エビ・貝の低温調理の温度と時間|牡蠣など二枚貝は85℃90秒で低温にできない

エビ・貝の低温調理の温度と時間|牡蠣など二枚貝は85℃90秒で低温にできない

この記事でわかること

  • エビ・カニには中心60℃10分、二枚貝には中心85〜90℃90秒という、加熱の側の条件があること
  • エビの60℃10分は食感の窓の中にあり、二枚貝の85〜90℃90秒は窓の外にあること
  • 二枚貝には肉のような同等条件の表が無く、温度を下げて時間で補えないこと
  • 生食用かきの表示が、ノロウイルスが無いという意味ではないこと

エビを沸いた湯に落とすと、色が変わった数十秒後にはもう身が丸まって締まり始めます。低温調理なら、あのぷりっとした手前で止められそうに見えます。ところが温度を調べると、肉のような「何℃で何分」の表が見つかりません。牡蠣(かき)となると、ノロウイルスの話ばかり出てきます。

この記事が扱うのは、低温調理の食材別の温度と時間のうち、貝類(牡蠣などの二枚貝とホタテの貝柱)と甲殻類(エビ・カニ)で、近い扱いになるイカ・タコと貝毒にも触れます。答えから書くと、エビ・カニは中心60℃で10分、牡蠣など二枚貝は中心85〜90℃で90秒。前者は低温調理の温度帯に収まり、後者は収まりません。

エビは中心60℃10分、二枚貝は85〜90℃90秒

相手が違うので、条件が2本ある

魚の身では、40〜50℃台に対応する加熱の条件がなく、安全は加熱の前に冷凍と温度管理で確保する、という答えでした。貝類と甲殻類は違います。加熱の側に、公表された条件が2本あります。

相手主な対象中心温度(℃)中心温度に達してからの時間出典
腸炎ビブリオ(海の細菌)海産の魚介全般(エビ・カニを含む)6010分以上東京都「食品衛生の窓」
ノロウイルス牡蠣・アサリ・ハマグリ・ムール貝などの二枚貝85〜9090秒以上厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」Q15・「大量調理施設衛生管理マニュアル」

腸炎ビブリオは沿岸の海水や海の泥にいる細菌で、水温15℃以上で活発になり、他の食中毒菌より速く増えます。東京都は、加熱する場合は「中心部まで充分に加熱すること(60℃、10分以上)」としています。

ノロウイルスについて、厚生労働省は「ノロウイルスの汚染のおそれのある二枚貝などの食品の場合は、中心部が85℃~90℃で90秒以上の加熱が望まれます」としています。給食などの大量調理の施設に向けたマニュアルも、通常の中心75℃1分とは別に、二枚貝にはこの条件を括弧書きで置いています。

2本の条件を、食感の窓に重ねる

低温調理で肉がしっとりする原理では、筋肉のタンパク質のうちミオシンが変わり、アクチンが変わらない温度帯を「食感の窓」と呼びました。アクチンが変わり始めるのは66℃で、ここを超えると筋繊維が強く縮み、水が絞り出されます。

エビでも同じことが起きています。クルマエビを湯で加熱した研究は、タンパク質が変わって縮もうとする力が内側の圧力を上げ、その圧力で水が押し出されてエビが硬くなることを示しています(東京海洋大学 Li Xiaolong の博士論文)。英文の要旨は、この内側の圧力にアクチンの変性が重なって、水が一気に抜けて縮むと書いています。

中心温度 →40℃60℃80℃90℃魚介の仕上がりの目安 49〜60℃66℃ アクチンが変わり始める(ここから縮んで水が抜ける)エビ・カニ 60℃10分:窓の中二枚貝 85〜90℃90秒:窓の外49〜60℃は Baldwin の魚介の仕上がりの目安、66℃は肉で測られた値。種類と状態で数℃動く
エビ・カニの条件は縮み始める温度より下にあり、二枚貝の条件は19℃以上上にある

低温調理の手引きを書いた Douglas Baldwin は、魚と貝のほとんどは49℃(ミディアムレア)から60℃(ミディアム)で仕上げるのが最もよいとしています。エビ・カニの60℃10分はその上端で、66℃より下です。二枚貝の85〜90℃は、66℃を19℃以上超えています。ここで2つの食材の答えが分かれます。

二枚貝は低温で安全にする道がない

ノロウイルスは中腸腺(ちゅうちょうせん)にたまる

農林水産省のリスクプロファイルによると、ノロウイルスはヒトの腸の中でだけ増えます。便とともに出たウイルスが下水から川や沿岸の海に流れ、牡蠣などの二枚貝の中腸腺(消化の器官)に蓄積します。貝の体内では増えません。

