低温調理の卵の温度と時間|白身に単一の凝固温度は無く、成分ごとに固まる

この記事でわかること

  • 白身に単一の凝固温度が無く、成分ごとに61〜65℃と75〜84℃に分かれること
  • レシピの「30分」の大半が、中心温度が湯温に届くまでに使われていること
  • 温泉卵と半熟卵が、同じ2つの凝固温度の違う重なりを取っていること
  • 殻付き卵の加熱殺菌条件が70℃1分以上で、温泉卵の温度帯では満たせないこと

温泉卵のレシピを並べると、数字が合いません。63℃で30分、65℃で30分、68℃で30分。温度だけが違って時間は同じです。そのうえ根拠として添えられている凝固温度が、記事ごとに食い違います。「白身は約60℃から固まる」と書く記事もあれば、同じ記事の中で「白身がしっかり固まるのは75〜80℃」と書いている記事もあります。

どちらも正しいのですが、そう書いてある記事がありません。理由は、白身が1種類のタンパク質ではないことです。

兄弟の肉3本——牛の塊肉・豚肉・鶏むね肉——では、加熱殺菌の条件が温度の下限を決めていました。魚では、その条件が加熱の側に立たず、安全は材料の冷凍履歴に移りました。卵はそのどちらでもありません。2つの凝固温度が重なる帯から、狙いの状態を選ぶ食材です。

この記事は、卵の設定を「時間」「温度」「安全」の3つに分けて決めます。

答え|温度が状態を決め、時間のほとんどは中心が届くまでに使われる

狙いの状態と設定

M寸の卵を冷蔵庫から出してそのまま湯に入れた場合の設定です。

狙いの状態湯温(℃)加熱時間(分)卵白卵黄
黄身に流動性を残す6530流れる流れる
黄身に流動性を残す6820以内流れる流れる
黄身を軟らかく凝固させる6530〜40流れる形を保つ
黄身を軟らかく凝固させる6825〜30ゆるく凝固形を保つ
黄身を軟らかく凝固させる7020〜25ゆるく凝固形を保つ
卵白の流動性を必ず残す65時間を問わない流れる加熱時間で変わる
全体をゼリー状にする65〜7060以上ゼリー状ゼリー状

出典:辰口直子・大雅世(2019)日本調理科学会誌 52巻5号。試料はM寸(62±3g)の鶏卵で、冷蔵庫内保存のものを室温に戻さずそのまま加熱(初期温度5〜7℃)、恒温槽で少量を加熱した条件です。この表は食感の指標であって、殺菌の条件ではありません。 65〜70℃は加熱殺菌にあたらないので、生食用の表示がある卵を賞味期限内に使うことが前提になります(後述)。

「30分」の中身|27〜30分は中心が届くまでに使われている

同じ論文は、卵の中心に熱電対を刺して温度の変化を測っています。中心温度が湯温に達する時刻は次のとおりでした。

湯温(℃)中心温度が湯温に達するまで(分)
6530
6828
7027

出典:同論文。湯温との差が0.3℃になった時点を到達とみなしています。湯温が高いほど卵との温度差が大きいので、早く届きます。

つまり、レシピが書いている「30分」は、そのほとんどが中心温度を湯温まで持ち上げるために使われています。到達してから数える時間は、ほとんど残っていません。加熱の途中で中心が何℃だったかも、同じ論文が測っています。

湯温(℃)加熱20分の中心温度(℃)加熱25分の中心温度(℃)加熱30分の中心温度(℃)
6562.664.264.8
6863.866.367.7
7066.768.669.7

出典:同論文の指標表に併記された実測値。いずれも中心温度で、湯温とは別の値です。

湯温70℃で30分加熱しても、中心は69.7℃です。この0.3℃の差が、殻付き卵の加熱殺菌条件(70℃で1分間以上)を満たせるかどうかを分けます。根拠は安全の節で扱います。

卵には維持時間を数える相手がいない

肉の低温調理では、総調理時間を2つに割りました。中心温度が設定温度に届くまでの到達時間と、届いてから加熱条件を満たすまでの維持時間です。豚の63℃30分の「30分」は後者でした。

