〜4倍に薄めた液を恒温槽で60分加熱)、全体が固まる温度とすの温度は古賀(1995、卵:水=1:2の液を、湯の温度が毎分2.8℃と7.5℃で上がる火力で加熱)です。

湯温を80〜85℃に置くと、卵液は全体が固まる温度まで上がり、すが入る温度には届きません。卵液は湯より熱くなれないからです。この80〜85℃の幅を、この記事では「湯温の窓」と呼びます。下端は卵液が固まりきるかどうか、上端はすまでの余裕で決まっています。

低温調理の湯温 80〜85℃固まり始める 68〜75℃全体が固まる 80〜84℃すが入り始める 87〜91℃蒸し器の熱源 約100℃60℃70℃80℃90℃100℃温度(卵液・湯・熱源を同じ目盛りで表示)→3本の帯は卵液の温度で、幅は薄め方と加熱の速さで動く範囲。阿相(2020)・古賀(1995)。蒸し器内の約100℃も古賀(1995)の測定
湯温80〜85℃は「全体が固まる」帯に重なり、「す」の帯の手前で止まる。卵液は湯より熱くなれないので、湯をここに置けばすには届かない。蒸し器は熱源がすの帯より上にある

時間の目安|器ごとの例

料理と配合器湯温・時間
茶碗蒸し(卵M2個・だし300ml)直径7.5cm・高さ6cmの耐熱容器85℃・35分(このあと蒸らし15分)
プリン(卵M2個・牛乳250ml・砂糖60g)直径5cm・高さ5.5cmの耐熱容器85℃・30分
実験の卵液(卵と薄める液を合わせて60g)底面直径4cm・高さ5cmの金属製プリン型85℃・20分
クレームブリュレ(卵黄75g・生クリーム500g・砂糖65g)容量約240mlの広口ガラス瓶82℃・60分(75分まで延ばせる)

出典:茶碗蒸し・プリンはパナソニックの電気圧力なべのレシピ(低温調理モード。蒸し板の上に並べる)、実験の卵液は阿相(2020)の恒温水槽での調製条件、クレームブリュレは America’s Test Kitchen のレシピです。蒸らしは、加熱を止めて蓋をしたまま置く時間です。どれもレシピや実験の設定で、中心温度の到達を測った値ではありません。

同じ85℃でも、20分の器と35分の器があります。時間を分けているのは卵液の量ではなく器の形です。

薄めるほど、固まる温度は上がる

希釈の倍率と固まる温度

薄める液卵1に対して0.5倍で薄めた卵液が固まる温度卵1に対して4倍で薄めた卵液が固まる温度
豆乳68℃74℃
アーモンドミルク69℃75℃
牛乳69℃72℃

出典:阿相(2020)。卵液を試験管に入れ、68〜75℃に1℃刻みで調整した恒温槽で60分加熱し、固まったかを確かめた温度です。砂糖・食塩は加えていません。

卵を薄めると、固まる温度は上がります。豆乳とアーモンドミルクでは、0.5倍から4倍に薄めると6℃上がりました。卵が固まるのは、熱でほどけたタンパク質同士がつながって網のような構造を作るからです。薄めるとタンパク質同士の間が開くので、つながるまでにより高い温度が要ると考えられます。

殻付き卵の白身と黄身は、別々の温度で固まります。卵液は全部を混ぜてあるので、ひとつの温度帯で固まります。その温度帯は、薄めたぶん上にずれています。温泉卵の湯温(65〜70℃)では、卵液は全体が固まる80℃前後に届きません。

砂糖は固まる温度を上げ、牛乳は上げ幅を小さくする

加えるもの固まる温度固まったあとの硬さ
砂糖(卵液の17%)どの配合でも上がる軟らかくなる
牛乳(薄める液として)4倍に薄めても72℃で、豆乳・アーモンドミルクより上がりにくい豆乳と並んで硬い
食塩(卵液の0.8%)豆乳・アーモンドミルクでは下がる。牛乳では上がる牛乳以外では硬くなる

出典:阿相(2020)。砂糖・食塩は、卵と薄める液を合わせた重さに対する割合です。

プリンは砂糖が多く、茶碗蒸しは砂糖を入れません。プリンのほうが固まる温度は高い側にあります。牛乳で薄めると固まる温度が上がりにくいのは、牛乳のカルシウムが卵のタンパク質同士のつながりを助けるためと考えられています。食塩の効き方は薄める液によって逆になったので、「塩を入れれば固まりやすい」とは言い切れません。

薄めすぎると形を保てない|茶碗蒸しが器のまま出る理由

同じ研究で、型から出して形を保てた倍率は、水で薄めた卵液が1倍まで、牛乳と豆乳が4倍まででした。

茶碗蒸しは卵M2個(約100g)にだし300mlで、約3倍に薄めています。だしは水に近いので、型から抜くと崩れる側にあります。だから器のまま出します。プリンは牛乳で約2.5倍なので、形を保てる範囲に入り、型から抜けます。同じ「卵を薄めて固める料理」でも、出し方の違いは薄める液の違いから来ています。