二枚貝は餌をとるために海水を吸い込んでこすので、海水中のウイルスが中腸腺に濃縮されます。牡蠣・アサリ・ハマグリ・ムール貝は、この中腸腺ごと丸ごと食べます。同じ資料は、市販のカキ95ロットのうち28ロット(30%)から、カキ1個あたり100コピー以上のノロウイルス遺伝子が検出された調査を挙げています。遺伝子の検出であって、感染する力があったかまでは分かりません。

肉のように、温度と時間を交換できない

肉には、中心75℃1分と同じ効果を持つ低い温度の組み合わせが公表されています(63℃30分など。75℃1分と63℃30分が同等な理由)。低温調理はこの表があるから成り立ちます。

二枚貝には、この表がありません。厚生労働省のQ&Aは、ノロウイルスを失活させる加熱条件について「現時点においてこのウイルスを培養細胞で増やす手法が確立していないため、正確な数値はありません」と書いています。

Baldwin も同じ結論です。魚向けの低温殺菌の表は貝のA型肝炎ウイルスやノロウイルスのリスクを下げないとし、貝のA型肝炎ウイルスを1万分の1に減らすには中心90℃で1.5分の保持が要ると書いています。ウイルスの対策は加熱ではなく、衛生管理で行うべきだとしています。日本の条件も、国際食品規格(コーデックス)の指針と同じ値です。国が違っても、二枚貝の答えは低温の側にありません。

生食用かきは「ノロウイルスがいない」という意味ではない

それなら生で食べられる牡蠣を使えばよいか、というと、表示の意味を確かめる必要があります。

生食用かき加熱調理用かき
何で分かれるか採れた海域と浄化処理(鮮度ではない)採れた海域と浄化処理(鮮度ではない)
採れる海域指定海域、または条件付指定海域で決められた浄化をしたもの指定外海域を含む
成分規格細菌・大腸菌・腸炎ビブリオの数に上限がある生食用の規格はかからない
ノロウイルス規格に入っていない規格に入っていない

出典:広島県「かき(生食用・加熱調理用)」。生食用の成分規格は細菌数 50,000/g以下・E.coli(大腸菌)最確数(さいかくすう)230/100g以下・腸炎ビブリオ最確数 100/g以下、保存は10℃以下(冷凍は−15℃以下)。

大阪府の指導事項は、「生食用かき」の表示は規格基準が適用されることを指し、「食中毒の原因となるノロウイルスが含まれていないという保証ではない」と注記しています。

低温で温めた牡蠣は、生の牡蠣と同じリスクを持つ

ここまでをまとめると、牡蠣の選択肢は2つしかありません。

やり方ノロウイルスに対して食感
加熱調理用を中心85〜90℃で90秒以上公表条件を満たす66℃を大きく超えるので、身は縮んで締まる
生食用を低温で温める生で食べるのと同じ。下げる効果は見込めない生に近いまま

生食用の牡蠣を50〜60℃で温めても、それは加熱したことになりません。生の牡蠣を食べるのと同じリスクを、温かい状態で食べることになります。加熱調理用の牡蠣を低温調理するのは、条件を満たさない加熱です。牡蠣・アサリ・ハマグリ・ムール貝は、低温調理の対象にしません。 低温調理器の湯温を85℃以上に上げれば使えますが、それはもう低温調理の食感ではありません。二枚貝をふっくら仕上げる火入れは貝と甲殻類の火入れにあります。

エビ・カニは60℃10分が食感の窓の中に収まる

中心60℃で10分を下限に置く

エビ・カニの低温調理は、中心60℃で10分を下限にします。この条件は、アクチンが変わり始める66℃より下にあり、Baldwin が挙げる魚介の仕上がりの上端と重なります。安全の下限と食感の窓が重なる場所があるので、低温調理で両方を満たせます。

鶏むね肉の63℃30分と比べると、温度は3℃低く、維持時間は3分の1です。エビは細く、中心に届くのも速いので、総時間は短くなります。

湯温と時間の組み方

  1. 目標を中心60℃・10分に置く
  2. 湯温は61〜65℃に置く(60℃にすると中心は60℃の手前で止まり、66℃以上にすると縁から縮む)
  3. いちばん太いエビの、いちばん太いところに中心温度計を刺して60℃に届いたことを確かめる
  4. 届いた時点から10分を数え、終わったらすぐ湯から出す
  5. 調理ごとに、湯温・中心温度・時間を記録する