卵では、後者を数える相手がいません。65〜70℃という温度帯に対応する、殻付き卵の加熱殺菌条件が存在しないからです(詳しくは安全の節で扱います)。したがって到達後の時間は、安全のための時間ではなく、食感を進めるための時間としてだけ働きます。

魚では「維持時間が無いので到達したら終わり」でしたが、卵は違います。到達した後も、置いた分だけ卵白と卵黄の状態が進みます。時間は選択肢として残っていますが、その時間が変えるのは安全ではなく食感だけです。 これが卵の位置です。

この記事で使う言葉

論文の用語に合わせて3つを区別します。

  • 加熱時間:湯に入れてから取り出すまで
  • 到達時間:中心温度が湯温に届くまで(M寸で27〜30分)
  • 保持時間:中心温度が湯温に届いてからの時間

レシピが書く「何分」はほぼ加熱時間です。この記事の表も加熱時間で書いています。

白身に単一の凝固温度は無い

卵白は4種類のタンパク質の混合物

卵白に含まれるタンパク質は1種類ではありません。構成比は次のとおりです。

卵白のタンパク質卵白タンパク質に占める割合(%)変性・凝固する温度(℃)料理の上で何を決めるか
オボアルブミン5475〜84(水中で約80)卵白が完全に固まる温度を決める
オボトランスフェリン12〜1361〜65卵白で最初に固まる。白濁とゆるいゲルの主役
オボムコイド11100でも凝固しない加熱してもアレルゲンが残る理由
オボグロブリン8——(この記事では扱わない)——(凝固の設計には関わらない)

出典:構成比は田島真理子ほか(2022)鹿児島大学教育学部研究紀要 自然科学編73巻。オボトランスフェリンが65℃付近のゲル化の主成分であることは Yamashita ら(1998)Biosci. Biotechnol. Biochem. 62巻、70℃で加熱してもオボアルブミンが未凝固のまま残ることは田島ほか(2022)の実測によります。値はサイト内の正本タンパク質変性の科学と同じです。温度はいずれも純水に近い条件での値で、塩や糖を加えると動きます。

65℃で固まるのはオボトランスフェリンだけ

卵白を65℃付近に保つと、軟らかく不透明なゲルができます。このゲルの主成分がオボトランスフェリンであることは、1998年の研究(Yamashita ら、Biosci. Biotechnol. Biochem. 62巻)が濁度と電気泳動から示しています。

裏側からも確かめられています。卵白を70℃で加熱し、固まらずに残った上澄みを調べると、3時間を超えたところでオボトランスフェリンは消えますが、オボアルブミンは残り続けます(田島ほか 2022)。70℃で7時間加熱しても、卵白ゲルの硬さは100℃で13分ゆでた卵白の2割程度にしかなりません。卵白の半分以上を占めるオボアルブミンが、まだ固まっていないからです。

「60℃」と「80℃」がどちらも正しい理由

ここまでで、冒頭の食い違いが解けます。

レシピが書いている値何を見た値か正しいか
白身は約60℃から固まり始めるオボトランスフェリンの変性が始まる温度正しい
白身がしっかり固まるのは75〜80℃オボアルブミンが凝固する温度正しい
白身の凝固温度は◯◯℃である——(単一の値は存在しない)成り立たない

単一の凝固温度を探す問いの立て方そのものが成り立ちません。 卵白は変性温度の違うタンパク質の混合物なので、「どこまで固まった状態を凝固と呼ぶか」を決めない限り、温度は1つに決まりません。

卵黄は60℃付近から変わり始め、70℃で形を持つ

卵黄の側は、卵白ほど複雑ではありません。卵を殻のまま各温度で30分間加熱した実験(日比喜子 1979、家政学雑誌30巻)では、次のようになりました。

加熱温度(℃・30分間)卵黄の状態
40・50・60生の卵黄と同じ流動状
70粘稠状のゲル
80全熟卵と同じ、ほぐれやすい粉質状

出典:日比喜子(1979)家政学雑誌30巻4号。いずれも卵殻のまま30分間加熱した条件です。

卵黄のタンパク質の変性自体は60℃付近から始まりますが、30分では流動状のままです。変性が始まる温度と、手で触って固いと分かる温度は別だということが、卵黄でも同じように出ています。