すが入るのは、熱源と卵液の温度差のせい

すは卵液が87〜91℃に達して始まる

加熱の速さ(湯の温度の上がり方)全体が固まったときすが入り始めたときそのあいだの時間
毎分2.8℃(弱火)80℃・加熱13分44秒87℃・加熱15分26秒1分42秒
毎分7.5℃(中火)84℃・加熱6分39秒91℃・加熱7分53秒1分14秒

出典:古賀(1995)表1。卵:水=1:2の卵液10mlを試験管に入れ、40℃の水から加熱して卵液の温度を測っています。

すの正体は水です。卵液が90℃前後になると、固まったタンパク質がつかんでいた水を放し、それが水蒸気になって空洞を作ります。同時に液がしみ出して、全体が硬くなります。

加熱が速いと、どの段階も高い温度にずれます。そして、全体が固まってからすが入るまでは、弱火でも2分足らずしかありません。

蒸し器は熱源が100℃にある

蒸し器の中は、蓋をして中火にかけると1分で100℃近くまで上がります(古賀(1995)の測定)。卵液は外側から温まり、中心が固まるころには、器に触れた外側はもっと先に進んでいます。熱源は100℃にあるので、止めなければ卵液はいずれ90℃を超えます。

だから蒸し器では「何分で止めるか」がすべてになります。竹の蒸籠(せいろ)が金属の蒸し器よりすが入りにくいのは、蒸気が回って卵液の中心と底の温度差が小さくなるためと考えられています。

湯温が窓の中なら、時間を延ばしても入らない

湯せんでも、沸いた湯の鍋で中火に1分かけて火を止め、2分置いただけで、器の周りに細かいすが入りました。ところが、沸いた湯に器を入れて蓋をし、すぐ火を止めて余熱だけで8分置くと、すのないなめらかなゲルになりました。それ以上置いても、すは増えませんでした(この節の実験はいずれも古賀(1995)です)。

熱源の温度がすの温度より下がれば、時間では失敗しなくなる、ということです。低温調理はこれを最初から作ります。湯温85℃は、卵液が届きうる上限そのもの です。卵液は湯より熱くなれないので、87℃には届きません。時間を延ばしても、すは入りません。

ここが蒸し器との違いです。蒸し器では温度と時間の両方を見張る必要がありました。低温調理では温度が固定されるので、見るのは「固まったか」だけになります。

手元の器と配合で湯温と時間を選ぶ

湯温の選び方|配合で80〜85℃のどこに置くかが変わる

配合例の湯温例の出どころ
茶碗蒸し(だしで約3倍・砂糖なし)85℃家電メーカーのレシピ
プリン(牛乳で約2.5倍・砂糖多め)85℃家電メーカーのレシピ
クレームブリュレ(卵黄+生クリーム)82℃料理研究機関のレシピ

出典:パナソニック(茶碗蒸し・プリン)、America’s Test Kitchen(クレームブリュレ)。80〜85℃の窓は、これらの例ではなく前の節の凝固温度とすの温度から導いた幅です。

迷ったら85℃にします。砂糖の多いプリンや薄い茶碗蒸しでも固まる温度より上にあり、すの87℃まで2℃の余裕があります。85℃より上げる理由はありません。低温調理器の表示と湯の実際の温度がずれることもあるので、最初の1回は湯に温度計を入れて確かめます。

時間は器の形で決まる

熱は器の壁から中心へ伝わります。だから時間は、壁から中心までの距離で変わります。同じ量の卵液でも、細く高い器より、浅く広い器のほうが早く固まります。肉では厚みで時間が変わりますが(鶏むね肉の低温調理)、卵液では器の直径と高さが同じ役をします。

器の材質も効きます。金属のプリン型は熱をよく通し、厚いガラス瓶や陶器の茶碗は遅くなります。時間の目安の表で、金属の型が20分、ガラス瓶が60分と開いているのは、大きさと材質の両方の差です。

時間は表の例を起点にします。最初の1回は早めに1つ取り出して確かめ、固まった時間を自分の器の値として控えます。2回目からはその時間で作れます。

固まったかの確かめ方

  • 竹串を中心に刺し、抜いた穴から濁った液が出なければ固まっています
  • 器を軽く揺らし、中心が液のように波打たず、全体がまとまって揺れれば固まっています

固まっていなければ、湯に戻して5分ずつ足します。湯温が85℃以下なら、何度足してもすは入りません。

冷まし方と保存

プリンやクレームブリュレは、室温で1時間ほど置いて粗熱を取り、冷蔵庫で4時間以上冷やします。冷蔵で3日を目安に食べきります。茶碗蒸しは温かいうちに出す料理なので、作り置くなら同じく粗熱を取ってから冷蔵します。

安全|固まるまで加熱すれば、卵の加熱殺菌を越えている

固める温度が殺菌の温度より上にある

殻付き卵や殺菌していない液卵を使って食品を作るとき、規格基準が求める加熱殺菌は、70℃で1分間以上またはこれと同等以上です。卵液は全体が固まるのに80℃前後まで上がります。湯温80〜85℃で中心まで固めた卵液は、この条件を越えた側にあります。