湯温の上限を65℃にするのは、袋の中のどの部分も湯温より熱くならないからです。湯温が65℃以下なら、縁も含めてアクチンが変わる66℃に届く場所ができません。下限の側は、湯温が60℃に近いほど中心が届くまでの時間が延びます。エビ・カニを湯温何℃で何分加熱すれば中心が60℃に届くかの公表値は見当たらないので、届くまでの時間は表から読まず、サイズ(尾数あたりの重さ)ごとに温度計で測って記録し、店の表にします。刺す位置と測り方は低温調理の中心温度の測り方にまとめています。

見た目と手応えは仕上がりの確認に使います。身の透明感が抜けて白く濁り、殻が赤く変わるのは火が入り始めた合図ですが、それだけでは60℃で10分を満たしたかは分かりません。安全は温度計の数字で確かめます。身がきつく丸まり、押しても弾まず硬くなっていたら、縮みが進んだ合図です。

殻を付けたまま加熱すると、縮みが抑えられて硬くなりにくいことが、クルマエビの研究で示されています。殻付きで袋に入れ、加熱後に殻をむく順番にすると、同じ温度でも身が締まりにくくなります。

生食用のエビを使うなら

甘エビやボタンエビのように刺身用として売られているエビは、生で食べる前提の材料です。これを60℃より低い温度で温めても、安全の面では刺身と変わりません。材料の段階で安全を担保する点は、魚の身と同じ考え方です。60℃未満でとろりと仕上げたいなら、刺身用の鮮度と保存(4℃以下)で選び、加熱で安全を足したことにはしません。

ホタテの貝柱・イカ・タコと、加熱で消えない貝毒

貝柱だけを食べるなら、相手は中腸腺ではない

ホタテも二枚貝ですが、刺身で食べるのは主に貝柱(殻を閉じる筋肉)です。ノロウイルスがたまるのは中腸腺なので、中腸腺を取り除いた貝柱は、牡蠣のように危険を丸ごと食べる形にはなりません。生食用として売られている貝柱を低温で温めるなら、魚の身と同じく材料の段階で安全を担保する考え方になります。ただし、貝柱だけを対象にした加熱の公表条件は見当たらず、中腸腺を除いた貝柱のノロウイルスの汚染実態も、今回確かめた資料では確認できませんでした。安全を加熱で足したいなら、エビと同じ中心60℃10分(腸炎ビブリオ)が使える数値です。

イカ・タコは魚と同じ枠

イカで問題になるアニサキスは、加熱なら60℃で1分間以上・70℃以上、冷凍なら−20℃で24時間以上で処理します。これは低温調理の魚の温度と時間と同じ扱いです。中心60℃未満で仕上げるなら加熱の条件に届かないので、冷凍処理したものを使います。タコについては、加熱の側の公表条件を今回確かめた資料では見つけられませんでした。加熱で安全を足したいなら、海産の魚介に共通する腸炎ビブリオの中心60℃10分が使える数値です。

貝毒は加熱では弱まらない

貝毒(麻痺性貝毒・下痢性貝毒)は、二枚貝が有毒なプランクトンを食べてためる毒です。農林水産省は、毒素は熱に強く、加熱調理しても毒性は弱くならないとしています。温度ではなく、都道府県の監視と出荷規制で管理される相手です。加熱で処理できない相手の考え方は低温調理で加熱しても死なない相手にあります。

食材別の中での貝類・甲殻類の立ち位置

兄弟との違い|安全の条件が食感の窓の中にあるか外にあるか

食材温度を縛っているもの危険がどこにいるか貝類・甲殻類との違い
牛のかたまり食感(表面を処理すれば中心は下げられる)主に表面二枚貝は中腸腺にたまり、身ごと食べる
豚規格基準の63℃30分内部二枚貝の条件はウイルス由来で、85〜90℃と高い側にある
鶏むね肉カンピロバクターに対する63℃30分内部エビの条件は60℃10分で、温度も時間も鶏より小さい
魚食感寄生虫(冷凍で処理)貝類・甲殻類には加熱の側に公表条件がある
卵卵白と卵黄の固まる温度の重なり殻と中身二枚貝は安全条件が食感の窓の外にある。卵は窓の中に収まる
貝類・甲殻類(この記事)エビ・カニは60℃10分、二枚貝は85〜90℃90秒身の表面と、二枚貝は中腸腺—

貝類・甲殻類が兄弟と違うのは、同じ分類の中で、安全の条件が食感の窓の中にあるもの(エビ・カニ)と窓の外にあるもの(二枚貝)に分かれることです。だから同じ「魚介の低温調理」でも、エビは60℃10分で組めて、牡蠣は組めません。