温泉卵と半熟卵は、同じ卵の違う重なりを取っている

65〜70℃は白身のゆるい側と黄身の固まる側が重なる

ここまでの温度を1本の軸に並べると、卵の作り分けの構造が見えます。

温泉卵が成立する帯(65〜70℃) 卵白 液状 ゆるく固まる(オボトランスフェリン) 完全に固まる(オボアルブミン) 卵黄 流動状 固まり始める 固まる 55℃ 60℃ 65℃ 70℃ 75℃ 80℃ 85℃ 灰=まだ流れる。薄橙=固まり始める。濃橙=固まる。温度は中心温度で、湯温ではありません この図が示すのは凝固の温度です。殺菌の条件ではありません(殻付き卵の条件は70℃で1分間以上)
読み取ってほしいのは、卵白がまだゆるく卵黄が固まる帯が65〜70℃の5℃幅しかないこと。そのうち加熱時間を問わずに成立するのは65〜68℃で、70℃は時間の管理が要ります。凝固の温度であって、殺菌の条件ではありません

温泉卵|白身がゆるく、黄身が固まる

温泉卵は、この重なりの中に中心温度を置いた卵です。白身はオボトランスフェリンだけが固まったゆるいゲル、黄身は凝固した状態になります。

湯温ごとの挙動には、はっきりした差があります。

湯温(℃)卵白の流動性が残るか流動性が減り始める加熱時間(分)
65加熱時間を問わず残る(210分保持しても長径変化率1.4倍)——(減らない)
68加熱時間が延びると下がる80以上
70加熱時間が延びると消える(保持20分で長径変化率がほぼ1.0)40以上

出典:辰口直子・大雅世(2019)日本調理科学会誌 52巻5号の指標表。長径変化率は割卵後の長径÷割卵前の長径で、1.0 が広がりの無い状態です。M寸の卵を冷蔵庫から出してそのまま加熱した条件で、加熱時間には到達時間(27〜30分)を含みます。この表も食感の指標であって、殺菌の条件ではありません(殻付き卵の加熱殺菌は70℃で1分間以上)。

温泉卵の白身のとろみを確実に残したいなら、65℃を選べば時間の管理から解放されます。 65℃は卵白にとって、オボトランスフェリンの変性が始まる範囲の上端であり、そこから先へ進まない温度だからです。黄身の側だけが時間で進むので、黄身の固さで引き上げ時刻を決められます。

タンパク質変性の科学は温泉卵の成立する範囲を65〜68℃の3℃幅としていますが、これは加熱時間を問わずに成立する幅です。70℃まで含めた5℃幅は、引き上げる時刻を管理することで使える範囲になります。時間を管理できるかどうかで、選べる温度の幅が2℃変わります。

半熟卵|逆の組み合わせは温度を保っては作れない

では逆はどうでしょうか。白身が完全に固まり、黄身が流れる——ラーメンの味玉やエッグベネディクトの状態です。

これは湯温を一定に保つ方法では作れません。白身の完全凝固にはオボアルブミンが固まる80℃近くが要り、その温度に中心が届けば黄身は先に固まっているからです。

半熟卵が成立しているのは、温度を保っていないからです。沸騰した湯に入れると、卵の外側と中心に大きな温度差ができます。外側の白身が80℃を超えた時点で引き上げれば、中心の黄身はまだ65℃に届いていません。半熟卵は温度で作る卵ではなく、外から中への温度差を時間で止めて作る卵です。

低温調理は、この温度差を消す方法です。湯温を狙いの中心温度に固定して待つので、時間が経つほど卵の中はどこも同じ温度に近づきます。だから低温調理器で半熟卵を狙うと、狙いから遠ざかります。同じ卵から作り分けられる2つの状態のうち、温度を保つ方法で行けるのは温泉卵の側だけです。