豚肉や鶏肉では、安全の条件が温度の下限を決めていました。卵液では、固めるための温度のほうが高いので、安全の条件が設定を縛りません。中心まで固まったかを確かめることが、そのまま安全の確認になります。

固まりきらないとろとろの状態で止めるなら、話は別です。中心は70℃に届いていない可能性があるので、殻付き卵と同じく、生で食べられる卵(生食用の表示があり、賞味期限内)を使います。

具材は具材の条件で

茶碗蒸しに鶏肉やえびを入れるなら、具材は具材の条件で考えます。鶏肉の基準は中心63℃で30分です。卵液が固まったことは、具材の中心がその条件を満たしたことの証明になりません。具材は小さく切り、卵液と同じくらいの速さで温まる大きさにします。

食材別の中で、希釈卵液は何が違うか

ほかの食材との違い|すの心配が無いので、長く置いても失敗しない

食材湯温の幅を作っているもの時間を左右するもの希釈卵液との違い
殻付き卵白身と黄身の固まる温度の重なり殻の中心が湯温に届くまで卵液は固まる温度が1つで、薄めるほど上がる
牛のかたまり食感(表面を処理すれば中心は下げられる)肉の厚み卵液は加熱で生まれる気泡(す)が失敗になる
豚規格基準の63℃30分肉の厚み+維持時間卵液は固める温度が殺菌条件より上にある
鶏むね肉63℃30分肉の厚み卵液の時間は器の形と材質で変わる
魚食感身の厚み卵液は保ってもすが入らない(湯温85℃以下)
希釈卵液(この記事)固まる温度とすが入る温度のあいだ(80〜85℃)器の直径・高さ・材質長く置いても失敗が増えない

殻付き卵は白身と黄身の固まる温度の差を使って、どこで止めるかを選びます。肉や魚とは、時間の意味が違います。肉では厚みと安全の下限で時間が変わり、魚では長く置くと身が崩れました。卵液では、湯温が窓の中にある限り、長く置いてもすが増えません。

食べたときの違いも、ここから出ます。すが無いので、匙を入れた断面に穴がありません。

だから低温調理を選ぶのは、なめらかさが主役のプリンやクレームブリュレと、数をそろえて作る茶碗蒸しです。作る数を増やすときや、ほかの料理と並行して作るときに、時間の見張りから手が離せます。

この記事が答えていないこと

うまくいかせる条件

条件なぜ要るか外すとどうなるか
湯温を80〜85℃に保つ固まる温度より上、すの温度より下80℃未満では固まりきらない。87℃を超えるとすが入る
器をラップかアルミホイルで覆う結露や湯が表面に落ちない表面が水っぽく崩れる
湯面を器の縁より下にする湯が器に入らない卵液が薄まり、固まらない部分が出る
ガラス瓶の蓋は締め込まない締めすぎるとガラスが割れることがある瓶が割れる
卵液を漉してから器に注ぐ白身のかたまりと泡を取る白い筋と表面の泡が残る

よくある失敗と対策

固まらない・とろみがつかない回復できる
なぜ
卵のタンパク質の熱凝固が中心まで進んでいません。砂糖の多い配合や薄く延ばした配合は、凝固の始まる温度が上がっています
どうする
湯に戻して加熱を足します。湯温が85℃以下なら、すが入る温度には届かないので、足した分で失敗することはありません
次から
湯温は80℃を下回らせません。薄い配合や甘い配合ほど85℃側に寄せます
「す」が入った諦める
なぜ
すだちです。卵液が87〜91℃を超え、固まったタンパク質が抱えていた水を放し、それが水蒸気になって空洞を作りました
どうする
入ったすは消えません。表面をカラメルやあんで覆い、断面を見せない盛り付けにします
次から
湯温を85℃より上げません。蒸し器で仕上げ直したり、沸いた湯の鍋に移したりしません
水っぽい・ゆるい部分的
なぜ
器の内側の結露か、すき間から入った湯が卵液に混ざりました。水の分だけ卵液が薄まり、凝固の始まる温度が上がっています
どうする
表面の水をペーパーで吸い取ります。中まで湯が入ったものは固まり方が崩れているので、別の用途に回します
次から
器はラップかアルミホイルで覆い、湯面は器の縁より下に保ちます
道具が傷んだ・割れた諦める
なぜ
蓋を固く締めた瓶の中で、空気の熱膨張による圧力の逃げ場がありませんでした
どうする
割れた瓶の中身は破片が混じるおそれがあるので食べません
次から
蓋は指先で回して止まるところまでにして、締め込みません

まとめ

  • 卵をだしや牛乳で薄めるほど、砂糖を入れるほど、固まる温度は上がる(68〜75℃)。すは卵液が87〜91℃に達して始まる。湯温はそのあいだの80〜85℃に置く
  • 蒸し器ですが入るのは、熱源が100℃にあり、熱源と卵液の温度差が大きいまま時間で止めるしかないから。湯温が85℃以下なら、時間を延ばしてもすは入らない
  • 時間は卵液の量ではなく、器の直径・高さ・材質で決まる。最初の1回で固まった時間を控え、それを自分の器の値にする