仕上がりもここで分かれます。エビ・カニは60℃に届いてから10分で上げるので、身は白く濁って弾力が出たところで止まり、66℃を超えて丸まり締まる手前に収まります。冷たい前菜やサラダ、カクテルのように、エビの弾力そのものを食べる料理に向きます。二枚貝は85〜90℃まで上げるので、肉で測られたアクチンの温度から見れば、身は縮んで締まる側に入ります。低温調理でしっとりさせる対象にはならず、酒蒸しや汁物、フライのように加熱して食べる料理で使います。二枚貝の火入れそのものは貝と甲殻類の火入れが扱います。

この記事が答えていないこと

うまくいかせる条件

条件なぜ要るか外すとどうなるか
二枚貝を対象から外す条件が85〜90℃90秒で、低温の同等条件が無い生の貝と同じリスクを、加熱したつもりで食べる
加熱前は4℃以下で保存する腸炎ビブリオは他の食中毒菌より速く増える(東京都)加熱で減らす前の量が増える
加熱前に流水(水道水)でよく洗う表面の菌を洗い流す。腸炎ビブリオは真水では増えない(東京都)殻や表面の菌がそのまま袋に入る
中心温度計がある60℃に届いたかは測るしかない10分をいつから数えるかが分からない
殻付きで加熱する縮みが抑えられ硬くなりにくい(クルマエビの研究)同じ温度でも身が締まりやすい

よくある失敗と対策

中が生だった回復できる
なぜ
湯温を60℃にしていました。湯と中心の温度差が縮むほど熱の流れが弱まり、中心は湯温の手前で止まるので、60℃に届いた時点が来ません
どうする
湯温を目標の中心温度より上げ、中心温度計で60℃に届いたことを確かめてから10分を数え直します
次から
湯温は目標の中心温度より上に置きます。中心が届いたかは温度計でしか分からないので、時計で代えません
縮んだ・反り返った諦める
なぜ
中心が66℃を超え、アクチンが変わりました。筋繊維が縮んで内側の圧力が上がり、水が押し出されて身が小さく硬くなっています
どうする
抜けた水分は戻りません。刻んでソースや炒め物に回し、水分を外から足します
次から
湯温を65℃以下に置き、10分たったらすぐ湯から出します。殻付きで加熱すると縮みが抑えられます

まとめ

  • エビ・カニは中心60℃10分(腸炎ビブリオ)。アクチンが変わる66℃より下にあるので、低温調理で安全と食感を両方満たせる
  • 牡蠣など二枚貝は中心85〜90℃90秒(ノロウイルス)。食感の窓の外にあり、正確な数値が無いので温度を下げて時間で補えない。生食用の表示はノロウイルスがいない保証ではなく、低温調理の対象にしない
  • 中腸腺を外した貝柱は材料の段階で、イカは冷凍で安全を確保する。貝柱とタコは加熱の公表条件が見当たらず、加熱で足すならエビと同じ60℃10分が使える。貝毒は加熱では弱まらない

参考文献

  1. 厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」(作成 平成16年2月4日/最終改定 令和3年11月19日)|二枚貝の加熱条件と、正確な数値が無いことについて
  2. 厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル」(最終改正 平成29年6月16日 生食発0616第1号)|加熱調理食品の中心温度と二枚貝の条件について
  3. 農林水産省「食品安全に関するリスクプロファイルシート(ウイルス)ノロウイルス」(更新日 2016年10月14日)|二枚貝の中腸腺への蓄積と市販カキの汚染実態について
ほか6件を見る
  1. 東京都保健医療局「食品衛生の窓」腸炎ビブリオ|性質と加熱条件(中心部60℃10分以上)について
  2. 広島県「かき(生食用・加熱調理用)」|生食用と加熱調理用の区別と成分規格について
  3. 大阪府 食中毒予防の指導事項(別紙)|生食用かきの表示がノロウイルスの不在を保証しないことについて
  4. 農林水産省「生産段階における貝毒のリスク管理」(令和5年3月)|貝毒が加熱で弱まらないことについて
  5. Douglas Baldwin "A Practical Guide to Sous Vide Cooking"(v0.4k)|魚介の仕上がり温度と、貝のウイルスに低温殺菌が効かないことについて
  6. 東京海洋大学 博士論文審査結果要旨 Li Xiaolong「クルマエビ加熱プロセスにおける、熱・物質移動、タンパク質変性および物理化学的変化に関する研究」|加熱でエビが硬くなる仕組みと殻付き加熱の効果について