70℃では黄身の中心5mmだけ固まらない

70℃には、もう1つ卵に固有の現象があります。中心温度が到達した時点(投入後27分)で、卵黄はすでに高さ35mmまで膨らんで外周が凝固しています。保持時間を延ばしても高さは有意に変わりません。

ところが、この状態で切ると中央部の約5mmだけ色が違って見えます。卵黄の中央にあるラテブラという、構造上いちばん凝固しにくい部分です。保持時間を延ばしてもはっきり残ります(辰口・大 2019)。

断面を見せる料理では、この5mmが仕上がりの印象を決めます。消したいなら加熱時間を延ばすことになりますが、そのときには外周が「ゆで卵」の側へ進んでいます。

安全|殻付き卵の条件は70℃1分で、温泉卵の温度帯では届かない

卵の条件は肉の条件とは別に書かれている

低温調理の記事で繰り返し出てくる63℃30分・65℃15分・66℃11分・70℃3分・75℃1分は、食肉についての条件です。卵には別の条文があります。

何を使うか加熱殺菌が要るか条件
生食用で品質保持期限内の、正常な殻付き卵要らない——(そのまま使える)
上記以外の殻付き卵要る70℃で1分間以上、またはこれと同等以上の殺菌効果を有する方法
未殺菌の鶏の液卵要る同上

出典:厚生省「食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準の一部改正について」(平成10年11月25日 生衛発第1674号)。原文は「鶏の殻付き卵(品質保持期限内の生食用の正常卵を除く。)又は未殺菌の鶏の液卵を使用して食品を製造する場合は、七〇℃で一分間以上加熱するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌しなければならない」。

注意したいのは、この通知が「同等以上の殺菌効果を有する方法」と書くだけで、低温側の具体的な温度と時間の組を示していないことです。肉には5組の同等条件が公表されていますが、卵にはありません。65℃で何分なら70℃1分と同等か、という表はどこにも存在しません。

湯温70℃でも中心は70℃に届かない

では、湯温を70℃にすれば条件を満たせるのでしょうか。満たせません。

前掲の実測値のとおり、湯温70℃で30分加熱したときの中心温度は69.7℃です。そもそも論文が到達とみなしたのは「湯温との差が0.3℃になった時点」で、中心温度は湯温をわずかに下回ったまま漸近します。65℃・68℃の設定では、中心が70℃に届く余地がそもそもありません。

したがって温泉卵の温度帯は、加熱殺菌にあたりません。 ここが魚との違いです。魚の40〜50℃台は、公表された条件の下端(63℃)からはるかに離れていました。卵の65〜70℃は条件のすぐ下にあり、惜しくも届かないという形で外れています。近いぶん「ほぼ満たしているのでは」と誤解しやすい位置です。

液卵の60℃3.5分は殻付き卵には使えない

低い温度の殺菌条件なら、液卵の側にはあります。

卵の状態連続式の殺菌条件バッチ式の殺菌条件
全卵の液卵60℃で3.5分間58℃で10分間
卵黄の液卵60℃で3.5分間58℃で10分間
卵白の液卵55〜56℃で3.5分間54℃で10分間

出典:厚生省「液卵の製造等に係る衛生確保について」(平成5年8月27日 衛食第116号・衛乳第190号)。連続式・バッチ式は液卵の製造設備における殺菌方式の区別です。

この数字を殻付き卵に持ち込むことはできません。液卵は割卵して均質化された液体を専用の装置に流す前提で、殻の中で温度が不均一なまま上がっていく調理とは対象が違います。到達時間だけで27〜30分かかる殻付き卵に、3.5分という時間の設計をそのまま当てはめる根拠がありません。

だから安全は表示で終わらせる

卵の安全は、加熱の設定ではなく材料の選択で決まります。やることは3つです。

  1. 生食用である旨の表示がある卵を使います。 生食用の殻付き卵には、生食用である旨と、品質保持期限経過後は加熱殺菌を要する旨の表示が求められています
  2. 賞味期限内に使います。 賞味期限は「生で食べられる期限」です。過ぎた卵は加熱殺菌(70℃で1分間以上)が必要になり、温泉卵はその加熱にあたりません
  3. 10℃以下で保存されてきた卵を使います。 同じ通知は生食用の殻付き卵に「10℃以下で保存することが望ましい旨」の表示を求めています

卵内容がサルモネラ・エンテリティディスに汚染されている市販鶏卵の割合は0.0029%程度と予想されています(内閣府 食品安全委員会)。確率としては低い数字ですが、温泉卵の温度帯が殺菌にあたらない以上、選ぶ基準は確率ではなく表示になります。高齢者・小児・妊娠中の方・免疫が落ちている方に出すときは、加熱殺菌にあたらない状態の卵を避けてください。

手元の卵で設定を決める

実測値が成り立つ条件

この記事の数値には、前提が付いています。M寸(62±3g)の鶏卵を、冷蔵庫から出してそのまま(初期温度5〜7℃)、恒温槽で少量だけ加熱した条件です。論文自身が、卵の大きさ・初期温度・個数・鮮度が変わった場合の汎用性は今後の課題だと書いています。

条件がずれたときに動くのは、到達時間の側だけです。卵が大きい、室温に戻していない、鍋に一度に多く入れる——どれも中心が湯温に届くのを遅らせます。一方で、どの状態になるか(温度の側)は動きません。低温調理では湯温が中心温度の上限になるので、長く入れても湯温より上には行かないからです。

だから、ずれたときに足すのは時間であって温度ではありません。 温度を上げて取り返そうとすると、狙いの状態そのものが変わります。

鮮度が結果を動かす

同じ設定で作っているのに仕上がりが違う、という現象には理由があります。卵の貯蔵です。

25℃で1〜2週間貯蔵した卵では、68℃・70℃で加熱したときの卵白の硬さが有意に下がります。65℃では貯蔵の影響が認められません。卵黄の硬さは65℃・68℃・70℃のいずれでも、貯蔵期間に応じて下がります(辰口ほか 2023、日本調理科学会誌56巻)。

柔らかくなる側の機序も分かっています。卵白の半分以上を占めるオボアルブミンは、貯蔵のあいだに熱に安定な S-オボアルブミン へ変わり、加熱したときのゲルのでき方が変わります(田島ほか 2022)。同じ温度をかけても、網目が前と同じようには組めません。

つまり、古い卵ほど同じ設定で柔らかく仕上がります。硬さを揃えたいなら、買ってからの日数を揃えるか、卵白が貯蔵の影響を受けない65℃側に寄せるという2つの手があります。65℃は白身のとろみを時間に関係なく保てる温度でもあるので、再現性を優先するならこの温度がいちばん安定します。

前提|この設定が成り立つ条件

  • 生食用の表示がある卵を、賞味期限内に使うこと
  • 10℃以下で保存されてきた卵であること
  • 湯温を保てる器具があること(鍋の湯を沸かして火を止める方法では湯温が下がり続けるので、この記事の設定値は使えません)
  • 中心温度の到達時間は卵の大きさと初期温度で動くので、加熱時間を分単位で写して同じ結果を期待しないこと
  • 高齢者・小児・妊娠中の方・免疫が落ちている方には、加熱殺菌にあたらない状態の卵を出さないこと

食材別の中でのこの記事の立ち位置

兄弟との違い|下限ではなく重なりから選ぶのは卵だけ

食材温度を決めているもの安全を担っているもの長く入れるとどうなるか
牛の塊肉食感(中心)と安全(表面)が別々に立つ表面の加熱と中心の加熱条件コラーゲンが溶けてまとまる
豚肉安全。規格基準の条文が下限を決める中心63℃で30分間以上の加熱安全側に働く
鶏むね肉安全。加熱条件が食感の下限まで決める中心63℃で30分間の加熱66℃以上はパサつく
魚の切り身食感だけ材料の冷凍履歴と低温管理崩れて水分が抜ける
卵(この記事)2つの凝固温度が重なる帯のどこを取るか生食用の表示と賞味期限白身と黄身の状態が進む

① 成り立ちの違い。肉の3本では、加熱殺菌の条件が温度の下限を決めていました。魚では条件が加熱の側に立たず、安全は冷凍履歴に移りました。卵にも下限という形の条件はありませんが、条件(70℃で1分間以上)が食感の帯のすぐ上にあって届かないという点が魚と違います。魚の40〜50℃台は条件から遠く離れていましたが、卵の65〜70℃は0.3℃差で外れます。

② 仕上がりの違い。65℃の卵は、割ると白身が乳白色のまま器に流れ、黄身は箸で持ち上がります。68℃では白身が器の形に留まり始め、黄身がねっとりします。70℃では白身が切れるようになり、黄身は外周が固まって中央の5mmだけ色が濃く残ります。肉のように色で火の入り具合を読むのではなく、白身の流れ方と黄身の高さが指標になります。

③ だからどんな料理で選ぶか。ご飯や丼に落として白身を流したいなら65℃、サラダや前菜に乗せて形を保ちたいなら68℃、切って断面を見せるなら70℃です。逆に向かないのが2つあります。白身を完全に固めたい料理(味玉・エッグベネディクト)と、湯温を保てない環境です。前者は温度では作れず、後者では表の数値が意味を持ちません。

親の低温調理の食材別の温度と時間は、この分かれ目を「危険が表面にいるか内部にいるか」で整理しています。卵は殻の外にも中にも危険があり得ますが、どちらであっても加熱の側では処理しない側として並びます。

この記事が答えていないこと

まとめ

  1. 白身に単一の凝固温度はありません。 61〜65℃で固まるのは卵白の12〜13%を占めるオボトランスフェリン、80℃近くまで固まらないのが54%を占めるオボアルブミンです。レシピごとに数値が食い違うのは、どちらの成分を見たかが違うからです
  2. 温度が状態を決め、時間のほとんどは中心が届くまでに使われます。 M寸の卵なら、中心が湯温に届くのは65℃で30分・68℃で28分・70℃で27分。レシピの「30分」はほぼこの到達時間です
  3. 安全は加熱の外にあります。 殻付き卵の条件は70℃で1分間以上ですが、湯温70℃でも中心は69.7℃までしか上がりません。生食用の表示と賞味期限で担保してください

温泉卵の温度管理が難しいのは、作り手の腕の問題ではありません。白身がまだゆるく、黄身が固まる帯が65〜70℃の5℃幅しかないからです。そのどこを取るかを決めれば、あとは中心温度が届くのを待つだけになります。

よくある失敗と対策

固まりすぎた諦める
なぜ
卵黄のタンパク質が変性して卵黄球が膨らみ、全体が高さを増して球状に固まりました
どうする
固まった黄身は戻りません。裏ごしてソースに混ぜるか、刻んで薬味として使います
次から
黄身に流動性を残すなら65℃で30分、68℃なら20分以内で引き上げます
固まらない・とろみがつかない回復できる
なぜ
中心温度が、卵白で最も熱に弱いオボトランスフェリンの変性する61〜65℃に届いていません
どうする
湯に戻し、到達時間を足して加熱し直します。途中で割っていなければやり直しが効きます
次から
中心の到達は65℃で30分・68℃で28分・70℃で27分。狙いの状態はその先です
水っぽい・ゆるい部分的
なぜ
貯蔵でオボアルブミンが熱に安定な S-オボアルブミンへ変わり、卵白の熱凝固性が落ちました
どうする
水っぽい部分は流して、残った部分だけを使います。加熱を延ばしても元の硬さには戻りません
次から
硬さを揃えたいときは、買ってからの日数を揃えるか、貯蔵の影響が出にくい65℃側で加熱します
火の通りにムラが出た部分的
なぜ
卵黄の中央にあるラテブラ(構造上いちばん凝固しにくい部分)が固まらずに残りました
どうする
断面を見せない盛り付けに替えます。味と安全には関わりません
次から
加熱時間を延ばせば中央まで凝固しますが、温泉卵の温度帯では消えません